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BLの丘
淋しい夜の果て 11
2009-12-08-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
英人と千城を乗せた車は一つの門すらくぐることができなかった。
この屋敷内での権力は第一番に千城の祖父である会長の龍之介にあり、続いて一世と千城へと続く。
一世と千城が並んでしまえば使用人の全ては一世に倣い、千城の願いは叶うことがなかった。
ゲートを開けてくれる門番はおらず、運転手ですら一世の指示に従い屋敷に戻った。
一世のプライベートルームからは使用人の全てが下げられ、立川も一世の部屋に近づくことを許されなかった。
再び通された部屋の中で、一世を前にして千城と英人は並んで腰を下ろした。
英人の泣きはらした顔の腫れは全く引いておらず、一世と顔を合わせることに恐怖心だけが湧き、俯いたまま一度として顔を見ることはなかった。並んだ座布団ですら千城は近付けて英人を脇から離そうとしないのが唯一の心の拠り所だ。
部屋に漂う緊張感と双方が発する圧迫感で身が粉々になってしまいそうだった。

「千城は自分がどれほどの過ちを犯しているのか理解できないのか?」
先に口を開いたのは一世の方だった。
英人を薄汚いものだと罵り、そんなものに手を出したと千城を軽蔑している。そしてこのままでいれば必ず『榛名』から追放され自らの首を絞めることになるとほのめかした。
そのような『馬鹿者』に育てた覚えもないと、彼の口は語っていた。
「おまえには散々手を尽くしてきたはずだ。もう子を成しても良い年だというのによりによって子孫の一人も残せない人間を相手にするなど…。どこまで私や百合子を失望させる気なんだ」
世間一般の親が望むものは英人でも理解できた。『男娼まがい』の男など引き離し、ごく普通の「家庭」を与えたいのだろう。英人は家庭での愛情を感じたことがないから憧れるものがある。
英人には非常に厳しい一世だったが、千城を前にすれば親の気持ちというのが見えるようだった。千城を愛するからこそ『普通』の生活を望む。一世は英人と千城に対して明らかな違いを見せた。これが『父親』なのかと思った。
彼の言うとおり、英人は子孫を残すことはできない。代々続いた名家の血を絶えさせるようで心苦しさすらあった。
厳しい現実を常に感じてきただけに受け入れてもらえない事実も知っている…。

千城は何も言わずに黙っていた。英人はこのまま千城が父親の言い分を受け入れるのではないかと不安でいっぱいだった。
その反対側で切り捨てられても良いという思いが浮かび上がった。どうやったって生きて行く世界が違い過ぎる。
自分が裕福な生活を送れた端には、『榛名』の名前があること…。千城が榛名の後ろ盾を無くしたら生活の全てが破綻するのが目に見えてくる。
一世は英人にもはっきりと伝えている。「もしも英人と一緒になるなら千城を勘当する」と…。
自分は何時だって地に堕ちられる。もう慣れている…。
でも千城は違うはずだ。千城に辛く見苦しい思いをさせるくらいなら進んで身を引こうと思えた。千城や彼の家族の願うとおり、千城の為にも見栄えの良い生活を送らせてあげるのが最善のような気がした。
そう思いながらも天秤にかけたように英人の中で揺れ動いていた。千城を絶対に手放したくないと心が悲鳴を上げた。
優しくされ過ぎた…。千城は英人を大事にし過ぎ、英人は千城を愛しすぎた。その温もりは何にも代え難く、この先の人生で二度と手にすることはできないと思うから、千城の傍にいたいと願う。

一世の言い分を全て聞き終わった頃、千城はスッと身を滑らせて敷かれた座布団を降りた。それから畳の上に三つ指を揃えて頭を下げた。
流れるような動きは一世も英人も声を出す時を失った。

「これまでの御恩は感謝しております。自分の身勝手さも承知しております。しかし私には英人以外の人間を愛することはできない。たとえいかなる女性を割り与えられて頂いたとしても決して愛することもなく子孫も残さない。相手の方を不幸にしないためにも、そして当家の名誉を傷つけない為にも、愛した英人だけを守り続ける私を勘当なさってくださって結構です」
「なんだとっ!!!」
今にも目の前の湯のみ茶碗が投げ飛ばされそうだった。
「ふざけるのもいい加減にしろっ!!」
刺すような厳しい口調が飛んでも千城は全く動じなかった。全ては予測していたことという雰囲気すらあった。怒りも動揺も見せずに淡々としていた。
「彼の無き人生は私にとって奴隷、もしくはそれ以下と同然。貴方の育てた人形に過ぎない。たぶん父にも過去に愛した人の一人はいたはずです。今の私は彼に添うように生きたい。たとえ間違えた人生と罵られても愛したことへの後悔だけはしたくない」

