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BLの丘
あの日の夢 6
2012-11-21-Wed  CATEGORY: あの日の夢
これまでの燕の人生からは、まったくもって無縁ともいえる豪華な造りに圧倒される。
黙ってついていくだけだ。
大理石のエントランスからエレベーターに乗り、結構な高層階で下りて、玄関の鍵もナンバーを打ち込むシステムになっていて絶句する。
広い玄関ホールから最初の扉を開くと、LDKに迎えられた。
奥のキッチンはカウンター式になっており、カウンターの前に3脚のスツールが並んでいる。
ダイニングテーブルがないからか、リビング部分がやたら広々としている感じだ。
全体がダークブラウンでまとめられていて、シックな印象が強い。リビングの隣にはごろ寝ができそうな畳コーナーがあって(こちらもブラウンのカラー畳だ)和洋がうまく融合していた。
L字型に配置された焦げ茶色の布製のソファは、両面ほぼ同じ大きさで、ひけを取らないガラステーブルが鎮座する。
廊下に続くドアも見えて、かなり広い作りの家なのだと推測した。

畳

「適当に座っていろ。何を飲む?」
燕をソファの前に案内しては、五泉は脇へと寄った。
小ぶり(部屋が広いからそう見えるのか)ながら、サイドボードの中には20本ほどの大中小の酒瓶が並んでいる。
上段は観音開きのガラス扉で、それを全開にして燕に見せてから、五泉はキッチンへと足を向けていった。
何…と聞かれても、そこにあるものは何語だか分からないものばかりで、当然見たこともなく、内容だって知りはしない。
オドオドとソファの隅のほうに腰を下ろしながら、五泉の姿を追うと、スツールの背に雑にジャケットを掛け、そのままキッチンの中に入っていった。
食器を取りだしているのか、小さな音が響いてくる。
「何にするんだ?」
再び問われて、答えようもなく、「何か薄いの…」と曖昧な声が漏れた。
それだけで、知識がないのがバレてもいるようだ。
「水割りでも作ってやるか…」

改めて出会ってみれば、想像していたような高圧的な態度をとってはこないことに気付く。
言葉は冷たくも感じるが、全て燕の意見を尋ねてくる。
今まで拒絶は受け付けない、といった印象が強かった燕には意外な振舞いでもあった。
片方の掌に二つのロックグラスを乗せ、もう片方に水の入ったボトルとマドラーを手にして戻ってくる。
一度テーブルに置いてから、ウィスキーらしいボトルを取り出して扉を閉め、燕の座る面と斜向かいの位置に腰を据えた。
中央の角の近くのほうだったが、燕が端も端にいるために、数人分の距離があるといってもいいくらいである。
「そんな方までグラスは届けないぞ」
口角をあげながら皮肉まじりに、燕を呼んでいた。
五泉は慣れた手つきで液体をグラスに注ぎ、燕の分については水を注いで薄めてくれる。
それでも五泉が一番手を伸ばせる場所に置いてくれて、決してバーで飲んでいた時のような近くに来いとは言っていないのが知れたくらいだ。
燕はツツーと置かれたグラスの前まで移動した。
間に二人から三人は座れそうだ。
五泉が一口飲むのを見終えてから、「いただきます…」と燕も傾ける。
迷いもなく選択したとは、飲みつけているものなのだろうか。

いきなり寝室に案内するほど傲慢ではないらしい…。
それともこれが五泉のやり方なのだろうか…。
「あれ以降、あの店には行っていないのだろう?」
本題に入ったのか…という感じだった。
あの日から一週間は経っていない。
いくらなんでもそんなに頻繁に誰かを求めているわけでもなく、浅ましくもないと言いたくなる。
心に淋しさが渦巻いていたとしても…。
小さく頷いては、グラスをテーブルに戻して、何故あんなことを言い出したのかと五泉に視線を向けた。
背もたれに背中を預けて、長い脚を組んで、グラスも手放さず、五泉の瞳はまっすぐに燕を見ていたようだ。

