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ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
誘われたその先に 6
2013-03-21-Thu  CATEGORY: 誘われたその先に
合コンから一週間が過ぎた。
その間、知り合った人たちともメールを交わしたりして、新しい人間関係が築かれていく。
時間に余裕ができてきたこともあって東成と会う時間も増えた。
とはいえ、バイト先で、だったのだが。

日曜日の開店後、休日は午前中も客の入りは良い。
家族連れやカップル、購入が目的なのか、単なる暇つぶしなのか。とにかく商品を知ってもらえること、また人の出入りがあることで、他の客の気もひいてくれる。
賑やかな声が響き渡る中、しゃがみこんで商品整理をしていたところに人が近づいてくる気配を感じて、顔を上げた。
「いら・・・、っ?!」
"いらっしゃいませ"と言いたかった言葉は咄嗟に飲みこまれてしまった。
そこに立っていたのは高槻だ。腕にはこの前の少女を抱き上げていた。
ピンストライプのシャツにベージュのジャケットを合わせた格好は、以前見かけた時よりも硬質な印象が薄れている。
腕に子供を抱いていることも穏やかさを増させるものになっているのかもしれない。
高槻はニコリと笑って和泉と視線を合わせた。
「こんにちは」
「あ、こ、こんにちは・・・」
目をパチパチとさせて立ちあがる。
背が高い人だとは思っていたけれど、改めて並べば東成よりも視線が上を向いた。
「羽衣、"こんにちは"は?」
促されたことで少女は小さな声をあげる。和泉はこちらにも挨拶を返した。

「今日はお母さんは一緒ではないんですか?」
「今週は買い付けで出かけているからね」
そういえば『社長』って言ってたっけ・・・とふと思い出した。
人の家庭を詮索するのも悪いが、旦那さんも一緒に出かけてしまったのだろうか、そして子供を預けられたのだろうかと脳を巡らせた。
もちろん聞けるようなことではないけれど。
「仕事中に悪いんだけれど、今の男の子が好むものを教えてもらえないかな?」
「へっ?!」
「羽衣が幼稚園の友達の誕生日会に呼ばれていてね。プレゼントを渡したいんだけれど、何か人気なものがあれば、と思って」
男の子と女の子では、当然ながら好むものが違ってくる。
売れ筋商品は、店員のほうが詳しいと思われているのだろうが、相手の子を知らないだけに選択の幅は広すぎる。
「えーと、・・・おもちゃ屋さんのほうがいいのでは?」
「いや、なんというか、こう・・・、勉強したくなるようなグッズ、というのかな」
「したくなる・・・」
なかなか難しい注文をつけてくれる客だと思った。

先日のことがあったから、というわけではないが、手を貸せることがあるのであれば協力してあげたいとも思う。
「どういうのが欲しい、とかありますか?」
「どういうの・・・。そこがまた困っちゃったところなんだよね」
苦笑いを浮かべた高槻は、本当に分からない様子だった。
和泉は脳を回転させる。
万が一気に入らなかったとしても、無難なものが相手にとって負担にはならないだろうけれど。

黙ってしまった和泉に、高槻が思い出したように口を開いた。
「あ、そうだ。機動戦隊ものが好きだとは聞いたけど」
「あぁ、『セブンレンジャー』ですね。あれも年々人数増えたり、名前が変わったりで入れ替わりが激しくて」
同じものかと思えば、微妙にマークが変わっていたり、似たような名前を付けられていて、どの順序で登場したのか把握もしていなかった。
しかし、さすがに現在のものくらいは分かる。
そんな会話をしながら特設コーナーになっている場所に移動した。
隣には女の子に人気のキャラクターコーナーがある。
少女は早速そちらに興味を示したが、高槻は腕から下ろそうとはしなかった。
過去の教訓とも言うべきか。

