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BLの丘
雛鳥の巣立ち 20
2010-01-08-Fri  CATEGORY: 淋しい夜
レストランを後にするとき、初めて父の肌に触れた。触れてみたかった…。
かつて自分を守るように抱きかかえてくれた逞しい腕はどこか細く感じた。自分が成長したのか、父が年老いてしまったのか…。
縋りついた英人を守るような仕草は昔と何ら変わりがなかったが、守りたいと思う姿は千城とも違っていた。
これが『親』というものなのだろうか…。
父の全身から溢れる思いは「愛している」と言ってくれる千城と変わらないことなのに、打ち寄せる想いの波は全く異なった。英人を包み込み手放したくないと胸の奥から伝わってくる。それでもいつか巣立つ『息子』の幸せを誰よりも願うと英人をかこんだ身体がそっと離れた。

「ありがとう…」
英人は千城との関係を許してくれた父に感謝の心を述べた。
反対されてもおかしくない状況にありながら、全てをうけとめてくれた父に綺麗な言葉など浮かばない。
『ありがとう』…。
それしか言葉が浮かばなかった。

「誰よりも幸せになってくれ。何よりもそれだけを望む。英人が満足いく環境が俺の全てだ。朝子だってそれを望んだ。後ろ指を指されることなどない。おまえが生きたいように生きればいい。…辛い目に合わせて済まなかった…」
最後の言葉は痛いほど英人の胸を刺した。
父が家族を手放してどれほどの後悔を負ったのか、想像の域を越えた。
愛した女と血を分けた子供がどのような生活を送っているのか、彼の中では理想を掲げることで納得したかったのだろう。苦しい生活をつらいと思っていたのは自分だけではなかったのだ。母も数多くの後悔をしていたのかもしれない。その姿を英人に見せることはなかったが…。
苦しく薄汚れた過去に色が付いた。千城に会えるまでの全てがようやく意味を成したような気がする。
時を戻すことなどできないが、今後を埋めることは少しでもできる。
抱きしめた肌を感じながら、英人はまた会いたいと切に願った。
千城はニューヨークによく飛ぶ。そのたびに自分が同行できる保証などなかったが、できることなら死が訪れるまで何度でもこの地を訪れたいと思った。
今からでも遅くない。親の愛情を感じたかった。
千城の母が抱きしめてくれたように、自分も湯沢を父親として認め愛されたかった。

激しく降り注いでいた雪が3日ぶりにやんだ。まるで英人の心が落ち付く時を待ち送り出すかのようだった。
夕食を共にした後も連日親子は同じ時を過ごした。乾いた過去を潤すかのように知らなかった時間を語り合った。初めて正面から見つめた父の瞳は自分と同じ色をしていた。
空港でキャンセル待ちをした乗客は多数に及んだが、優先的に案内される千城と英人にはあまり危機感がなかった。
空港まで見送りに来た『記者』は周りにはびこる著名人の情景を写真に収めながらも英人たちを映すことはなかった。
そのカメラを千城が手にし、並んだ英人と父の姿を収めてくれた。産まれて初めて親子として記録を残した。父はカメラのレンズをのぞくばかりで自分が映ったことなどない。

「今年もまた英人の個展を開く予定です。その時には是非日本へ…」
千城は今年の予定を口にした。日本への帰国を望んだのは千城だけではない。英人も自分が暮らす中で逢えたら嬉しい限りだ。
今の自分があるのは父のおかげだった。影ながら支えてくれた親にこみ上げるものがありすぎて英人は嗚咽をとめられなくなった。
「頑張ったんだな…。嬉しいよ。俺の息子だ。自慢したい。俺もお前の恥とならないようにここで頑張るよ。また会おう」
抱き止められた肌を生涯忘れないと心に誓った。日本でまた会う約束をした。自分の個展に父が訪れてくれる…。彼の血を受け継いだのだとはっきりと自覚できる瞬間でもあった。


