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ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
一番近いもの 6
2010-07-15-Thu  CATEGORY: 一番近いもの
立ち上がる気力もない…。
海斗だけを休暇にしたため、松島は先にホテルを出て行った。
「僕の誘いを断ったらダメだよ。他の約束があっても全てキャンセルして。言うことが聞けなかったら、会社のパソコンのスクリーンセーバー、この写真に変えるからね」
握られた携帯電話には、手足を縛られ様々なものを体に張り付けられた痴態が映し出されていた。
あたかも、そうされることを悦んでいるような映り具合だった。

チェックアウトの時間、ぎりぎりまでベッドに横たわっていた。
さすがに3日続けての性行為は経験もなく、嬲られつつけた体中の骨がぎしぎし言い、鉛のように重くなっている。
何よりも重いのは心だった。
気安く受けてしまった誘いをこんな形で後悔することになるとは…。
こんな相談を誰にしたらいいというのだろう…。

アパートの前までタクシーで辿り着いた。
松島にもらった1万円札で支払いを済ませ、足腰にくる痛みを必死で押し殺して、なんとか階段を昇る。
部屋に辿り着く前、端のほうに越してきた男が偶然外に出てきた。
たしか、鳥羽っていったっけ…。
「こんにちは。…体調悪いの?」
ぐったりした海斗にすかさず目を向けた鳥羽が心配げに声をかけてきた。相変わらず、年の差を感じさせない奴だ…。
「べつに…。ちょっと疲れているだけ…」
「こんな時間に。会社早退してきたんでしょ」
普段であれば、働いている時間。
早退したのも、最初から休んでいるのも、どっちも変わらないようなことだと思ってしまう。
答える気力もなく部屋の鍵を開けて中に入ろうとして、そのドアをうしろから引かれた。
「ねぇ、大丈夫?看病必要なら、何か手伝ってあげるよ」

余計なお世話…。
海斗は続いて勝手に入ってきた隣人にうっとおしそうな視線を投げた。

「体調悪い時に他人にうろつかれるってホント迷惑。休みたいんだよ、俺」
「会社に行ってたっていう雰囲気じゃないね」
核心をついた言葉にひやりとさせられる。
同時に勘の良さそうなこの男を知った。
日曜日の一件も脳裏を掠めて行く。
どんなスキモノかと思われる、連続した流れに、自分の立場が危うくなっていくのを感じた。

「ちょ…、これ…、この手首なに?あんた、何してんの?!」
押し返そうと彼の胸元に伸ばした手首をいきなりつかまえられた。
面倒くさがってワイシャツの袖口のボタンを留めていなかったのが仇になった。
一晩中括られた手首には擦過傷ができていた。解いて欲しくて自分で激しく悶えた結果でもある。
「はなっ…っせ…っ!!」
見られたくなかった。
SMセックスを見られるような羞恥で全身が火照った。
決して望んではいないけど、松島に取らされる体勢の中でよがる自分がいるのは確かだった。
「あんた…なにしてんの…」
再び同じ言葉が響いて、海斗は首を振った。
「関係ないだろっ!!」
「あぁっ!!関係ないよっ!!関係ないけど、身体に傷作っているって分かって、しかもこんな疲労感たっぷりの姿見せられて放ってなんておけないだろっ」
「それが余計なお世話だって言うんだよっ」
「この前の人じゃないよね?こんなひどいことをする人には見えなかったし」
やっぱり聞かれていたのだ…と確信する。
大希は海斗に甘い声以外を上げさせたことがない。
日曜日の朝からの行為といい、月曜日の夜は留守にしたとたぶん知られ、火曜日の朝帰り。
最悪だ…と海斗は思っていた。
こちらが引っ越しをしたいくらいだ。