「このあたりから選んでみてはいかがですか?」
「へぇ、いろいろあるんだ」
「今、男の子には一番人気ですよ。戦隊物が好きならプレゼントされても分かると思いますけど」
「そう。ありがとう」
高槻はノートをめくってみたり、鉛筆や鉛筆削りを手にして何か考えているようだった。
その姿を追いながら、コーナーの別の場所で乱れたものを整えたりと手を動かした。
しばらくして、「和泉くん」と呼ばれて驚いた。
どうみても高槻が発したものだ。
「は、はい・・・?」
名前なんか教えたっけ?という疑問だけが残る。
ネームプレートは付けているが、ひらがなで『いばらき』と入っているだけだし。
和泉の驚きなど気にした様子もなく、高槻は「これってセットにしてラッピングしてもらえるのかな?」と問うてくる。
『これ』とは高槻が選んだ品々のことで、それくらいのサービスは当然している。
「え、ええ、もちろん。袋でも箱でも。有料になっちゃいますけれど」
「それは構わない。それでは・・・」
あれこれと手を伸ばし始めた高槻に、その量の多さに和泉はカゴを取りに走った。
絵柄の違うノート三冊に、キャラクターの描かれた七本の鉛筆セット。手で握れる大きさの鉛筆削りに、下敷きに、ペンケース等々と、それは幼稚園生の誕生日プレゼントとして与えていい量なのかと目を疑うくらいに・・・。
和泉が持ったカゴの中に次々と放りこんでくる。

「これくらいでいいかな。じゃあ、お会計、お願いするよ」
にっこりと微笑まれて、カゴを手にしていた和泉は、自分で誘導するしかないことに気付く。
子供を抱いて手がふさがっていることを考慮しても、運んでやるべきだろう。
レジに行くと、そこにいた店長は高槻の顔をしっかり覚えていたようだ。
深々と頭を下げて「先日はありがとうございました」と大得意様であるかのように対応した。
和泉が「贈り物にしたいそうです」と伝えると、「かしこまりました」とまた恭しく振る舞う。
会計を終えたあとは、作業台のほうに移されて、パートの女性が見事な腕前で箱詰めをした。
店長が「ペーパーパッキンやクリアパック、ふんだんに使っていいからね」という影ながらの指示もあって、とても豪華なギフトボックスに仕上がっている。

作業の間中、高槻の話し相手にさせられていた和泉は、仕事に戻ることができなかったが、こんな時間があってもいいか、と開き直った。
「和泉くんは学生?」
「ええ。四年です」
「じゃあ、もう卒業かな」
「はい。なんとか無事に・・・って感じですかね」
「ここにはどれくらいの時間、勤務しているの?」
「うーん、その時によってマチマチですね。学校のこともあるし」
「確かにそうだね」
話してみると、高槻の口調は柔らかく、問われることにも嫌悪感なく答えることができた。
最初はどうしたって警戒心をもつものなのに、今の高槻にはそういったものを持たせない雰囲気がある。
たった二度しか会ったことのない人なのに、これまで見てきた毅然とした態度などが、憧憬となって和泉の中に宿っているからだろうか。
学生の分際で、このような"大人"と話せることの優越感のようなものもわいていた。

「和泉くんはこの前、どこかの帰りだったの?あんな遅くに」
交差点での出会いを振り返られて、合コンというのも憚られて、「飲み会だったんです」と言葉を濁した。
納得したように高槻が頷く。
「そういえば友達も一緒だったね」
「えぇ。彼とは乗る電車が同じなんで。・・・高槻さんもあんな時間まで仕事だったんですか?」
「打ち合わせが長引いてね。とはいっても相手は友人だから、その後一緒に食事して、それであの時間」
「そうだったんですか」
訪ねることにも嫌な顔ひとつせず、また詳細まで語ってくれることにますます人の良さを見た気がした。
おかげで最初のころ抱いていた緊張感がはがれていった。

『セブンレンジャー』の包装紙で綺麗にラッピングされ、リボンも付けてもらったものを見ては、高槻は満足そうに微笑んだ。
「和泉くんのおかげでとてもいい買い物ができたよ。ありがとう」
「いえいえいえっ、俺、何もしていませんからっ」
こんなことまで感謝されるとは思っていなかった和泉は慌ててしまった。
笑顔がまた見惚れるくらいのもので、ドギマギしてしまったのもある。
思わず顔が火照りそうになる。
人を魅了する凄さを間近で見せつけられた感じだった。