「あの…、なんで…?」
燕の質問には、この時ばかりは呆れたような笑みを浮かべた。
「『なんで』?おまえを気に入ったからに決まっているだろう」
当然の答えだ、と言わんばかりだ。
『気に入った』…。その真意はどのようなものなのか…。
五泉の眼差しは真剣なものに変わっている。
「もちろん、まだお互いのことなど何も知らないんだ。いきなりこんな話を突き付けられて迷う気持ちがあるのは理解できる。でもどこかで始めなければ先には進まない。良く知ってから付き合う奴もいるし、知りながら未来を開いていく奴もいる。でもおまえは前者じゃない。ここで手放したらこれまでと同じ道を進むんだ。先に手に入れたいと打診するものだろう」
「それって…」
「まぁ、いわゆる『告白』だな」
そんな簡単に…。
あまりにも潔い発言だった。
たった一夜で何を感じたというのだろう。
上辺だけの言葉なのかもしれないという疑念は拭いきれない。

俯いてしまった燕に次の台詞が注がれてくる。
「決して好印象とはいえない噂のことは耳にはしていた。かといって、俺も頻繁にいく店ではない。おまえを見かけたのはあの日が二度目だったんだ。正直最初は興味本位だった。何故そこまで捨て鉢になれるのかという、な。だけど抱いていた時に単なる肉体関係が欲しいだけではないんじゃないかというおまえの感情が見え隠れしたんだ。甘える術はあるのに、本当の意味で縋れない悲しさと言うのか…。だからおまえの本質を見たくなった。今はそちらのほうに興味がある」
ズバズバ切り込んでくる言葉に胸が痛くなる。その反面でそこまで悟ってくれた観察眼に驚愕させられる。
五泉はゆっくりとグラスを傾け続ける。
「な…っ?!」
「感情がない中で抱かれることほど、虚しいものはない。あの時のセックスに関しては試す意味もあって責め立てたかもしれないが、おまえは充分に可愛かったからな」
どこまで本心なのだろう…。
他にも告白されて、結局迎えた時が何度あったか…。
唯一違うのは、過去の男たちはここまではっきりと意味を伝えてくることはなかった。
理由などない『好き』ばかりだった。
「ツバメ…。どうでもいい奴を自宅に招くことはしない」
静かに、だけどはっきりと、五泉の言葉が届く。
抱くだけなら、この前の時のようにホテルを利用する、と言われているようだった。

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あの日の夢 7
2012-11-22-Thu  CATEGORY: あの日の夢
しばらくの間、沈黙が流れていた。
その沈黙を破ったのは続けられた五泉の声だった。
「おまえのことをもっと知りたいと思うのはダメなことか?この前の別れ際は時間がなさすぎた。だから連絡を…と言い置いてきたんだ。携帯の番号を見てしまったのは、俺にしてみたら一つの保険だった。この話を聞いて拒絶されるのならもう俺から言うことはない。おまえが今後どんな生活を送ろうが、それにも興味は示さない。ただ俺の思いだけは伝えてみたかった」
こうまで堂々と告げられることには、どうしたって心が揺らいだ。
もしかしたら、また終わってしまうかもしれない。だけど正直に吐露される(と思いたい)気持ちを、もっと聞いてみたい思いもある。
…知りたい…。それは燕も同じことなのかもしれない。
「できるだけおまえに合わせる、と言ったのも本音だ。俺も何かと忙しいから時間が作れるかは分からないが、できるだけの努力はするつもりでいる。だが、その間が開いてしまって、いくら『お試し期間』だったとしても、店に出入りされることは勘弁ならないな」
「あ、あの…、それって、呼びつけることはしない…ってこと?」
「呼びつける?会いたくなれば声をかけることもあるだろうし、多少都合をつけてもらうことも出てくるだろう」
燕にはその台詞が、やはり過去を彷彿させていた。
少々消沈したような燕の表情を見て、すぐにも五泉は何かを感じ取ったらしかった。
二人の間が詰められる。
スーッと伸ばされた片手が、燕の頬を包んだ。
「おまえ、今、大きな勘違いをしているだろう?…ったく…、どんな生活を送ってきたんだ…」
問いかけの後はやっぱり呆れた声だった。
頬を包んだ掌は後頭部にまわり、グッと力が込められるとあっけなく五泉の硬い胸元に額が当たった。
「辛かったんだな…」
まるで見てきたかのように抱擁してくれる腕に、驚きと嬉しさが混じり合った。
短い会話と、聞いていた噂話を合わせれば、簡単に想像ができるものであったのか…。あえて口にはされなかったけれど。
人生の経験の違いか、あっさりと悟られてしまったようだった。

