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BLの丘
Present 38
2010-03-19-Fri  CATEGORY: Present
鹿沼の前で、雅臣の心はグズグズと崩れ出した。
先程まで喧嘩腰で北本とやり取りを続けていた自分が、いかに虚勢を張っていたのかと思う。
走馬灯のように駆け巡っていた『幸せだった時』が『ただの思い出』に変わる瞬間のようだった。
思い出しても苦しくもない。鹿沼とのことと比べようとも思わない。
何一つ取り繕う必要がなくなった存在は唯一のもの。
北本の台詞を聞いて呆れられるのではないかと脅えたことも、雅臣を素直にさせた要因かもしれない。

「おまえのこと、すごい待たせちゃったけど…、甘えてばっかりかもしれないけど…、龍太がいなくなったらどうしたらいいかわかんないよ…」
「雅臣さん…」
鹿沼には驚きと嬉しさとが混じった表情があった。
北本を前にしてはっきりと結論付けてくれるとは思っていなかったのだろうか。

鹿沼の背後で、ふぅ…と北本が溜め息を漏らした。
「戻ってくるかなってちょっとは期待したんだけどな。まさか本当にここではっきり言われるとは…。昔っからこいつ、ビービー文句並べ立てる割には肝心な時にダメで。すぐ流されるっていうか。だから曖昧にしたまま洗脳でもしようかと思ってたけど」
「馬鹿なこと言ってんなっ!」
北本の前で告白劇を繰り広げたことに、雅臣には恥ずかしさもあったが、やっぱり文句を紡ぎ出す口は止まらなかった。
おまけに『洗脳』って…。
鹿沼の腕の中から離れた雅臣に北本が近づいてくる。
「雅さぁ、この前『人は変わる』って言ったよな。もしこいつが心変わりでもした時には、俺んとこに来いよ。次は絶対に手放さないから」
「未練たらたらですね。でもそれはありえませんから。雅臣さんが俺から離れないようにしますから」
北本に対して鋭い視線で鹿沼が答えれば、ヒューと北本の口が鳴った。
「そりゃまぁ、えらい自信だな。ま、なんにせよ、あんたは見る目があったってことだよ」
鹿沼から改めて伝えられたことに雅臣の胸がほんわりと暖かくなる。
心の中に宿っていた不安や恐怖が少しずつ剥がれていくようだ。
北本の苦笑いを目にしながら雅臣は、昨日見た家族に向けた優しい眼差しを思い出した。
自分と一緒では、子供も持たせてやることはできなかった。
今となれば、北本は正しい選択をしていたのかもしれない。

「ヨシも…。僕なんかのことより、家族を大事にしてあげて…。興信所なんていう騒ぎ、もう起こすなよ」
「次もおまえが相手だったらマジでブチ切れられるだろうな」
北本はフッと口角をあげていたが、また謂れの無い因縁をつけられるのはごめんだ。
睨み上げた雅臣を気にした様子もなく、冗談を繰り返す北本は、ことのきっかけを『未遂』と言ったくらいだから他に間違いもないのだろう。
ようやく、話は済んだ…という感じで北本の足が入ってきた方向へと向かった。
「興信所って?」
問いかけてきた鹿沼には悪かったが、一旦手で制して、後で説明すると目配せをして北本を追った。
もちろん鹿沼もついてきたけど。
たぶん、もう会うことはないんだろうな、と広い背中を見つめる。
以前の別れの時はこんなに落ち付いてなどいなかった。
喉が痛くなるくらい「別れたくない」と喚き続けて、それでも置いていかれて何日も泣き続けた。
それすらも今では『いい思い出』なのだ。
鹿沼がいるから、こそ。

ただでさえ狭い玄関口に男が3人も揃えば窮屈さが増す。
靴を履いた北本が振り返ると、雅臣の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「本当に悪いことをしたと思っている。雅が幸せにならなかったら、俺も幸せじゃないんだって思っていろよ」
『幸せになれ』と言わないあたり彼らしい。
それが彼なりの心遣いなのだとは雅臣が一番よく知っていることだった。
「ありがとう…」
「雅を頼むな」
「もちろんです」
北本に対して鹿沼にも歩み寄りが見えた気がして、雅臣は瞼が熱くなった。

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コメント

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いい思い出
コメント甲斐 | URL | 2010-03-19-Fri 13:38 [編集]
やっと過去の辛かった恋に終止符を打っていい思い出に変えることが出来ましたね。
そうしたら、今のこの恋にも体ごとぶつかっていけるってもんですよ。

北本も酷い振り方をして傷つけていたことが自分の傷になって残っていたのかもしれませんね。
きっかけがあれば謝りたいとか、思っていたのかもしれないなと思いました。
そして、もし雅臣が不幸だったら今度は力になりたいというのも嘘じゃないと思います。
雅臣さん男を見る目なかったね、と思ってましたけど、ちょっとはいいとこあったかもね。
(でも、やっぱり、この男じゃ男も女も幸せにはなれない気がするけど)
Re: いい思い出
コメントきえ | URL | 2010-03-19-Fri 15:59 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> やっと過去の辛かった恋に終止符を打っていい思い出に変えることが出来ましたね。
> そうしたら、今のこの恋にも体ごとぶつかっていけるってもんですよ。

やっと、やっとです。
鹿沼の今までの努力が実を結びそう…。

> 北本も酷い振り方をして傷つけていたことが自分の傷になって残っていたのかもしれませんね。
> きっかけがあれば謝りたいとか、思っていたのかもしれないなと思いました。
> そして、もし雅臣が不幸だったら今度は力になりたいというのも嘘じゃないと思います。
> 雅臣さん男を見る目なかったね、と思ってましたけど、ちょっとはいいとこあったかもね。
> (でも、やっぱり、この男じゃ男も女も幸せにはなれない気がするけど)

きっと何かしら気にかけていた北本だと思います(思いたいです。
あんな別れ方をして、いまだに傷ついている雅臣を知ったからこそ、最善をつくしてあげたかったのかと…。
雅臣の中ではやっぱり「いい男」のまんまなんですかね。
幸か不幸か、捕まった妻はどう思っているのでしょうか。
こめんとありがとうございました。
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