「薬、ある?ねぇ、とりあえずうちに来てよ」
腕をつかまれたまま再び外に連れ出される。
暴れても小柄な海斗では逃げ出すことも不可能に近かったし、何より疲れ切った身体が言うことを聞かない。
鍵を閉めた様子もない隣の部屋に連れ込まれれば、キッチンに立つもう一人の男が見えた。
「蓮(れん)、傷薬」
「傷?」
有馬と名乗った男がフライパンを前にしながら戻ってきた鳥羽に不思議そうな顔を向ける。
続いて腕を引っ張られて入ってきた海斗に、益々眉間が寄った。
「さっきから何か外が賑やかだな…と思ったけど、健太、何してたわけ?」
「いいから救急箱持ってきてよ」
有無を言わさずに引っ張り上げられた奥の部屋はすっきりと片付いていてベッドと小さなテーブル、そして大量の本が積み上げられていた。
無駄なものが多い自分の部屋とは雲泥の差だ。
「ちょっ…っ!!薬とかいいからっ!!こんなのすぐ直るしっ!!」
「身体の全部をチェックしようなんて思っていないよ。とりあえず、目につくそれ、なんとかしたほうがいいでしょ」
「なんだか穏やかな話ではなさそうだね」
鳥羽に比べれば有馬のほうがだいぶ落ち着きがありそうだ。
一見、見た目だけは若いと思っていた二人だが、精神的なものは海斗よりもずっと大人のように感じる。
テーブルの前に座らせられた海斗の袖口を鳥羽が引き上げれば、何事かと救急箱ではなく菜箸を持って部屋を覗き込んでいた有馬が険しい表情を浮かべた。

…よりによって、二人に知られるなんて…っ!!

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隣人、何者?!
(あ、いやー。普通の隣人?…すでに疑問系)
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一番近いもの 7
2010-07-16-Fri  CATEGORY: 一番近いもの
「何かの事件に巻き込まれた、とか?」
有馬が心配げに海斗に問いかけたが答える気分になどなれない。
最初から『監禁された』とか『強姦された』と言っていれば印象も変わったのだろうか…。
そんな情けない人間に見られるのもどうかと思う話だが…。
「蓮、さっさと救急箱」
「はいはい」
黙る海斗を気遣うのか、鳥羽は深入りしようとはせず、有馬を促した。
男が住む家の中に、立派な救急箱があるとも思っていなかったが、意外にも出てきたのは様々な薬品や道具が詰め込まれた大きなケースだった。
そんなに頻繁に病気になったり怪我をしたりする連中にも見えない…。

「とりあえず、スーツだけ脱がない?袖、捲りたいし」
何かの傷薬やら包帯などをテーブルに出しながら鳥羽が海斗に上着を脱ぐよう言ってくる。
体格の良い二人を目の前にしてしまえば、逆らう気力も失った。
好き勝手に弄ばれた身体に、これ以上体力を消耗させるだけだと諦めの境地に陥る。
引っ越してきたばかりの二人の人間性も素性も分からないのに、大人しく言うことを聞いている自分が、やっぱり惨めに思えた。
なんとなく年下だろうと思った勝手な判断と、悪い人には見えない人懐っこさくらいは感じていたけど…。

海斗が言われるままに上着を脱げば、まず右手を引っ張った鳥羽が袖口を折り返してまくりあげた。
素早い動きは何かに慣れている雰囲気さえある。
「蓮、ちょっと腕、押さえていて」
事情を聞きたそうな様子を見せながらも、プライバシーの侵害だと思う部分もあるのだろうか。
有馬は海斗の背後に回ると、「ちょっとすみませんね」と海斗の腕を下から支えた。
差し出すような仕草に、鳥羽の手にあるガーゼに消毒液が出され手首に塗られれば、ひりつくような痛みが走って思わず引っ込めようとしてしまう。
「いっつぅ…っ!!」
逞しい有馬の腕に押さえられていたこともあったし、掌を鳥羽に引かれていたこともあって動くことはなかったが…。
「すぐ軟膏塗ってやるから。これだけ擦れているとちょっとした布が当たるだけでも痛いはずだよ」
そう言って塗りつけられる薬剤。
大げさに包帯まで巻かれてしまう。
昨夜とは違う用途に皮肉な感情が生まれた。
手首に巻かれる包帯など、もう見たくもなかった。

服従させられた悔しい過去を思い出して知らずに悔し涙が溢れてくる。
両手首の手当てを終えた鳥羽が、すでに悟ったように悲痛な面持ちを見せた。
「やっぱ、なんかあったんだろ?」
心配されたところで、痴態を写真に撮られて脅されているなんて答えたいことではない。
松島の底しれぬ恐ろしさを充分なほど味わった後だけに、人を信用する心まで失ってしまったようだ。
もともと海斗は誰かに気安く心を開いてしまうくせがあるといっていい。
もちろん、それがこの結末を生み出したと言っていいのだが…。
「べつに、なにも…」
なによりも、この二人のことを何も知らない。
逃げ出したい思いを抱え、ただ、手当をしてくれたことへの礼だけを伝えて、海斗は立ち上がった。
…はずなのに、黒いものが脳裏を襲ってぐらりとした。
「おいっ!ちょっと、あんたっ!!」
床に突っ伏してしまう前に、筋肉質な腕が海斗の身体を支えた。
いたぶられた身体は想像以上の疲労感を訴えていた。
ほんの些細な親切心に、張り詰めていたものが緩んだようでもある。

