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BLの丘
心と魂 5
2011-02-20-Sun  CATEGORY: 眼差し
佐貫が自発的に呼吸をするようになったと栗本が教えてくれた。
「もう大丈夫だ…」と泣き喚く成俊の背を抱いてくれる。
「頑張ったよ…。佐貫は頑張った…。絶対に成俊君のことを置いていったりしないから…」
まだ目覚めはしないものの、一番の山場は越えたと、栗本にも安堵の色が広がる。
医学的なことは分からなかったが、栗本から張り詰めていた緊張の糸が切れたことが、なによりも成俊を安心させた。
嘘のない言葉だった。
絶対的な『大丈夫』を、今感じる…。

「ほん、とに…?…光也に会いたい…」
「あぁ、会える。そばにいてやってくれ。佐貫は誰よりも君に会いたいはずだから…」
目を閉じたままの佐貫を、どうにかこの世界へ呼び戻してくれと、願う栗本の心がある。
意識が戻るまで気を抜くことなどできなかったが、今生きていることさえ不思議に思うくらいの傷の負いかただったのだ。
命を枯らすことなく済んだ現実は、栗本にとってまさに『奇跡』というしかない。
互いに求めあった絆の強さなのか…。

眩暈を起こす身体を、栗本にまで軽々と抱き上げられるとは思いもよらなかった。
佐貫には鍛えられた頑丈さがあったが、比べてしまえばどうしたって栗本の方が細い。
それなのに…。
「栗本さん、お疲れでしょう。私が…」
看護師が成俊の体を譲りうけようとするのを、栗本に拒まれる。
「そんなに軟(やわ)にできていないよ。ドア、開けてくれるかな」
これ以上他人の手には触れさせないという気負いが見えた。
佐貫が護るものを、自分も手を掛けるという精神状態は譲原と変わらない。
一度穢された身体を、たとえ親切心でも他に触れさせないと、暗に含められる心遣いを成俊は感じ取っていた。
情欲がなくとも、佐貫以外の人に成俊の肌に触れさせることを佐貫は嫌い、きっと唯一許した相手が栗本だ。
長年の付き合いの中で、佐貫が何を望むのか、栗本は知っているのだろう。
逆らえるような雰囲気を持たせず、成俊は栗本の腕に抱かれて厳重に管理された部屋へと再び入った。
つい先程まで佐貫の口元を覆っていた酸素マスクは外されていた。
眠りについている時の、静かな呼吸が聞こえる。
「みつや…?」
ベッドの傍に寄せられた、座り心地のよい椅子に下ろされると、成俊は何のためらいもなく、その手を握った。
「光也?」
語りかける口調に反応は一切ない。

本当にこれが『大丈夫』なのか…????
不信感を抱きながら見上げた先、栗本の落ち着いた表情が見える。
「もっといっぱい話しかけてあげて。佐貫はきっと、帰る場所が分からないんだよ」

おとぎばなしの国かと思う…。
それでも壊れた砂の城を探しているのであれば、丘の上に立派な城を建てようと思う。
波に襲われることなく、砂のように脆くもない、もっと頑丈なもの…。
護られるだけでなく、自分も佐貫を護ろうとする力…。

どれくらいの時が経ったのだろう。
佐貫の手を握り締めたまま、眠りの世界に落ちていた。
彼の脇に寄り添うように埋めた額。
誰かが掛けてくれた毛布が背からするりと落ちていく。
寒さにブルリと震えたとき、掴んだ掌の中で動くものを感じた。
髪を優しく撫でてくれる大きな掌。
温めてくれるように動く指先は、冷えた頬を撫でた。
成俊が気付いたと分かると、懐かしい声が鼓膜を震わせる声がする。

「成俊…?」
「みつ…?!光也、分かる?!俺、分かる?!」
咄嗟に覚醒した記憶が、聞き逃せない言葉を耳にして一気に目覚めていく。
穏やかな笑みが成俊に向けられた。
「分からないわけ、ないだろう…」
声は掠れていたけど、はっきりと届く声音に佐貫が生きていることを改めて知った。

成俊は再会の喜びを感じながら、緊急コールを押した。
『どうしました?』
「だれ、か…」
ナースステーションの返しに、涙ぐむ声がどこに聞こえたのかも分からない。
真っ先に駆けつけたのは栗本で、目を開けた佐貫に驚きの表情を浮かべた。
だけどそれは必然的なもののようでもあった。

「ばか…」
到底患者に向けられるような言葉ではない。
だけど、全ての苦しみを背負ったような中で、叩ける憎まれ口は”感謝”に匹敵している。
涙した栗本に、成俊も、これは決して”運が良かった”程度では済まされなかったのだと悟った。

「このボンクラっ!!なにしてんだよっ!!!」
「わるい…」
平然と答える姿が憎たらしいのか…。
成俊以上に縋って泣きたいのは栗本なのだろう。
「どんな面して戻ってきた?!どれだけ、俺たちが…っ!!!」
途切れた言葉の奥には『嬉しさ』だけがある。
生活していくにはまだ不便な点があったとしても、『生きている』ということが成俊を始め、周りの人間を安堵させた。
精神的な安らぎは肉体を越える。
互いに護りたいものを抱え、手放せない状況に魂を繋ぎとめられているのかもしれない。

翌日、佐貫は病室を一般病棟に移された。
とはいえ、個室であって、面会できる人間も限られていた。

栗本は面会に来る警官らを決して成俊に会わせようとはしなかった。
何やら意味があるのだろうとは分かったが、佐貫の職場事情まで踏み込めないでいる成俊だった。
今はただ、佐貫が生きていてくれたことが嬉しい…。

