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BLの丘
雛鳥の巣立ち 17
2010-01-05-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
『この年末に何考えてんのっ!!』
神戸が怒鳴ったのは英人ではなかった。電話越しに怒り狂ったのは千城に対してで、それも多忙を極める年末の時期に「しばらく休ませる」などとのたまったからだった。
英人はベッドから起き上がれるような状態ではなく、感情だけで突っ走ってしまった昨夜に今頃になって多少の後悔が生まれていた。ベッドに寝転がったままでいる英人に、同じように隣で寝そべりながら会話を進める千城と神戸の声は聞きとることができた。
「昨夜も会食があったせいで精神的な疲労が激しいんだ。もう少し落ち着かせてやりたい」
『”精神的”~ぃ?肉体的の間違いじゃないの?』
辛辣な問いが神戸からもたらせられれば、英人は『全てばれている…』と冷や汗をかいた。
千城は少しだけ口角を上げたが口調は相変わらずぶっきらぼうなままで、それどころか不機嫌さまで披露していた。
英人の髪に指をからませる仕草はとても優しいのに、神戸に向ける言葉はとがっていた。
「”精神的”だ。ゲストと擦れ違ったところがあって英人には負担をかけた」
千城は詳しいことなど何一つ神戸に説明しようとしなかったが、千城が言ってくれた理由であれば後々英人が神戸に問われても違和感なく答えられると思った。できることなら思い出したくない過去の一つだが、現状を思えば背に腹は代えられない。
ぐいっと千城の胸に寄り添うように抱え込まれてその仕草は「こんな理由で済まない」と伝えられているようだった。
電話の向こう側で神戸が盛大な溜め息をつくのが聞こえた。
『千城の傍じゃ英人君も苦労が絶えないだろうよ。だからって”しばらく”なんてとても無理。千城のせいで追い込まれちゃったんだからどうにかあやして宥めて仕事ができる状態まで復活させてよ。愛の力でなんとかできるでしょ』
「だからしばらく休ませると…」
『馬鹿なことは連休に入ってから言ってくださいっ!』
千城の冗談とも本気ともつかない言葉に神戸のみならず、英人も思わず叫び声をあげそうになった。
…千城ってば何を堂々と言っちゃってるの…

暮れの多忙を極める時期に連休など取ってしまったことも、これといって神戸は英人を叱りもしなかった。
きっと苦情の全ては千城に向いたのだろう。英人に当たるのは筋違いと思っているのか、原因は『榛名』にあると神戸は解釈しているようだった。まだ榛名流ライフスタイルに慣れきれないでオロオロと振り回されている英人を神戸もよく知っている。神戸だって、英人の育ちや経歴はそれとなく理解していたから『榛名』との繋がりに関しては気遣ってくれるところがある。
「僕だって突然あんなところに放りこまれたら息が詰まるよ」
昔からの付き合いからか、神戸は『榛名家』の様相を熟知しているようだった。

年内の勤務最終日、一年の労働を労って打ち上げと称した宴がいつもの店で開かれた。
気心知れた連中だけを集めているのでたいして大きくはないが、それでも30名ほどにはなっている。
好き勝手場所を移動しながら思い思いの時間を過ごす皆に囲まれながら、英人は馴染んでいる自分を改めて知った。
以前から感じていたことだが、この場所は嫌いではない。好奇心や親近感を持ち、誰とでも気兼ねなく様々な会話を楽しめる空間のようで心が安らいでいた。
「神戸さんが今年の収穫は英人君だったって言ってたよ。見染められたね」
「こいつは何をやらせたって満足いく結果を出すんだから末が恐ろしいよ」
スタッフと塚越が英人をからかうように話題にすれば恥ずかしさに思わず俯いてしまう。
年の瀬は一年を振り返ることばかりで、特にきちんと入社を果たしたばかりの英人には声が絶えずかかっていた。何より話題に事欠かない。
『榛名』の姓に変わってからまだそれほど月日は経っていない。深い交流などなかったスタッフたちの中には英人の姓が変わったことすら知らない人間もいるはずだ。皆が下の名で呼ぶせいで姓などどちらでもいいという曖昧な環境だったが、英人の中では『榛名英人』という名前に今でも違和感が付いて回っている。長年親しんだ姓が変わったのだから当然といえば当然だが、それ以外に『榛名』と聞くたびに背負う物の大きさを嫌というほど感じされられる。どうにも見合わない名前を貰ってしまったような思いが拭えなかったし、榛名家と深く関わったことでその存在の巨大さを実感させられた年だった。

