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ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
陽いづる国 6
2012-09-07-Fri  CATEGORY: 陽いづる国
R18 若干性描写があります。閲覧にはご注意ください。



大学の近くに紳平の住むマンションはあった。
二人とも実家を離れていて、美琴もここには何度か足を運んだことがある。
ただその時は雑談をしたり、勉強の相談をしたり…と真面目な付き合いで、疾しい感情は一切なかった。
美琴自身が持とうとしなかった…というほうが正しいのか。
それを分かって、紳平もそんな雰囲気は美琴に見せなかったのだろう。
何かのきっかけ…。
待っていたのは紳平だったのか、美琴だったのか…。

美琴には解放された感じが強かった。
押さえつけることのない感情。受け止めてくれる人がいる環境。
心の中で燻っていた全てが、紳平の愛情を感じて、赦されたような気持ちになっていた。
2DKの部屋は、今現在美琴が住んでいる部屋の広さと何ら変わらない。
わずか一間という空間で暮らす人間がいることを思えば、自分たちがどれほど恵まれた状況にあるのかと知らされるものでもあったが、それすらも、美琴と紳平が”平等”と並ばせてくれるようだった。
育ってきた環境…。何も”特別”ではないと安堵させてくれる。

転がり込むように落ちたシーツの上で、着ていた衣類を剥ぎ取られた。
興奮に震える分身を見られるようで体を捩ろうとしても、同じく全てを脱ぎ捨てた紳平の体が被さってくる。
「Mikoto…」
囁かれる声音が気持ち良かった。
頼っていける、縋っていける、甘えられる…。全ての要素を備えている。
初めてのことに対する脅えも存在するのに、今の美琴には、解き放たれた精神の方が勝ったのだろうか…。
耳朶に濡れた舌の音が響く。
抓まれる胸の尖りに、痛みが与えられ、それはやがて快感に変わった。
ジンと痺れるような感覚を残して、触れられる全てが下肢に直結していく。
「Ah…」
厭らしさを込めたわけではないのに、自然と漏れる喘ぎ声に腕が当てられ、どうにか堪えようとした。
その姿に紳平の逞しい手のひらが引き剥がそうと動く。
「Tell your voice.(声を聞かせて)」
声の一つ一つが体に染み込んでくる。
人の声、肌の温もり、知らなかったものが一気に美琴の中に流れ込んだ。
シーツに擦られる背中、拡げられる脚が羞恥を生むのに、不思議と安堵のほうが大きい。

勢いで動いているのかもしれないが、放たれた美琴は信じる気持ちしかなかった。
全てを委ねる、信じられる気持ち。

厭らしい存在に貶められそうなのに、何もかもを包んで受け止めて、美琴の本音を引き出してくれる。
奔放になれる空間が、何よりも心地良かった。
分かっている人だからこそ…。
紳平がずっと待っていたことも分かってより美琴も無防備な姿を晒すことができるのだろうか…。

「ミコト…」
嫌いな名前でも好きな人に呼ばれれば全く違うものに変わる。
思えば名前で呼ばせた人に日本人はいなかった。
何故紳平に許したのかは…、彼の育ちだろう。
何も隠しはしない、正直な感情の表現。
堂々とした態度は、同じく海外で育ってきた潔さのようなものがある。
その部分にも惚れていたのだろうと、美琴は改めて気付くことになった。
紳平にすれば、そのちょっとした違いですら、気付いていて、脈ありを分かっていたことになるのだろうが。

脚の付け根に潜り込んだ紳平の舌先が優しく濡れ痕を残していく。
ビクビクと震える分身が紳平の目の前に晒され、どれだけの欲求があるのかと表現してしまった。
ずっと憧れたもの…。期待したもの…。
愛されるという心地良さ…。
「はぁ…っ」
窄まった秘部に唾液と指が絡みつく。
潜り込んでくる指を感じては息が詰まった。
「ん…っ…っ」
「……loves……」
苦しくても包まれる体温に癒される。

伸びあがってきた唇が、耳元に寄せられ、響いた声と共に潜り込んでくる怒張があった。
苦しさに呼吸が止まるけれど、押さえられない欲求が自分の中に湧くのも感じた。
たぶん、これこそが、長年求めたものなのだろう。
我を失う…、奔放に過ごせる空間。
それを紳平は引き出してくれた。
「美琴…」
聞こえてくる声音がとにかく気持ち良くて…。
喘ぐ自分の声が、あまりにも自然のもので…。
「しんぺ…」
見上げた先にあった瞳が優しく包んでくる。
“何の心配もない”…と。
その瞳に甘えた。
「Yes…」

