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BLの丘
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2009-12-24-Thu  CATEGORY: 季節SS
皆さまが幸せに包まれるクリスマスだというのに、千城と英人の物語が全く正反対の方向に傾いているので本日はお休みして読み切りSSをupすることにしました。
続きを気にされていた方、お待たせするようで申し訳ございません。
それと年末に入り何かと慌ただしく、upの無い日があると思います。のんびり待ってやってください。



待ちくたびれた…と思った。
いつもはクラシックが流れる年代を感じさせるバーも、今日ばかりはクリスマスソングだ。それもピアノが奏でるような静かなもので、客同士の会話を邪魔するものでもない。
「クリスマスイブに一人でいるのは嫌だ」と幼馴染の和巳(かずみ)から電話があったのは女子社員からおやつをもらった15時過ぎだった。
お互い恋人もいないまま過ごしたイブは何度目だろう。
この数年では一緒に過ごすことが当たり前みたいになっていて、だから余裕綽々と今日の夜の予定を当日になって取りつけてくる図々しさがある。
それに、俺もこの年末にこの連絡を待っていたりするんだ…。
「今日は一杯サービスしますよ」
和巳が指定してきた店のカウンターに座り待つ時間はもう2時間を越えている。かけた携帯電話は電源が入っていないとアナウンスされる。
お互い実家を離れ、住んでいる場所ももう近くない。連絡を取ることだって多いとは言えないかも…。分からない。恋人という存在だったら少なくて、友人という存在だったら多いのかな。
初めて連れて来られてから居心地の良さを覚えてこの店には1年に数度来る。頻繁に来るわけではないのにまだ若いと思われるバーテンダーは自分の顔を覚えていてくれた。
黒のベストをキッチリと着こなした姿は年齢以上のものを感じさせる。店で培われてきた人間性なのか落ち着き払った態度は大人びているというより板についていた。
「…う、…うん、いいや。帰るよ」
先程出されたカクテルもどこかアルコール度数の薄いものだった。自分の勘違いかと思ったけど、今夜にどんな意味があるのかを理解して待たされている俺の為にわざと調整してくれたのだろう。本当はそんな関係までたどり着いていないんだけどさ。
すごい気遣いだな、と感心しながらスツールを降りようとした。
なんでこうやって気を回してくれる人を好きにならなかったんだろう…。
思いついたように連絡をしてくる気まぐれさ。忘れない一年に一度の不確かな逢瀬。
いつまでたっても幼馴染の領域を脱せないもどかしさや、告白して今までの良い関係が崩れることに脅えているんだ。
何をするのも一緒で何だって話しあえて、お互いの性癖のこととかもいつ頃知っちゃったんだろう。強引なまでの和巳に引っ張られるように流れてきた学生時代。離れてしまった社会人になって初めて和巳のいない日常に不安が募った。
でもそれを打ち明けることだけは躊躇われて…。
長い月日を経て育て上げた信頼関係が『愛情』という言葉で濁されるのが怖かった。
年が明けたらすぐに30歳になってしまう俺にとって今日はどこか特別な日だったのかもしれない。
20代最後のクリスマスイブは10年以上思い続けた俺にとって最後の砦のようだった。
自分で告白出来る勇気もないくせに、『待たされた』と思っている自分のほうがずるいのかな。
「でもさっき出した物でお金を取ることってできないですから…。もしお帰りになるのでしたらこのまま。どのみち今日はお二人にサービスする予定だったんです」
自分で思ったことが間違いではなかったのだと告げられる内容に、無銭飲食をするような申し訳なさが募ってスツールから下りられなくなった。たとえ半額にされたって支払くらいしたい。それに年下にまで慰められているようで悲しさが心を占めた。
「じゃあ、ありがたく頂こうかな」
再び彼と向き合う。どこかホッとしたような表情に変な気を回さなくていいのに…と感謝していた。

カウベルが小さな鈴の音を響かせる度に入口のドアを振り返ってしまう。
今も振り返りながら入ってきたのが小柄の可愛らしい男の子で、和巳ではないのか…とすぐに視線を戻した。
慣れたように二つ隣のスツールに腰掛けると、気の良さそうなバーテンダーの表情がいささか曇った。
「こんな日に何しているんだよ」
「ニューヨークの空港が大雪で閉鎖されて帰ってこられなくなっちゃったの。今日こそは絶対に帰ってこないから安心だよ。ニュースでもやっていたし」
「そういう問題じゃないだろ」
小声で話してはいても二人の仲の良さは伺える。話している内容は何やら意味深だけど俺たちと同じように一線を越えた関係ではないのだとは雰囲気が物語っていた。気の許した友達…っていうところだろうか。
恋人に会えない淋しさをここで紛らわせているといった態度にバーテンダーも溜め息の一つで終わりにしていた。
クリスマスイブに想う人と過ごせない人間は思いの外居るものなんだな…。