思わず顔を伏せそうになったとき、高槻が問いかけてきた。
「ところで、『お礼』の件は考えてくれたかな?」

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誘われたその先に 7
2013-03-21-Thu  CATEGORY: 誘われたその先に
『お礼』とはなんだろう・・・と一瞬、逡巡してしまった。
キョトンとした和泉を見ては、フッと口角を上げられる。
「食事、なんてどうかな。今日も我が儘を言ってお世話になったことだし」
紙袋に入れてもらった品にチラッと視線を向け、しかしすぐに和泉を正面から捉えた。
「お、お礼・・・って・・・。だから、いいって言ったじゃないですかぁ」
それに商品紹介くらいするのが『店員』ってものだろう。
そんなふうに言われてしまったら、誰の接客もできなくなるというものだ。

高槻は、困ったなぁという表情を見せた。
「私の気が済まないんだけれどね・・・」
「済ませてください」
「和泉くんって、意外と頑固?」
「え?、そ、んなことないと思いますけれど・・・」
「頑なに断られるとは、嫌われているのかな」
語尾は悲しそうに顔を歪めて見せたりもする。本気で言っているのではないだろうが、そこまで言われるとこちらが悪いことをしている気分だ。
嫌う、なんてありえないことなのに。
「まさかっ」
咄嗟に否定すれば、「じゃあ」と言質でもとったかのような自信の取り戻し方だった。

今、もしかして、誘導されたのだろうか・・・と気付いても遅いらしい。
高槻は「昼間は忙しいだろうから、夕食、なんてどう?」と誘ってくる。
「でも・・・」
和泉はまだ駄々をこねるように拒絶してしまう。
そんなふうにしてもらうほどのことはしていないと思っているからだった。
元々の考え方が高槻と違っているのだから、そこを理解してくれと言う方が無理な話なのか・・・。

「和泉くん、それともこの店内に、感謝状と品物を届けたほうがいいかな?」
いきなり、何を言いだすのか・・・といったものだった。
誰が出入りしているかもしれないこの店内で、名指しで呼ばれたら、なんの羞恥プレイかと思う。
本気でするとは思えないけれど、天秤にかけられたら、まだ食事の誘いのほうがいいと判断するのは当然だろう。
ここはもう根負けするしかない。

ただ、遠慮したい気持ちを持ちながら、先程感じた優越感のようなものは残っている。
高槻のような人間と会話を交わせること。
興味、だろうか。どんな振る舞いを見せるのか、自分にとって糧になれるだろうか・・・。
ひとつため息をこぼしてしまえば、何を意味するのか、高槻は悟ったらしく万遍の笑みを浮かべてくれた。
「この前渡した名刺、持ってる?都合のいい日が決まったら、そこに連絡してくれればいいから」
和泉の予定より、高槻の予定のほうじゃないだろうか・・・と気にかけるのだが、何を言っても返されそうで黙ってしまった。
反抗的な態度をとって嫌われたくないと過ったこともあったかもしれない。

去り際、高槻は腕の中の子供に「羽衣、ありがとう、は?」と、促していた。
少しの照れを見せながらも、素直に「ありがとうございました」と口にした。
なんとも可愛い仕草だな、と笑みがこぼれる。
こうやって見ていれば、どこから見ても『親子』である。
知らなければ誰もがそう思うだろう。

前回同様、高槻を見送っては盛大なため息をついてしまった。
返って手を煩わせてしまっていないか・・・
そんな不安の方が湧きあがってくる。
なんだろう。会話をしてしまったからなのか、今の良い状態を保ちたかったのだ。
ここのバイトもいつまで続けられるか分からないが、店員と客として良い関係でいたいと願望が生まれた。
高槻の人の良さを知ったからこそ。

しかし、和泉はなかなか連絡を入れることができずに時が過ぎた。

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後先考えずに連続upとかしちゃうかなぁ。
10話まで書けたことだし。その先は謎だけど。
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誘われたその先に 8
2013-03-22-Fri  CATEGORY: 誘われたその先に
高槻に連絡をとれないままで一週間以上が過ぎた。
夜の八時に閉店する店内は、時間を前にして一日の終わりの作業に追われている。
閉店後も仕事が残っているので、実際に帰れるのは30分ほど後になる。
平日のせいか、店内は仕事帰りのOLが多かった。

