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BLの丘
囁きは今日も明日も 3
2010-09-01-Wed  CATEGORY: 囁きは今日も明日も
中條が入ってくるのと、ほとんど時間をあけることなく、おかみさんが外に出していたのれんをひっこめるのを視界の隅に見た。
時間ギリギリで飛び込んできたことを店主もおかみさんも何も言わなかった。
店主が出してくれた料理は二人とも違っていた。
中條は『残り物でいい』とはっきり明言していたし、それはこの時間には今日の仕込んだものが終わっているのだと知っての発言だったと磯部も納得した。
そういう磯部自身、漬物をサービスされたことから、本来のメニューにはないものなのだと気付く。

「悪いね。家庭の料理みたいになっちゃって」
それでも磯部には気を使ったのか、小ぶりながらほっけの干物焼きがメインのきちんとした定食が届いた。
一方中條には肉と野菜をシンプルに炒めたものが出てくる。
「こんな時間に来て、無理に作ってもらっているようなものなんだから。お米と塩があるだけ嬉しいよ」
中條は相変わらず微笑んでいた。
人に対して、たとえどんなことでも『感謝の心』を忘れない中條なのだと知れば知るほど、疲れた心が癒されるような気がした。
人の上に立ち、筋違いと思いながら思わず愚痴が零れてしまう日常を振り返ってしまう。
彼の部下がどのような状況で働いているのかは知ることなどないが、『働きやすい環境』を整えていることだけは確かだな、と心底感じた。
見目の若さからは想像できないほど、敏腕をふるっているのだろう。
隙のない言葉の端々からもそれとなくオーラは感じた。

目の前に届いた野菜炒め定食を眺めながら、中條が「お父さん、これ、作り過ぎっ」とささやかな文句を並べる。
「僕、動かなくなったから、体重、増えるだけって前にも言ったじゃん…。磯部さん、半分とって」
残すことが悪いことなのだとはよーく理解していたが、さすがに1.5倍くらいの量を平らげられるほど若くはなかった。
「ちょ、ちょっと待って。俺だってさすがにそれは…」
「じゃあ、ほっけ、半分もらうから」
いわゆる”交換こ”が当たり前のように発生して、違っていた定食はあっという間に”同じもの”に変身した。
「それなら納得」
ついでに、先に出してもらった漬物も間に置く。

中條は体型を気にしているようだったが、しばらく会っていなくても変わっているところなど見受けられなく、むしろ、きちんと栄養は取ってほしいと思ったくらいだ。
スーツの上からは筋肉質、とは見えないし、自分よりも小柄で、たぶん175センチ少し、と見れば『やせ形』と言えるのではないかと心配すらする。
(中身を見ていないから何とも言えないが…)

「そうか…。最初からそうすれば良かったなぁ」
なんとか二人分を揃えた、という店主から感心したような声が漏れれば、中條同様、磯部に対してもある意味”家族”として扱っても大丈夫といいたい心境が見え隠れしていた。
それは今までの磯部の人柄と、中條と触れあう時間から導き出された答えだったのだと思う。
これまでの磯部の存在は”客”だったし、粗相がないように、と思っていたのだろう。
だが、中條を前にすることで、細かいことは気にしない磯部の性格をつかんだようだった。
こういった態度は、磯部にとっても、親近感が持てるという意味で、非常に嬉しいことだった。

「一葉ちゃんが喫茶店で働き始めたこと、知っていました?」
食事の合間にも分かり易い話題を振ってくるところはさすがだ。
朝比奈の行方は詳しくはなかったから、素直に驚き、接客が可能だったのか…と食べる箸が止まってしまった。
「朝比奈…が、ですか?」
「享がずっとコーヒーの淹れ方を教えていたんですけど、たまたま求人募集があったみたいで。その腕を買われた…のかな」
「朝比奈が…ですか?」
馬鹿みたいなオウム返しが続いて中條が笑う。
「なーんか、すごーく、納得いかないって感じですね。セールスはやっぱり苦手だったみたいですけど、あーゆーところはまた意味が違いますからね。一度訪れてあげてください。喜びますよ」
朝比奈の性格は中條も理解しているようだ。
店の営業が目的か私的な意味があるからかは判断できないが、中條は「昼間しかいませんけどね」と続けた。
気になることは確かだったが、聞いた店に、わかりきったように訪れるのも抵抗がある。
そんな磯部の心境を察知した中條がまた笑った。
「僕でよかったら、お付き合いしますよ」
さり気ない誘いには、『ありがたいな~』とちょっと思った。
そして、その約束は、これまで話題すら見つけられなかった中條と、また会う口実に使えると内心で喜んでいる自分がいた。

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喜ぶのはビジネスのためかプライベートな意味でか…(営業さん)
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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2010-09-01-Wed 09:00 [編集]
磯部さん、なんだかあったかい感じでいいひとですよね~
仕事が終わっても部下を思いやったり、辞めていった人を気にしたり

”中身を見ていないから何とも言えないが…”っていうの、それって「見てみたい」と言ってるみたいに聞こえるのは考えすぎでしょうか
そして、うれしいんですね、中條さんとまた会えるのが…

ん~なにか面白いことがはじまりそうで、こっちはこっちで楽しみです
Re: No title
コメントきえ | URL | 2010-09-01-Wed 09:36 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 磯部さん、なんだかあったかい感じでいいひとですよね~
> 仕事が終わっても部下を思いやったり、辞めていった人を気にしたり

やっぱり上に立つ人間の人柄ってものでしょうか。
温かく包んでしまう…。

> ”中身を見ていないから何とも言えないが…”っていうの、それって「見てみたい」と言ってるみたいに聞こえるのは考えすぎでしょうか
> そして、うれしいんですね、中條さんとまた会えるのが…

ただの営業活動で人脈を広げていく…っていう程度のものではなさそうですね。
話しやすい、とか、心地いい、とかって自然と伝わってくるのだと思います。
たぶん、そんなのを前回会ったときから感じていたのではないでしょうか。

> ん~なにか面白いことがはじまりそうで、こっちはこっちで楽しみです

この二人もいい大人なので…(どっちに転ぼうか今考え中)
コメントありがとうございました。
次の 約束 GETだぜッ!
コメントけいったん | URL | 2010-09-01-Wed 17:27 [編集]
磯部っちは もう 中條に ロック・オンされたのか!
ただの 会話の流れで なったのか?

でも 磯部っちが 中條に 惹かれ始めてるのは 確かですよね、恋愛感情を 自覚なしだけど...

事の成り行きは 中條次第ですか(*^o^*)...大人ですからね...byebye☆

Re: 次の 約束 GETだぜッ!
コメントきえ | URL | 2010-09-01-Wed 20:08 [編集]
けいったん様
こんばんは。

> 磯部っちは もう 中條に ロック・オンされたのか!
> ただの 会話の流れで なったのか?

ロックオンされているんですかね~ぇ?
今のところ、まだ会話の流れの一部なんです。
でも好感度はうなぎのぼり…????

> 事の成り行きは 中條次第ですか(*^o^*)...大人ですからね...byebye☆

ど、どうなんでしょ…(汗)
まぁ間違いなく主導権は握りそうですね。
コメントありがとうございました。
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