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BLの丘
想―sou― 一夜物語 5
2010-06-14-Mon  CATEGORY: 『想』―sou―
「長流っ!!」
「神戸さんっ?!」
制する声などには耳を貸さないといった感じの神戸の態度は、中條に良く似ているな、と一葉は内心で思っていた。
友人とはいえ、社長とその秘書を呼び出そうというのだから相当な影響力でもあるのだろうか。
電話を片手に会話を進めてしまう。
「あー、野崎さん。お久し振りですぅ。今英人君が千城が帰ってこないってショウのバーで拗ねているんだけど、まだかかりそう? 英人君に聞くところによると、なんだか最近千城と随分ご親密らしいじゃない? 変な疑いを持っちゃっているみたいだから野崎さんから説明してあげてくれない? 英人君に不貞腐れられて業務に支障が出てくるのもこまっちゃうんだよね~。千城、すぐ休ませるしさぁ」
「野崎さんかよ…」
当然のように『千城』に電話がかけられるのだと思っていたらしいバーテンダーと英人は、会話の内容に少々瞠目している。
そしてポッと赤くなる英人がいる。
『拗ねている』と言われたことが恥ずかしかったのだろうか。

一葉もまさか直接本人に話をつけるとは思ってもいなかった。
これまで聞いていた会話からはどうしたって神戸は『千城』との方が親しげだったし、一葉の頭の中にはヤギにエサをやる光景が想像できないほどの『カタブツ』が浮かんでいる。
だが、神戸から発される人懐っこい話し方には慣れ親しんでいるものが感じられた。
呼び出された『野崎さん』だって自分の恋人についての件で追及されるとは想像もしていないはずだし、英人を宥めるためと神戸の言葉通りに受け取っていることだろう。
一葉の頭で思い浮かべるだけの世界が目の前に現れてくれるのであれば一葉も理解しやすく、ありがたいことに変わりがなかったが、そこに入ってしまうのもどうなのだろう。
興味本位でこのまま話に加わるのは『野崎さん』に対してだって失礼にあたる気がする。
那智を待つ時間がとても長いものに感じられて、早く来ないかな~と思わず自分の携帯電話に視線を落とした。

電話口から告げられた内容に神戸はニッコリと笑顔を浮かべて、「お待ちしていま~す」と明るい声で通話を終わらせていた。
話は成立したらしい。
「ふふふっ。なんだか野崎さんの反応、楽しみ♪」
「悪趣味」
「ねぇねぇ、千城も帰ってくるの?」
「当然でしょ。秘書いなくて仕事ができる社長じゃないって。それに英人君が拗ねてるってちゃんと言っておいたから、千城から速攻で仕事終わりにするはずだよ」
恋人の帰りを心待ちにする英人の表情がパァっと華やいだようだ。
こうも素直に悦びを表せる英人を少し羨ましくも思った。
自分なら、恥ずかしがって照れて、心の中だけで喜んで俯いているだろう。

「一葉ちゃんのカレシは今日は忙しいの?お友達との待ち合わせって聞いていたけど、もし差し支えないのなら呼んでみたら?篠原さんのこともご存知みたいだし、いい御縁になれると思うんだけどなぁ」
神戸が突然安住のことを話題に持ち出した。
顔の広い安住を思えば、篠原とのことを持ち出されて、すでに知りあっているのではないかと思えてくる。
改めて「カレシ」と紹介するのも照れくさいだけだが、まだ名前も顔も出していない安住のことを、神戸に興味を持たれているのは随分前から気付いていた。
『野崎さん』がやってくると分かった時点で、神戸の気になる話題が一つ解決したのも同然なのか、次の照準にされたのは自分だった。
安住の職業のこともあったからむやみやたらに人に言いふらすのもどうかと躊躇するが、この店には安心させてくれる何かがある。
それにずっと前から、誰かに相談したい恋愛事、という事情が絡まっていて、必要に応じてそれを難なく聞いてくれる神戸だと知った今、『頼りになる人』のイメージの方が強い。(この男を頼りにしたらいけないんだよ、一葉ちゃん…ボソッ)
一応、帰りは迎えに来てくれる約束になっていたが、あくまでも那智との時間を妨げたくない安住の配慮だった。
那智とは面識もあるのだから、と一葉は以前話したことがあったが、一葉と那智の間に故意的に割り込んでこようとはしなかった。