サービスだと言われた一杯までからっぽになって、いい加減痺れを切らした俺はスツールを降りようとした。
いつまでたっても現れない和巳に、もう潮時なのかも…と悲しい思いが滾ってくる。
毎年のように繰り返された”約束”も、こうして裏切られることで現実を知るのかもしれない。
前もって伝えることができなかったから直前に連絡を入れてきたのかな。「こんな急に無理」って俺が言うのをもしかしたら期待していたのかも…。

もう一度カウベルが鳴って、思わず振り返った俺の視界に飛び込んできたのは、明らかに息を切らせたような和巳の姿で…。
「ごめっ!新幹線すごい遅れるし、携帯の電池切れるし、誠也の携番わかんないし…」
まっすぐに近づいてきた和巳の冷たくなった指先が俺の頬に触れてからぎゅっと胸に抱きすくめられた。
突然のことに声も出せずうろたえる俺に、和巳の掠れるような声が被さる。
「待っててくれて良かった…」

「暖まっていってください」
安堵したようなバーテンダーの表情に涙がこぼれそうになる。きっとこの男は知っていたんだ。今日、絶対に和巳が来るって…。だからどうやったって待たせたかったんだ。そして気付いていたんだ、和巳の思いまで…。
温かなおしぼりを出されて和巳は凍えたような両手をそれで包んでいる姿が何とも痛ましい。
大阪まで出張していて、確実に帰れると踏んで連絡をしてきたらしいが、結局予想外のトラブルに巻き込まれて思い通りにはいかなかった。
だけどその切羽詰まった時間が和巳の煮え切らなかった感情を呼び起こしたらしい。
自分から告げることなく甘えたのは確かに俺だったけど…。
お互い、いつでも連絡を取れる存在と思いながら最後の一言を言わずに過ごしてしまった月日。
失うかもしれないと思った危機感を今日初めて二人とも感じたんだ。

聖なる夜に告げた言葉。
「好き…」
ようやく言えた言葉の後に、店を出ていく俺たちを追うように小さな鈴の音が聞こえた。

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コメント

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またまた、、、
コメントちぃ | URL | 2009-12-24-Thu 06:23 [編集]
またまた素敵物語でした朝からジーンと来てしまいます。。

またまた、ちーちゃん、ひーくん物語を一話から読み返してしまいました

この世界にかなり捕まえられてます。情景、出る人物の表情まで、脳裏に浮かび、お世辞抜きに表現力はかなり高いと私は絶賛したいです


前作『策略~』シリーズも大好きでしたが、ちーちゃん、ひーくんシリーズも、まだまだ聖、日野お兄さんを巻き込んで続けてくれたらメチャクチャ幸せです

プレッシャーになったらごめんなさい
ゆっくり、ゆったりと楽しませてください

Re: またまた、、、
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-24-Thu 07:27 [編集]
ちぃ様

おはようございます。こんなに早くのコメントありがとうございます。

> またまた素敵物語でした朝からジーンと来てしまいます。。

たまには季節感に沿ったものを書こうかと思いました。
それに英人たちを書いたのはいいけど、「あれ?クリスマスにこの展開なの?」と自粛しました。
でも名無しさんで登場しているあたり…まだあのシリーズから抜けていません(汗)

> またまた、ちーちゃん、ひーくん物語を一話から読み返してしまいました
> この世界にかなり捕まえられてます。情景、出る人物の表情まで、脳裏に浮かび、お世辞抜きに表現力はかなり高いと私は絶賛したいです

きょ、恐縮です。そんなことないんですよ~(冷汗)
表現力などとんでもないっありません。
とてもとても人様の目に晒せるようなものではないのに披露しているこの図々しさ…。
こうしてお褒めの言葉を頂き更に図に乗っておりますお目汚しが増える…。
いつも応援、心より感謝いたします。

> 前作『策略~』シリーズも大好きでしたが、ちーちゃん、ひーくんシリーズも、まだまだ聖、日野お兄さんを巻き込んで続けてくれたらメチャクチャ幸せです
> プレッシャーになったらごめんなさい
> ゆっくり、ゆったりと楽しませてください

『淋しい夜』はキャラが増えたおかげで頭の中で色々なことが起こっている現在です。
もうちょっと続くかな~と思います。
ご期待いただいているようでとても嬉しいです。

コメントありがとうございました。
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