…死にたい…
意識を手放す寸前で、全てから解放される安らぎを求め、海斗は目の中に溜めていた涙を流した。

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どんな話なんだ?!もう私も分からなくなってきた…。
『一番近い』…のかどうなのか。
ご近所様はやっぱり絡んできます。
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一番近いもの 8
2010-07-17-Sat  CATEGORY: 一番近いもの
目を覚ましたとき、カーテンの隙間から夕焼けが差し込んでいた。
見慣れた部屋ではない。
だけどシンと静まり返っていて、人の気配はなかった。
のそっと起き上がると、下半身に鈍痛が走る。
昨夜の松島との行為の疲れはまだ残っていた。
そして手当てをしてもらった手首に白い包帯が巻かれているのを見て、隣人の部屋に来たことまでを思い出した。
寝ていた所はベッドの上だ。
殺風景な部屋は一度見た…と振り返った。
間違えでなければ、鳥羽健太(とば けんた)と呼ばれた男の部屋なのだろう。
勝手…とは思いながら部屋を出て隣の部屋をノックし、覗いてみた。
こちらも物数の少ない整頓された部屋だった。
やはり、誰もいない…。

…見知らぬ人間をおいて、普通、出掛けるか?!

何気なく寝ていた部屋に戻ると、一度脱いだスーツの上着がカーテンレールに掛けてあった。
そして小さなテーブルの上にメモ用紙と部屋の鍵が2つおかれていた。
一つは自分の部屋のものだ。
『許可もなく人の家にあがるのも失礼と思い、こちらの部屋でおやすみをとっていただきました。砺波さんの家の玄関には鍵をかけておきました。うちの鍵はポストに入れておいてください。医学会が夕刻までかかると思います。お部屋に帰られても電気がついていなければおやすみされていると思ってご訪問は致しませんのでご安心なさってください』

…医学会…って医者?!
学生なんじゃないのっ?!
整理整頓された救急箱を思い出し、また鳥羽のそつの無い動きにもなんとなく納得がいく。
だけど明らかに自分よりも年下と感じさせる見目の若さには、『医学生?』と思わされるものも浮かんだ。
病院事情になど詳しくなかったから、何年通えば…とか、どんな過程をえて医師免許が取れるのか…など知りはしない。
だいたい、海斗は人を相手にするよりも、コンピュータばかりを相手にして過ごしてきた人間なのだ。
コミュニケーションをとるのも得意な方ではない。

「なんか、すっげー、迷惑かけた気分…」
ぽつり呟いた言葉が部屋の中に響く。
物が少ないからなのだろうか。
意外と声が響いた気がした。

両手首に巻かれた包帯がいやに痛々しく見える。
実際、傷を負って人目にさらせる状況ではなかったし、剥き出しのままとどちらがよいのか…。
なにより、明日、松島と顔を合わせることに恐怖を抱いて、また休みたいと心痛が襲った。
仕事を辞めるのは経済的に問題だが、松島の本性を知った今、彼の下で働きたい気持ちは湧かなかった。
これまで信頼を置いてきた感情が一転しているのである。

とりあえず海斗は、他人の部屋に居座るのもなんだ…と思って出て行こうとした。
そんな時、外を歩く足音を耳にした。
新しく越してきた『花巻』とかいう人間が帰宅したのだろうか…。
それとももっと奥の住人だろうか。
そう思いながら耳を澄ませば、すぐ隣の部屋の呼び鈴が聞こえた気がした。
嫌な予感…とはあたるものである。

「ちょっと、かいちゃーん、どこ行ってんの?寝てんのー?」
がしゃがしゃとドアノブを回す音すら聞こえた。
松島の声に、一気に全身を駆け上がってくる鳥肌がある。
まさか、ここまで追いかけられて来るとも思ってもいない。
海斗はもう、動けなかった。
いないと分かればどこまでも追いかけてくるような執拗さを、松島は持っていた。
同時に手にしていたスーツの中から音を消した携帯電話が鳴った。
バイブレーター機能にしておいてよかったと思った時はこれほどないだろう。