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想―sou― 一夜物語 6
2010-06-15-Tue  CATEGORY: 『想』―sou―
一葉は一瞬戸惑いを見せる。
「わか、んないです。友達と会う時は友達同士の時間を大事にしなさいって言われてて…。だから那智、あ、今から来る人ですけど、那智とこうして外で会う時には、自分は邪魔になってしまうからって…」
「ねぇ、もしかして、年上の人?それもすごく離れた…とか」
一葉の戸惑いを抵抗と捉えたのではないと、ピンと感じたように神戸が言葉を重ねてきた。
まるで見透かされたようで、一葉は一気に顔を赤らめる。
そこに全ての答えがあった。
「どっかの誰かさんとはえらい違いだな。すぐにしゃしゃり出ていくし」
「しょーぉー」
バーテンダーにまたきつく言われて、神戸は『心外だ』と言いたげに睨み上げていた。

「ふーん。でもそれも時には淋しいでしょ。たまには『みんなでワイワイやろう』って声をかけてみたら?そういうこと、嫌いな人?一葉ちゃんも大人しそうだし、二人の雰囲気には合わないのかな」
神戸に『時には淋しいでしょ』と問われれば、そんな感情もあるのかな、と思う。
でも中條たちと賑やかな晩餐を繰り広げることもあるくらいなのだから、嫌いと言うわけでもないんだろう。
ただ一葉の友達とも触れ合ってほしい思いは確かにあった。もちろん、多くはないけど。
「そんなことないと思いますけど…」
「だったら一度声をかけてみなよ。もちろん、今日とは言わないから。だけど年上の人だったっていうのは納得する。そんな感じだよね。一葉ちゃんって同年代の恋愛、絶対に似合わないもん。なんだろう。ぜ―んぶ包んであげたいっていう雰囲気」
「長流が言うと意味深にしか聞こえないからやめろって」
「日野ってばやきもち焼いているんだ」
英人がすぐにからかいの相槌を打てばそれも認めたくないらしいバーテンの姿がある。
「長流に声を掛けられていたなんて耳にされて出してもらえなくなったらうちが困るだろう」
「ショウのその発言もどうなの?なんだか僕が誘っているみたいじゃない」
「アヤシイ店に思われたくないだけだよ」
「ちょっとあのねぇっ」
『ナンパされる店』と暗に含められて、神戸はいきなりスツールを降りるとカウンターの中へと戻っていった。
そして徐にバーテンダーの腕を掴むと、奥へと続く扉の中に消えていく。
突然始まった痴話喧嘩に一葉がオロオロとしてしまえば、神戸がいなくなって良く見えるようになった英人が、「気にしなくて平気だよ」と一葉を落ち着かせた。
綺麗な笑顔を浮かべるんだ…と一葉は思わず見入ってしまったくらいだ。
もともとの容姿も人を寄せ付ける魅力を充分に備えているのだろうが、光沢のある肌艶はやはり一般市民の一葉とは異なるものなのだと感じさせた。

「たぶん今頃仲直りのキスでもしているところだから」
「え、き、キ…?!」
英人はサラリと口にした台詞でさえ、一葉は繰り返すことができなかった。
そういえば、随分前に来た時にも、店の中で平然と”挨拶”をしていた二人の姿があったっけ…と思い出してボッと顔に火がつく。
人前であれなら、見えないところではどんなのなのだろう…と想像してはドアに目がいってしまって益々ジタバタとした。
そんな一葉を見て、「君って純情だね」とクスクスと笑われる。
でも、嫌味っぽい言い方ではなくて、率直な意見、と言う感じだ。
一葉もそう言われることに慣れているからいちいち目くじらをたてるようなこともない。
やはり同じ年とは到底思えない…と一葉は心の中で繰り返した。
完全に経験値の差なのだろう。

「日野の性格も老成したところあるし、神戸さんも基本的に物分かりがいい人だから、喧嘩なんて滅多にしないんだよ。俺もよく二人に宥められているし」
「そ、そうなんだ…」
宥められているということは、そんなにしょっちゅう、英人は今回のような騒動を起こしているのだろうか…。

「神戸さん、俺のこと、『画家』とか言ってたけど、本当は趣味で描いている程度でさ。本業は神戸さんの下でCMのプランニングを手掛けているの」
「しゅ、趣味っ?!」
思わず店内をぐるりと見回した。
本業が別にあって、片手間で描いた絵とはとても見えない。
篠原の意見も聞いていた後だけに、一つの仕事さえ手に余る一葉とは、生きている世界が違うのだと嫌と言うほど感じた。
だけど再び英人に視線を戻した時、あまりにも無邪気な笑顔で一葉を見ているものだから、なんだか心がざわざわとした。