日本に戻って何よりも恐ろしかったのは神戸の存在だった。
千城は『神戸も楽しんで来いと言っていた』なんてのたまっていたけど、本当に神戸がそのような言葉を千城に残したとは考えられない。正月休みからすでに一週間が経過している。
帰国したその足でとりあえずオフィスに向かった。夕方になってしまったけど、まだみんなは働いている時間だ。
付いてこなくてもいいというのに千城は「送る」と聞く耳を持たずに共にオフィスに辿り着いた。
オフィスに入ると、数人いた社員から新年のあいさつをされ、続いて入ってきた千城に度肝を抜かれていた。それらを曖昧に交わしながら一番奥にいる神戸へと視線を投げた。
入ってきた英人と部外者の千城の姿を見つけるなり、穏やかだった神戸の表情が一瞬にして堅いものに変わる。
次の瞬間、バシンっと書類の束をデスクに叩きつけて神戸は立ちあがった。
ビクンと竦んだのは英人で、こんなに怒りを露わにした神戸を見たことがなかった。
神戸の傍に寄れず、デスクを幾つも挟んだところで英人は立ち止まってしまった。
…やっぱり千城が言ったことなんて嘘だったんじゃん…。甘えて楽しんだのは自分だったけどさ…。
「スケジュールを立てていたのなら先に言ってよっ!英人君の穴埋め、どれだけ大変だったと思ってんのっ?!野崎さんに聞けば年末から予定を組んでいたっていうじゃないっ。天候不順は仕方がなかったとしても、飛び立つことくらい先に教えてくれなきゃ年始早々振り回されるっていうのっ!損害賠償の請求書、きっちり送らせてもらうから!!」
やけくそのような甲高い声がオフィス中に響き渡って、大人しく働いていたスタッフたちが何事かと神戸を視界に入れていた。
実際に損害が発生するような事態になることはなく、神戸が滞りなく処理してしまっているのだろうが、迷惑料の一束も貰わなければ気が済まないと言ったところだろうか。
思いつきで飛んだわけではないのだと今頃になって英人も知った。きっと父にも以前から都合を聞いていたのだろう。
英人に何一つ相談のない行動はいつも驚かされる結果をもたらしてくれるが、それが嫌だと思ったこともなかった。千城が英人のことを思ってくれているのは良く分かりはするのだが、こうして誰かが迷惑を被るのはあまり歓迎できない。
神戸は相変わらず英人を怒るよりも千城に苦情をぶつけていた。事の発端は必ず千城にあると熟知している。
「あと、今年は千城のスケジュールも野崎さんに送ってもらうことにしたからね。どうせ英人君に聞いたって英人君も知らないんだろうし。野崎さんが一番強い味方だよ」
英人は直接怒られなかったことに少しだけ胸を撫で下ろしていたが迷惑をかけたことへの申し訳なさは募っている。野崎を味方につけたという神戸と千城の我が儘ぶりは、今年どちらに軍配があがるのだろう。
キャンキャンと吠えたてる神戸に千城は懲りた様子もなく「はいはい」と適当な返事を繰り返していた。
数日して無記入の小切手が届いた時、神戸は本当に呆れたと盛大な溜め息をついていた。

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コメント

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神戸さん許して!!
コメント甲斐 | URL | 2010-01-08-Fri 12:29 [編集]
有意義な旅行ができてよかったです。
これで、だんだん親子の絆ができて英人君も少しずつ強くなっていけますね。

無記入の小切手ってねぇ。
きっと神戸さんはゼロいくつもつけて換金するなんてことせずに、永久保存して事あるごとに見せ付けながら何かと千城さんを脅かすんじゃなでしょうか。
英人君のためになるというのに千城さんが反対して了解しないときとかね。
個展とかの宣伝でかわいい英人君を人前に出したり、仕事で出張させたりするときとかね。
Re: 神戸さん許して!!
コメントたつみきえ | URL | 2010-01-08-Fri 14:38 [編集]
甲斐様
こんにちは。

許しちゃいますとも、神戸氏は…。

> 有意義な旅行ができてよかったです。
> これで、だんだん親子の絆ができて英人君も少しずつ強くなっていけますね。

どんどんと自信がついてくる英人だと思います。
千城の愛も受け取ったし、父からの思いも感じているし。
千城両親からもいっぱい愛されるんじゃないでしょうか。

> 無記入の小切手ってねぇ。
> きっと神戸さんはゼロいくつもつけて換金するなんてことせずに、永久保存して事あるごとに見せ付けながら何かと千城さんを脅かすんじゃなでしょうか。

神戸氏は換金しないでしょうね…。
甲斐様の想像通り、なにかしらの脅しに使われそうです。
千城さんのことだから、事あるごとに何枚も小切手を用意してそうですね。
英人のためなら金は惜しまねぇよって感じで…。
そのたびに一枚ずつ英人に返却されそうです。
(給料の変わりでもいいんじゃないの?っていうか、英人、お給料いらないでしょ)

きっといろーんな処理は野崎さんが頑張ります。
尻拭いしてくれる人が何人もいてくれて幸せなこのお二人です。
神戸ってば野崎とも日野ともくっついちゃって最近アヤシイあたましか浮かんでこなくなった私です…。
こめんとありがとうございました。
Re:
コメントたつみきえ | URL | 2010-01-09-Sat 06:42 [編集]
MO様

おはようございます。

>親の愛情を信じることができ、英人は本当に幸せになれますね。神戸は野崎も引き込んで、日野の所で千城の愚痴三昧になりそうですね~。榛名グループの後継者である千城の立場を思い、任務に忠実であることを最優先した野崎が、一番 貧乏クジを 引いたのではないでしょうか?千城の両親が認めた後の野崎の立場は、どうなんでしょう?いつまでも憎まれ役では、そうとうストレスも溜まってそう・・・

英人だけでなく千城も一緒にはばたいていけそうです。
もう一人じゃないんだから…。強くなれたのではないでしょうか。
日野のお店には色々な人が集まりそうですね。(そろそろお店に名前でもつけないと?!)
野崎のストレスも相当なものでしょう。
でもたぶんこの人が一番しっかりしているから…。
それに榛名家から絶大な信頼を頂いていますからそっちの思いで頑張れるんじゃないでしょうか(すごいいい加減なレスですよね(^_^;))
いつもコメントありがとうございます。
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