客を見送る「ありがとうございました~」の挨拶が多い中、時々「いらっしゃいませ~」が響く。
すでに入店している客に関しては、閉店時間を過ぎたからといって、早々追い出すわけにもいかないけれど。

ギリギリの時間に飛び込んできた客に、和泉は内心で舌打ちをした。
姿は確認していないが、掛けられる声で新客だと分かる。
何か緊急の必要なものでもあったのだろうか。それなら滞在時間は短いだろうからすぐに帰ってくれると期待する。
だけど入店してきた客は、商品を探すのではなくて、和泉を真っ先に見つけた。
「和泉くん」
特設コーナーのポップを直していた和泉は、声を聞いて振り返る。
「え?高槻さんっ!?」
久し振りに見た顔に、ひっくり返った声が上がってしまった。
連絡をしていなかった後ろめたさもあって、焦りが生まれる。
高槻は緊張していた面持ちから安堵したような吐息をはいた。
「良かった。いてくれた」
高槻にしてみたら一方通行でしかない。
自分の連絡先は教えたが、和泉につながるものはこの店舗しかないのだから。

「あ、あの・・・」
どう返そうかと困惑も混ざらせる和泉に、高槻はなおも話しかけてくる。
「なかなか連絡をもらえなかったから、やっぱり嫌だったのかと思って・・・。重荷に感じているようだったらと思って謝りに来たんだ」
「そ、そんな・・・」
これまでの期間、ヤキモキさせていたのだと知る。
高槻は高槻なりに悩むところがあったのだろう。
頑なに拒み続けた和泉の意見を聞いていたからこそ。
しかし、高槻が"謝る"必要はどこにもないはずだ。
そのためにわざわざここまで足を運んだというのか・・・。
いつもにはない、落ち着きのなさのようなものまで醸し出している感じが見てとれた。
すべての態度に高槻の誠実さと人柄が表れる。
こういう人だからこそ、人を惹きつけるのだろう。
彼自身が持つ魅力そのものだ。

「和泉くんは店員として当然、と思ってかもしれないけれど、俺の中ではそれだけでは済ませられないものがあったんだ。だから個人的になにかしてあげたかったんだけれど・・・。迷惑がられているのならこれ以上待つのもどうかと・・・」
善悪をきっちりつけ、何事にも真剣に向かう人なのだな、とはこれまでも感じることはできていたけれど。
ひたむきな思いの打ち明けられ方に瞠目したのは和泉のほうだった。
友人である学生同士のやりとりなど、とても希薄な部分が多い。
曖昧に濁して、あやふやにして、事なきを得る。
それらとは明らかに違う態度の連続に、あこがれもしたし、不安も抱いた。
いつか、こうなりたい・・・。だけどなれなかったときの脱落感を将来見たくないと思うもの。
きっと高槻が身にまとわせる立ち振る舞いも思考も、和泉の理想の域を越えているのだろう。
それらを知っていくことの恐怖。

とりあえず、高槻を嫌っていないことだけは知っていてほしかった。
「すみません、迷惑とか思っていないです。・・・ただ、そんな大したこと、していないって思ってたから、俺なんかがいいのかな・・・って」
「和泉くんだからこそ、だろ」
きっぱり言われてしまっては返す言葉もない。
大げさ・・・とずっと思っていたけれど、やはり高槻の中では考え方が違っているのだ。
応えてあげるのも筋ってものだろう。

「分かりました。あの、足、運ばせてしまってすみません。今度ちゃんと予定確認して・・・」
「今日は?」
改めて連絡を・・・と言いかけた言葉は高槻の質問によって遮られた。
「え?」
「そろそろ、仕事上がりじゃないかな。夕食がまだであれば待っているけれど?」
問われて和泉の体が固まる。
確かに閉店時間まで働いた日は、近くのコンビニで何かを買って家で食べるのが常だった。
しかしこんな急展開はアリなのだろうか・・・?