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想―sou― 一夜物語 7
2010-06-16-Wed  CATEGORY: 『想』―sou―
英人が笑みを浮かべる姿は幼さもあったが妖艶といえる”美しさ”がある。
内の中から自然と発されるものは、淵を覆うものがあるのではないかと思えたくらいだ。

いくらささやかなプロフィールを聞いたとは言っても、知らない人間と二人で放っておかれるのは一葉には落ち着かない状況だった。
だけど英人は、どこか一葉を気遣ってくれるような、対人面に慣れた雰囲気が見られる。
神戸とはまた何か違っていて、強引に近付いてくる態度ではなく、ゆっくりと引き出すような印象だ。
たまに一葉でも理解不能な返答がある。
篠原が英人の絵を欲しがっていたがなかなか手に入らないものだと伝えてみれば、「絵がいくらで売れているか全然知らないんだよね。まぁ、お給料もあるんだかないんだか分からないし」とサラリと口にされ、逆に「何で一緒にでかけるって言ってくれない相手に不満を持たないの?」と質問をされ答えに困った。
先程の神戸との会話を聞いていてのことなのだろうが要所ごとに使い分けてくれている安住に特に不満はない。
元来、性に関しては経験も乏しく(というより無い)、興味も強い方ではなかったし、ほど良い距離を保ってくれているから普段の生活で照れまくって物事に支障がでることもなく過ごせている。
英人の言葉の中には『四六時中一緒にいたい』というニュアンスが含まれていて、そんなふうにずっと一緒にいたらむしろ気恥ずかしさばかりで何も手につかない状態になってしまうと思えた。

安住と中條の間を疑ったことくらいはあっても、知ってしまえば必要以上の心配も湧かなかった。
そういった意味では、『社長』と『秘書』の間まで勘繰る英人は嫉妬深い人間といえるのだろうか。
奥の部屋で何やら仲直りをしているらしい二人が出て来ないところを見ても、自分たちは淡白過ぎるのだろうか???
ちょっとした不安が渦巻いてきた。

その時、英人の携帯電話が鳴った。
「あ、ごめんね」と一度一葉に断りを入れてから、その場で出てしまう。
一刻も早く…という思いまで伝わってくるようだ。
「…会社出たの? ……。うーん、っていうか正確には神戸さんが野崎さんの状況を聞きたがっているんだよね…。なんだか宮原さんとのこと知らなかったみたいで。それで野崎さんを誘い出した、みたいな感じぃ?……えっ?!ま、まずいんじゃないの?!………。…わかったよ…。いいから早く帰って来てぇ…」
英人の会話はかなり途切れ途切れで、もちろん相手の声なんて聞けないのだから当然だが、お相手と分かる人間からだとは甘い口調で理解できる。
それでも一番最後にストレートに伝える気持ちは、どれほど相手を想うものなのかと、一葉のほうが照れていたくらいだ。
どうしたって自分と安住の立場で物事をはかってしまう。
安住だってここまで単刀直入に言い表したりしない。

一葉がびっくりな顔で英人を眺めていたのに気付かれ、英人も少しだけふふっと笑った。
『照れ』とはまた違う種類の笑みのようだ。
そう、『満足』といっていい。
愛しい人からの声を聞いて、心に巣食っていた不安も嫉妬も吹き飛んでいるようだ。
それが分かれば、一葉もなんだか安住の声が聞きたくなった。
気持ちを言い表すことは自然なことなのだと言われている気がしたから…。

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短くてごめんなさい。
ほんとに10話とか15話で終わるのか~ぁぁぁ???
あれ?だって今日で7話だよ…。
間もなく50000hit様!?…はやいっ!!

【私信】甲斐様。お中元は返品可能です。

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想―sou― 一夜物語 8
2010-06-17-Thu  CATEGORY: 『想』―sou―
那智を心待ちにしている半面で、一葉は英人との会話と、全く変わりばえのない表情で現れた神戸との時間を過ごしていた。
あぁ、もちろん、英人に「仲直りのキス」なんて言われていなければ、もう少しまともに神戸とバーテンダーの表情も見られた気がする。
神戸はもうカウンターのスツールに座ることはなかった。
入口のドアのカウベルが鳴るたびに、那智か千城かと顔を巡らせる一葉と英人を、微笑ましげに眺めてくる神戸とバーテンダーがいたが、それについてもいちいち言葉を発されることもない。
一度、警備会社の人間と思える服装の人が現れて、それも異様だったけど…。(お客ではなかったらしくすぐに帰っていった)

