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ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
乱反射 6
2012-10-12-Fri  CATEGORY: 乱反射
仕事中、どう真室が兄を言いくるめたのかは知らないが…。
調理師という仕事は、一般人とは異なる時間帯に休憩時間がやってくるせいか、帰り際に明るい声で真室から、「明日からオッケーでーす♡」と返事がきた。
はしゃぐ真室の声には、室内の皆が振り向いてくる。
萩生も「どうしたの?」と突然の真室との近付き方に疑問を宿す。
さすがにこれ以上の”弁当工場”は真室も考えたのか、「ナイショ~」と意味深な笑みと返答でその場を和ませる。
…いや、その返答だけで充分疑惑を買っているだろう…。
たった一度の食事でも、これまでとは違った居心地の良さを覚えてくれたことは、同じく働く人間として嬉しくもあるが。
明らかに距離感は縮まっていた。
お兄さんに何と挨拶をすればいいんだ…と考えては、瀬見に任せようと丸投げしたくなるあつみだった。

真室のおかげ…というのか、瀬見の策略というのか…。
翌日から萩生と由良からは完璧に離れた休憩時間になった。
後輩が会社の中に溶け込んでくれることは嬉しい出来事である。
真室の性格か、怖気づいたところもないし、瀬見とも友好的な態度で接する。
どこから用意されたのか、ピンクとか黄色の、可愛いキャラクターのいくつもの弁当箱は、正直開けるのに戸惑った初日だったが…。
「あ、それ、お姉ちゃんが置いていったお弁当箱なんです。買うだけ買って使いもしない…ってお兄ちゃん、ぼやいてましたけれど。『日の目見る機会ができて良かったなぁ』って不気味なくらい笑顔で呟きながら詰めてました」
ここまで急いた疑問点もあったが、それは自分の料理の自慢か、真室が促した、考えありの結果なのか…と詮索したくない内容が広がっていた。
年頃の女の子がその時代ごとに購入した備品が家の中に埋まっていて、ここぞとばかりに出されたのだろうか…。
それを利用されることもどうなのだろうと思われるが…。
器を気にしなければ、今日も豪華な品揃えで、あつみは声を失う。
真室はひたすら”残り物”というが、この倍量を出されても文句はない味付けの良さで、初日にして価値の高さを味わってしまった。
これが『300円』と言われて断る気にはならない。
とにかくバランスが良い。
調理師だけでなく、栄養士の資格も持つ兄の存在は偉大だった。

「おまえ、毎日、何食ってんの~?」
思わず漏れてしまう愚痴。
これらを作ってもらって不平不満があることが納得できない。
最近の子は、どこまで贅沢に育っているのだ…と、文句を並べる真室を一喝してしまう。
目の前では相変わらず苦笑する瀬見がいたけれど…。

瀬見がケツを叩いてくれなければありつけなかったものでもあった。
あつみが喜ぶ表情に、素直に悦びを表してくれる真室で、「契約?契約?」とお小遣いの行方を探ってくる。
真室にとって、料理の味、どうこうよりは、懐の具合なのが難点だったが…。
「お兄ちゃんにとっても臨時収入になるんですよ~」
促す声は生き生きとしていた。

「瀬見…、どうすんのよ…」
共に食していた瀬見に最終意見を聞けば、難なく作ってくれたことで兄の了解が得られたと判断されたのか、「即契約~♪」と、真室を喜ばせる答えに出た。
手料理に飢えていた…のは瀬見も同じか、社食に飽きていた…のかは疑問だが、口にはあったらしい。
こうなればどんな心情があったとしても同調せざるを得ない。
万遍の笑みを浮かべた真室が、「わーいっ、一万円♪」と万歳をした。
どこか金額がおかしくないか…?と思考が働いたのは、瀬見と顔を合わせた後だ。

ふたり揃って真室に視線を送れば、ペロッと舌を出した悪戯っ子がいた。
「『材料費は工面してやるから一万円は真室の運び賃でいいよ』ってお兄ちゃんがぁ~」
どこまで弟に甘い兄貴なのかと、今更言う気にはなれず。
つまりのところ、二人分合わせて2000円で一カ月分の弁当を作ることを強制(?)された兄貴らしい…。
『運び賃』もなにも…。
製作費に対して随分高くついている移動弁当代ではないだろうか…。
間違いなく兄のお小遣いにはならないだろう。

