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BLの丘
Opened door 4
2011-04-02-Sat  CATEGORY: Door of fate
滝など見る間もなく、凛は駐車場にある車に戻された。
春とはいえ、沢を流れる水は雪解け水だ。刺さるような冷たさがある。
幸いなのは転んだわけでもなく、濡らしたのが靴とジーパンの裾あたりだったことだろうか。
「正直、凛がこんなにどんくさいとは思わなかった」
「どんくさいは余計!」
笑いながら話してはいるが、決して小馬鹿にしているものではないのは伝わってくる雰囲気で分かる。
反論をしてみても、今ある現実に凛の言い分は無意味だった。
虎太郎は車に戻ると後部の跳ね上げ式のドアを開けた。
後部座席とドアまでの間にカバーのようなものが取り付けられていたからそこに荷物が入っているなどとは知らなかった。
クーラーボックスや毛布、ボストンバッグなどが積まれていた。
そのバッグの中からタオルを取り出してくると、凛に手渡す。
「靴と靴下は脱ぐしかないよな。ジーパンは水気取っておけばそのうち自然乾燥されるだろうし」
「ごめん。車の中にいるしかなくなっちゃったね」
「サンダルならあるからそれ履く?こういうハイキングはもう無理だけど、ちょっとした所歩くなら可能でしょ」
「こーた、どこまで準備いいの?」
「準備いいっていうか、なんとなく。あって便利だなって思うものが次々と積まれてきただけだよ」
凛ではまず準備しそうにないものが当然のようにこの車には積み込まれていて不便を感じさせない。
さすがにここまでくると感心というより呆れてしまうのだが、虎太郎にしてみれば当然のことで驚かれるものではないといった態度だった。
凛が助手席に戻り濡れた足を拭っていれば後部座席に放置してあったらしいサンダルを持ってきてくれた。
サンダルであれば大してサイズを気にしなくて済むところが良かった。
変わりに凛の靴が追いやられ、タオルで叩いた靴下が後ろのシートに並べられた。
きっと本当はもっと動きたかったのであろう虎太郎を思うと、申し訳ない気分になる。
凛の失敗で虎太郎もかなり行動を制限されたことだろう。
だがそんなことは全く気にした様子も見せず、それどころかトラブルの全てを楽しみに置き換えてしまうポジティブな考えには素直に甘えられた。

走りだした車は、店の看板などを見つけては「なんだろう、あれ」などと言いながらしょっちゅう駐停車を繰り返した。
その場で製造販売している銘菓だったり、民芸品が売られる店だったり。
街並みが見渡せる場所で停まって新鮮な空気を吸い込んだりもした。
虎太郎がいう『予定のない行き当たりばったりな旅』というのが、初めての凛は心底楽しくて仕方ない。
次に何が出てくるのかという展開が余計にワクワクさせた。
昼頃に温泉街に入り込んだ二人は、残りの時間をここで潰すことにした。
土産物屋なども並び、週末ということもあってか人で賑わっている。
観光案内所で地図を手に入れた虎太郎が「凛、少し歩ける?」と気遣ってくる。
街の駐車場に停めて散策できるものがいくつかあるらしい。
「街歩きなら全然平気。あ、帰り温泉入っていこうよ。せっかく来たんだし」
凛の提案をまたしても快く受け入れてくる虎太郎だった。
「こんなこともあるから」と車の中にはバスタオルまで用意されているようだ。
昼食も完全な食べ歩きだった。
街角にある地鶏の焼鳥や温泉卵、温泉まんじゅうなどなど。
お弁当屋で売られているおこわを半分こずつ食べるのもおもしろい。
「こういうのって色々な種類のものが食べられるからいいね。一食しっかり食べちゃうと他のものが入らなくなるもんなぁ」
「俺、いつもこんなんばっかだよ」
「こーたといると何もかもが新鮮でいいや」
「凛が喜んでくれて良かった。もっとキッカリしっかりしてそうだし」
「そうだな、非日常を味わう…って感じ?」
きっと虎太郎がいなかったらこんなに躍動する気持ちを持つことはなかったと思う。
自分だけであれば川に落ちたことだけでその日一日が憂鬱になってしまったはずだ。
見かけ以上に頼りになる存在を改めて知れて、やっぱりどこか年上なんだなぁと今更ながらに感心していた。