大きな手が背を撫でてくれる。
この前のセックスの時のような傲慢さもなければ、愛しまれるような優しさと穏やかさが漂っていた。
知っていくというのは、こういうことなのだろうか…。
…信じてもいいだろうか…。縋ってもいいだろうか…。

「五泉さん…」
ポツリと呼んでみた名前に、「五泉でいい」と訂正を促される。
態度はともかく、命令口調は相変わらずだ。従わせようとするものに、燕は反論できなくなる。
「この前はそう呼んでいただろう」
「でも…」
行きずりの関係では、ある程度容認してもらえるところがあるだろうが、実生活を知ってはそう図々しくも出られない。
それでなくても、年上の、エラそうな人なのだから…。
「俺がいいって言っているんだ。…これは受け入れてくれたと思っていいんだな?」
燕が拒絶しない態度でいることに、最後の確認を求めてくる。
この先、何が起こるのか分からないけれど、賭けてみたい気持ちの方が強かったのは確かだった。
どちらにしたって、燕に選択権なんて与えられていない気がする。
コクンと頷くにとどまった燕の顔を上げると、額に一つだけのくちづけをくれた。
これで終わりなのかと思ってしまうほど、呆気なく離れていき…。
しかし、見上げるように見つめた燕の瞳を覗きこんでは、次に食むような唇同士の重なり合いが始まった。
舌を出しては答える燕に、何もかもを委ねる心と体を感じてくれたのか。
やがてそれは深くなり、口腔内を蹂躙されては、覆いかぶさってくる力に勝てなく、燕は背をソファに横にされる。
…やっぱりこのまま…。
そんなことが過らなかったわけではないが…。
一頻り貪られ、息も上がって胸が上下し出した頃、スッと重みが消えた。
瞼を上げれば体を起こして見つめている精悍な顔があった。
少しばかり、怒っているようにも見えて…。
咄嗟に燕は、次になにをするべきなのかと、思考を巡らせてしまった。

「あ、あの…、俺…、シャワーあびてくるから…」
その台詞には、更なる怒りをかってしまったようだった。
キッと目つきが鋭くなり、盛大に蔑み咎めてくる眼差しに変わった。
「その考え方は捨てろ。俺のご機嫌を伺うような態度もだ。ツバメは自分の意思を持って、自分らしく生きるんだ」
なんでも体を提供すればいいと考えたことを見抜かれる。燕からくちづけを求めたことも含まれたのか。
相手のために何をしたらいいのか、一番に考えてしまったことも…。
そして、過去には聞かれたことのないような台詞に、ジンときては胸の奥が熱くなった。

それから抱き起こされて、隣に並ぶ。
「夕飯にはまだ早いな…。もう少しツバメのことを聞かせてくれ。俺に質問があれば何でも答えるから」
時間の経過を確認され、ゆったりとした時を過ごすかのように、五泉は手放していたグラスをまた引き寄せた。


誰かとこんなふうに会話をしたことがあっただろうかというくらいに、五泉は人の話を聞き、自身を語る。
そこは大人の余裕でもあり、上に立つ人間の質のようなものも備えているからだと漠然とでも感じられた。
兄の事業に関わっていることを『小間使いだ』と愚痴り、しかしやりがいは持っているのだと思う。
「しょっちゅう予定が狂うんだ。だから燕には負担をかけるかもな」
単に耳にしていただけの名前を教えた。
専攻がなんであるのかとか、アルバイトは何をしているとか、生活に関わってくることが次々と語られていく。
「アパートはもともと古いところだったんだけど…。四年も住んでもっと老朽化しているかも…」
燕のポツリとした発言には、途端に眉間に皺を寄せられた。
「四年?!おまえ、二年生だって言わなかったかっ?!」
こんな時の口調はどうしてもきつくなるようだ。
それも分かってくれば恐怖にはならないけれど…。
「あ…」
「ちょっと待て。23歳だろう?浪人で入ったわけではなさそうだな」
またこんなことも隠し事ができない相手のような気がしてきた。
新しく入れてもらったアルコールも進んで、饒舌になるのは思考力が鈍っているせいか…。いや、隠し通せることではないだろうけど…。
「あ…、と…」
次に聞こえるのは盛大な溜め息だ。
「はぁ…。何しに大学に行っているんだ。遊ぶためか?」
「そうじゃなくて…」
「まぁいい。おまえの過去には触れない」
それはそこ。すでにバレている生活様相だった。男絡みだったとは簡単に想像できる範囲なのだろう。
それでも態度を変えられないことに安堵する自分がいる。