がっくりと項垂れた。
あまりにも申し訳なさすぎて、別支払を真面目に考えてしまう。
そもそもこの”幕の内弁当”は、指定された金額ではどこの弁当屋でも食べられない代物だった。
家族の大量生産とは素晴らしいものだと思って唸る。
「えーと、東根君。支払は月末の一括、とかでもいいのかな」
瀬見もその価値を見出していた。
早速瀬見が契約内容(?)を確認すると、「はいっ!」と元気な声が上がる。
「いつでもどんな支払方法でもいいですよ~」
喜々とした声に、何故か、一度真室の手に渡ったら、兄には届けられないような不安が過った。
言いくるめるのだろう、きっと…。
やっぱり、直接兄と話すべきだと脳内に警告音を発したのは、あつみだけではなかった。
どれほど甘い兄だったとしても、…その先の金銭のやり取りは家族内に任せても…。
自分たちで確実な金額を収めていることだけは知っておいてほしい。
何とも心許ない…、そして強かな後輩を持った、とあつみは複雑な気分に覆われた。

保冷バッグ2
食べつくすのね…。

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乱反射 7
2012-10-13-Sat  CATEGORY: 乱反射
菓子折りを持って真室の兄に会えたのは、翌日のことだった。
ちょうど兄の休日になったということで、都合のよい展開にあつみと瀬見は、申し訳なさも漂わせながら会社帰りの真室に付いて伺った。
ファミリー向けの20階建てのマンションの10階。
3LDKの造りは広々と感じる。
今では広いが、かつては、兄と同室であり、姉が出て、両親もいなくなって、やっとそれぞれの個室が持てるようになったのだと喜ばしく語ってくれた真室だった。
常にそばにいた分、我が儘も甘えも、何もかもを吸い取った兄のようだ。
寝相が悪い弟の布団をかけ直す姿が、何故か思い浮かんでしまった…。
他人の家にお邪魔する戸惑いはあっても、人懐っこい真室に促されて最奥のリビングまで進む。
すでに香ばしい匂いが漂っていたリビングの隣、オープンキッチンに短髪の逞しい男が、前ボタンのシャツに腰巻の黒いエプロンをかけて調理していた。
その光景だけで、『一般家庭』に思えない神々しさがあった。
「あぁ、おかえり」
低い声は、最初に飛び込んだ真室に向けられたものなのだろう。
続いて入り込んだ二人の存在を認めて丁寧に会釈をしてくる。
肩幅のある骨格、鍛えられたような腕っ節、引き締まった体格は真室とは似ても似つかなかった。
威厳を漂わせる態度はいかにも『長兄』である。

あつみはその風格だけで怯んでしまった。
「あ…、あの…、真室…くんに…、と、一緒の…」
「このたびは大変お世話になります。お言葉に甘えてお弁当をお願いすることになりまして…」
隣で流暢に言葉を操る瀬見の、心臓に毛でも生えているかのような堂々とした振る舞いに声を失う。
畏まった二人に対して、頬を緩めた兄は、「そちらにお掛けください」とリビングのソファを促してきた。
それから真室に対して「お茶の用意を」と指示を出している。
すぐにもあつみと瀬見は手を胸の前で振った。
「いえいえ、お構いなく…」
それが意味を成さない社交辞令だとしても、やはり口から漏れるものであった。

煮込んでいたのか、焼いていたのか、火を止めた兄の若美(わかみ)が、改めてあつみたちの前に立つ。
薄いブルーのシャツは胸元のボタンが幾つかはずされ、腕に巻きつく長袖は数度折り返されていた。
エプロンを外し、スッとダイニングテーブルの椅子にかける仕草がなんとも自然だ。
真室が幼さを見せるとすれば、この男は完璧な『大人』だった。
今一度深く腰を折りこんでから、双方席について、改めて正面から向き直る。
「いつも真室がお世話になっております。奔放に育ってしまったせいで、ご迷惑をおかけしているのではないかと…」
会社の人間と会うなどはもちろん初めてのことなのだろう。
さりげなく普段の行動を探ってくるのは兄心でもあるのか…。
「そんなことはありませんよ。とても真剣に仕事に取り組んでいただいて、頼もしいです」
お世辞に捉えられるかどうかのところだが、見てきた日常はおだてるものではない。
兄の背後でフフ…と笑った顔は、…見なかったことにしておこう…。

