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BLの丘
一番近いもの 56
2010-10-01-Fri  CATEGORY: 一番近いもの
こんなことってあるのだろうか…。
幾度も離婚を繰り返した母は、簡単に判を押した。
薄々感じていたのだという。
「男に運がないのよねぇ」
母は小さく呟いたがその表情にはすっきりとしたものが浮かんでいる。
まるでこれまでの過程を知っているかのようだった。
後ろめたさがあって、海斗は何一つ言葉を掛けられなかった。
一つを言えば全てが数珠つなぎのようにばれていくような気がした。
最後まで、父との『内緒』の空間を大事にしたかった。

すでに子供が手を離れているとはいえ、義父は母にこの先生きていくのに必要な生活費の全てを保証すると誓約書を書いた。
それは海斗に対しても同じことだった。
今更生活保護を受けるような身分ではないが、いつでも力になる、と文章は告げている。

ある会社の役員であった父にはそれなりの収入があった。
先祖代々から引き継いでいた会社だが親戚の手前もあるから表だっての力はない、と言ってはいた。
しかし与えられている役職や権限は平社員を越えている。
たとえ別れることになっても、まだ「愛している」と、繋がっていたい気持ちがあるのをそれとなく知った。
それを「我が儘」とは言えなかった。

母が拒絶をしない今、海斗も断る術を見つけられなかった。
母は今でも義父に愛情を置いていたし、義父は母にも海斗にも想う気持ちを持ち続けている。
ただ、「愛おしい」と思う相手が2人から3人へと増えた…ということなのだろうか。
全てを愛したい、選択ができなかった義父の感情もなんとなく分かる気はする。
海斗だって、父と鳥羽、そして有馬をそれぞれに想ったのだ…。

慰謝料、という形の金は、直接現金を見るわけでもなく、海斗名義にされた銀行口座に振り込まれていた。
残高を見に行くたびに桁が変わっていてどうしようかとも思う。
海斗の口座は義父の姓になった時点から始まっている。
父と母が離婚しても、母は旧姓には戻らなかった。
父の望みだったから…なのだろうか。
海斗も、姓などどうでも良かったから母に従うまでだった。
口座の残高は今では7ケタのくらいを越えた。

「義理の息子にここまでするかなぁ…」
出てきた通帳の中身を確認しながら、ポツリと言葉が零れる。
その奥底に潜む、人には言えない『愛情』があることをなんとなく感じて、嬉しかったが、それとなく隠した。

使う気はなかったから貯まっていくだけだ。
いつか、返そう…と海斗は思っていた。
だけどその時、本当に終わりを迎えるようで、今はまだ心の準備ができていない。

「海斗?」
背後で呼びかけてくる男の姿がある。
春からは研修医として、こんな余裕な時間は持てなくなる、と言っていた。
それでも内科や外科のように緊急事態に追い込まれないからまだましなのだとも…。

「なんか悩んでる?海斗専属の診療医をあなどんないでよね」
かくしごとなんかしようものならどれだけ追い込まれるのだろうか…。
「ばーか」
憎まれ口をたたいて逃げ出そうとする海斗を後ろから追いかけてくる。
「かいとぉ」
呼びかけられるその声が新鮮だった。
くっついてくる肌が人前なのに心地よい。
肌に触れてくる温かさを束の間、楽しみながら、最小限の躊躇いを見せる。
「けんたぁ…」

「まじ、犯しそう。その声、犯罪級」
そんなつもりはないが、受け止める方はまた違う意味を持つのだろうか。
いっとき、大希にも言われたことがあったなぁ…などとはもちろん内緒の話だ。
さりげなく寄せた鳥羽の唇が海斗の髪とこめかみを撫でた。
「いつだってそばにいてやる。不安になんかならなくていい」
まだ父への想いを捨てきれない海斗を、鳥羽は優しく包んでくれるだけだった。

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次、最後になりますので。
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