立ち去る足音を聞いても、海斗はキッチンの床にうずくまったまま、時を過ごした。
全身を襲う震え…。
確かに快楽に溺れた夜だったが、耐えさせられたアレコレや、機械を使って嬲られる行為は受け入れられなかった。
写真まで撮られて脅されているという状況に、服従するしかない自分を改めて知れば、人間として生きる価値を奪われたようだ。
今でこそ信用する大希がささやかな小道具を取り出しても、たぶん、取り乱すだろう…。
生身の身体だけで充分なのだと再確認した。
それよりも握られた『弱み』に竦んだ。

だから、鳥羽と有馬がコンビニの袋を携えて帰宅したとき、海斗は今にも泡を吹きそうなほど脅えてキッチンの床で丸くなって震えていたのだ。
もう、尋常ではないこの行動に二人とも黙ってはいなかった。
二人は、精神学科を学ぶ、医師を目指す卵だったのだ…。
若いとは思っていても24歳。
学生生活だから自分とは違った社会人並みの生活感を感じられなかったのか…。
海斗はその夜、隣の部屋に帰ることをとても嫌がった。

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一番近いもの 9
2010-07-18-Sun  CATEGORY: 一番近いもの
たぶん、落ち着かせるためもあったのだと思う。
写真入りの学生証を海斗の前に差し出し、身分を証明して、とにかく海斗の安心を得たかったようだ。
打ち震える海斗は、温かな季節だというのに、与えられた毛布の中にくるまっていた。
鳥羽の部屋の小さなテーブルの前で、並んで座った有馬と鳥羽が顔を歪めながら海斗を気遣った。
「あんま、深入りしたことは聞かれても困るだろうけどさ。誰かに脅されているっていうなら、それなりの機関があること知ってる?」
「パワハラという状況なら尚更です。会社の信用問題に関わりますからね。泣き寝入りすることはないんですよ」
ほんのささいな発言から、二人はすでに状況を深読みをしたようで、『上司』という存在に気付いていた。
さすがに『精神科』という世界にいるせいか、海斗の性癖に嫌悪感の一つも表さなかった。
だからといって握られた弱みは、いつどこでばらまかれるか分かったものではない。
インターネットというものが普及した今、一歩間違えば世界中にその醜態は公開されるのだ…。

「そういうの、マジ許せねェ。呼び出して一回、ボコボコにしてぇやりてぇ気分」
「健太…」
犯罪に手を染めるのはどっちが先か…という雰囲気だった。
見ず知らずの人間に対して、そんな感情をもってくれる研修医に、嬉しさが沸き立った。
嫌でも顔を合わせなければいけない日は翌日で、夜が明けることに海斗は恐れをなしていた。
さすがにこの二人も機密情報が溢れるばかりのオフィスに入り込んでくることは無理だ。
海斗を守るためには休ませるしかなく、当然それは松島の反感を買うことになる。
「明日はまださ、言い訳できるだろ?とりあえず休んでみない?俺、部屋にいてやるから」
鳥羽の言葉に海斗は思いっきり瞠目した。
今日留守と分かって、未だに執拗に電話をかけてくる松島を思えば、明日、たとえその上の上司の許可を得て休みにしたとしても、間違いなくやってくる存在はある。
そこに、『連れ込んだ』と思うような男がいたと知られれば行く末は最悪の結果だ…。
「いやだ…。だめたよ、そんなの無理…」
「いいから、ちょっとまかせてよ。上京してきた親戚の子くらいに言っておけばいいからさ」
「健太、こういう悪知恵、ホントよく思いつくよね」
「人助けって言ってくれない?」
ニヤリと笑いあう年下が松島と同じくらい脅威な物に感じられた。
ただ、危険だけはないと思えるのは何故なのだろう。

自分の部屋に戻るのを嫌がった海斗を思ってなのか、鳥羽がベッドを開け渡してくれた。
「で、でも、そんな、…おまえ、どこで寝るの…?」
「蓮の部屋、あるし。俺、床でもどこでも寝られるから」
「忙しいからね。慣れるんだよ、仮眠みたいな生活」
研修医の状態がどんなものなのかは知らない。
でも、せっかくゆっくりとくつろげるスペースを奪ってしまったような申し訳なさはあった。