世間話で数十分が過ぎた。
若美は料亭に勤務しているのだという。
「まだまだ修行の身です」という立場は、その世界の厳しさを物語っているようだった。
この世界に身を埋めて十数年。立ち振舞いの全てが、職につながっているような清々しさが表れている。
戸惑いの無い、潔さというものなのだろうか。
躊躇いがない分、凛々しさと自信が溢れている。
向上心があるからこその自信なのか…。
「厨房にいると、直接的なお客様の悦びって感じられないんですよ。お好みなどに合わせて作り、どれほどの満足がいただけたかと聞けるのはやはり嬉しいことなんです。私ごときの料理でも望まれてくれるとは、本当に喜ばしい限りで…」
「『ごとき』っ?!」
弟とは違って、どこまで謙遜する存在なのか…。
若美にとって”お弁当”の存在は、単なる実験台のようだ。
そうやって日々、自分の味を試したい、感想を聞きたい状況にあるとは、職人根性なのだろう。
人に喜ばれる職業というのを深く感じてしまった。

そんな中で、あつみは現金の入った茶封筒を若美に差し出した。
初期資金…というわけではないが、見合う弁当箱の準備金なども含めて、瀬見と共に一番大きい紙幣を二枚ずつ入れてある。
自分たちで探す弁当箱より、詰めやすい、扱いやすいもののほうが手間がないだろうと、お任せした形だった。
こだわりがない…といえばそれまで…。要するに食べられれば良い。
姿を現したことで、たぶん食量も想定できるだろう。
まぁ、いざとなれば、”お姉ちゃんの弁当箱”でも文句は言えないのだが…。

兄の手を通り越して封筒を奪い取った真室が、中身を確かめてはニンマリと笑顔を浮かべた。
ホクホクとした…という表現が正しすぎる…。
「真室~~~っ」と、咎めたい声も、兄貴の前では抑えられるものになった。
確認した若美が、一枚だけを抜き取って真室に渡している。
唇を尖らせた真室に、「先輩たちに感謝しなさい」と金の出所を考えさせていた。
そこには、若美自身の、自分の苦労は含まれていないのだろうか…。
やはり、支払金は真室に渡さずに、兄に渡すものだろうと深く教えられた気分だった。

その日、あつみと瀬見は、煮込まれたビーフシチューを味わって帰宅した。
和食の世界に身を置いても、創作意欲は際限がないようだった。
舌をうならせる一級品である。
見開いた目が閉じるまでに何秒かかったか…。
職人技でありながらほのかに香ってくる素朴な家庭の、優しさが混じっている…。

「休みであればいくらでもおもてなしができます。いつでもいらしてください」
弟を思ってのことなのか、仕事柄なのかの判断は付き難いが、温かな言葉に嫌味や抵抗感は感じられない。
人柄の良さが滲み出ているようで、今後の付き合いも考慮して、ふたりとも深々と頭を下げる。

これだけの手料理を日々口にしている真室を、心底羨ましい…と思ったのは胸の内にとどめて…。
少なくとも明日から、『家庭の味』が味わえるのだと思うと、自然と足が軽くなるのが不思議だ。
帰り道、あつみはボソっと「瀬見にちょっと感謝する…」と本音を漏らした。
きっかけがなんであったか…。少なくとも瀬見が由良を気遣って、他の席で食べるランチタイムを提案しなかったら巡り合えなかった出来事だ。
フッと口角を上げた瀬見も、「俺もおまえに感謝しとくわ」と突然の展開を受け入れている。
誘った相手のことか…。
意外性に富む企画室の中、一番の”意外”な出来事に巡り合ったのかもしれない。

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負けた…(←誰に?)

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乱反射 8
2012-10-14-Sun  CATEGORY: 乱反射
食の潤いとは生活を変えてくれるものなのだろうか…。
一か月を過ぎて、同じものが出てこなかったことにあつみはもちろん、瀬見も言葉がない。
冒険心がある若美は常に新しいものを求めているらしい。
食べてくれる人がいること…。そのことに若美は余計に張り切っているらしいとは、真室に聞いた話だった。
「おかげでうちも、品数増えたし~」
定番から解放されたことをそれとなく言われては、自分たちの存在は無駄ではないのかもしれないが…。

