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BLの丘
雛鳥の巣立ち 9
2009-12-22-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
「電話をするのはあまりにも恐ろしい…」と言いながら日野は千城にメールを送っていた。
「連絡などしなくてもいい」と制止する英人に、「次に殴られるのは俺だから」と冗談交じりでも言われてしまえば英人は黙るしかなかった。
これ以上誰かが傷つくのは見たくない。
聖と無断外出して連れ戻され、次は日野の家に逃げ込んだと知ったら、益々千城の機嫌を損ねると案じたが、英人も心に宿る苛立ちはどうしようもなかった。千城だって不機嫌になればいいと開き直った。
千城が日野に対して何かをしようとするなら、今度こそ日野を守ってやろうと英人は誓った。叱られても叩かれても、英人が全部望んだことで、日野は何一つ悪くないのだと言いきる気でいた。激高した千城を見せられて捨てられることはないという安心感はどこかにあった。だからどんなわがままだって今なら言えそうな気がした。でもやっぱり心の隅っこでは嫌われるのではないかという不安を抱えている。
ぐだぐだと愚痴をこぼし酒を煽り、日野に相槌を入れられ宥められて、浮かぶのは聖に対しての申し訳なさと千城に対する想いの強さだった。
ジョージとあんなことをしてほしくなかったのだと何故理解してもらえなかったのだろう。

意識も飛んだ頃に迎えの車が到着した。
部屋の中で千城と日野の言い争うような声が聞こえたが、英人はすでに夢の中だった。
起き上がりたくない…と丸まった体が宙に浮く。千城に抱えあげられているのだとは慣れた体が気付いた。縋りついてしまうのは条件反射みたいなものだ。
おぼろげながらも二人の会話は耳に飛び込んできた。
「こいつも悪かったって反省していることだけは認めてやってよ。いろんな重圧の中で精一杯だったし耐えていたんだ。旦那の負担になりたくないって、いきなり放り込まれた別世界の中でも必死だったんだよ。頼れる人間が旦那しかいないんじゃこいつだって気の毒じゃん。友達付き合いの一つとして許してやることはできないの?」
「おまえに言われることではない…」
「なんでもかんでも全部旦那に言えるっていうわけでもないよ。それに聖さんとやらが起こした行動って故意的でしょ。旦那がお客さんにどういう思いでいたのか知らないけど、目の前でされたことの仕返しだよ。こいつが何も言えないでいるから代弁したようなもんじゃないかな。旦那は単純にハグのつもりでも、こいつってもともと男相手に出来ている人間だけに、そういうところ、すごい敏感だよ」
一気にまくし立てた日野の言葉に千城の苛立ちが肌から伝わってくるようだった。日野に指摘されて英人のことを理解しきれなかったことに自らを責めているようでもある。
夢見心地の中で英人は謝っていた。『千城なんて嫌い』と言ってしまったことを…。
「弟か何かと勘違いしてお客さんの思いまで気付いていなかったんじゃない?本当かどうかは俺も実際に見たわけじゃないから何とも言えないけれどさ。『挨拶』は結構だけど、育ってきた環境も違いすぎるんだよ。それをちゃんと説明してやって。感情的にならないで話合わなきゃ溝なんて埋まらないよ。俺のところに転がり込んできたこともそうだけど、あんまり責めないでやってよ」
日野を守ってやろうと思った意思はどこに消えたのだろうか。
それどころか、結局英人は色々な人間に見守られているのだと消えゆく意識の中で感じた。そしてこれ以上千城の機嫌が悪くならなければいいな、と思った。