やがてびっちりとスーツを着こなした細身の男性が入ってきた。
自分の周りにいる人たちの反応を見て、一葉でも、『良く知った人間が来たのだ』と判断できたくらいだった。
目の前に立った神戸とバーテンダーの目をぱちくりさせた姿を見れば確実に『常連客』の域を越えている。
物事を判断するには長けているようなきりっとした目元といい隙のない動き。きっちり感が全身を覆っていた。
安住に近いくらいの年齢なのだと見た目だけは判断できる。
が、身の細さだけでは、もっと若く見せているのかもしれない。

「あれ、野崎さんじゃない。千城はどうしたの?」
カウンターの奥からすかさず神戸から声がかかれば、カウンターにいる客に目を向けた『野崎』が何か不思議なものでも見るように店内に視線を巡らせた。
これが『野崎さん』なのかっ!!と咄嗟に一葉はマジマジと見てしまったくらいだ。
別にハゲてもいない、働き盛りの青年という印象すら持たせる。
「それはこちらの台詞です。社長はどうしました?」
「千城、まだ来ていないし…。えっ?一緒じゃないの?」
野崎は店内にいる客を素早く見回したようだ。
神戸は本気で不思議がっていた。
同じように野崎もカウンターに座る英人の隣にいるべき人間がいないことに疑問の声を上げる。
「先に出られたのですよ。私も運転がありますので英人さんにご挨拶だけして帰ろうと思ったのですが…」

そんなやりとりを聞けば、同じ場所に向かうにも別行動を取ったらしい上司と部下だったのだと一葉も察知した。
真っ先に見えたのが『野崎』と分かって、一瞬だけシュンとうなだれる仕草を見せた英人のような気がしたが、それもすぐに元通りに戻っている。
「あー、…、さっき千城から電話があって寄り道するからって…」
「寄り道ぃぃぃ???こんな状況で何考えてんの、千城はぁっ!!」
英人が拗ねていると伝えたのに、まっすぐに出向かなかったことに対する苛立ちのようだ。
こうやって周りからも思われている英人を、なんだか羨ましくも思った。
自分だったら誰が賛同してくれるのだろう。
那智かな、中條かな、佐貫かな…。

英人の言葉だけで、何かを感じたらしい野崎の姿がある。
さりげなく聞く…というよりは、『問い詰める』というオーラすら感じる言葉が英人に差し向けられた。
「失礼ですが、その時社長はどこへと…?」
「あー、ん、あ、べつに……」
「英人さん」
小さくて短い呼び名の中には充分なほど嫌疑がかかっていた。
一葉は初めてこの男の洞察力を凄いと思っていた。
店に入ってものの何分もたっていない。
だけど、先程英人が受けた電話の内容まで見透かしたような物知り方に、何事も隠せる人間ではないのだと知る。
だからきっと、『社長』が信頼を置いて業務を託せる『秘書』なのだろう…。

野崎に攻められる英人を気の毒に思ったのか、神戸がすぐに話題を切り替えた。
「一杯くらいやっていってよ。ここに来るの、改装の時以来でしょ」
「ですが、私には運転が…」
「とかなんとか言っちゃってぇ。本当は違うバーに行きたいんじゃないの?うち、そんなに気に入られてないんだ~ぁ」

明らかに分かる問いにカウンターの下で蹴りを入れたのはバーテンダーだったし、まったく悪びれていない英人の無邪気とも言える表情が野崎の帰宅を拒んでいた。
たぶん、この瞬間に野崎は何故自分が呼ばれたのか知ったのだと思う。
あからさまに表現されてつかれた溜め息の後に、開いた入口には、この世の全てを制覇しそうな威圧感を湛えた鋭い目つきの男と、同じ年くらいの、だけど気崩した格好の若づくりの男が立っていた。
先に入ってきた男は髪も撫でつけられ着衣も乱れることなく、仕事帰りをおもわせるきっちり感があったが、もう一人の男は、髪は黒い色に近かったし、身に纏う装飾品も、派手さはあってもギラギラ感はない。
だけどどちらも人目を惹きつけることは確かだった。

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増えた…一気に参加者が増えた…。そろそろ会話集になるかも…?!