いずれ、自分の店を持ちたいとは、すでに聞いた話だった。
夢に向かって動き続ける姿勢は、どこまでも努力を続けるのだろう。
受け取る金額はどうでもよく、単に客としての素直な意見が聞きたいようだとも後から知れたこと。
家族二人で食べる分とは違って、食してくれる人がいるとは、作りがいがあるというものなのか。
もちろん、文句もないあつみと瀬見だっただけに、新しいものに取り組む力強さが漂ってくる。

一か月も過ぎた頃、萩生が食堂で「今日、一緒してもいい?」とトレーを持って尋ねてきた。
四名席の一つはあいている。
すでに由良との二人きりの休憩時間だと分かっているだけに、疑問が浮かぶ。
もちろん、困ることなど何一つなかったが…。
「由良は?」
問う声に、「ユーリがこっちに戻ってきているんだよ。二人して、ごはん食べるんだって」と追いだされた背景を語ってくれる。
羽後の勤務は色々とあるらしい。
久し振りの兄弟水入らず、気を使った萩生なのだろう。
…まぁ、兄弟とはいえ、イチャイチャぶりを見せられて気持ちいい恋人ではないだろうが…。

「ユーリ?来てんの?…あー、久し振りに見たかった、ツインズ」
あつみの呟きに瀬見は苦笑するにとどまり、真室は意味が分からないようで瞬きを繰り返す。
「我が社名物の双子」と茶化しても、実物を視野に入れるまでは実感が湧かないようで、それ以上誰も何も言わなかった。
今では関係のない存在なのだ。

萩生との初めての会食には真室も驚いていたようだ。
三人に分け与える弁当の存在に、萩生が目を剥く。
「おまえら、何、食ってんの…?」
「真室の兄ちゃんのメシ。美味いんだよ、マジで…」
「高畠は由良のご飯、食ってんだろ。可哀想な湯田川はこんな場所でしか家庭の味、口にできないからなぁ」
「せみぃっ、それ、余計っ」
手作り料理から無縁の生活を、わざとらしく語られなくてもいい。
三人して同じ料理を広げる光景に、萩生も何か思うものがあるのか…。
買いこんできた親子丼と天ぷらうどんは慣れたメニューだ。
「俺も弁当にしようかな…」
ボソッと呟かれた原点はどこにあるのか…。
相手の性格を知るだけに、由良が作ってくれるとは、微塵も思えなかったあつみと瀬見だった。
見つめた先で、萩生が肩を竦める。
「いや…。やっぱさぁ、食費、でかいじゃん。家計費の節約ってことで…」
普段どんなものを食しているのかは疑問だが、一緒に住んでいれば見えてくる何かがあるのだろうか。
それでも”東根家”の弁当工場だけは紹介できなかった。
もちろん、真室の兄にこれ以上の負担はかけたくなかったものがある。
お小遣いだけを求める真室の口を、咄嗟に封じたあつみだった。
「愛妻弁当、いいねぇ。由良の渾身の作は是非見てみたい」
「いや…、たぶん、あいつは作らない…」
続いた呟きは静かに飲み込んだ。
やっぱり一緒に住んでいるからこそ、見えてくるものがあるのだろう。
愛妻弁当ならぬ、主夫弁当は、どんな出来栄えになるのやら…。
私生活に必要以上踏み込まないところが、関係性の良さを保っている。

「由良…さんってご飯、作らないんですか?」
また、余計なことを…と思った時にはすでに遅く、真室は萩生に疑問をぶつけていた。
人懐っこい性格はすでに知っていることで、萩生も抵抗は見せない。
「いや、作るよ。でも、面倒は嫌うタイプ。相手がユーリだったら、寝不足だろうが早起きだろうが何でもするんだろうけどなあ」
萩生の発言には、あつみも瀬見も噴き出してしまった。
蔑ろにしているわけではないのだろうが、必要性の順位をつけてくる。
それは双子、お互いに変わらないのだろう。
萩生に甘えている…とも捉えられることだったが…。
鼻の下を伸ばす萩生に、それとなく状況を悟ったのか、真室はそれ以上言うこともなかった。

