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BLの丘
策略はどこまでも 5
2009-07-01-Wed  CATEGORY: 策略はどこまでも
「この辺りの会社の方ですか?」
隣の男が差し支えなさそうな質問をかけてくる。
「いえ。ちょうど通りかかっただけで。これでも外回りの途中なんです」
初対面でも誰彼となく話をできるようになったのも、この営業職に就いてからだった。昔の自分だったら、一人で店に入ることもなかっただろうし、話しかけられてもどんな反応を示したらいいのか悩んでいたはずだ。
「そうなんですか。お疲れ様です。ちなみにどんな業種なんですか?…、あ、すみません。立ち入ったことをお聞きしして」
ただ、食事に寄っただけの那智に、仕事柄までを尋ねてしまった無礼を詫びる男は、本当にすまなそうに頭を下げた。
「いえ…」
美味しいと言っていた定食がなかなか進まないでいるのも気になって、そっと先を促すのだが、「一緒に食べましょう」と意味の分からないことを口にされた。
自分の食事が届く頃には美味しいものも冷めてしまうだろうに…。

それでもランチタイムのせいか、ほどなくして盆に載せられた定食が那智の前に届くと、箸を止めていた隣の男が「どうぞ」と那智に料理を進めた。
那智が箸を持つのを待って、隣の男も食事を再開している。
煮魚を箸先で割った時に、那智の驚きが表れた。
骨がない。…いや、あるのだ。あるのだが、箸先でつまんだだけでパキッと砕けてしまうような柔らかさになっていた。たぶん、身と骨を同時に飲み込んだとしても、喉を傷つけることはないのだろう。
煮魚を一口食べてみれば、魚の味はもちろん美味しかったし、骨は口の中でとろけるほど柔らかだった。
パチッと那智の大きな瞳がさらに見開かれるのを見逃さなかった隣の男は、満足げに那智にニッコリと笑いかけた。
「美味しいでしょう?」
「はい、柔らかいですね。こんなの初めて」
素直な気持ちを言い表せば、隣の男は満足したように頷いて、さらに箸を進めた。
「いつ、来ても美味しいんですけどね。今日のは上のさらに上だと思いますよ。ここのお店はランチの日替わりメニューを常に変えていてね。あまり同じものに出会うこともないんです。だから逃すとなんとなく悔しい気持ちになっちゃってね」
ついつい通っちゃうんですよ、と男は続けた。
それが客を引き付ける魅力なのだろうか。満足気に話す男の言うことを聞いていた那智は納得したように箸をすすめ、あっという間に定食を平らげてしまう。

ほぼ同時に隣の男と食べ終わった那智は、食後に再度注がれた緑茶を味わっていた。
一息ついて、今日の午後はまた取引先との打ち合わせが待っているんだと思い返す。ただ、合わせた時間には移動を含めても1時間ほど早かったから、この後どこで時間を潰そうかと頭をひねった。
そういえば、隣の男はここにいつも通うくらいだから、このあたりに詳しいのだろう。美味しいコーヒーでも飲める喫茶店とか知らないかな?
クルっと首をまわして隣に視線を向ければ、自分を見ていた男の目と合った。
「あ…と、…え…と…」
まさか見られていたとは思わず、まっすぐに見つめられる視線に、那智は戸惑いを覚えた。
「あぁ、失礼。つい貴方に見入ってしまって。ジロジロ見られたら不快ですよね」
いたずらがばれた子供のように困った笑みを浮かべられる。年齢的にも外見からも相応しいとは思われない照れた表情に可愛さを見出した那智は咎めることすらできなかった。だが、ずっと見られていたと分かれば、どんな顔をしていたのか、気になる。
それにしたって、なんだって俺なんか見てるのさ…?
内心で呟くものの、声に出すことは躊躇われ、那智は本来の目的を聞くべく、喉を震わせた。
「いえ、そんな…。…あ、あの、このあたりでコーヒーとか飲めるところ、ご存知ではないですか?」
「コーヒー?」
「ええ。ちょっとこの後、時間が空いちゃって。一時間ほどあるものですから。次のところに移動してもいいんですが、ご飯を食べた後だし…」
暗に食後の休憩を意味して近所の喫茶店の有無を聞いたつもりだったのだが、那智に質問を投げかけられた男は、それなら私も、と席を立った。

突然のことに驚いている那智を促し、「いいところをご紹介しますよ」とさっさと会計用のレジの前に立っている。慌てて後を追おうと自分の伝票を探したが見当たらなかった。
レジで告げられている金額を耳にすると、彼が2人分を支払っているのがわかる。
「ちょっ、ちょっと待ってください。それ、別で」
「いいです。出会った記念におごらせてください」
レジ前に、慌てふためいて近づいた那智をものともせず、男は財布から万札を抜くと店員に支払っていた。
いくらなんだって初対面の男に、いきなり「おごります」と言われて、「はい、ありがとうございます」とは言えない。
それに、出会った記念ってなんだよ…。
「やめてください。俺、自分の分は…」
那智は財布を出し、札を抜き出そうとしたが、やんわりとした手がそれを阻止した。
見上げるほどに背の高かった彼の手が那智の手に触れ、「いいですから」とそれ以上の動きをさせない。
店員からお釣りをもらって、男は那智にニッコリと笑いかけた。
「さあ、行きましょう。美味しいコーヒーのあるお店」
那智はなんだかとんでもないことになってしまったような気分になった。
いったいこの男はなんなのだ…???
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