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BLの丘
囁きは今日も明日も 5
2010-09-07-Tue  CATEGORY: 囁きは今日も明日も
それから数日とたたずに、中條から電話がきた。
なかなか声掛けもできなかった自分とは差があるな…とすこしだけ落ち込む磯部だったりする。
正直、話題がつかめたとはいっても、なんと話を切り出したらいいのか、悩んでいた。
とても『わざとらしい』感じがしていたから…。

なのに、全く意識することなく、中條は、「明日A社に出掛ける予定があるんです。午前中で終わりますから、お昼なんてどうです?あ、一葉ちゃんのところでも食事はできますよ~」と明るく、目的地を示してきた。
要するに、朝比奈の勤める店を紹介しつつ、二人の時間も作ってしまおうという中條の誘いに、文句の一つも出てくることはない。
いや、中條がそこまで思っているかどうかは疑問だが…。

朝比奈を茶化すことが目的なのか、中條との気兼ねない会話を楽しむことが目的なのか、とにかく、磯部は次の日の予定を”商談”として、必要外の連絡を絶った。(いーのか、こんなことをして。営業さんよぉ…)
さすがに、黒板に『直帰』と書くのは躊躇われたが、まぁ、いざとなったら電話の一本でもいれればいい。(←お持ち帰り予定なんですかねぇ…)

店はビルの3Fという、非常にわかりづらいところにあった。
しかもビル自体が、雑居ビルといった雰囲気で飲食店があるようには思えない。
普段営業で出歩いているからこそ感じることだが、看板でもなければ視線はどうやったって上には向かない。
ここにはそれらしい看板の一つもなかった。
こんなところで…????と疑問に思いはしたが、店内に一歩踏みいれた時点でその趣向をそれとなく感じた。
完全な『隠れ家』だった。
ビルの中にあるとは思えない空間。
喫茶店というより、画廊に近いのだろうか…。

カラン…とレトロな音がして、客を迎えてくれる。
カウンターの中にいた黒いベストを着込んだ男と、ホワイトシャツに蝶ネクタイを合わせた朝比奈が、カウベルに反応した。
「いらっしゃいませ」
「しょちょ…?!」
若いながらも貫禄を備えたと分かる男の隣で、瞠目した朝比奈が目をぱちくりとさせる。

「え?一葉くん、知り合い?」
カウンターの中では、小さく呟いた朝比奈の声を聞き逃していなかった男が磯部と朝比奈を見比べた。
中條とはすでに面識があるようなのだから、その疑問は当然磯部に向けられているのだろう。
「あ…」と、振り返る幼い仕草に、相変わらず状況説明はヘタなようだな…と磯部の中で苦笑が漏れる。
「久し振り。元気でやっていたか?」
磯部が声をかけると、「えぇ…」と突然の訪問をまだ理解できていないようだった。

「磯部さん、こちらで良いですか?」
中條が磯部をカウンターに案内した。
口実が『朝比奈』にあったのだから当然なのだが…。
「えぇ、もちろん」
頷いて、カウンターのほぼ中央あたりに腰を下ろす。
中條も朝比奈に「久し振りだね」と簡単な挨拶をする程度に留めて、この不思議な状況を朝比奈に説明し出した。

「この前、偶然、享のうちの近くの定食屋さんで会ったんだよ。一葉ちゃんが勤めていることを話したら実感がなかったみたいだから、百聞は一見に如かずで連れて来ちゃった」
「”あの”朝比奈がこういうところで店員をやっているなんて聞いたら、誰だってイメージがわかないだろ」
「一葉ちゃんだってかんばっているんだよね。磯部さんがバリバリやりすぎるから一葉ちゃんの努力が見え辛いんでしょ」
「そんなことはないだろうけど、まぁ朝比奈が努力家だっていうのは認めてるよ」
「さすが。人を見る目は確かなようで」
「自分だって変わらないでしょ」
「おだてても何も出ないからね」

中條とは会うのが3度目だったが、前回の別れ際のことがあるからなのか、口調はかなりくだけている。
もともと緊張感を持つこともなかったから、それは自然な流れのようでもあった。
もちろん、こちら側の事情なんて知らない(中條がすでに話していることとは思えない)朝比奈が、やはりパチパチと睫毛を瞬かせた。
「え?い、いつから…???」
「「なにが?」」
意味の分からない朝比奈の質問に、同時に二人が答えてしまう。
そのタイミングの良さも笑えた。
「なにが…ってだってふたり…」
この要領を得ない話し方は健在なのか…と成長していない部分を感じながら、見比べられることに中條に視線を移せば、同じようにこちらを見た中條と視線が絡まった。
状況を理解できずにいるのは磯部と中條だったのか…。
さりげなく、朝比奈の隣から口添えがされる。
「いつから『お付き合い』されているのかって聞きたいらしいですよ」

営業としての『お付き合い』の意味ではないことは二人ともすぐに判断できた。
途端に、中條の眼鏡の奥の瞳が揺れた気がした。
…いや、年甲斐もなく心臓が跳ねたのはこちらもだったが…。

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お待たせしました。パソちゃん、ほんとに調子悪くなっちゃって…。
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