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全然書けなかった…(T_T)


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陽いづる国 7
2012-09-07-Fri  CATEGORY: 陽いづる国
R18 少々性描写があります。閲覧にはご注意ください。


内筒を肉棒で擦られる感覚に体中が戦慄く。
宥めるように全身を抱えてくれる紳平に、優しさと温かさを教えられた。
何よりも気持ち良さに溺れていく。ずっと抱えていた相手に委ねることが悪いことだという感情が剥がれ落ちていく。
相手に縋ることができるのだという気持ち良さ…。
心と体を解放できること…。

抱きしめられた腕の中で、紳平の動きに自然とあわせて欲望を放った。
初めてのことに恥ずかしさもあるのに、いつまでも自然体でいる紳平に癒されもする。
こうやって体を重ねることも、想いを表すことも人として当たり前のことなのだと告げられているようだった。
日本国内ではあまり見かけないかもしれない…。
啄ばむようなくちづけを幾度も贈られて、生きてきた世界に戻れたような錯覚を浴びながら、美琴はその日、紳平の隣で眠りに落ちた

学部内で美琴と紳平の立場は以前と何も変わらない。
美琴に悪戯をけしかけた男はあれ以降近付いてくることもなかった。
あちこちで見かけることはあったが、今までのように話しかけてはこない。
こんな形で友人の一人を失うのも悲しかったが、紳平が心底毛嫌いしたことに、美琴もそれ以上口を挟むことはしなかった。
影で二人の付き合いが、これまでとは全く異なる濃密さを含んでいることなど、たぶん誰も気付きはしていないのではないかというくらい、美琴と紳平はサバサバとした様相だった。
特に連絡もなく、カフェで会えば一緒に食事をするし、さりげないメモの受け渡しで、夜の約束を取りつける。
付かず離れずといった友人と変わらない立場は、堅苦しさを生まずに余計に美琴の心を軽くしてくれた。
束縛されることに脅えを表した結果だろうか…。

季節が移り変われば悩んでいた進路を決める時期がやってくる。
その話題は美琴と紳平の間でもよく取りだされた。
紳平のマンションの中で夕食を美琴が作り、後片付けを二人で行う。
祖父母と過ごしていた時期があったこともあって、美琴は材料を無駄にせず、うまくやりこなす術が身についていた。
特に和食に関しては”家庭の味”を出してくれるために、紳平のお気に入りでもある。
相手の喜ぶ顔が見られれば張りきれるものがあるのだと教えてくれたのも紳平だろう。

恥ずかしがった裸も、いつの間にか慣れていった。
一緒に横になるシーツの上。
放精したあとのだるい体を晒したままでいると、紳平がミネラルウォーターのペットボトルを持ってきてくれる。
少しばかり体を起こして喉を潤してホッと一息ついた。
残ったボトルを受け取っては、そのまま紳平が飲み干していった。

一呼吸の間が空いて、ふといつもと違う空気を感じた。

違和感は確実に紳平にも伝わっている。
凍えるような不安が体中を走っていった。
「美琴…」
向けられた声に過った予感が確かなものだと悟った。
被さってきた体が、愛おしさを表すように幾度も触れあわせるくちづけを降らせてくる。
それだけで、異様さを孕んでいた。

「紳平?」
「アメリカに一緒に行かないか…?」
突然の話に瞠目し、その真意を問う。
「アメリカ…?」
紳平が育った場所がどんな所なのかは既に知る。
親の都合で日本に戻ったことも聞いていた。
日本での生活が苦痛だった、とは聞いたことはないが、帰りたい何かがあったのだろうか。
まだ目的が探れず、すでに大学院への進学を考えていた美琴には素直に頷ける話ではない。
そのことは紳平も知っていることであり、改めて提案されるとは、覚悟のようなものが紳平の中にあるのだろう。
「向こうの会社からオファーがあるんだ。まぁ、知人がいるからなんだけれど。美琴が一緒に行ってくれれば力強い」
はっきりと進路を見出していた態度に、曖昧な美琴の判断を責められているようでもあった。
そこまでの決断力が、今の美琴にはまだなかった。