英人の瞳から再び大粒の涙がこぼれ出した。自分がいかに愛され大事にされているのかを身を持って知った。
背負う全てを捨ててまで英人だけを想い続けてくれる気持ちに胸が温かくなる。
千城が告げた台詞には一世に過去を彷彿とさせるものがあったらしい。
それが千城を育てる過程だったのか、一世自身が過ごした若かりし日々のころのことなのかは判断ができなかったが、一瞬の動揺を千城も英人も感じずにはいられなかった。
一世は千城を睨み続けていたが、その瞳には過去への償いがあるようにしか見えなかった。
「指輪を…、英人から取り上げた指環を返していただけませんか。この家の財産も権利も放棄する覚悟で指輪を受け取ります」
あえて口にはしなかったが、英人の指に証が無いことを千城は気付いていた。何故取り外されてしまったのか、その理由も…。

「今、何と言った…?」
「全ての権利を放棄すると」
「やめなさいっ!!」
一世の怒りようは半端ではなかった。英人は竦み上がり、千城は変わらずに畳の上に居た。
英人はもうどうして良いのか全く分からなかった。
今しがた、愛されているのだと感じたことだけで「もういい」と思えた。充分なほど千城からたくさんのものを貰った。
千城に「英人を捨てる」と言われれば素直に従えただろうし、千城が『榛名』から切り離されると言われれば後悔する。
なにもかも、全ての原因が自分にあるようで、自分さえ消えてしまえば万事収まるような気すらしてくる。
目に涙を溜めながら、千城を伺い見た。何より望んだのは千城の幸せだった。
「ね、…俺のことはいいから…」
「何も心配しなくていいといつも言うだろう。おまえのことは必ず守る」
親の手前ですら、千城は英人を安心させようとした。
英人を抱きこんだ千城に、苛立ちを隠さない千城の父の怒鳴り声が響いた。
「このような男に何の価値があると言うんだっ?!私の前でも平気で足を開くような男だぞ。男娼など連れ込んで自分の身を食いつぶされると何故分からないっ?!」

ビクビクと震える英人を千城は宥めながら父に向かい合っていた。あまりにも冷静に告げられる言葉が響いてくる。
「英人はそのようなことはしない。たぶん貴方が促したことでしょう。そして蔑む貴方を感じたくないから身を切ってほしいと願うのです。子としての最後の願い…。今後一切の『榛名』との縁を切られたいと私の方から望みます。その全てが貴方の為でも私の為でも、英人の為でもあるから…」

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ぼちぼち最終回の準備を始めます…φ(..)カキカキ
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コメント

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千城さんステキ
コメント甲斐 | URL | 2009-12-08-Tue 11:16 [編集]
おぉ。。。言い切りましたね。
かっこいい!千城さん!
大切な愛する者を守るためになら全てを捨てる覚悟があると。
もう、こうなったら、英人君もここであったいやなことは悪夢だと思ってどこまでもついていく覚悟を決めなければね。
Re: 千城さんステキ
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-08-Tue 16:50 [編集]
甲斐様

こんにちは。

> おぉ。。。言い切りましたね。
> かっこいい!千城さん!

千城に『かっこいい』いただきましてありがとうございます~。
言いきっちゃったっ。
榛名父の思う通りにはならないって随分前から考えていたんでしょう。

> もう、こうなったら、英人君もここであったいやなことは悪夢だと思ってどこまでもついていく覚悟を決めなければね。

榛名父とのことはダーリンに慰めてもらいましょう。
あれだけのことを千城に言われちゃったんだから、うだうだと過ぎたことを振り返ってないで前に進もうねって、よーくよーく言い聞かせなくっちゃ。

コメントありがとうございました。
Re:
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-09-Wed 07:21 [編集]
MO様

おはようございます。

>千城、きっぱりと 言い切りましたね!お互いに、性格や思考は理解してると思ってたようですが、千城パパは千城の英人に対する愛情を、侮ってましたね。続きが楽しみです♪

まさかここまで入れ込んでいるとは思っていなかったでしょうね。
もともとの千城の性格が合理主義というか闘争心の塊みたいな人だったから恋愛感情に流されるなんて想像していなかったと思います。
まぁ、そうなるよう教えたのは父ですし…
親子としての関係よりも会社内での繋がりの方が濃かったことが仇になりましたね。

いつもコメントありがとうございます。
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