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BLの丘
白い色 33
2010-11-19-Fri  CATEGORY: 白い色
時は瞬く間に過ぎた。
夏を迎える前に直営店の店舗は完成し、求人募集をかけた人員もすでに確保できている。
実際、販売と総菜製造に関わる人は、主婦を対象にしたパートさんで、それは地域に根差しているとも言えていた。
とにかく『主婦』に買ってもらわなければ消費されないと、社長を始め社員は思っている。

営業部で一通りの引き継ぎ業務を終えて、新たなる世界に美祢は飛び込んだ。
経理課から同期の谷口桃子(たにぐち ももこ)が引き抜かれていた。
同じ年だからやり易いだろうという安直な考えで決定されたことである。(って、本人には言えないけど)
『抜擢された』という意味では、谷口は少なからず喜んでいる部分があったようだ。
そして、今年入社したばかりの空知寿(そらち こと)という、22歳の男の子が直営店の事務員に配置された。
谷口は美祢とほとんど身長も変わらない。
が、空知は高校生に間違われるくらいの童顔な作りだった。
細身の美祢でさえかかえてやりたくなる。

入社してからも、開店するまでの間、美祢の下で商品知識と価格を学んでいた。
余談とは分かっていても、知って損することはないと、美祢も引き継ぐ新入社員と共にあれこれと言い聞かせてきた。
無駄とも思える時間が、社員に余裕をもたせるのだとも思う。
そんな社長の配慮に、ありがたさを覚えたくらいだ。
従業員に払う給料に余裕がなかったら決してこんな無駄な時間は取らせてもらえない。
おかげで、空知には自社製品に対する愛着をもってもらうことができた。

販売店の事務所は狭い。
事務員と店長(駆と大翔の兼用だが)の席、他に、ちょっとした打ち合わせができる応接室と、パートさんが休める休憩室があった。
その奥に総菜を作る調理室があるが、品質管理のために、美祢たちも早々入れずにいる。
離れているようであるが、人付き合いの良さからか、特に隔たり感はない。
これは社長がモットーとする部分だ。
たまに社長も顔を出すが、嫌味を言うわけでもなく、励まされ、おかげで毎日が充実していた。

開店に関する話題を、地元の地域新聞でも取り上げられたおかげか、開店からの経過は上々だった。
調理師と栄養士の間で組み立てられた総菜は、『ヘルシー』と『物珍しさ』を全面にうたっていた。
特に夏には、売り上げが落ちる厚揚げやがんもの類も、『家ではしたくない煮物』と考えられるせいか、惣菜の売り上げは伸びた。
一番驚いたのは、夕刻に訪れる(たぶん一人暮らし)サラリーマンの数の多さだ。
好きな量で買える『量り売り』は、『気軽に食べたい一食分』に値するらしい。
直売店だからこその安さと品質管理もある。
そして、大豆食品という健康ブームも追い風になっている。

忙しい時には、事務所を放り出して美祢や谷口も店先に顔を出す。
味が分からずに躊躇う人には、率先して試食品を提供した。
これも直売所ならでの試みだった。
「これはね、…ヘタに味付けして煮込むより、軽く焼いて生姜醤油のたれでいただくのが一番だと僕は思っちゃうんですけどね」
まったくもって個人的な美祢の意見に、柔らかな揚げ豆腐に美祢の意見を反映させた味付けを施し与え、一口ほおばったサラリーマンが「うんっ」と頷いた。
市場にはあまり出回ってない品だった。
召し上がり方は好みだが、食べ方が思い浮かばず悩むなら、少しでも教えてあげたい。
そうやって製品を覚えていってほしい願いもある。
「これってどこで買えるかな?」
問われた質問に『手頃なスーパー』を聞かれているのは分かったが、美祢の知識の中で、近隣には浮かばなかった。
それくらい『大量生産』できない品だったのだ。
“たれ”のことまで加えた加工品なら、この店でしか販売していない。
「この”揚げ豆腐”はここでしか売っていないんです。その為の直売所なので…。お気に召していただけたら通っていただきたいですね」
美祢が柔らかな笑みを浮かべるとサラリーマンの頬が緩んだ。
「ここにきて売り切れって嫌だから、頼んだら取っておいてくれる?」
夕刻も遅い時間。
そこまでして買ってくれるのなら、うれしいこと、この上ない。
「はいっ!こちらに連絡をっ」
喜んで返事をした。
店の電話番号と自分の名前を伝える。
少なくても客の声を聞き間違えることなどない美祢である。

それが社交辞令だったとしても、自社製品を気に入ってくれた人がいたのだと喜んだ。
馴染むように通ってくれた彼の提案から、美祢は、数種類を組み合わせた”セット料金”というものを思いついた。
一人が1種類を買って帰るよりも、数種を組み合わせてくれた方が在庫は減る。
多少の割引をして単価が落ちても廃棄が減れば逆に利益は上がった。
直談判ではないが、国分寺家での会食の席で、何気なく口にしてしまえば、『現場の力』と捉えた社長と駆が即座に対応を示した。
「惣菜用のパックを用意しよう」
「客自身が計れる計りもいれたら?」
好みの具材を好きなだけ入れられる方式だろうか…。
なにより、『自社製品』を売り込む力が入っている。

とにかく、嬉しかった。
決して、大翔の足手まといになっていないのだと思えた瞬間…。

試行錯誤で臨んだ世界に新しい光が灯る。
自分自身もこの会社に捧げる身を感じた。
『育てていこう』
そう思った…。

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動きがない?!また足踏みした…。すみません。あと数話で完結します。もう少しお付き合いくださると嬉しいです。
ポチいただけるともっと嬉しです。
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コメント

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美祢、頑張ってる
コメントけいったん | URL | 2010-11-19-Fri 21:12 [編集]
美祢が 新しい仕事で バリバリ活躍する姿勢は
きっと 私生活でも 美祢の自信に 繋がって行く筈です。
いつも 不安感を 抱えている 美祢の精神面は いい方向に 動いてますよ、きえ様!!

この 生き生きと自信溢れる美祢が 大翔と もっと
素敵な関係になって欲しいです♪
(^^)ゞbyebye☆



Re: 美祢、頑張ってる
コメントきえ | URL | 2010-11-20-Sat 07:25 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> 美祢が 新しい仕事で バリバリ活躍する姿勢は
> きっと 私生活でも 美祢の自信に 繋がって行く筈です。
> いつも 不安感を 抱えている 美祢の精神面は いい方向に 動いてますよ、きえ様!!

充実してますね。
精神が落ち着くって何事にも良い影響を及ぼしますからね。

> この 生き生きと自信溢れる美祢が 大翔と もっと
> 素敵な関係になって欲しいです♪
> (^^)ゞbyebye☆

二人ともどんどんと良い関係を築きあげていくのではないでしょうか。
周りの苦労も少しはあるかと思いますけど…。
コメントありがとうございました。
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