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BLの丘
策略はどこまでも 18
2009-07-08-Wed  CATEGORY: 策略はどこまでも
自分が、と期待していた大半の女子の思惑を裏切り、番号を呼ばれた瞬間、那智は飲みかけていたビールを吹き出しそうになった。
「うっそー、おれぇっ?」
思わず漏れる驚愕の声。こんな人前で、よりによって男と、しかもほとんどの女子を敵に回しそうな男相手に、きすぅぅぅ???

那智が叫び声を上げた途端に、沈みかけていた雰囲気が異様な盛り上がりを示した。完全に場を盛り上げるためのエサになったことをこの時になって那智は知る。
「ちょっと待ってくださいよ。分けましょうよ、男女」
「だーめだよ、ダメ。ほら、早くそばに寄って」
小さく抗議の声を上げても、さっさと却下され、それどころか無理やり腕を取られ立ち上がらせられ、高柳の前に立たされた。
「犬に噛まれたと思ってあきらめろ」
「色男相手にキスできるんだ。役得じゃん」
「思いっきり濃厚なのを頼みますよぉ」
ギャハハハと卑下した笑いが起こる。そのほとんどが嫉妬に駆られた男のものだった。
やたら人気を集める高柳に、どうにか痛い思いをさせたいらしいのが目に見えて分かる。ここぞとばかりに男とキスしたという噂を広めたいのだろう。

思わず悔しさが滲む那智に、まったく態度の変わらない高柳が
「さっさとやっちまおうぜ」
と那智の腕を引いた。
どうやってもこの展開は引っ込みがつかなそうで、こうなったら…と覚悟を決めた。どうせ唇と唇が触れるだけのものだ、一瞬で終わる…と。
だが、那智の浅い考えは、高柳の唇に塞がれた途端に甘かったことを知らされた。
くっついた口唇は離れることなく、高柳の舌が那智の口の中に入ってきた。ゆっくりと歯列を味わうように舐められ、脅えた舌を引きずり出される。幾度か絡められた先が「クチュ」という厭らしい音を立てた時に、那智に現実の世界が戻ってきた。
「…ンー…」
自分たちを見ていた誰もが言葉を失っているのが分かる。シーンと静まり返った会場に、必死の抵抗を見せて離れた那智を確認した途端、ウォーともキャーとも言えない叫び声と拍手が轟いた。

「し、信じらんない…」
先ほどまでの行為を思い返した那智は、思わず高柳を睨んだ。
その場に居たたまれずに、咄嗟に扉の外に逃げだした。
溢れ来るような涙を必死にこらえて、トイレに駆け込む。鏡に映った自分は頬こそ紅かったものの、目は恐怖に耐えるような小動物のようだった。
こんなのって…っ!!
どこから湧きあがってくるのか分からない、自分でもなんだか見当もつかない胸のモヤモヤを抱えながら、水道の蛇口をひねって勢いよく水を出すと、口をすすいだ。手の甲でグイグイと唇をこするのに、先程まで触れていた高柳の温かさが消えない。
次から次へと溢れ来る涙を止めることが出来ずに、那智はその場にしゃがみこんだ。嗚咽が止まらない。
嫌悪感ではなかった。一瞬でも彼の世界に引き込まれたことを、認めたくなかったのだ。このままどんどんと、あの、高柳久志という男にのめり込んでいきそうな自分を見つけてしまった時、那智は自分が震撼するのを感じていた。

カチャッという音と共にドアが開かれる。一瞬、高柳が追って来てくれたのかと思ったが、そこに居たのは岩村だった。
「なっち、大丈夫?」
座り込んでしまった那智の傍によって、心配げな岩村が那智の濡れた髪を撫でた。
「ごめん、嫌な思いをさせちゃったね」
べつに岩村が悪いわけではないのに、気遣ってくれる彼の優しさが痛かった。
大丈夫だから、というように、フルフルと首を振る。腫れあがった目からまた涙がこぼれ落ちた。
「今日はこのまま帰ろう。後のことはまかせて」
岩村はペーパータオルで那智の涙を拭き取ってくれた。そっと会場を出るように促されて、一人でも大丈夫かと再度確認される。
駅までは近かったし、家までもそう遠くない。気持ちを整理するためにも、一人夜風に吹かれるのも悪くないと那智は夜道をとぼとぼと歩きだした。



それからしばらくして、高柳がどこかの学部の女子と付き合いだしたと噂で耳にした。
その頃には、岩村の計らいで高柳と那智は、あの事件以前の状態を復活させていた。那智が全ては悪い夢とポジティブに切り替えていたこともあったし、高柳が一切その話題に触れてこなかったことも那智の心を軽くしていた。
高柳にとって、キスの一つや二つはあいさつ程度なのだと、那智は割り切ることにした。
実際、高柳の性格はさっぱりしていたし、話せば合う話題も多くて飽きることがなかった。付き合いづらい点を一つとして持たない相手に、酔っ払った過去の問題をひっくり返すのも躊躇われ、いつのまにかあの事件は心の中に閉ざされた。

一緒に過ごす時間も増えていた。
高柳は特に自分から彼女のことについて那智に話したりしなかったが、那智が問えば最低限のことは答えてくれた。だが那智は問う気力もやがてなくすようになった。
まるで季節が変わるかのように、それよりも早い頻度で高柳は相手を変えていたからだった。
心の中でまた相手が変わったのか…と思う。変わるたびに小言のように高柳に「またぁ?」と漏らしたが、本人は気にした様子もなく、一人に定着する気がないようなので、それ以来那智も交友関係について聞くのをやめてしまった。


一年度が終わるような冬、那智は部活の練習が終わる高柳を待っていた。レポートの期限が迫っていて、取り損ねたノートをどうしても高柳から借りたかったのだ。生憎、親しい中に、その授業を取っていたものがいなくて、頼れるのは高柳しかいなかった。
後で届けるからと言われたのだが、借りるのにわざわざ家まで届けてもらうのも悪くて、図書館で暇を潰した後にグラウンドの近くに行ってみた。
ナイター照明が付けられた中で、冬空の下だというのに汗をかいて激しい運動を繰り返している連中に感心する。
フェンス越しにチラッと見たのだが、高柳の姿はすぐに分かった。
彼がプレーをする姿を見るのは初めてではないが、いつもは試合ばかりだったので、練習風景は新鮮だった。
「那智くん?」
フェンス越しに気を取られていると、突然背後から自分の名前を呼ばれて振り返った。
ラグビー部のユニフォームを着ていて、精悍な顔つきは同学年でないのは一目瞭然。それに…、顔を見たことがあったが名前などは思い出せなかった。
なぜ自分の名前を知っているのかと問いたいのもあったが、呼ばれた手前、「はい」とだけ返事をした。
「久志を待ってるの?ここじゃ寒いから、部室に入ってたら?俺、今から行くし、一緒に連れてってあげるよ」
親切心から招いてくれいるのが分かると、那智は大人しく着いていくことにした。この季節、寒風吹きさらす中でひたすら立っているのはキツイ。
グラウンドから少し離れた部室に誘われ、「すぐに温めるからね」と彼はストーブの火を入れてくれた。
「座ってて」と部室の中央に置かれた椅子を勧められる。うろうろと動きまわっていた那智の耳に、カチャという音が響いた。
ふと振り返れば、入口のドアを背にした彼が、今しがた鍵をかけたと言わんばかりの体勢で立っていた。

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長くなりましたが、回想編です。
あと2話くらい…(?)アヤシイですが続きます。
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