「ね、俺こそ、台所でもいいし。っていうか、部屋に戻ってもいいし…。ごめん、俺、すっげー我が儘言ってる…」
海斗が掠れるような声で詫びを入れれば、それこそ『帰したくない』というような二人の姿に戸惑う。
「頼むから安心するところにいてよ。これだけ散々鳴り続けている電話の音聞いたら、部屋に電気ついた途端に押し掛けてくるよ」
それは、『脅し』だったのだろうか…。
鳥羽の台詞に再び戦慄が走った。
バイブレーター機能にしたままの携帯電話はすでに電池がなくなりかけている。
着信は全て『松島愁』だった。
心の奥底にまで『見張られている』という張り詰めたものが確かにある。
少なくても二人きりで会う気はない…。
とはいえ、松島も日が昇れば、出社しなければいけない存在なのだろうし、海斗以上に睡眠時間の短かった昨夜を思えば今夜も夜更かしをするとは思えない。

海斗の不安を悟ったかのように、さりげなく鳥羽の手が海斗の癖のある髪を撫でた。
「悪には必ず成敗がくだされるんだよ」
いつの時代劇の話しかと思いながら、彼らの優しさに縋ってしまいたい甘えが生まれた。
何も知らなかった隣人はまだ多くの謎に包まれてはいるけれど、与えてくれるものには包容するような温かさを感じる。
昼頃から一度眠った身体のはずなのに、また睡魔に襲われた。
なんとなく、『守られている』という安堵のなかで。

気付けば携帯電話の電源は落とされていた。
鳴り響く音に嫌悪を示した二人組の仕業だったのか、単なる電池切れだったのか…。
隣の部屋で何やら会話する声が聞こえたが内容を把握できるほど大きな声ではない。
ただその声は一晩中続いていたようだ。

翌日、体調がすぐれないと部長に電話を入れ、休暇を貰えば、速攻で鳴りだす携帯電話があった。
無視し続けていれば、お昼すぎ、玄関の呼び鈴が鳴った。
学業はどうなっているのかと心配する海斗の横で、自然と過ごしていた鳥羽が玄関先を確認する。
安心感に包まれ、あげてしまったのは確かに自分なのだが…。
「なにか…?」
海斗が出るよりも早くに玄関扉を開けた鳥羽が、来客を出迎えた。
そこにいたのは松島だ…。

「かいちゃん、さっそく『浮気』みたいだね。まだ物足りないの?この覚悟、当然できているんでしょ?」
「あんたさー」
松島の発するわざと発する明るい声を遮るように、鳥羽の冷たい声が響いた。
ただでは済まない内容を感じて咄嗟に海斗は玄関へと向けてかけだした。
確実に仕事も生活も失うような気がした。

次の瞬間、鳥羽の素早い腕が松島の胸元をつかんだ。
「出せよ、脅しの証拠。隠し持ったって無理だぜ。あんたのヤバイことのほうが調べがついている。まさか薬物にまで手を出していたとはね。家宅捜査入るし、仕事も当然クビだ。これ以上海斗に手出しなんてできねぇよ」
「な、に…?」
驚きの声をあげたのは、海斗が先だったのか、松島だったのだろうか。

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一番近いもの 10
2010-07-19-Mon  CATEGORY: 一番近いもの
アパートの階段を2人の警察官が上がってきた。
松島の顔が引き攣れば、鳥羽がニヤリと笑う。
何のことなのか訳が分からなく、海斗はすぐ隣に立つ鳥羽を見上げた。
「薬物…ってな、んの、こと…?」
「覚せい剤。あんたも事情聴取されることになるけど。大丈夫だから」
松島に脅されていた件は事件にまで発展していた。

二人の警官に付き添われ、階段を下りていった松島は、乗ってきた車の中から白い粉の入った袋を取り出され、そのまま現行犯逮捕となり、その日のうちに懲戒免職となった。
海斗も署に連れられ、話を聞かれたものの、鳥羽が言ったようにすぐに解放された。
ただ、あの卑猥な写真は警察の人間にこそ見られてしまったけれど、流出することなく抹消され、闇に葬られた。

だからといって海斗が納得しているわけがない。
何故鳥羽がそのことを知っていたのか、すぐに警察がやってきたのか、真実までもが闇の中だ。
警官に聞いてみたところで、『調査の結果』とか『個人情報』とかの言葉で誤魔化されるばかり。
海斗は自分の部屋に入るよりも早く、隣の部屋のチャイムを鳴らした。
警察が黙るならこの男に吐かせるしかない。
なんていったって自分自身のことなのだ。
「無事終わって良かったね」「うん、良かった」で終わりになどできない。