同時に寄りかかっていたものを失う、喪失感が全身を流れていく。
どれほど紳平に委ねたのだろうか…。
「決めた…の…?」
覗き見上げた先の眼差しは逞しく強い。
「ああ、…でも美琴とは離れたくない…」
咄嗟に声が出なかった。
すでに未来を見据えた紳平についていけるのだろうか…。
それが自分の望んだ道なのだろうか…。
溺れていた時間に終止符が打たれることの危機感が背筋を這い上がる。
「しんぺ…」
まだ考える時間が欲しい。…でも考えてもその答えは変わらないのだろう。
幾度もくちづけられる唇の温かさに悲しさが混じった。愛を感じても一緒にはいられない。
たぶん、その心情を紳平も分かっている。
その上で口にされた、未来像にいてほしい存在は、昔からの呪縛をまだ忘れていなくてついてはこないこと…。
美琴にはやはり、目指すものがあったのだ…。そのことを紳平は悟っていた。

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この当時、携帯電話っていうものがあったかと悩んで、その表記はやめました。
(いや、まぁ、みこっちゃんクラスは手に入れられているはずですけれどねぇ)
折りたたんだメモとか、カンに頼る逢瀬とか、ちょっと懐かしいものを思い浮かべてくれたら嬉しいです。
(年、バレるけどな…)

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陽いづる国 8
2012-09-08-Sat  CATEGORY: 陽いづる国
明け方に目を覚ました。
懐かしい夢を見ていたようだ。
その内容を判りたくて、でも理解したくないと脳が拒絶する。
美琴自身、思い出したくない過去だったような気がした。
紳平が日本を去ってから二年の月日が流れた。
卒業を待たずにこの地を離れてしまったのは、美琴への思い入れがあったからだろうか…。
そんな自惚れは感じたくなかったが…。
少なくとも編入という形で異国の地に収まった彼に、心配することはないだろう。
目指した道へと第一歩を遂げることができる。

美琴に残されたことと言えば、人を信じることの馬鹿馬鹿しさだった。
もちろんそれを悪とはいわないが…。
自分には必要のないことだと骨の髄まで教え込まれたような気がした。
信じてもやがては去ってしまうもの…。
あれだけ信頼し、愛し、全てを委ねた人ですら、考え方が違うと分かった途端に手のひらを返された。
もちろん、答えなかったのは美琴だったのだけれど…。
やがて離れていく人…というものを改めて感じた。
過去はそれが当たり前だった世界。

年に幾度も顔を合わせない兄に、珍しくであった。
祖父母への見舞いのような訪問は定期的に行われていて、たった一泊だけでも喜ぶ人はいたし、それに合わせたように美琴も戻っていた。
単なる団らん…。
その中で何を感づくと言うのだろう。
誰もが寝静まったような夜遅くの時間。
客間から美琴の部屋を訪れた美馬は、「まったく…」と入るなり盛大な溜め息を吐いた。
30歳を過ぎた兄の登場には美琴の方が驚かされる。
その溜め息にも…。

「馬鹿な考えを持つのはやめろと言っておいたはずだろう」
一瞬何のことか分からなかった。
歩んできた美馬はベッドに腰掛け、形ばかりの勉強机に座る美琴を見据えてくる。
咎められる視線に、自分の行動の全てが知られているのだと理解することができた。
強く責められることはなかったが…。

ブルッと震えた態度で、私生活の全てを晒してしまう。

ためいきの奥から諦めにも似た吐息が零れた。
狙ってくる瞳に惹かれたのは、過去からの憧れが混じったせいだろうか。

「どれだけ男が欲しいんだ?」
穢される言葉ですら興奮を纏った。
寄り添ってきてくれる存在を確認しては、何もかもを受け入れたいと体が反応する。
憧れて、欲した存在…。
触れられて体が震えた。
“男が欲しい”わけではない…。
そう言い訳したかった言葉は吐き出されることはなかった。

ただ男を覚えた体は、久しくその力強さを感じていなくて渇望していたところはあったのかもしれない。

触れられただけで顕著な反応を見せる。
幼いころから見られた体だと言うのに、今では抱く気持ちが違いすぎた。
何より、憧れた兄だからこそ…。
ベッドに座る兄に何となしに近付いてしまった。
分かったように美馬がフッと笑う。
「馬鹿だな…」
呆れの中に見守ってくれる優しさがあるとは、独りよがりだろうか。
燻っていた全てを吐き出させてくれた。
絡みついた掌は適度な刺激を与えてくる。
恥ずかしさはあるのに逆らいようがない人の手の快感に浸ってしまった。
“己の道を歩め。その手助けならいくらでもしてやる”…。
そう聞こえた瞬間だった。