*********

栗本は病室に訪れた警官に鋭い眼差しで、真実を伏せるよう願い出た。
これは佐貫にも知らせていないことだ。
佐貫が運び込まれた時、必死に謝ってきた若い男がいた。
『俺のせいですっ、俺が…っ』
『佐貫はそんなの、気にする奴じゃないから』
彼の身代わりとなって傷を追ったのは嫌でも知ることができた。
何かを護ろうとする態度は誇れるものもあるのだろう。
今となっては、目の前の彼が傷を負ってくれれば良かったとも言えない。
だが、残される人間はどうなのだろう。
1対1の状況で、どちらが傷つけばいいなどという答えはない。
佐貫が取った行動も、否定などできない。
誰にだって、死を悲しむ人間はいる。
佐貫は悲しむべき人間を一人二人と減らしたかったのかもしれない。
争いなどない世の中を望むのが佐貫の心だ。
だからといって、自らを失う犠牲は、やはり栗本には考えられなかった。
自分だったらどうなのだろう…。
何を捨ててでも、愛しい人の場所に走ってしまうだろう。
そんなところは精神の弱さなのだろうか…。

ここは任せて、と成俊を無理矢理食事の席へと追いやった時だ。
脇に座った椅子から、眠りにつく佐貫に悪態がつかれる。
「ほんと、おまえにはかなわないよ…」
囁いた言葉にも反応がない。
「成俊君がいなきゃ、戻ってもこないか…」
皮肉に満ちた言葉は、栗本が愛した人間を捨てた人物への嫌味のようにも聞こえる。
報われないと分かりながら求めた時は長く、諦める時は一瞬だった。
それでもなお、気遣う心を知るから、これ以上の苦しみを与えたくはない。
幸も苦も、憎しみも一身に背負ってしまった譲原に、佐貫からの最後のメッセージは、『生も死も』共にする、というものだ…。
非情と言うのだろうか。最後まで佐貫は「愛するものは一つ」と明言したのだ。
それは栗本にとって、燻り続ける彼の心を解きはなたせる、有り難いことだったのかもしれない。

「おまえが、いたからな…」

微かに聞こえた言葉は過去からのしがらみを全て知っていたのだと思わせる。
いつ、気付いたのだろう? 突然の声は栗本を驚かせてもいた。
「佐貫?!」
「ナリ…はどこだ…??」

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長い、長くなった…
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コメント

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No title
コメントきえ | URL | 2011-02-20-Sun 06:37 [編集]
K様
おはようございます。
ご一緒していました~

>一番乗り♪ 佐貫さ~んお帰りなさ~~い(ノд<。)゜。 でもまた一波乱ありますか……?(●´mn`)

一番乗り!!こんな朝っぱらからのご来店ありがたいですm(__)m
あー、いやー、もうこれ以上は…(成俊には…)
佐貫、帰ってきたし、あとはかってにらぶらぶでやってくれ…なんですけど…けど、けど…。
栗本も言いたいことはいっぱいあるんでしょうね。ってことでちょっと成俊視点から離れます。
コメントありがとうございました。
No title
コメント甲斐 | URL | 2011-02-20-Sun 23:36 [編集]
佐貫さんは警察官としても人間としても
とても立派な人で
たとえ傷つこうとも誰かを助けたり守ったりしてく人なのでしょう
でも、成俊さんにしてみたら
これからもこんなことがあるかもしれないと思ったら
怖くならないでしょうか
できれば成俊さんのためにも
もっと自分のことも大切に守ってほしいものです
No title
コメントらぅら | URL | 2011-02-20-Sun 23:56 [編集]
佐貫ォヵェリィィィィィ―。:゚(。ノω\。)゚・。―ィィ
どれだけ成俊を泣かせれば気が済むんだ(`・ω・´)

もう泣かすんじゃないぞ・・・(違う意味ではいいけどね。。。(・艸・`; ぁ…)

ちょっと視点が変わるみたいですね( ´艸`)
栗本視点かな?佐貫視点って言うのも読んでみたいなぁ~(ってお願いしてみたり。。。(笑))
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-02-21-Mon 09:50 [編集]
甲斐様
こんにちは~。

> 佐貫さんは警察官としても人間としても
> とても立派な人で
> たとえ傷つこうとも誰かを助けたり守ったりしてく人なのでしょう
> でも、成俊さんにしてみたら
> これからもこんなことがあるかもしれないと思ったら
> 怖くならないでしょうか
> できれば成俊さんのためにも
> もっと自分のことも大切に守ってほしいものです

誰でも守ろうとする精神が、今回は仇になりましたね。
そんなことを成俊も知ったら、気が気ではなくなると思います。
仕事に行かせるのが怖くなってしまう、まさにそうでしょう。
どれだけ成俊が苦しんだか知れば、佐貫も少しは…。
コメントありがとうございました。
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-02-21-Mon 09:56 [編集]
らぅら様
こんにちはー。

> 佐貫ォヵェリィィィィィ―。:゚(。ノω\。)゚・。―ィィ
> どれだけ成俊を泣かせれば気が済むんだ(`・ω・´)
>
> もう泣かすんじゃないぞ・・・(違う意味ではいいけどね。。。(・艸・`; ぁ…)

どんだけ泣かせれば…、本当ですよ~。
成俊、最初っから泣きっぱなし。
うーん、さすがうちのサイト、一番の不幸キャラ。
佐貫もようやくご帰還です。

> ちょっと視点が変わるみたいですね( ´艸`)
> 栗本視点かな?佐貫視点って言うのも読んでみたいなぁ~(ってお願いしてみたり。。。(笑))

佐貫視点ネェ…。
何を考えているんでしょう、あのボンクラオヤジ(爆)
コメントありがとうございました。
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