小さなテーブルを挟んで海斗が詰め寄れば、最初こそやはり口を閉ざしていたが、あまりのしつこさにとうとう肩をすくめた。
「私立探偵と警察に知り合いがいたっていうだけのこと」
ますます訳が分からなくなるばかりだ。
警察が薬物所持の事実を知っていたのであればとっくに逮捕されていていいはずだし、そんな内容を鳥羽などの人間に話すとも思えない。
ドンっと海斗の握った拳がテーブルを叩いた。
「助けてくれたのは嬉しいけれどっ!!自分が同じ立場だったら納得できる?!不思議だらけなのっ!!」
「そんな怖い顔して睨まないでよ。可愛い顔が台無しだよ」
「おまえに『可愛い』言われたくないっ」
しばらく鳥羽は考えていたようだが、諦めたように口を開いた。
「日曜日に引っ越しをしてきた時にさ、あの男、海斗の部屋の前にいたんだよ」
海斗は目を見開いた。
引っ越しをしてきた3人の人間に呼び鈴を鳴らされるまで誰もチャイムを鳴らすものはいなかった。
海斗自身夕方までぐったりとしていて外にも出ていない。
両隣りに引っ越しをしてきた人間がいるらしい、という外の状況を漠然と感じていただけだった。
「それも、ドアに耳を当てているような態度でいたから、当然不思議に思うじゃん。近所に不審人物が出入りするような住まいも安心できないでしょ。それで探偵が調べてくれて、身元が割れて一応犯罪履歴がないか知り合いの刑事に問い合わせしたんだよね。親戚ってこともあって内緒で教えてもらったんだけど」
そこで一度鳥羽は口を閉じた。
海斗は何も言葉を発せず、ただ事情を飲み込むことに必死だった。
「そしたらさ、何が出てきたと思う?…『強姦未遂』。実際未遂だったかどうかは最終的に相手が何もなかったって話していたらしいから疑問だけど」
聞いた犯罪名に海斗の表情が引き攣った。
ただ抱かれるだけともなれば、同意の上と見做される。
今回の海斗のように『恐喝』が絡んでくれば話は変わるだろうが…。
「そこに海斗の話だよ。相手が誰なのかはピンときたし、放っておける内容じゃなかったからちょっと手を入れた…ってだけ」
「ク、クスリは…?」
「偶然…って言うべきかな。探偵が調べていた時、ちょうど売買の現場を目撃しちゃったんだよね。物がなんだったのかは分からなかったけど写真が残っていてそれが警察の手に渡った…」

最初こそ、海斗を脅すネタを、逆に松島を揺す振るために利用しようと考えていたらしいが、事は意外な方向へ転がったようだ。
ほんの短期間のうちに起こった出来事は、自分が中心にいながら、蚊帳の外に出されて周りだけが動いていた気がする。

そこへ帰ってきた有馬が、鳥羽が海斗に話して聞かせてしまったことを知って、咎めるような表情を見せた。
やはり裏情報は明かすべきではないという考えなのだろうか。
「まぁいいじゃん。それよりご飯作ってよ。海斗の『生還祝い』やろっ」
鳥羽はすっかり『海斗』と親しみを込めて呼び捨てにしている。
年下に言われるのもなんだが、一つしか違わなければ友達感覚なのだろうか。

一度は食事を断ったものの、有馬にも「今日は疲れたでしょう。ゆっくりしていってください」と誘われれば、何故か妙に居心地の良さを感じている自分に気付いた。
こうやって親しくなっていく近所もいいかぁ…と内心で思った。
「お言葉に甘えて…」と縋ってしまえば笑顔が帰ってきて、昨日の恐怖が一夜で終わってくれたことに安堵した。
この二人には迷惑、かけっぱなしだな…。

有馬の部屋で正方形のテーブルを3人で囲って食事をしているところに、玄関のチャイムが鳴った。
二人は誰が来るのか分かっていたようだ。
ここに自分が居てしまって良いのか…と不安になる前で、立ち上がった有馬が玄関を開けると、日曜日に反対隣に引っ越しをしてきた花巻が立っていた。
鳥羽が座ったまま、元気な声をあげた。

「ようこそ。”探偵さん”」

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