吐き出した時、嬉しさと悲しさの反するものに覆われた。
「美琴。一時の感情に左右されて時間を割くな。人に囚われることほど無駄なことはない」
淡白な関係…。それは今のような兄弟間のようなものなのだろうか。
人に思いを寄せる…。
一喜一憂されることを振り返って、最終的に”別れる”ことになるのだと、あらためて教えられたような気分だった。

その出来事が、より一層美琴を、冷酷な感情を持つ人間へと変えるきっかけになったのかと、本人を含めてどれほどの人間が想像できたことだろうか。

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短いけど許してください。
次か、その次で完結の予定です。
そして、なんとまぁぁぁ。いろいろ挟んだところはありますが1500話だってぇぇぇ。
何書いたんだろう。


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陽いづる国 9
2012-09-09-Sun  CATEGORY: 陽いづる国
大学院に進学してからはより一層美琴の対人面は希薄になっていったような気がする。
人から言われる噂のようなものは嫌というくらい聞いたが、すまして関わることはなかった。
様々な陰口と尊敬の眼差しが多く向けられてくる。
学力の優秀さに、一種の理想のような、憧れを集める反面で、もちろん妬みもあった。
表面的な付き合いに絞ったせいもあるのか、神秘的な、謎の存在になりつつあった。
近付いてくる人間はたくさんいる。
あえて割り切って、肉体関係に落ちた人もいたが、人の見極め方は美琴自身、感心するくらい深くハマることはなかった。
そして時々会う兄の美馬は、呆れたような表情を浮かべ、しかし、もう咎めることもせず、美琴の生き様を見てくる。
何を言っても聞かない頑なな精神状態を把握されていたのだろうか。
そこは年下という鍛えられた部分があるのか…。
兄はすでに指導する立場から見守る位置に変わっていた。

それでも時にかつての優しさを求めてしまう。
離れていくことはないと思える、唯一の存在。
依存したものが大き過ぎるだけに、美琴はそこから飛び立てなかった。
出会うたびに近付く美琴は、美馬にとって、いつまでも幼いままだったのだろう。
そして出会うまでの間を、他の男で埋めたのだ。
美馬に会えるのは、年に数回…。
若い体は求めるものを持っている。
育つ過程を、美馬はもう口にすることはなかった。
ただ、”隠す”意味は教えられたのだろう。だからこそ、付き合ってくれる肉体の付き合いがあったこと。

「お兄さん…」
一人暮らしのマンションで寄り添う体に、「もう、やめろ」と冷静な声が響いた。
愕然とする瞬間。
…兄にまで見放されたなら…。

「男の世界で生きるのは美琴の意思だろう。こればかりは止めようがない。自分が正しいと思うのであれば、その世界に身を委ねるのも一つの手段だ。ただ…、父や母、俺に負担をかけるな」
心臓の奥に鉛を押し込まれたようだった。
突き放された…。
信じられるものなど、何一つない…。
眦に滴を浮かべた美琴に、差し伸べられる手があったが、叩いて落としていた。
「美琴…」
「もぅ…いい…」
「美琴…っ」
何も信じられない。
力ずくで抱きすくめられる腕の中で、でもそれ以上叩けない葛藤があった。
何もかもを隠して、生きていくこと。
先端を目指すのであれば尚更、自我は足かせになる。
それを、身を持って体験していたのは、兄だったのだろうか…。

「美琴…。愛しているよ…」
その言葉を最後に、家族以外の前で出会うことはなくなった。
会っても誰かを通した会話だけ。
紳平と同じ…。
感情だけを残して、去ってしまう。
相手に、何かを委ねること自体が間違いなのだ…。
二人の人間から去られて、美琴は強くその思いを抱いた。

東の国…。
希望を抱いて跨いだ土地に、裏切られた感情。
紳平に誘われるまま、アメリカに渡った方がよかったのかどうかは、今となっては分かるものではない。
日本の国旗を見た。
紅く燃え上がる陽を。
今から伸びていく、全ての人のようだと奮い立たせる。
この地で生きていくのだと…。

美琴はもう、日本を離れることはなくなった。

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無理矢理書いたのでかなり短いですが。
次回最終話になるでしょう。
宗教的なものとか、国策とか、全く私の頭にはありませんので、そこんとこ、さらぁと流してください。
新しく生きていこうと、その光を見た…感じでしょうか。
みこっちゃん青春時代、こんな感じでした。(爆弾投げられそうだな…)