休憩時間も終わろうかという頃、萩生は、「カフェラテ飲む?」と聞いてきた。
たぶん、そこが短い休憩時間の終わりで、待ち合わせた場所なのだろう。
「いただきっ」
あつみは行ってくるように促した。
「俺の分もお願い」と瀬見も小銭を握らせている。
真室はやっぱり分からないようで、「カフェラテ?」と首を傾げた。
そこであつみは、ふと思考を巡らせた。
一度会うのもいいかもしれない…。
ふたりの違いに気付くだろうか…。
そんなささいな違い。今後も仕事に応用できるかもしれないと思えるもの。
発想力、企画力、色々なものが絡み合う世界だった。
たぶん、微々たる味の違いに似た、何かなのだろう。

「瀬見、一緒に行こうぜ。真室も。お兄ちゃんがおごってあげよう」
咄嗟に呟かれた心の底を、誰が探れたというのだろうか…。

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週末、ちょっと厳しいです。
強引に書いている…。
まとまりがなくてすみません。

余談:別宅に素朴な疑問。誰か返答プリーズ
別宅

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乱反射 9
2012-10-15-Mon  CATEGORY: 乱反射
久し振りに見る由利の姿に狙いを定めて、隣のコーヒー店に足を運べば…。あまりにも目立つ双子の存在がいた。
並ぶ順番の中、腕を絡ませ、周りに聞こえないように耳に唇を寄せて内緒話を繰り広げる光景は、はっきり言って目の毒だ。
どことなく近寄れない雰囲気があるのだが、そこは萩生が堂々と寄っていく。
小銭を握らせては、あつみや瀬見は端から見守る存在になった。
真室が初めて見た光景に、「ふ、双子…なんですか…?」と驚いた様子で尋ねてくる。
見慣れれば問題がないが、初見では違いなど気付かないだろう。
空気の流れ…とも言えるのか。興味本位でやってきたことに気付いた由良は、冷たい視線を投げかけてくる。
あつみも瀬見も、普段来ることがないとはすでに知れた話。
ただ、真室の存在を確認しては、悪戯心が働くのか、由良と由利は囁きながら、同じ表情と動きを見せて混乱させてくれる。
…まったく、意地の悪い双子だ…。
これで購入を済ませては、真室に「どっちだぁ」と尋ねてくるのだろう。
唯一のヒントは、由良の首に下げられた、社員証だったが…。
真室が細かいところに気付くかどうかは謎である。

人数分のカフェラテを手にして、萩生があつみの分を、由良が瀬見に手渡し、由利が「どうぞ」と真室に向かい合った。
「湯田川さん、お久しぶりです」
ちょこんと頭を下げ声をかけてきたもので、真室も由良と由利の違いに気付くのだろうか。
「おぉ、元気にしてたか?」
わずか数歩の短い距離。社屋の前まで歩みながら、近況を報告し合う時間を持った。
初対面に真室は動揺もあったようだが、かつての社員と知れば自然と気持ちが解れていくようだ。
「湯田川さんと高畠さんにいじめられていない?」なんて由利が冗談交じりに真室に語りかけるのを、真室も「きびしいんですよ~」と泣き声をもらしている。
…いやいや、甘やかしているだろう…と内心でぼやくあつみと萩生に、瀬見が「お兄ちゃんとは違うからなぁ」と、甘やかす基準がちがうことをポツリと呟いていた。
萩生が由良を、雄和が由利を、兄貴が真室を、それぞれ寛大に扱っているようにはできない、と心底思ったあつみでもある。

社屋前のところで、時間いっぱいまで由利を交えて雑談の時を過ごした。
周りを過ぎていく社員も、珍しいと思える光景に視線を投げていく。
今夜はこちらに泊まるのだという由利に、「久し振りに飲む?」と声をかけたのはあつみだ。
もちろん雄和もやってくることは想定内。
目配せだけで確認を取り合う双子は、嫌とは言わなかった。
「ユーリ、今夜は一緒に寝ようね」
別れ際、声をかけた由良に、萩生は苦笑を浮かべていた。
更に(また会うのに)お別れの『チュ』をした双子に、真室は絶句状態だ。
あの家庭が今夜どうなるのかは、想像しないでおこうと、あつみは内心で溜め息をこぼす。
まぁ、由利と雄和が出会った場所で、また由利が酔い潰れてしまっても、今度はしっかりと見守ってくれる人間がいることだけは確かだった。

