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BLの丘
Present 3
2010-01-14-Thu  CATEGORY: Present
各フロアの廊下の端には自動販売機と小さなテーブルを備えた休憩スペースがあって喫煙室も隣接している。二人とも煙草を吸うことがなかったから、てっきり休憩スペースに向かうのだと思っていたら、手前の応接室に連れ込まれてしまった。
「話を聞かれたらまずいでしょ」と至極当然のように言っている。
こんなところで二人きりでいるほうがもっとまずいんじゃないかとあやぶんでしまうが…。
整えられたソファセットに座ることもなく、壁側に並んで立った。
「さっきの誤解、ちゃんと解いておいてよ。あとで変な噂になったら困るから」
「さっきの…って?…ああ、由真(ゆま)ちゃんが言ってたこと?まぁ、確かに常陸さんが原因で寝不足になったわけじゃないけど…」
雅臣も他の部の社員の苗字くらいは覚えていても名前までは記憶していなかった。鹿沼は親しい人たち、特に年下のほとんどの人間をファーストネームで呼んでいる。それだけ親近感があるということなのだろう。
「そう、そのこと。鹿沼の寝不足の原因をなんで僕のせいにされなきゃならないの」
「ねぇ、どうせだったら事実にしちゃいません?」
「しちゃいませんっ!」
鹿沼と会話をしているといつもこんな冗談ばかりだった。…調子を崩される…。
言葉の裏にどんな意味が込められているのかはさすがに雅臣でも理解できたが、さらりと願い出る神経には感心するやらあきれるやら…。欲望という波間にうずもれ、身体を酷使しての寝不足なんて誰にも知られたくない。
ピシャリと言い放ったつもりでも、やはり鹿沼は懲りていなそうだった。

くだらない話で時間を潰したくもなく、雅臣は昨夜届いた荷物の事を切り出した。食べ切れないんじゃないかという量が入っていたと説明したが、一向に鹿沼は取り合おうとしなかった。
「今日で会社終わっちゃうのに今更取りにも行けないでしょ?配らなくていいです。それに大丈夫ですよ、そんなに早く傷んだりしないから」
「そうかもしれないけど…」
「休みの間、二人で食べれば消化できますよ」
確かに鹿沼は、食の細い自分とは違って良く食べそうだ。これだけの身体と行動力を維持していくために必ず必要なエネルギーを確保しなければならないはずだ。
問屋の人間は鹿沼の体型を見てあの量を送ってきたのかもしれないとも思えてきた。
鹿沼を家に招き入れるのは初めてのことだった。へんな緊張感があるが、鹿沼の態度を見ていれば友人として過ごせそうな気がしてくる。それ以上の関係に陥ったら傷つくのは自分たちだ。
雅臣は過去に体験していたし、それを鹿沼に味あわせたくない。そろそろはっきりさせなければいけない。そんな思いから今回の話を受け入れたのだろう。

「余ったらちゃんと持って帰ってよ」
「はいっ」
万遍の笑みを見せながら返事の後には「喜んでっ!」と言葉が続いていたけど、あえて耳にしなかったように、雅臣は自分の働くフロアへと戻ることにした。
鹿沼の『眠い…』はすっかり消えたようだ。

一年の労働を終え、帰宅して食事を先にしようか風呂を先にしようかと悩みながら、明日は早起きをしなくていいのだという甘えからゆっくり酒でも煽りたいと思って結局風呂が先になった。
風呂から上がる頃には帰ってきたときとは違って部屋もだいぶ暖まっている。2LDKの作りだったが、LDKが一つの空間となっているためかなり広く感じる。しかもリビング部分にしかテーブルを置いていなかったし、小洒落たリビングテーブルではなく実用的なこたつだったから、キッチンからの距離が無駄に長く感じた。
壁に張り付くようにして流し台とコンロが備えられている。どこからも丸見えになるキッチンだったが、男の一人暮らしで気を使うものもいない。
家具がもっといっぱいあればまた違うように見えるのだろうが、あるのは本ばかりで、それも旅行に関するものばかりだった。書棚に入りきらないものが床から直に積み上げられている。それらがなければもっと殺風景な部屋になりそうだ。