宴会が滞りなく終わる頃、いつものように千城が英人を迎えに来た。
店を出た先で塚越が目敏く自分の車に乗った千城に気付き、ニヤリと笑みを浮かべて咥えていた火のついていない煙草を揺らした。
「また番犬の登場か」
塚越がポツリと呟いた台詞に神戸がフフフと笑い声を上げる。
「『番犬』かー。千城にピッタリだ」
千城に聞こえないのをいいことに好き勝手な事を言っている。
二人の会話を聞きながらふと聖がよく千城を犬に例えていたのを思い出した。もっとも聖の言う『犬』は番犬なんていう忠実なものではなくて狩猟に使われるようなどこまでも追い回す獰猛な類だったけど。
話ついでにそのことを二人に聞かせたら大笑いをしていた。
確かに千城は家で大人しく待っているタイプじゃない…。
店から出てきた英人に気付いた千城が車から降りてくる。神戸にチクリチクリと嫌味を言われながら、新年は『体調不良』を起こすことなくきちんと出社するように念を押されて、塚越と神戸と年末恒例の挨拶を済ませ英人たちは帰路についた。
来年こそは神戸に頭が上がらないな~と英人は内心で小さな溜め息をついた。
でもきっと来年は今年ほど精神的な不安に晒されることはないだろうと少しだけ自信がもてるような気がする。
千城の愛は充分なほど受け取ったし、それを疑い、自分を卑下することが千城にとって負担にしかならないと感じるから、もっと自信をもって良いのだと思わされた。
運転をしながらもそっと触れた指先。
冷たさを感じるのに、響くような温かさを英人は忘れなかった。

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コメント

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神戸さんもお気の毒に!?
コメント甲斐 | URL | 2010-01-05-Tue 22:27 [編集]
そうか、そうでした、彼らはまだ年末でしたね。
この忙しい押し迫った時期に、『痴話げんかの挙句仲直りのアレで体調不良』ではこの”事件”の一番の被害者は神戸さんかもしれませんね。(2位は僅差で日野さん?)
被害者同盟のトップふたりは、まだまだ成長途上の英人君と恋愛初心者の二人を暖かく見守り導いていくという試練は、続くのでしょう・・・。
Re: 神戸さんもお気の毒に!?
コメントたつみきえ | URL | 2010-01-06-Wed 06:33 [編集]
甲斐様

おはようございます。

> そうか、そうでした、彼らはまだ年末でしたね。
> この忙しい押し迫った時期に、『痴話げんかの挙句仲直りのアレで体調不良』ではこの”事件”の一番の被害者は神戸さんかもしれませんね。(2位は僅差で日野さん?)
> 被害者同盟のトップふたりは、まだまだ成長途上の英人君と恋愛初心者の二人を暖かく見守り導いていくという試練は、続くのでしょう・・・。

そうなのです。まだ年末のお話だったんです。
今日up分でようやく新年です。
この二人はどこまで人様に迷惑をかければ気が済むんでしょうかね~。
悪びれていないところが更に問題です。
神戸と日野を引きあわせたら延々と語り合っていそうです。
でも神戸は大人だから日野をいーこいーこって宥めていそうだなぁ。
被害者同盟の参加者は今年、また増えそうですかね…。
コメントありがとうございました。
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