企画室内に戻ると、呆然としたような真室が、萩生に向かい合っている。
「た、高畠さん…、あのふたり…区別つくんですか…?」
萩生と由良が付き合っていることはもう知れているのだから、改めて出会ってしまった双子に対しての素朴な疑問なのだろう。
萩生は肩を竦めている。
「もちろん。…つーか、あつみも新庄も分かっているって」
「すごっ」
初対面では分からないものも、時を重ねれば知れてくるものがある。
それは、真室のことに対しても…なのだろうか。
まだ新入社員。接触が多くなればなるほど、真髄が見えてくるようなもの。
あつみは冗談を含ませながら、真室に説明した。
「そうだなぁ。萩生がデレ~ってしているのが由良で、先輩ぶり発揮しているのがユーリだ」
「デレ~っじゃないだろっ」
「いや、そうだろ。まったく、幸せオーラ振りまいてくれちゃって」
嫌味を交えた台詞は、真室の痛い言葉にとどめを刺された。
「湯田川さん、どこまで飢えているんですか?まぁ、お兄ちゃんのお弁当で満足しているくらいだし。なんだか切ないですね」

…この後輩…、いつ刺してやろうか…。
瀬見がこの場にいなかったことだけ、一応感謝しておく。
アイツがいたら、間違いなく笑いのタネだ。
もちろん、腹を抱えていた萩生がいたのだが…。
眉間に皺を寄せたあつみの存在など、全く気にしていない真室は、午後の仕事にとりかかっていた。

行き慣れた居酒屋だった。
前もって連絡をしておいたおかげで、待たされることもない。
掘り炬燵式のテーブルに、雄和、由利、由良、萩生と並び、正面に瀬見とあつみ、真室と座った。
「僕、来ちゃって良かったんですか…?」
珍しく謙虚になる真室に「こいつら(正確には双子)のイチャぶり、見学しておけ」とあつみはふっかけた。
“違い”を見極められるかの、貴重な機会だ。
似たような商品が多い中で、特別なものが生まれるか…。
…双子を商品に例えたら申し訳ないだけなのだが…。
“目”に期待するものは大きい。

人懐こい性格は、すぐに由良と由利にも馴染んでいった。
お弁当を頼んでいる、などといった日常生活から、「レシピ欲しいね」と呟いた由利に、「ユーリにご飯作らせてるのっ?」と由良から叱責が飛んでいる。
弟を甘やかしたい兄はここにもいた…。
「ユーリはレンジでチンとカップラーメンが精一杯なんだよっ。いっぺんに二品作るとかしたら、火傷とか傷とか作っちゃうんだからっ。そんなところにお嫁にはだせないっ」
「ゆ、ゆらぁ…」
「もう出したんだからいいじゃん。あとはあっちの生活で…」
「萩生は口出しすんなっ」
目の前で繰り広げられる攻防戦に、口を閉じる萩生を、少々気の毒に思う。
弟を良く知り、分かっている兄だとは理解できるけれど…。
あえて口を出してこない雄和は、双子の全てを受け入れている証拠なのだろうか。
何にせよ、久し振りに見た双子は目の保養であり、新鮮な空気を運んできてくれたように思える。
離れたからこそ、もっと近付こうとするような雰囲気がはびこっていた。

店の前で別れる時、由利と由良、保護者はタクシーに乗って一つの道をたどっていくのを見送った。
そして初めて、真室と瀬見が同じ路線だと知った。
一度は訪れた真室の家だけに、瀬見も分かるところがあったのだろう。
改めて言う機会がなかっただけで。
「マムちゃん、送っていってあげよう」
軽口をたたく瀬見に、「マムちゃんはないです~っ」と唇を尖らせる真室がいる。
それぞれの背中を見送り、あつみは、激しい疎外感に襲われていた。

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そろそろ動こう…。
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乱反射 10
2012-10-16-Tue  CATEGORY: 乱反射
瀬見がきちんと真室を送ったのだろう…とは、兄の存在を思っても確認しなくてもいいことのように感じられた。
だが、家に帰りついて、一人身になったとき、深く虚しさを感じた。
同じ家まで辿った双子と相方を見たせいもあるのだろうか。
更に一人で帰る道のり…。
瀬見も一人暮らしだとはすでに聞いた話であるが、一部の間でも話相手がいるというのは、過ごし方が変わるだろう。
どれだけ一人身に淋しさを覚えているのかと、しみじみと思ってしまう。
かといって、真室に特別な何かがあるわけではないのだが…。
瀬見に横取りされたような感覚が抜けないのは、見てきた後輩としての存在か…。
なんともスッキリとしない一日の終わりである。