一度話を切り上げるように、五泉が「夕飯にするか…」と燕の髪を一撫でした。
「今日は多めに作ってもらってあるから」
続いた台詞に、ふと、この広い家は、一人暮らしではないのか、という素朴な疑問が湧いた。

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素敵詩 いただきました♪
2012-11-22-Thu  CATEGORY: あの日の夢

皆様 こんにちは~。

いつもいらっしゃってくださる けいったん様が、今回【頚城五泉】視点で詩を書いてくださいました。
ハイ、あの感動的な詩を書かれるお方です。
毎度毎度ありがとうございますm(__)m としか言葉がありません。

すっかり代弁していただいたようですよ~。

私の駄文と合わせてお楽しみいただけたら…と思います。

ヽ(゚∀゚)ノヽ(゚∀゚)ノヽ(゚∀゚)ノヽ(゚∀゚)ノ(←邪魔)


『もっと もっと』

微かに 震える言葉は なぜ
「知りたい…」
だから 話そうよ もっともっと

僅かに 怯える表情は どうして
「知りたい…」
だから 触れ合おうよ もっともっと

お前が知りたい 切々に
お前を知りたい 激しく
もっともっと もっともっと




けいったん様 感謝感激です。
またコメント欄でも遊んでくださいね~。
ありがとうございました。

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あの日の夢 8
2012-11-23-Fri  CATEGORY: あの日の夢
スッとした身のこなしで立ち上がろうとした五泉に、燕は焦って「ここって…、他に住んでいる人が…?」と先程の台詞を振り返った。
五泉は不思議そうな顔で燕を見てくる。
「いや、俺一人だが…」
「でも、今、作ってもらった…って…」
燕の発言にどこか納得したように苦笑を浮かべた。
「あぁ、ハウスキーパーを雇っているからな。ついでに食事作りを頼む時もある」
燕は、それは『家政婦さん』と呼ばれるものだろうか…と頭を巡らせた。
その時になってぐるりと部屋を見回した。
入ってきた時から少々の違和感があったことが、瞬時に納得がいった。
ここは、”綺麗過ぎ”るのだ。まるでモデルルームであるかのように…。
広々とした部屋に圧倒されていたこともあったけれど、その広さは、生活感を漂わせていない。

あまり気にした様子もなく、立ち上がった五泉はキッチンへと向かっていく。
「燕くらいの子が何を好むのかが分からなかったが…。カレーらしいぞ」
どんな意味で家政婦に燕の存在を伝えたのかは分からないが、明らかに五泉のリクエストではないのが伝わってくる。
全て用意されていることは、五泉が組んだ日程(?)であって、やっぱり燕に拒絶権はないのだと教えられたようだった。
燕は五泉のあとを黙ってついていく存在になってしまうような…。
だけど、今までの暮らしと違って、嫌な感じがしないのも確かだった。
ここに座ったままでいいのかと五泉の姿を追うのだが、彼は全く燕を振り返ることはない。
やがて鍋を温めたのか、カレーの香ばしい匂いが漂い始めた。

どれくらいの量を食べるのかと聞かれて、結局燕もキッチンの中へと誘われたが、そこもやはり生活感があるような汚れ具合は見当たらなかった。
業者(人)に頼むと、こんなに綺麗に保てるものだろうか…と半ば感心して、また自分との違いを突き付けられた。
不安だけが広がる。
…本当に…、本当に、うまくなんていくのだろうか…。
将来見限られることだけが脳裏を過る。