それ以上千城が何を言ったのか英人では判断のつかないまどろみの中に落ちてしまったが、気付いた時には自宅のベッドの中で愛おしそうに髪を撫でてくれる腕に囲まれていた。
「良く寝ていたな」
まだ状況を理解できずにぽけっとする英人にそっと口付けが落とされる。
昨日の苛立ちがどこか削げ落とされたような落ち着きが見えて英人は全てが夢の世界だったのかと面食らったくらいだった。
「…ち、し…?」
「何だ?」
「…怒ってないの…?」
「怒っている」
恐る恐る聞いてみれば返ってきた答えはやはり聞きたくないものだったが、千城は言葉とは裏腹に甘さを含んだ仕草で英人を撫で続けた。
英人が控え目がちに視線を落とせばグイっと正面を向かされた。
「聖と勝手に出て行ったことも、日野の所に押し掛けたことも腹ただしい。でも英人に『嫌い』と言われたことが一番効いた。あんなことを言われるくらいなら何だって許してやろうと思う…」
淋しさすら漂わせた千城がぎゅっと英人を抱え込んだ。
英人が発した一言にずっと気を揉めていたのが分かる。本当は言いたくなかった言葉の一つだったが、あの状況で咄嗟に出てしまったことはもう取り返しが付かない。
「ち…」
「だがやはり言いたいことは何でも言ってほしい。どれだけ言葉が少なくても何でもいい。英人のことだけに理解してやりたい。気に入らなかったことはなんだったんだ?聖には謝罪を入れておく。それでもまだダメか?俺は本当に嫌われたのか?」
英人は声が出せなくて心の中で「ばか…」と呟いた。
千城が聖に謝罪を入れるなど前代未聞ともいえることだろうと思った。
何を言われたって何をされたって、千城のことなど嫌いになれるはずがなく、こうして抱きかかえられてしまえば何事もどうでも良くなってしまう。
擦り寄せた千城の体に感じた温もり。与えられる愛情の深さ。
千城が英人を理解したいというように、英人も千城を受け入れたかった。
日野に言われた『言葉の壁』というものはとても大きかった。理解できなければ体で感じさせるしかないという聖の思いもなんとなく分かった。
「嫌いになんかなれないよ」
英人からすりよった口付けに千城がひどく安堵しているのを全身を通して感じた。

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コメント

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代弁者日野氏に幸あれ!
コメント甲斐 | URL | 2009-12-22-Tue 17:59 [編集]
日野さん本当にいいお兄さんです。
英人くんの言いたいことも言えない事も思ってることもみんなまとめて言っちゃってくれて、聖の弁明まで。とても同じ歳とは思えない。バーテンとしていろんなことを見聞きしたり人生経験つんだ結果でしょうか。
こんなに、いろいろお世話になってきっとこれからもお世話になるであろう英人の実家として日野さんにお店の1軒も持たせないと罰が当たりますよ千城さん。そこには千城とのホットラインと鍵付のひーちゃん専用VIPルーム作って逃げ場にしてあげましょう。
でも、まず話さないとね。イヤだって思ったこととかして欲しかったこととか。思いっきり甘えてね。
Re: 代弁者日野氏に幸あれ!
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-22-Tue 18:58 [編集]
甲斐様

こんばんは。

> 日野さん本当にいいお兄さんです。
> 英人くんの言いたいことも言えない事も思ってることもみんなまとめて言っちゃってくれて、聖の弁明まで。とても同じ歳とは思えない。バーテンとしていろんなことを見聞きしたり人生経験つんだ結果でしょうか。

とっても良いお兄さんです。
これまでの人生経験など積もり積もって可愛い"弟"を守ってやりたかったのでしょう。
千城相手にもズバっと言っちゃう潔さ。かっこいいです。

> こんなに、いろいろお世話になってきっとこれからもお世話になるであろう英人の実家として日野さんにお店の1軒も持たせないと罰が当たりますよ千城さん。そこには千城とのホットラインと鍵付のひーちゃん専用VIPルーム作って逃げ場にしてあげましょう。

やがて持たせてもらえるんじゃないですか?お店。
日野くんちはすっかり英人の"実家"ですね。
店の一軒というよりは英人の拠り所として確保したい場所になりますか…。
(見知らぬところに逃げ込まれるよりは安全なので…)

> でも、まず話さないとね。イヤだって思ったこととかして欲しかったこととか。思いっきり甘えてね。

ひーちゃん、うまく言葉にできるのかなぁ。
なんだかまたもや流されて終わってしまう気が…(汗)
コメントありがとうございました。
Re:
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-23-Wed 07:13 [編集]
MO様

おはようございます。

>さすが日野君ですね。英人が吐き出せない思いを、感情的にならずに、今回の事だけでなく、榛名家での重圧、英人の性癖による思考まで、千城が気づけなかった事まで指摘してくれて、良かったですね。普段 他人に意見される事の少ない千城には、腹立たしいかもしれませんが、二人にとっては重要な存在ですよね。日野に下心が無いのは分かってるんだから、大事にしないとね。

日野君はまたもや良いお仕事をしてくれました。
英人と同い年とか言いながら本当は千城よりも年上なんじゃないの?!と思う今日この頃です。
お客さんのいろーんなものを長年に渡って見聞きしているし、客商売っていうことで気も良く回る人です。
いっぱい言いたいことを言われちゃったから千城も一晩たくさん悩んだことと思います。
英人のためなら…と改心してくれる千城であってほしいなぁ。
コメントありがとうございました。
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