「それとも誰かに会うとか、あるのかな。これからの時間に」
何かを確認されるような眼差しに、咄嗟に「いえ、別に・・・」と正直なところが漏れれば、またホッと安堵される。
「じゃあ、決まりでいいな」
満足したように魅惑的な笑みを見せられ、強引に押し切られて何も出なかった。

高槻は「ちょっと待っていて」と言いおいたまま、踵を返して店内に消えていった。
呆然としてしまったのはもちろん和泉のほうで・・・
直後には店長を連れだって戻ってきた。
「茨木くん、今日はもういいからあがりなさい。一日お疲れ様」
こちらも強引に終業時間を告げてくる。
鳩が豆鉄砲をくらった状態で訳が分からないでいるうちに、高槻から発された言葉は「さあ、帰ろう」の一言だった。
先程まであった"しおらしさ"は何処・・・?

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誘われたその先に 9
2013-03-23-Sat  CATEGORY: 誘われたその先に
「茨木くんにはいつも感謝するよ。早速新商品を薦めてくれて、その上大量注文まで取りつけてくれて。在庫がないんでメーカーから直送する手配にしてもらったんだ」
・・・店長は何の話をしているのだろうか・・・
鳩ポッポの状況は変わらない。
「和泉くんが早上がりしても、予定時間の給料は支払ってくれるようにお願いしたから」
自分の知らないところで進められる話に絶句するしかない。
高槻はやりかけの仕事を終わらせようとする。
手にしていたポップは店長の手に取り上げられていた。
「さあ」
再び高槻に促されて、退勤しなければいけない状況に追い詰められていることを教えられた。

一度は控え目に和泉の心境を探ってきていたはずなのに、和泉の心理状態を確認してしまえば、迷いは生ませないと考える間を持たせなかった。
間をおけば、また和泉が躊躇いを持つと思っているのだろう。
奥へと追いやられ、帰り仕度をさせられようとしている時、店内の不穏な動きに気付いた東成が近づいてくる。
「どしたの?」
「いや、別に大したことないんだけれど・・・」
「あの人、また来ているだろ」
「え?」
唐突に尋ねられることに、『あの人』が誰なのか、即座には分からなかった。
怒ったような東成を見るのも初めてかもしれない。
「和泉、人がいいのは結構だけれど、危機感も持てよ」
まるで幼い子供にされて、言いきかせられているようで、どこか不貞腐れてしまった。
高槻までも否定されたような気がして気分が良くなかった。
直接話してもいないだろうに・・・。

「大丈夫だよっ」
強い口調で返してしまったのは否めない。
高槻が自分に対して何をするというのだろう。
高槻は親切心から、また"感謝"として、気遣ってくれていたというのに。

それは東成にとっても、和泉から初めて聞かされた反抗のようなものだったのかもしれない。
「言いすぎた。ごめん・・・」と即座に謝ってきてくれる。
スッと伸ばされた指が、茶色く染められた髪を撫でた。
指の感触が、再度謝られているようで、返っていたたまれなくなる。
相手の気持ちを思いやれるものを知るから、強く出られたとしても嫌いになれないし、信頼も寄せられる。
「今日、早上がりになっちゃったから・・・。後のこと、お願いすることになってごめん」
「え?」
今後の流れを東成に伝えると、あからさまに驚かれた表情をされた。
ふたり一緒に帰る約束なんてもちろんしていなかったが、暗黙の了解のようなところが二人にはあった。
これ以上、突っ込まれるのもいやだったし、その話題が更なる溝を作りそうで、さりげなくかわそうとする。
今は言い訳すら思いつかない。
なにより、高槻を待たせていることだろうか。
「和泉?」
「じゃあ」
とくに返事をすることもなくロッカールームに消えた。

高槻にこれ以上の心労をかけたくないこと。何より期待している自分がいること。
その根源を・・・。

ハッと何かが過り、思わされる。
和泉は、自分をこんなふうに気遣われて、追いかけられたのはいつぶりだろうと振り返った。
しつこい女はいたけれど、彼女たちは自分の欲求を口にするばかりだった。
こんなふうに誘われて嫌な気分にならなかったのは初めてだと。