カウンターテーブルの上に、カレーライスだけでなくマカロニサラダや和え物が出される。
隣同士に並んで食べるのもなんだか不思議な感覚だった。
たったこれだけのことなのに、慣れないことが、高級感を味わった気分にさせてくれた。
いつもここで食べるのかと聞いたら、家で食べることは滅多にないと言われて、その影に仕事の忙しさが垣間見えた。
だけどその理由を、「スケジュールは変わるし、一人前だけ作らせるほうが手間になる」と、単に外食が多いと教えてくる。
使われることのないキッチンが綺麗なまま保たれているのも納得だ。
「でも燕が来るならダイニングテーブルでも買うか。俺だけならここでもいいけどな…」
五泉はなんてこともないように呟いた。
その性急な行動力には瞠目する。
「え…?…、そんな、まだ今後のことなんて分かんないのに…」
「『分かんない』?……本当におまえは…」
呟きの答えはやっぱり呆れたという盛大な溜め息だった。
五泉は半分ほど食べたカレー皿にスプーンを一度置いた。
しっかりと燕を見つめてくる。

「そのマイナス思考はどうにかしろ。新しい生活に踏み出す意欲というものは持てないのか?おまえは後ろ向きにばかり物事を考える」
諭されているのは分かる…。でも恐怖心があるのも確かなのだった。
久し振りに浴びた温かな愛情(なのか)に翻弄されている自分を良く知るからこそ、構えてしまうのだ。
その後にどんな辛辣な態度をとられるのかと…。

「もし、どうにかなった時はどうにかなった時だ。せめて一緒にいられる期間を、燕と過ごしやすいようにと整えていくのも反対されなきゃならないのか?」
言葉の奥に隠されたものは、あくまでも『五泉が燕のために』すること…。
言い聞かせるように、五泉はその意味を繰り返した。
燕が動くのではなく、自分が勝手にやることなのだと…。

食事を終えた後、また少しの雑談をして、五泉は家の中を案内してくれる。
廊下を進めばゲストルームとワークルームが並び、一番奥に寝室、またバスルームやトイレ、物置などがあった。
「ひろっ」
感心するのは、当然自分の生活空間とは似ても似つかないからだろう。
バスルームに関しては透明なガラス張りで、対面に洗面台がある。真ん中のスペースが脱衣所の役割を担っている。
その作りにも当然驚かされて…。つまり脱衣所に入れば入浴シーンは簡単に覗かれるというか…。
どこのラブホだ?!と脳裏を過ってしまえば、苦笑した五泉がガラスのどこかに触れた。
その途端、見えていた世界は曇りガラスに閉ざされた。
マジックでも見ているかのように絶句する燕に、近付くわけでもなく、それこそ世間話のように声がかけられる。
「泊まっていけるか?無理ならタクシーを呼んでやる」
思えば二人ともすでにアルコールを含んでいた体だった。
欲情を表しているような雰囲気はなく、その態度は燕を安心させるための演技なのか…。
逆に不安を覚えるだけだというのに…。
誤解はされたくない。だけど、今のこの状況で離れたくない甘えが走る。

「大丈夫…」
燕の答えに、ホッとしたような困惑したような、これまででは感じられない何かが流れた気がした。
五泉は湯を張ってくれて、何も持って来なかった(正確には連れ去った)燕のために、寝室のクローゼットから着替えを用意してくれた。
絶対にサイズの大きい新品の下着は五泉のものなのだろうし、外出着として着るのではないだろうかというようなワイシャツ(のようなもの)は尻どころか膝近くまで隠してくれる。
「ゆっくり温まれ…」
そう言い残して五泉はバスルームに向かうよう、燕の背を押した。