山あいにあるだけに、日が傾いてくるとひんやりとした空気が肌を撫でてきた。
動きまわっていたからさほど感じなかったが、宿泊客が施設内に帰っていくと、観光客の数も目に見えて少なくなり閑散としてくる。
「凛、そろそろ戻ろうか。足痛くなってない?」
「へーき、へーき。温泉どうするの?」
「町営の源泉掛け流しっていうのがあるから、そっちに行こう」
旅館などの設備を利用しようという考えがないあたり、実に虎太郎らしいな、と内心で微笑みながら、凛は大人しく虎太郎についていくことにした。
そして辿りついてびっくりした。
温泉街からは離れていたから人通りも少ない場所にあり、まず建物が山小屋のようだった。
脱衣所と呼べるのか、浴槽のすぐ脇にすのこを敷いただけの場所がある。
カラーボックスを並べただけのようなロッカーが幾つかあり、たぶん、これは、そこに物を入れられる人数しか入浴できる広さではないと語っているのだろう。浴槽から丸見えだからなのか、当然鍵などありはしない。
虎太郎が一番驚愕していたのは、ここが『無料』ということだった。
「すげー、温泉無料開放」
もちろん、凛も初めて聞く話だった。
浴槽には先客の老人二人が世間話をしながら入浴していた。
虎太郎は慣れた様子でポイポイと衣類を脱ぎ、ロッカーに丸めて押し込むとさっさと洗い場の方へと向かっていく。
まぁ、ここにいるのが老人だからいいとしてもさ…と、凛はすこしばかり虎太郎を咎めたい気分になった。
この衣類の扱いもどうよ…と内心で溜め息をつきつつ…。
だが、またもや先客と軽快な会話を始めてしまった虎太郎には文句の一つも出てこない。
虎太郎の生き生きとする姿を見せられて、止めようなんて思えなかった。

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コメント

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No title
コメントらぅら | URL | 2011-04-03-Sun 00:16 [編集]
どんくさ凛がバレちゃった(爆)
何かいい雰囲気~( ´艸`)ムププ


虎太、洋服をポイポイして洋服丸めて
さっさと洗い場にって(~▽~;) アハッ

凛ってばモヤモヤしてる?
相手は老人(だけかな?)でも嫌だよねぇ~(笑)

Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-04-03-Sun 09:17 [編集]
らぅら様
こんにちは。

> どんくさ凛がバレちゃった(爆)
> 何かいい雰囲気~( ´艸`)ムププ

ばれちゃったけどいい雰囲気です。
楽しんでますね~。

> 虎太、洋服をポイポイして洋服丸めて
> さっさと洗い場にって(~▽~;) アハッ
>
> 凛ってばモヤモヤしてる?
> 相手は老人(だけかな?)でも嫌だよねぇ~(笑)

誰の前でもそんなに簡単に裸になるのか~ヾ(。`Д´。)ノ
な心理状態で…。
お兄ちゃん、心配尽きないねぇ…。
でも無垢なところが絶対に可愛いんでしょうね(一応歳上なんですが…)
コメントありがとうございました。
No title
コメントきえ | URL | 2011-04-03-Sun 09:20 [編集]
s様
こんにちは。

>私も一緒に行きたいなあ(お邪魔なので後ろからこっそりついて行こうかな?)こんな休日も良いですね。

車の後ろにソリをつけてもらうといいかもしれません(爆)
日頃忙しい方々(?)ですから、たまにはこんな気分転換もね。
イチャコラしてんじゃねーっと邪魔してやってください。
コメントありがとうございました。
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