それこそが、高槻自身が魅せる、"男の魅力"なのだろうか。

店外で落ちあって、高槻の車に誘導された。
一目で高級車だと分かるスポーティータイプの車は、国内でもそこそこ目にする。
国産車であり、それだけに、さほど値ははらないと言いたいのかもしれないけれど。
和泉からしたら高値の花だ。

「和泉くんの意見、聞くのを忘れちゃったんだけれど、若いから、この時間で鉄板焼きでも大丈夫かな?」
車に乗り込むなり尋ねられたことに、「なんでもいい」としか答えられない。
こんな突然で、連れていかれる所になんの反論ができようというものか・・・。
更に見えてくるのは、高槻の嬉しそうな表情だ。
これで彼の肩の荷がひとつ下りるのなら、付き合ってあげるのはわるいことではないと思わされる。
高槻は、ハハハと軽い笑い声を上げた。
「もしかしたら俺のほうが参るかも」

和泉は高槻の態度に気を取られた。
気を許してくれているのは分かる。
今までとは違う雰囲気というか、言葉遣いというか。

これまで、そしてさっきの店長の前でも、高槻は『俺』とは言わなかった。
少しずつ晒される彼の内面に、今まで以上に興味を持ってしまったのは、和泉の方かもしれない。

しばらく走って、やがてたどり着いた先は、テレビの中でしか見聞きしたことのない、有名な高級ホテルだった。
それこそ誰もが知っている・・・しかし利用した人はどれくらいいるのかというような・・・。

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ホテルヽ(゚∀゚)ノ

しばらく、別宅まで気が回りそうにありません。完全放置になると思います。
何か更新あった時にはこちらでもお知らせしますね。無駄足されませんように。
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誘われたその先に 10
2013-03-23-Sat  CATEGORY: 誘われたその先に
和泉はホテル内にあるレストランに案内された。
入口からでも分かる高級感にひるんでしまう。
「ちょ・・・っ、えっ?!」
「ステーキなんだけれど、嫌だったかな?」
そっちの心配ではなくて・・・と思わず内心で突っ込みが入ってしまう。
こんなところの敷居を跨いだことのない和泉だ。
ファミレスで食べるくらいのステーキならいくらだって拝んだことはあったし好きだったが、それとは全く異なる世界が広がることくらい容易く想像できる。
「そ、そうじゃなくて・・・。俺、こんなところ、来たことないし・・・」
「ならば余計良かった。味わってもらえたら嬉しいな」
焦る和泉をものともせず、スッと背中に手を当てられて先へと促される。
店内はどちらかといえば和の趣で飾られていた。
10席ほどのカウンター席があり、他は広い空間にテーブル席が並べられている。窓ガラスの向こうは夜景が広がっていて、雰囲気だけでも高額な金額を請求されそうだと思った。
出迎えてくれた黒服の男は、高槻とはすでに面識があるようで、またこの場でも事前に話が通されていたようで、品の良い笑みを浮かべてはカウンター席に案内してくれた。
椅子を引かれて座った・・・なんていうのも初めてのことだ。
入り口側の右隣に高槻が腰を下ろして、それは出入りする人を見せない配慮のようでもあった。

ここまで来てはもう逃げようがない。
目の前には大きな鉄板があり、正面に料理長だろうか、恰幅の良い年配の男が「いらっしゃいませ」と歓迎してくれる。
「ご無沙汰しておりました。彼、若いから色々食べられると思うんですけれど・・・。和泉くん、好き嫌いあるかな?」
料理人に話しかけた高槻の視線が和泉を覗きこむ。
「い、いえ、何も・・・」
高槻は安心したようにまた料理人に向き直る。
「では今日のおすすめをお願いします。・・・ワインか何か飲む?」
再び問いかけられて、さすがにそこまでは・・・と首を振る。
「遠慮しなくていいんだよ。俺も付き合ってあげたいところだけれど、車で来ちゃったからな」
「ほ、本当にいいです。そんな、一人で飲むなんて、尚更できませんよ」
もし高槻が飲むので、その付き合いと言われれば、断ることもないが。
ほとんど初対面のような人間と初めての食事で、図々しい態度に出られる筈もなかった。
高槻はノンアルコールのカクテルを注文してくれた。

