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BLの丘
Door of fate 1
2011-03-09-Wed  CATEGORY: Door of fate
今日も油臭い匂いが、ユニフォームである青いつなぎに染みついた。
高校を卒業してすぐに就いた自動車メーカーの『整備士』という仕事は、機械好きな竹島虎太郎(たけしま こたろう)にとって天職と言ってよかった。
小さい頃から電車や車に憧れ、プラモデルやラジコン、部屋の一室を占領してしまうような大規模な鉄道玩具から、天井から吊らされて空を舞う飛行機と、様々な乗り物の遊び道具を親に強請った。
虎太郎が育ったのは郊外…というか車がなければ移動も難しいような田舎だった。
広がる田園風景の向こうに、単線の線路が走っていたが、常に自動車を利用する家庭で、電車に乗ることなど滅多になく、30分に1度しか通らない電車の時間を楽しみに待ち眺めて喜んだものだ。
電車に興味はあったものの、やはりどちらかといえば身近な自動車に対する愛着の方が強い。
地元の工業高校に『自動車科』があったのも、神の思し召しかと思ったくらいだ。
運良く今の会社に就職が決まり、実家から通うには難しい距離の営業所に配属になってしまったが、好きなことができる世界に夢を抱いた。
入社してからも各種の資格試験をクリアするために実務と勉学の日々だった。
根がまじめで無垢な心で興味を示す性格は、職場の先輩たちにも気に入られ、毎日が充実の日々。
そんな虎太郎も30歳の大台に乗り込んだ。

身につけるものは汚れていたとしても、邪魔にならないようにと、短く切り揃えられた頭髪には清潔感が漂っていた。
全体的な骨格が細いように見えても、制服であるつなぎの下には日々の労働で鍛えられた筋肉がある。
細面の顔立ちがそう見せてしまうのだろう。
そして優しそうに誰をも包む琥珀の瞳と柔軟に動く紅を差したような唇が、虎太郎の人懐っこさを強調していた。

営業から戻ってきた所長の磯部雅彦(いそべ まさひこ)が、自分のデスクに着いたのはもう日もとっぷりと暮れてしまった時間だった。
客に向けられるメンテナンスの時間は決まっているため、不規則な時間で働く営業とは違って、虎太郎たち整備士の労働時間はほぼ決まっている。
「なんだ、まだ残っていたのか」
こんな時間まで何をしていたのか?と責められるような物言いではなく、逆に何かあったのか?と気遣われるような態度で訝しそうな表情を向けられた。
「いえ、整備日誌書いていたんですけど…。俺、こういうの苦手で…」
整備機械に強くてもパソコンは苦手だった。
さらに読書感想文だって原稿用紙一枚も埋められなかった文章力の無さだ。
毎日の日誌は一番の苦行と言って良く、整備ごとに記入してしまえばいいものを、つい後回しにして、今度は思い出せない事態にはまる。
「嫌なことを後回しにしたって解決しないんだよ。まったく、何年この作業やってるんだ。学習しろ、学習」
叱られているんだか呆れられているんだか…磯部の溜め息が聞こえてきた。
それでも棘があるように聞こえないのは、磯部の人柄の良さだろう。
そんな人格がこの営業所でナンバーワンの売り上げをとり、若干39歳の若さで所長まで上り詰める過程を作っている。