【私信】萌香様 お中元は返品可能です。
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想―sou― 一夜物語 9
2010-06-18-Fri  CATEGORY: 『想』―sou―
「英人、遅くなってすまなかったな」
「ちしろぉ…」
誰もが、まさに誰もが見ている目の前でスツールに座った英人に何の迷いもなく、目尻を細めた男が英人の全身の温かさを求めるように抱きついた。
一部の隙もない、誰をも圧倒する風貌だというのに、英人を前にすれば相好を崩し、縋りつくように英人を手にした。
ついでに、髪とこめかみと鼻先と頬と唇に、軽く唇を落としている。
確かに外国映画の中などでは見たことがある光景かもしれない…。
そして今ここで繰り広げられても違和感すら浮かばない。
だけど、目の前で繰り広げられるには一葉には刺激が強すぎた。
今にも発火しそうな照れが肌の上を滑って行き、俯きたいのに口を開けて凝視していた。

だが、そんな光景などどうでもいい男が一人いた。
野崎だ…。
「何故あなたがここに…っっっっ?!!!」
「誘拐された」
「はぁぁぁっ?」
英人と千城とは全く異なった再会ぶりに、困惑の表情を表すのは野崎だったし、意味が分からないと呆然とする従業員(神戸含む)がカウンターの中から物事を見送っている。

「寄り道をする野崎が心配だというから連れて来てやったんだ。彼もこの店にはきたことがないと言うしな」
口角を上げて笑みを浮かべる『千城』には、何を言われても返せるような余裕さがあった。
さっき『誘拐された』と野崎の隣の男は呟いていたが、『千城』に言わせれば『連れてきてやった』らしい。
なにより、この人物が『野崎』をまどわせた(虜にした)人間かと思えば嫌でも視線が向く。
そもそも『野崎』自身を知らないから興味本位という部類ではあるけど…。
千城はさりげなく英人の隣に座り、一緒に入ってきた男を顎先で自分の隣に促している。
『野崎』の意見は完全に無視状態だった。

「っていうか、宮原さん、髪の毛染めたんだね。水谷さんのお店で見た時と全然印象変わったし…」
「美琴さんの立場考えるとね」
神戸から放たれる言葉には親近感がある。
以前顔を合わせたことがある…とは話の流れから聞いてはいたが、それとも誰に対しても同じような”神戸スタイル”なのだろうか。
神戸にも視線で『座って』と促され、”一見チャランポラン男”は野崎の背に手をかけるものの、拒絶する細い身体がある。
「冗談じゃないですっ!帰りますよっ!!」
「マンションの改装費用、経費から落としたのは知っているんだぞ。別に金を取るわけじゃない。たまには付き合え」
傍若無人な態度で『部下』を促した『社長』がちらりと視線を送っただけで、その眼はすぐに隣の英人に戻っていった。
…あぁ…どこまで変わるのか、この社長は……と一葉は思った。
他人に向ける目つきと英人に向ける表情は全く異なる。
何やら弱味を握られているらしく、諦めたように盛大な溜め息を吐く『秘書』とその相手が社長の隣に腰を下ろすのを呆然と見ていた。
嬉々とする神戸を喜ばしそうに千城が眺めているのを視野に入れて、無言で企てられている世界を目の当たりにする。
ここに揃えたのは友達思いの社長の仕業?!

たぶん……、絶対に……、こわい…。

そうやって凝視してしまった一葉に気付いた『千城』が、なにか?と問うように一葉を睨んで(いや、みつめて)きて、一葉は縮こまった。
こんな鋭い目線の男とまともに視線を合わせられる度胸はない…。

「あ、一葉くんっていってね。今、友達を待っているところなの。びっくりしちゃった。神戸さんの知り合いの画廊で働いているんだって。しかもね。俺と同じ年だったんだよ。今度、顔を見せにいってもいいでしょ?」
千城の視線に英人の追ってくる言葉が嫌でも耳に刺さってくる。
英人が声をかけてきた瞬間に、一葉を見ていた視線が優しさを含んだように緩んだ。
英人が触れ合って危険ではないと判断できるものには千城も気を許すと言った感じだ。
お客様をお迎えするのはいいとしても(しかも篠原が望む画家となれば文句もなく)、明らかに存在価値が違う人間のようでここで個人的に声を掛けられてどうしたらよいのやら…。
一葉の心の中では『なちぃぃぃぃぃ』という悲鳴がとどろいていた。
那智さえあらわれてくれればこの”不思議なつながり”から解放されるような気がしていた。

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また最近一気読みの方がいらっしゃって…。
一話ずつ拍手いただくのはとても嬉しいのですが、ご面倒であれば最後にポチでもいいですからね。
読んで頂ける方がいる、それだけで私満足です。
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