風呂上がりに前ボタンのパジャマとはんてんを着込み、晩酌と食事の準備を整えようやくこたつに入って、最近凝っていた芋焼酎のふたを開けたところに玄関の呼び出し音が鳴った。
いつもに比べれば確かに早い帰宅時間ではあったが、こんな夜分に訪れてくる人など頭に思い浮かばなかった。
まさかまた宅配便じゃないだろうな…と思いながら部屋に備え付けのインターホンのモニターを覗きこめば見たことのある顔がモニターに顔を近づけていて、それはどアップといって良かった。
「か、かぬまぁ?!」
「はい。お言葉に甘えて来ちゃいました♪」
語尾におんぷとかハートマークなどが付いていそうなくらい、モニター越しでもその声は嬉々としていた。
雅臣としては呼んだ覚えもない。『年末年始に…』と確かに鹿沼は言っていたが、誰が聞いたってそれは今日から…ではないだろう。
このままモニター越しに会話を続けるのは気分の良いことではないし、近所の目もある。最新式の建物ではなかったからエントランスのセキュリティーも備わっていなかったし直接玄関に辿り着けたわけだ。
慌てて玄関に走り寄り鍵を開ければ、一度家に戻って着替えてきたと思われるダウンジャケットを羽織った姿の鹿沼が佇んでいた。
普段は凛々しいと思う姿も私服になってしまうとかなり印象が変わって逞しさのほうが際立つ。
手には2本の一升瓶が入っていると思われる化粧箱と大きなバッグが肩から下げられていた。
化粧箱を除けばまるで今から旅行にでも行くのかといういでたちだった。
部屋着のままの雅臣に一瞬見惚れたかのような視線を見せつつも、とっさに取り繕う姿がうかがえた。
「部屋ん中はやっぱりあったかいですねー。あー、しあわせっ」
「どうぞ」と言う間もなく、三和土に上がり込んだ鹿沼は呆然とする雅臣に化粧箱を渡した。
「いくら食材が届いている…っていってもねぇ。御挨拶代わりですから」
体格の良い鹿沼が狭い玄関に入り込んでしまえば雅臣は後ずさるしかない。玄関の扉が完全に閉まった音の後で、鹿沼がドアに鍵をかけた。

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コメント

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コメントたつみきえ | URL | 2010-01-14-Thu 08:35 [編集]
MO様
おはようございます。
ものすごい良いタイミングでお会いできました♪

>新しいお話を、ありがとうございます。まだ過去の失恋に囚われている雅臣ですが、お正月休みを ずっと一緒に過ごすつもりの鹿沼に振り回されちゃいそうですね。「Present」の意味も含めて、どんな展開になるのか、更新を楽しみにしています♪

本当はもっと早くに立ち上げるつもりだったお話なんですけど…。
前作(英人と千城)が意外に伸びて…。
季節感のない世界ですが、どうぞお付き合いくださいませ。
心を閉じきってしまったような雅臣をどんなふうに調理するのかな~鹿沼君。
美味しいおせち料理とかたくさんあるのでエサで釣ります。
"Present"
言葉通り与えるものです。なにが届くかはお楽しみに♪
コメントありがとうございました。
元気だけが取り得みたいな好青年?鹿沼。でも好きかも
コメント甲斐 | URL | 2010-01-14-Thu 13:04 [編集]
鹿沼くん積極的だなー。
今までにないタイプだ。
これまで抑えていた年月の分一挙に溢れてきたって感じでしょうか。
彼をそうさせる何かがあったんですかね。ガンバレ!

年末といえば、英人君がうだうだぐるぐるしていたあの頃の時間軸でしょうか。
同じでも違っててもリンクしているわけでもないと関係ないっちゃないんですけどね。ちょっと思い出したので。
Re: 元気だけが取り得みたいな好青年?鹿沼。でも好きかも
コメントたつみきえ | URL | 2010-01-14-Thu 14:00 [編集]
甲斐様

こんにちは。またタイミング良く…(今日は本当にいい日)

> 鹿沼くん積極的だなー。
> 今までにないタイプだ。
> これまで抑えていた年月の分一挙に溢れてきたって感じでしょうか。
> 彼をそうさせる何かがあったんですかね。ガンバレ!

何かあるんだと思います。
年下君、一気に登りつめます。
下の子って、並ぼうとするんですかね~。
体育会系、負けず嫌い。地で行く鹿沼です。


> 年末といえば、英人君がうだうだぐるぐるしていたあの頃の時間軸でしょうか。
> 同じでも違っててもリンクしているわけでもないと関係ないっちゃないんですけどね。ちょっと思い出したので。

リンクはしないんですけど…。(してもいいかも。どこかになにか出入り口があるかな???)
英人がうだうだぐるぐるしていたのはもうちょっと前かなぁ。
年末も押し迫ったところなので、神戸が怒り狂っていたあたりだと思います。
あ、年明けのほうが悲惨だったかな…。

コメントありがとうございました。
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