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陽いづる国 10(最終話)
2012-09-10-Mon  CATEGORY: 陽いづる国
大学院を卒業したあと、准教授などの学問の道かと思う人間もいたようだが、美琴は社会に出ることにした。
それはきっと、目指した兄がいたからだろう。
そうして、世界を征服する…、並ぶ場に立ちたかったのだ。
一つの組織の中に収まることはなく、どこまでも力を発揮できる場所。

就職した先、『榛名』という場所は美琴にとって魅力的…どころか、視野が広がった。
あまりにも広い分野を持つ。
その場に収まれることが、兄を抜けるもののような気がした。
強引に組み敷かれていたわけではないが、兄に束縛されていたとは美琴の中でも漠然と感じているところがあったのだろう。
闘争心なのだろうか。
その就職を機に、ふたりはより一層離れていく。
たぶん、これで良かった…と思ったのは二人とも…なのかもしれない。
近寄る場所がなければ、甘える場所もなくなる。
研ぎ澄まされたような冷静な美琴の判断は、全ての人間に二の句を注がせなかった。
なにもかもを買われて美琴は栄進する。

時々紳平の姿を思い出した。
あやしてくれた兄の存在も甦った。
だが、強くなるために身を切り捨てた立場を、今更振り返れない。
冷たく振舞うことで位置を確認する。
どこまでも昇り詰めるために必要なのだと自身に言い聞かせて…。

同じように榛名千城が冷めた態度で物事を切り分けるから、そのことにも従えた。
ビジネスの上で、私情を挟まない冷酷さが、進む道を表してくれているようだった。
その全てが美琴の人生を変えていく。
最初に勤めた部署、次に引き渡された秘書の位置。
榛名家へとずっと深く踏み込んでいく存在。
嬉しくてありがたくて、その存在だけで兄を乗り越えられたような錯覚に陥っていたが…。
経営のトップに立つものと、脇に添える立場では違うのだろう。
こうして美琴は時に、打ちひしがれていく。

それを知るのか、榛名家から告げられた言葉に、胸を打った。
「野崎がいなければ…」
信頼を寄せてくれる態度、証拠。
激しく鼓動を刻み、ここで生きるのだと教えられたのかもしれない。
兄とは違っても、自分の生きていく道を自分の力で切り開いたのだ。
零す涙の意味を誰も問わなかった。
燻った過去があることを知り、それを表沙汰にすることもない。
自分の生きるべき道を行く。
後ろ指を指されることがあったとしても、全ては自己の責任で、その責任を負えるのであれば好きにしろと、最後に兄は助言して消えた。
紳平と付き合った時点で、美琴は世間の厳しさを学んでいたのかもしれない。
別れてから、意思をもって美琴が男を相手に欲情を灯すことはなくなった。愛が分からなかったから体だけの付き合いになった。
社会的な立場はもちろんあったけれど…。そして兄がいたからこそ…。
必要に応じては、高額な金額を払い、絶対的な秘密を守ってくれる場所にしか出入りしなくなる。
淋しい人生の入り口だったのかもしれない。
でもその侘しさが美琴には心地良かったのだ。
“一時的”…。
いつか離れていくものだと思えば、一瞬の通りすがりで良いのだと。

紳平も美琴も、太陽が昇る時、何を願ったのか…。
陽が昇るたびに、離れたくないと心を寄せたのだろうか。
互いに言い出せなかった時期があった。付き合ったその時に、ふたりはすでに別の道を歩み出していたのかもしれない。
眩い光の中でささやかな夢を抱いた…。叶わぬ夢を…。
誰も彼もが新しい日差しを浴びる。
進む道は違えても、迎える陽の光は同じだろう。

いつか、新鮮な気持ちで出会えたらいいと、またささやかな夢が胸を過った。
でももう、出会わない方が良いと思ったことも確か。

美琴は二度と自分のファーストネームを他人に呼ばせることはなかった。
紳平に向けたものなのか、兄に限らせたことなのか、真意は自分でも分からなかった。

―完―

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美琴ちゃん青春物語、無事完結です。
短すぎて、前話に組み込んでも良かったんですけれど、まぁキリよく10話ということで…。
今後みこっちゃん、『榛名』の中で躍進していきます。
その模様はどこかの作品でお楽しみください(←)
そういえば、『大人の時間5』で"気高い貴婦人"は『息抜きはさせていただいていますよ』って言っていたけれど、それってこういうこと(←どんなだ?)だったのかしら。
お楽しみいただけましたか?
お付き合いありがとうございました。



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