部屋

不思議な感じだった。
ヤるためだと思ってきたこの場所に、燻るものばかりがあったのに、今は安堵の方が強い。
これから何が行われても、覚悟を決めた気持ちがあるからだろうか。
広い浴槽は当たり前だがアパートのものとは違っている。
『ゆっくり…』…。でもそれは相手を待たせているようで、心苦しいものがあるのも正直なところ。
急いてしまうのは気持ちの問題なのか、過去からの焦りなのか…。
最低限の洗浄を済ませて出ていけば、リビングに五泉の姿が見えなかった。
バタバタと動いた物音に気付いたのだろう、ワークルームから顔を出してくる。
「もう出たのか?…ちょっとやることができたんだ。何か飲んでいてもいいし、先に寝室で寝ているか?」
泊まることを認めた燕に、好きなように過ごしていいと促してくる。
それでも勝手に動くことは躊躇われて、大人しくベッドの中で待っていようと思った。
寝室には広々としたベッドと、一人掛けのソファ、オットマン、壁にはAV機器があるだけだった。
そこで裸になって待っているべきなのか、脱がしてもらった方が良いのかと悩んだ。
結局は浅ましさを晒してしまうようで、着たままで潜ったのだが…。
今か今かと緊張する中、しばらくしてからバスローブを纏ってやってきた五泉は、徐にバスローブを脱ぎソファに投げると、全裸になってベッドへと入ってきた。
やはり脱いでおくべきだったか…と後悔して焦った燕だった。

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あの日の夢 9
2012-11-24-Sat  CATEGORY: あの日の夢
肌に触れるように近付いてくるわけでもなかった。
それだけ広いベッドだった…というわけなのだが。
役目を果たせていない、呆れられるのではないかという思いが駆け巡って、咄嗟に起き上がる。
「ご、ごめ…。すぐ、脱ぐから…」
隣に寝転がった五泉から吐き出されるのは、またもや深い溜め息。
横向きになってこちらを向く視線に射抜かれる。
「何度言えば分かるんだ。俺を何だと思っている?おまえが望まないことに無理強いすることはない。『泊まる』は『抱く』ことじゃないだろう。…あぁ、そりゃぁ、不満が生まれる時だってあるさ。だからといって”支配”する気はないからな。そこまで堕ち潰れているつもりはない」
「だ、だって…、そんな、かっこ…」
全裸で潜り込まれてきたら”そのつもり”だろうと判断してしまう。
準備万端で待っているのが常だったのだ。
「言うのを忘れたな。寝る時はいつも何も着ないんだ。締め付けられるのが好きじゃない」
あっさりと結果論を告げられて納得はできても…。
燕から望まないと手は出さないのか…。それほどまで求められないのか…。
この時になって燕は、相手から指示がないと動けない自分に気付く。
ずっと言われるがままに過ごしてきた過去。
抱かれていることでそばにいるのだと錯覚していたけれど…。
寄り添いたい時にはどうしたらいいのだろう…。

「ごめんなさ…」
それこそが浅ましい姿を見せたようだった。
再び横になって、虚しさを抱えながら五泉に背を向ける。
動いてくる気配が伝わって、直後には背中を抱きしめられていた。
腹の前に太い腕が回る。
項に吸い付くように這う唇が「燕…」と囁いてくる。
ゾクッと全身の血が騒ぎたてるようだった。

「俺からこれを告げるのは最後だと思って良く聞いておけ。俺はいつだって燕を抱きたいと思うようになるだろう。いや、今現在も思っているというべきか…。だけどな…。そんなふうにビクビクしながら向き合われたくはない。おまえは”道具”じゃない。自分の意思で、欲しいのなら『欲しい』と言え。会いたければいつだって連絡をしてくればいい。そこが『できるだけ燕に合わせる』っていうことなんだ。俺も俺だからな…。待てなければ、今日みたいに俺は呼ぶ。嫌なら拒絶すればいいし、それをされたからといって、俺が燕を嫌うことはない。”付き合い方”を知らないのなら一から教えてやる」
今までの生活とは変わるのだということを、染み込ませるように、また五泉は聞かせてきた。
五泉のご機嫌伺いなどしなくていい。それは五泉が燕に対してもとる態度であるのだと。
本当に…。燕の今までの生活を見てきたかのような話ぶりには言葉がない。

