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BLの丘
雛鳥の巣立ち 1
2009-12-14-Mon  CATEGORY: 淋しい夜
ピシッと手の甲を叩かれて手にしていたナイフがカシャーンという音を立てて食器の上へと落ちた。
榛名家本邸のダイニングルームはアンティークな家具でまとめられている。和の装いを備えた座敷の間もあったが、洋食を取り扱う場合はこちらの部屋が利用された。
広いテーブルの上には、食べることを目的として作られていない料理が並んでいた。
英人は泣きそうになっていた。この小一時間で何度小言をくらったことだろう。手を叩かれたのは初めてだ。
「そのようなナイフの入れ方では何も切れないと申し上げたでしょう」
英人の隣でフレームのない眼鏡をかけた男が、毅然とした態度で立っていた。千城の父が用意した『教育係』だった。
上着を脱ぎ、ベストを身に付けた装いの彼も充分なほどの威厳を湛えている。40代にはまだ届かないようだが洗練された身のこなしはより一層彼を惹き立てていた。
榛名家にいる人間はどうしてこんな人間ばかりなのかと恨み事まででそうだ。こんな人間に睨まれながらなど、上手くいくものだって失敗する。教えられたことだって緊張で脳味噌の中に留まっていない。
英人の背後に回った彼は英人の手にナイフを持たせると上から包むように手を重ねた。
「こちら側から…」
なかなか要領を得ない英人の手が彼の力で動いた。

事の発端はお祝いを兼ねて内々で会食をしたことだった。
千城の母百合子は英人を初めて見た時から、見目の良さを気に入ってくれた。30歳を過ぎた息子がいるとは思えないほどの美貌をたたえ、千城の持つ華やかさは母から受け継いでいるのだと感じる。とてもさっぱりとした性格のようで、英人とのことも「仕方ないわ」とサラッと流してしまったくらいだ。悩んでも文句を言っても現実は変わらないと開き直ったらしい。
百合子が英人を可愛がるのを千城は「母は美しいものが好きなので」などとのたまっていたが、実際彼女が手にするものは英人も好感をもつものばかりだった。
その席で、英人の目に余る指捌きに千城の父が「人前に出せん」と苛立った声を上げた。挙句の果てには「浴衣も私が着せてやったんだ」と暴露し千城の不機嫌を買っていたが…。

それからというもの、週に何度か仕事の後、強引に予定を組まされてこうして屋敷に来ることになってしまった。オフィスまでお迎えの車が来るものだから逃げることもできない。
千城がいかに英人を甘やかしていたのか、こうして第三者にしごかれると嫌というほど感じる。千城は「できないことは俺に任せればいい」という主義だったから英人はいつまでたっても成長していなかった。特に食事に関しては雛鳥よろしく、口を開けて待っていれば飛び込んでくる。
「今日はどんな感じだね?」
帰宅したばかりなのか、千城の父一世がダイニングルームにスーツ姿のままで顔を出した。
「お帰りなさいませ。立川様との会食でお召し上がりになる予定のお料理を用意していただいたのですが彼にはまだ早かったようです」
「うむ。あまり時間がないからな。どうにか形にしてくれ。千城は一体何をしていたんだ」
自分の出来の悪さで千城に迷惑がかかるのは心が痛い。しゅんと項垂れてしまった英人に続きを促して一世は部屋を出て行った。
入れ違いでぱたぱたと寄ってくる足音が聞こえる。
「英人、来ているんだって?」
立川聖が万遍の笑みを浮かべながらダイニングルームに飛び込んできた。

聖の強引さに負けて『お習いごと』は途中で中断となる。
「一世さん、英人に厳しすぎるんだよ。いーんだよ、食事なんて楽しく食べれば」
そう言いながら付け合わせで乗っていた温野菜を指先でつまんで口の中に入れている。
その途端に教育係の男、更科(さらしな)が眉間に皺を寄せた。
「聖様。お行儀の悪いことはおやめください。テーブルの上に腰をお乗せになるのも…っ」
「更科さん、そんなにキチキチに生きていたら人生つまんないよ。ねぇ、英人、もう連れて行っていいでしょ」
指先を舐めて綺麗にした聖は英人を立ち上がらせた。
「え?何?」
「今日車で来たから送っていってあげる。たまにはドライブでもしようよ」
聖がこの屋敷に来る時は母に付いてくることがほとんどだったから自分で運転することはなかった。
珍しく車に乗ってきたなどと聞けば、今日ここに英人が来ることを知っていたのだろう。
「ちょっ、ちょっと待って。千城が迎えに来るから…」
「まだここでスパルタ教育を受けたいの?先に帰っちゃったって言えばいいじゃん」
腕を引っ張られ言葉を返す隙を作らせずに、聖に連れられてしまった。
こういう時に非力な自分に嫌気がさしてくる。大概の男には体格の差で向き合った時点で負けている。聖も千城ほどではないにしてもかなりがっしりとした体つきをしていたから引きずられてしまえば逆らいようがなくなってしまう。
英人は成す術もなくSUV車の助手席へと連れ込まれた。

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英人の物語、続編です。(新作は諦めました…)
今度は何が起こることやら。
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コメント

