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BLの丘
淋しい夜の果て 14
2009-12-11-Fri  CATEGORY: 淋しい夜
もちろん驚いていたのは千城だったし、英人も自らの口からこんな台詞がこぼれるとは思ってもいなかった。
できることなら生涯の中で二度と会いたくないのが千城の父だ。
「英人…」
頭上から躊躇いを含んだ声が降ってくる。
英人はぎゅっと千城の背中に手を回して胸に額を擦りつけた。
「分かってる…、俺居たら邪魔なの…。でもなんか、怖いんだ。行っちゃったらもう帰ってこなさそうで…。一緒にいたい」
英人がぽつりぽつりと思いを伝えれば、フッと千城が口角を上げるのを感じた。
「分かった。一緒に行こう」
英人は訪れるのに恥ずかしくないスーツを身に纏った。ふとフランスで出会ってしまった父の姿が思い浮かんだ。たった一瞬で何もかもを判断し、千城の言葉を信じてくれた父。長年顔を合わせることもなかったから簡単に許してくれたのだろうか。それでも、嫌悪の一つも見せなかった父に温かいものが湧いた。

移動する車の中で、不安と恐怖と緊張で英人はいっぱいだった。そんな英人を守るかのように千城は英人の小さな手を握り離そうとしなかった。
一世は英人の顔を見て今度は何を言うのだろう。家の敷居すら跨がせてもらえないのだろうか。千城と無理矢理引き離されてしまったらどうしよう。やっぱり家で大人しく待つべきだったのか…。
無言になってしまう英人の気持ちをほぐすように、千城の手が伸びて英人の頬に触れた。
「今夜は久し振りにホテルでディナーをとろうか」
こんな時に何をのんきな…と思いつつも、千城が気遣ってくれているのが分かるから素直に頷く。それは一緒に帰れることを意味している。
「あんまり難しくないのにしてよ」
「もちろんだ」
ニッコリと千城は笑みを浮かべて、運転手がいるのもお構いなく手の甲に唇を寄せた。

またここに来るとは思っていなかった英人はゲートを一つ二つとくぐるたびに緊張感を漂わせた。
震えは確実に千城に伝わっている。
車を降りても千城は英人に絡めた指先をほどこうとはしなかった。迎え出た男性は分かりきっていても、女性の使用人が目を剥くのも気にせず、千城は進んだ。千城は一切の人間を遠ざけた。すでに一世からも言い聞かされていることなのか、誰もがそれに従う。
昨日来た部屋には明りが灯り、すでに中に一世が待っているのが遠くからでも分かる。
英人はただ千城に倣うだけだった。
戸口を開ける前の姿勢や中に入っての立ち振舞い。一度として一世の眼を視界に入れることはできなかった。

一世は部屋で寛ぐための和装に着替えていた。
「またこの野良猫を連れてきたのか」
座卓の前に座り、口にされた最初の一言は英人を人間とは扱っていなかった。
しゅんと項垂れる英人の隣で千城が厳しい口調を放った。
「英人は一人の人間です。動物のように見下すのはやめてください」
「所詮、人の垢を舐めて生きるような人種だ。変わらん」
一世の態度はあまりにも冷たく、またあの鋭い視線が自分に注がれているのを肌で感じる。
どんなに身綺麗な格好をしたところで馬子にも衣装と貶されているようだった。
「父がそのような態度でいる限り、私は何一つ御要望を受けることはできません」
スッと一世の視線が英人から千城に移った。英人も何事かと千城を見上げた。
千城が父親の要望にこたえるとは、つまり「別れ」を意味するとしか英人には思えなかった。
一気に血の気が引いていく。昨夜の睦まじい時間がまるで幻だったかのようだ。さっきまで繋いでいた手は…指は…、訴えられるように囁かれた言葉に嘘があったということ…?

「千城は私の意見を少しでも聞く耳があったということか?」
「条件次第。昨日申し上げたとおり、離縁のお話を進めていただきたいだけです」
「馬鹿者っ!!」
ダンッと座卓を叩かれてビクッと英人の体が一瞬浮いたようだった。
千城は全く動揺も見せず、一世は身を乗り出しそうな勢いだった。
「何度言えば分かる?!おまえをこの家から出すなど絶対に許さんっ!!」
「でしたら最低限の条件として戸籍の件を認めていただくことです。そして二度と英人を侮辱せず、また手出しをしないこと」
千城はあくまでも強気だった。まるで上げ足をとるかのように一世を見据えていた。
一世は目を見開き、自分の発言が首を絞めたことを悟っているかのようだった。
千城はどうやったって離縁を望んでいたし、絶対に認めたくない父親がいる。
『要望』を受けるとは千城がこのまま榛名家に身を置くことで、英人と別れることではないのだとようやく知ることができた。
もちろんこんなに都合の良い話が受け入れられるなど英人は思ってもいなかった。
一世に初めて会った時からの憤りや行動を振り返れば激しい恨みが英人に向けられている。
何を思うのか、一言も声の出せなくなった一世に千城はたたみ掛けた。
「昨日も申し上げました。英人を失うことは私を廃人にするのも同然。『榛名』にとっても負になるだけの存在になります。見捨てて頂いたほうが家名の為にもなります」

