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BLの丘
策略はどこまでも 37
2009-08-05-Wed  CATEGORY: 策略はどこまでも
聞きたくもなかったから問い詰めるつもりなんてなかったはずなのに、久志から聞かされた『あいつ』っていう言葉に思わず反応してしまった。
久志にとって、誰かに手を出すなど日常的なことで、今更那智が気にかけることなどない。
頭では分かっていてもやるせない気持ちが心を埋め尽くしていく。思わず目頭が熱くなるのをなんとかやり過ごした。
一瞬気まずい顔をした久志から自分の腕を取り返し、再び歩き出した。
「那智…」
那智は返事をしなかった。
「さっきの話はまったくの冗談だし。うちの会社の連中があれこれ噂するのが好きなの、前に話しただろ。この前の研修のときに予約したはずのホテルがさ…」
「うるさい」
「なんだか手違いで部屋が違っちゃって」
那智の制止する声を聞き取れなかったのか、話し続けた久志も、言葉もなくキッと睨み上げられると、那智の視線に気づいたのか口を噤む。
こんなふうに起きた事を説明しようとする久志なんか見たことが無い。
それだけに、先程の彼が漏らした内容がただの噂でなく何かしら起きた真実であると疑いようもなく思えた。
「火のないところに煙なんか立たないって知ってる?なんかしらやらかしたからこうやってヒサだって俺に説明しようとしてるんじゃないの?!」

本当に何もなかったら、久志が動揺することなんてない。
それでなくったって、普段から堂々とした態度の久志が、会社の人間に言われた一言でここまで那智に事細かに説明しようとする姿が滑稽だった。
気付かなきゃ良かったと思った。初めてキスされた時の気持ちも、部室で襲われかけた時に感じたことも…。
初めて触れた久志の体温。温かな腕の中で優しく扱われた自身…。そこにある居心地の良さなど知らないほうがましだった。

那智は、悔しくて、情けなくて、惨めで、流れ出そうな涙を必死でこらえた。これ以上久志に向かって何かを言ったら、間違いなく自分の感情をぶつけてしまう。
人の往来の激しい町中で無様な姿を晒したくもなかった。
何もかも、最初から分かり切っていたじゃないか…と心の中で反芻するのに、一度久志に許してしまった心は開き直りの道を探せずにいた。
「那智、言い訳なんかじゃないって。別に何もないんだから怒るなよ」
「怒ってない」
「怒ってるじゃん」
「呆れてるんだよっ!おまえなんかを信じた自分をっ」
言うつもりのなかった言葉が零れて、那智の方が焦った。
これじゃあ、告白してるのと変わらないじゃん…。

ばつの悪そうな表情を浮かべて、那智はその場から早く去ろうと歩く速度を早めた。すぐ後ろで久志が先程よりも明るい声を上げた。
「ねぇ、それってやきもち焼いてくれてんの?」
「…ばっ、かじゃないっ。よくこの状況でそんなこと言えるなっ」
自分の顔が赤くなっていくのが分かる。久志に心を見透かされたようで恥ずかしくもあった。
久志がいつものようにニヤリと笑った気がした。
もう、これじゃぁ、どっちが責められているんだか分からなくなっちゃったじゃん…。

顔を見られたくなくて、俯き加減で久志から逃げようとした。咄嗟に走りだした那智に、慌てた久志の声が届いた。
「待てよ、那智。人にぶつかる」
久志の引き留めようとした逞しい腕が空を切った。久志の注意を脳の隅っこが掠めていった先、那智が注意を払うよりも早く前方から歩いてきた人間に体当たりをしてしまった。
体当たりをしたというよりも、抱きかかえられたと言うべきか…。

身につけられた服からふんわりとただようコーヒーの香り。えっ!?と顔を上げると、日本人離れした彫の深い顔。優しい眼差しが少し驚いたように那智を見下ろしていた。

「あ、ずみ、さん…?」

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こんなベタな展開があっていいのだろうか…(冷汗)
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