翌日、珍しく由良と萩生と、五人で食事を取った。
過去の由利と由良が居た頃の光景にも似ている。
昨夜の飲み会のおかげか、由良と真室の間も縮まっている。
もともと部署が違うだけに、接触はなかったのだが、瀬見や萩生の存在が、真室の奔放さを引き出しているのだろう。
由良と萩生が隣同士に並んで座り、真室を中心に、両脇をあつみと瀬見が固めている。
目の前で、違う食事を交互に取る姿は、…まあ、いい。
あつみが気になったのは、いつも以上に真室が瀬見に近付いていることだった。
「瀬見さん…」と、聞き慣れない発言が耳を突いた。
いつの間に呼び名が変わってしまったのだろうか…。

食事の席で一緒にならない限り、瀬見との接触はない。
昨夜の由利と由良がどうだった…などといった世間話はあつみの耳をトンネルして行った。
食事が終わり、食べ終わった弁当箱を真室に預けて、そのまま戻るのだろうと思っていた。
由良と萩生はコーヒー店に向かうようだ。
休憩時間の過ごし方は、それぞれに任されることで、誰かに強制されるものでもない。
あつみと、席を立った萩生たちだったが、まだ座ったままの真室と瀬見の存在は、少々気になるところでもあった。
ただ、何か話をしたいのかと思えば、その時間を邪魔する理由もない。ここでしか、触れあえない環境が社内にはある。
部署が違えば、仕事中の無駄話もできないのだから。

間もなく休憩時間も終わるかという頃、萩生は室内に戻ってきた。
その場にいる人間を見渡しては、「あれ?真室はどうしたの?」と、素直に疑問点を口にする。
確かに、いつもであれば、”間際”に戻ってくる…ということはなかった。
「まだ食堂にいる…はないだろうな。どこで油売ってんだか…」
あつみも気にかけて、「ちょっと見てくる」と腰を上げた。
普段の行動が真面目なぶん、諸先輩たちから陰湿な目を向けられることはないとは思うが、予防策はとっておくに限る。
行きそうな場所といえば…。
真室と行動を共にすることが多かったあつみは、社内の図を脳内に浮かべた。
すでに煙草は吸わないと知るから、喫煙所はありえないだろう。
あとは自販機が並ぶ休憩室か、やはりまだ食堂か…。
真っ先に食堂に向かっても、休憩時間をずらした社員が存在するだけで、真室の姿はなかった。
先程まで自分たちが座っていた席も、知らない人間が占領している。
萩生が戻ってきたということは、カフェにも行っていないはずだ。
「休憩室かな…」
一人呟いては、たった一階しか変わらない場所に向かって、エレベーターを使うこともなく、階段を降りた。
非常階段としても指定されているそこは、人通りは少ない。
やはり時間を過ごした人間が慌ただしく動き出している光景が視界に入るが、真室の姿は見当たらなかった。
「あいつ、どこいってんだ…」
ぐるりと見渡して、階段脇のトイレが目に飛び込んできた。
各階にトイレはあるのだから、何もそこ…と思わなくてもいいものを…。

この時はまるで虫の知らせだった。

あつみが扉を開けると、誰の姿も見えないが、個室に人の気配は感じられた。
「あ…」
小さく上がった声と、離れる唇の水音。
「シっ」と咎める声が、同じ場所に存在する人物を想像させる。
静まり返った場所には乱れる息づかいが響いていた。
躊躇いをふさぐような衣擦れまで、ハッキリと耳に届く。
たった一つの声は、聞きなれたもので、真室と瀬見だと一瞬にして知れることができた。
何とも言えない、衝撃を受けた気分で、あつみは何も言わずにその扉を閉め、踵を返した。
たぶん、覗いたのがあつみだとは、二人とも気付いていないだろう。

萩生と由良のことも、すんなりと受け入れられた。
瀬見と真室がどんなことになろうとも関係ないと思うのに…。
胸の内に生まれたどす黒いものがあつみを襲ってくる。
言わずと知れた『嫉妬』だ。
それが真室に対してなのか、瀬見に向けられたものなのかは、あつみでも判断ができなかった。
何がどうして、いつの間に…。
近くにいたと思っていたのは自分だけだったのか…。
見えない壁に阻まれたようで、余計に悔しさだけが募っていく。

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