長い長い沈黙が流れた。しばらく無言のまま睨みあっていた父子だったが、先に吐息を漏らしたのは一世のほうだった。小さく首を振りながら過去に思いを巡らせているようだった。
「千城は変わってしまったな…」
そう小さく呟いた父親の姿は傍目から見ても小さく感じるものがあった。威厳も何もない、ただの一人の『父親』だった。
「君は?」
視線を向けられて英人はえ?と目を見開いた。
なにをどう答えて良いのかなど分かりはしない。この時になってようやく正面から千城の父を視界に入れた。
鋭さの消えた瞳はやはり千城に良く似ている。表面的な威厳や圧倒感はあっても、心を割ってみれば慈しみを備えた人なのだとなんとなく感じた。
英人は咄嗟に頭を下げた。
「ごめんなさいっ」
座卓に頭が付くかと思った。

「目上に向かっては『申し訳ございません』と言うものだ」
一世は忌々しげに言葉を訂正したが英人を責める言葉は出なかった。
それから足元に置いた小さな箱を座卓の上に広げた。英人から取り上げたはずの指輪が収まっていた。

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コメント

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コメントたつみきえ | URL | 2009-12-11-Fri 14:15 [編集]
S様
こんにちは。

>こんにちは~。一世は千城を許したのかな?英人は指輪返してもらえて良かったです。

榛名パパはどうやら認めたようです。
可愛い一人息子にごねられて、また、いちゃいちゃを昨日見せつけられて諦めた模様。
指輪、溶かされちゃったかと思いきや、ちゃんととってあったんですね(私が何を言う 汗)
コメントありがとうございました。
千城さんガンバレ
コメント甲斐 | URL | 2009-12-11-Fri 16:18 [編集]
千城さんが英人くんを守りきることができるのか、ドキドキしながら見守っています。
絶対に離れたくないのは英人だけれど、父親も家も嫌うことも捨ててしまうこともしたくない千城さんの気持ちがひしひしと伝わってきます。
どうしようもないのなら家は捨てるというはっきりとした意思を見せながらも、どこかに歩み寄れないかとの願いがかなうといいなと祈らずにはいられません。
Re: 千城さんガンバレ
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-11-Fri 17:04 [編集]
甲斐様
こんばんは。

> 千城さんが英人くんを守りきることができるのか、ドキドキしながら見守っています。

見守っていただいてありがとうございます。
甲斐様からのお気持ち、間違いなく千城に伝わり心意気も新たに…となっているはずです。

> 絶対に離れたくないのは英人だけれど、父親も家も嫌うことも捨ててしまうこともしたくない千城さんの気持ちがひしひしと伝わってきます。

つ、伝わっているんでしょうか…(汗)
もう、文章力の無さに閉口しながらヒーヒー言っていました。
千城は最初から父の思惑を理解していたのでしょう。

> どうしようもないのなら家は捨てるというはっきりとした意思を見せながらも、どこかに歩み寄れないかとの願いがかなうといいなと祈らずにはいられません。

父の「絶対に千城を手離さない」という言葉に確信を得たようです。
半分脅しでしかありません。

コメントありがとうございました。
Re:
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-12-Sat 07:09 [編集]
MO様

おはようございます。相変わらずレス遅くなりまして…m(__)m

>千城が戦う時に、英人も隣で支える事ができるようになったんですね。二人の絆は、益々強くなりましたね。指輪も返してもらえそうですし、本当に良かった。ちなみに携帯と鍵は?

Σ( ̄□ ̄;)
け、けーたいとかぎ?(忘れていたりとかする…)
英人も成長しました。千城の想いが英人を支えているようです。

>案外二人を認めてしまったら、千城パパ、英人を教育するなんて言って、物凄く構って、千城のひんしゅくを買っちゃいそうですね。でも英人の才能も、認めてくれると良いね~。

ありえるかも。
『榛名の名にふさわしくアレコレ…』とか言いながらお屋敷に呼びつけていそうです。
でも着物の着付けだけはパパがやっちゃうとまた大変なことになっちゃうから…(石が飛んできそう…(/_;))
いつもコメントありがとうございます。
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