こういった場所に慣れない和泉を理解しているのだろうが、それを周りに感じさせない細やかさで、さりげなく手を回してくれて、はびこっていた緊張感が少しずつ薄れていく。
先に届けられたスープとサラダを口にしているときに、前の鉄板では野菜が焼かれだされた。

高槻は実に話題豊富だった。
また聞き上手でもあり、質問をタイミングよく挟んできたりして、和泉の私生活がどんどんと暴かれていった。
隠そうという気が和泉になかったのもあるのだろう。
それは、この一度、で終わりにしたくない、近付きたい思いがあったからかもしれない。
次々と届けられる料理に舌鼓をうち、止まらない会話に高揚していく。
魚介類からステーキまで、食べたことのないものばかりが届く。
ひとつずつ、品物を説明をされて、食べ方まで教えてもらって、普段では絶対に味わえないものばかりだ。
カットされたステーキは噛まずに消えたといっていいくらいで、目がまん丸に見開いてしまった。
「う、まっ」
「喜んでくれたようで嬉しいよ。追加で焼いてもらう?」
微笑まれたけれど、そう簡単に『おかわり』できる品ではないだろう。
それでなくてもこれまで出てきたものは、伊勢海老だ、アワビだ、土瓶蒸しだ、と目にしたことがないものばかりだったのだから。

食事が終わって、デザートとコーヒーが出された。
そこでフッと高槻が笑ったので、どうしたのかと和泉は首を傾げた。
「あぁ、ごめん。羽衣を連れてくると、必ずデザートからねだられるから。それを思いだしちゃって」
食事の席でのこと、きちんとした順番を教える上ではいけないことなのだけれど・・・と、しかし、つい甘やかしてしまう事実を教えてくれる。
思い出したように疑問が浮かんだ。
これまで見てきたものはほんのわずかでしかないが、見聞きすることは、父親と何ら変わらないのではないかと。
親戚であるのだから親しくしていてなにも悪いことはないが、どこにも『父親』の影が見受けられなかった。
「あの・・・、羽衣ちゃんとは良く会うんですか?」
素朴な疑問として口をついてしまったのだが、微笑んでいた表情は苦笑いに変わった。
「会う・・・というか、姉貴に押し付けられているほうかな。アレも活発的な性格で落ち着いていないからな。仕事のことになると没頭するし。その分、一緒に居られるときは母親全開にしてくれるけれど」
ますます分からない答えになってしまった。
お姉さんが社長で、弟が副社長なら、旦那さんは違う職業で、都合が分かるのが弟だから、ということなのか?
知らずに眉をひそめてしまった表情を見られたのか、理解したように言葉を続けた。
「母子家庭なんだよ。羽衣が生まれてすぐに、事故で亡くなったんだ。だから羽衣は父親を写真の中でしか知らない」

聞いてはいけないことを聞いてしまったと、咄嗟に後悔した。
高槻が身近にいて、できることをしてやろうという心遣いも伝わってくる。
そこにも彼の思いやりがあふれているのだと。
人の家庭事情を聞いていいほどまだ親しくもなかったのに・・・。
和泉の心情をはかってくれた高槻はやんわりと宥めてくれる。
「気にしなくていいよ。隠しているわけではないし。まぁ、そんな背景があって甘やかしているのも事実なんだけれどな」
今の生活の状況を笑って話してくれるけれど、内心はいかがないものなのだろうか。
自分の世界を見せるようで、感情は隠されているようで、近づけたと思ったものも遠ざかったように感じられてしまった。
それが何故か悲しかったのだけれど、それ以上口にされることはない。

食事が終わった後、高槻は「送っていってあげるよ」と再び和泉を車に誘う。
遠慮しても、遅くまで付きあわせたから、と譲らなかった。

「お言葉に甘えて・・・」と、自宅まで案内したが、それは高槻に住処を教えたことになったとは気付かない和泉だった。

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