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いぃっ[i:63898]
コメントちぃ | URL | 2009-12-14-Mon 08:40 [編集]
終わってしまうの~と悲しんで一話からまた読み返してましたが、ぜひ、エンドレスでお願いします
甘々ひーくんが、世間を知りながは成長し、ハラハラするちーちゃんが見てみたいです


怖いもの知らずの聖君もなかなかのキャラで(~_~;)
でも、ひーくんには、純潔を守っていただきたく。。うゎっ楽しみ
管理人のみ閲覧できます
コメント | | 2009-12-14-Mon 08:59 [編集]
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コメントたつみきえ | URL | 2009-12-14-Mon 09:44 [編集]
MO様

こんにちは。連コメいただいたのにまとめてのレスで失礼します。

>毎日、本当に楽しみで、すっかりお話に引き込まれていました。ついつい深読みして、好き勝手なコメントを送ってしまい、申し訳ありませんでした。お話を読んで、どんどん妄想が広がってしまって・・・ 

楽しんでいただけたようでとても嬉しいです。
私の文章力の無さをとてもよく理解してくださったこと、本当に感謝いたします。
途中、自分で書いていても「意味通じるかなぁ?」と思ったところが多々…(汗)
   
また二人の話を読めるんですね。とっても嬉しいです♪英人を構いたい人がたくさんで、千城も気が気じゃなくなりそうですね。少し振り回されるのも良いかも?続きを楽しみにしています。

また人物が色々と出てきそうで私の頭がこんがらがっております。
ずっと千城に振り回されてきた英人だから、今度は千城がオロオロするのもいいかもしれませんね。(するのか?)

コメントありがとうございました。
Re: いぃっ
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-14-Mon 09:49 [編集]
ちぃ様

こんにちは。

> 終わってしまうの~と悲しんで一話からまた読み返してましたが、ぜひ、エンドレスでお願いします

エ、エンドレスですか…(ドキドキ)
なんだか「淋しい夜」のキャラは本当にたくさんの方に愛されてしまって…とても嬉しい限りです。

> 甘々ひーくんが、世間を知りながは成長し、ハラハラするちーちゃんが見てみたいです
ちーちゃんにはハラハラもオロオロも体験させてみたいです。

> 怖いもの知らずの聖君もなかなかのキャラで(~_~;)
> でも、ひーくんには、純潔を守っていただきたく。。うゎっ楽しみ

もしかしたら千城以上に聖のほうが最強かもしれません。
英人、すぐに流されちゃうから…
母は心配です。
コメントありがとうございました。
Re: タイトルなし
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-14-Mon 09:52 [編集]
M様

こんにちは。

> 続編ですね!
> 気になってた聖さん登場でこれからの展開が楽しみです。英人、頑張って~泣いちゃダメだよっ。

結局番外続きになってしまったこのシリーズ。
まだ書きたいところとかも色々と残っていたので新しいものを始める前にこのままの勢いでいってしまおうと思いました。
英人に応援ありがとうございます。
すぐ泣くんだから…
コメントありがとうございました。
千城さんの宝物
コメント甲斐 | URL | 2009-12-14-Mon 14:29 [編集]
英人クンはかわいいだけでいいんです。
できないことは千城さんが二人分頑張ってくれればいいですから。
ビロード張りの美しい箱に入れて大切にしまっておきましょうね~そして、時々出しては眺めて触ってみましょう・・・・・
っというわけにも行かないので、英人クンにはここでちょっと頑張って行儀見習いの修行をしてもらいましょう。
スパルタ教育に泣きながらお勉強。でも、夜はちゃんとどなたかが慰めてくれるからまた次も頑張れますよね。

追伸
英人君、どうしても強引に出られると”NO”といえないとこ、これだけは直したほうがいいぞ!
千城が迎えに来るからーーーなんていってる間に浚われるし・・・怒られちゃうよ
Re: 千城さんの宝物
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-14-Mon 15:32 [編集]
甲斐様

こんにちは!!

> 英人クンはかわいいだけでいいんです。
> できないことは千城さんが二人分頑張ってくれればいいですから。

いーんですかね~?!
美しい宝石箱に飾られられ、時々愛でられる存在…
に、したかったんですけど、鬼教師は黙っておりませんでした。(っていうことで…)

> スパルタ教育に泣きながらお勉強。でも、夜はちゃんとどなたかが慰めてくれるからまた次も頑張れますよね。

きっとなだめてくれるひとがいるはずです。
でも「手、パシッって打たれちゃった」なんて言ったら黙っていないでしょうが…。

> 追伸
> 英人君、どうしても強引に出られると”NO”といえないとこ、これだけは直したほうがいいぞ!
> 千城が迎えに来るからーーーなんていってる間に浚われるし・・・怒られちゃうよ

はいっ!!よーく言い聞かせますっ!!

いつもコメントありがとうございます。
Re:
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-15-Tue 08:17 [編集]
S様

おはようございます。
レスしたつもりでいました…遅くなってすみません。

>英人可愛がられてますね~。千城がやきもきしそうですね~。また、英人に出会えてうれしいです♪

いつも応援ありがとうございます。
千城をわざと煽っているんじゃないか?的な聖の存在。
この子もいい味を出せるように頑張っていきたいです。
コメントありがとうございました。
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