「所長、コーヒー、淹れましょうか?」
「あー、いいよ。さっき飲んできた」
「また、一葉君のとこ、行ってきたんですかー?」
人が仕事をしている間に…という嫌味は言わないでおく。
磯部に向けた台詞に返ってきた言葉は、しっかり常連客となって通っている『喫茶店』に寄ってきた、というものだった。
そこで働く人間は、かつて同じ職場で営業の職に就いていた者だった。
職種が合わない、と退社してしまったが、今では再就職したらしく、いつの間にか身につけた技術で”美味しいコーヒー”を淹れているらしい。
自分が天職に就いているだけに、好きなことをして働ける環境につけたというのは喜ばしいことでもあった。
が、今の場合、少々聞き捨てならない。
嫌味のつもりはなかったが思わず漏れた口調に、不快そうに磯部の眉尻がぴくんとした。
「あのなぁ。コーヒーが飲めるのは朝比奈の店だけじゃないんだぞ」
「だって所長、一葉君のお店から帰ってきた時ほど、『美味しい物の後にマズイものはいらない』って態度で拒むじゃないですか」
口直し、ならともかく、いつまでも味わっていたい口の中、は虎太郎にも想像がついた。
営業所で淹れられるコーヒーなど”インスタント”しかないのだ。
図星だ、と言いたげに磯部の視線があらぬ方向を彷徨ったのを虎太郎は見逃さなかった。
だけどやっぱりそのことについて強く突っ込める立場でもない。
営業が動いてくれなければ自分たちの職場が干される。
人脈の繋がりは虎太郎ではとても想像ができないくらいに広く、また、磯部のことだ。顧客を誘うくらいのことをして一葉の店にも利益を落としているのだろう。
ぬかりのない気遣いの良さにはただ感心するばかりだ。
「じゃあ淹れてもらおうか」
「やめときます。一度断られて、恩着せがましく頼まれたって、俺、嬉しくないです。苦々しい気持ちで飲まれるくらいなら最初から流してもらった方が気が楽ですから」
こんな会話ができるのも長年の付き合いと磯部の人柄の良さからだ。
職場の雰囲気がより一層、虎太郎を働きやすい環境へと導いてくれる。
まだ一度も一葉の店に行ったことはなかったが、こうまで絶賛する磯部を思うと、いつか足を踏み入れたいと思う虎太郎だった。


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幾つも話を広げてしまってすみませんm(__;)m
100,000hit様のリクが『囁きは今日も明日も』に登場した竹島君でした~。
何もないよりは…と思ってupしてみました。
(いくつも放置してある話があるというのに…汗)
虎太郎視点で進んでいるので補足ですが、磯部が寄っていたのは安住亭です。誰かがご一緒だったので言いづらかったんでしょう(ってかいえないwww)
111111hit様リクも受け付けようかと考えていましたが、なんだかあっという間に過ぎてしまいそうで、今のところ自粛します。
可能そうであればまた後でご連絡いたしますね。

→2
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コメント

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ワ――゚.+:。ヾ(o・ω・)ノ゚.+:。――イ
コメントらぅら | URL | 2011-03-09-Wed 19:44 [編集]
今日の更新は無いと思っていたのに、覗いてみたら更新されてるぅ~♪
しかもリクをお願い竹島だぁ~゚+。:.゚ヽ(*´∀`)ノ゚.:。+゚
こんなに早く読めるなんて( ´艸`)ムププ

どういうお話になるか楽しみにしています♪


竹島の名前って、虎太郎だったんだ。。。"φ(・ェ・o)~メモメモ
Re: ワ――゚.+:。ヾ(o・ω・)ノ゚.+:。――イ
コメントきえ | URL | 2011-03-10-Thu 06:55 [編集]
らぅら様
おはようございます。

> 今日の更新は無いと思っていたのに、覗いてみたら更新されてるぅ~♪
> しかもリクをお願い竹島だぁ~゚+。:.゚ヽ(*´∀`)ノ゚.:。+゚
> こんなに早く読めるなんて( ´艸`)ムププ

更新ない予定でしたが…。
ちと書いていたものをupしてみました(汗)
あっちもこっちもお話放置中なのに…また始めた…です(冷汗)
でも喜んでくださる方がいるので良かったー(笑)

> 竹島の名前って、虎太郎だったんだ。。。"φ(・ェ・o)~メモメモ

名付けはいつも苦労しますね~。
ハイ、覚えてあげてください。
コメントありがとうございました。
No title
コメントきえ | URL | 2011-03-10-Thu 06:58 [編集]
s様
おはようございます。

>今日はむりかな?と思いながらお邪魔しました(^^ゞ。大正解でした。竹島君?そう言えばいたような…。これから復習してみますね。お仕事お疲れ様です。

お忘れの方も多いと思います。
チラリとしか出てこなかった子ですから…。(私も忘れてて読み返したという…(´∀`;))
こちらも不定期更新になりますが、お付き合いいただければなーと思います。
コメントありがとうございました。
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