ヤりたい時にだけ呼ばれて、用なしとなれば『帰れ』と追い出された頃とは明らかに違うもの。
燕の予定なんて、全く無視で、講義があろうが、バイトがあろうが、『今から来い。無理なら別れる』の一言に翻弄され続けてきた。
学業なんてもちろん二の次に回されて…。
相手を受け入れるための準備も自分でして、終わったらそのまま放置されて、後処理も自分の役目で…。
相手が何を望むのかを観察したり、伺ったりしていた。
離れていかれないために、何でも受け入れて、燕だけを見てくれる人だと信じたかった。
背後にいる五泉は、全く違う人間だ。
強引かもしれないけれど、いつも真っ先に燕の予定を確認する。

この人に、本当の意味で愛されたいと思うのは、贅沢だろうか…。
そのためなら、何でもする、と思えるのに…。
そこが燕の良くも悪くもある性格だったのだが。

部屋2

クルリと体の向きを変えると、正面に五泉の引き締まった顔が見える。
ベッドに入れば必ず性行為が行われるものだと思っていた。
事実、前回会ったときだって、貪るように燕を抱いてくれた人だった。
あの時の情熱は、今もあると、…これからもありつづけると信じていいのだろうか…。
潤む瞳に五泉が苦笑を浮かべる。
「ヤバイ気分になる…」
額に、瞼に、頬に…、くちづけられて、正面から見つめられて…。

燕は思う。…いつもの誘うための台詞じゃない。
心の底からずっと夢見てき憧れてきた日。本心から吐き出される思いが喉を震わせた。
「五泉さん…」
「"さん”はいらないって言っただろう…」
苦言を吐きながらも、並んでいた体は上下に重なる。
燕の意思は、言葉にしなくても汲み取ってくれていた。
たぶん、五泉自身、堪えていたものがあったのだろうけれど。
耳朶を甘噛みされながら「燕…」と低音が鼓膜に投げかけられた。
鼓膜から脳へ…。脳から足のつま先まで…。血液と混じって電流のごとく駆け巡っていく。
「あ…っ、…い、つみ…っ」
声だけでも充分な刺激…。
噛まれた首筋に、恐怖と安堵が交錯した。
今からこの人のものなれるのかと…。
顔を上げた五泉の唇が燕のを啄ばむ。頭の両脇に肘をついて、時々視線を絡ませながら、またくちづけて…。
こんな優しい扱いをされるのも久し振り…というか、初めてかもしれない。
両手で頭を固定された燕は逃げることもできず、深まっていくだけのくちづけを受け入れた。
長い…、たっぷりと愛情を注がれるようなくちづけの愛撫も、初めてのことだった。

きっと、この家に誘った時点でも、ベッドに潜り込んでも、燕の気持ちを落ち着かせるために、安易な行動は起こさない気でいたのだろう。
だけど、一度同じベッドに入ってしまえば…。
どんな理由があれ、誘ったのは燕の方だったのだが…。
嫌だとは思わない。
抱かれる、肌の熱さが甦って来る。

あの日、夜と朝と…、重ねた体があったとしても、決して酷くは扱われなかった。
最後は、全身を抱きしめて鼓膜に残して行った『ツバメ』…という声が全身を震わせてくれた。
思い出しては戸惑っていた燕だったが、今は応えて良かった気がする。

今日の聞いた話の全てを信じて、身を委ねたい。
いつもこうして、一人だけを見てくれる人を求めていたことを強く感じる。
抱かれてもいい…。…いや、そうじゃない。
抱かれたい…。

この時から、燕は五泉の『籠の中の鳥』になったのだろう。
それも、出口のない…。
幸せという、籠の中。
至福の時が流れた。


『Rêve de ce jour-あの日の夢-』

笑顔零れた あの夢は
すぐに 崩れ消え去る 砂山の城
分かっているのに…
何度も抱いてしまう 儚い 幻想 

頬濡らした あの夢は
いつまでも 拭い切れない 湖沼の澱
逃れられないのに…
何度も突き付けられる 確かな 現実 

あの日の夢に 惑わされる 囚われる


またまたけいったん様が素敵な詩を書いてくださいました。
私の頭の中、覗かれているのかなぁっていうくらい良く詠まれてくれます。
ありがとうございました。

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