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BLの丘
淋しい夜の果て 10
2009-12-07-Mon  CATEGORY: 淋しい夜
千城の父は、千城が戻ってくるのは明日だと言っていた。
「ち…?」
幻覚でも見ているのかと思った。突然のことに居間で呆然と座ったまま身動き一つ取れないでいる。
そんな英人に近づいてきた千城の顔に安堵の色が浮かんだ。それから徐に英人を腕に抱きこんだ。誰が見ていようがまったくお構いなしだった。
「一人にして済まなかった…」
千城の声は掠れていた。千城は英人がどれだけの恐怖と不安の中にいたのかを感じ取っている。今回の出来事が全て自分の責任と己を責めているようだった。

千城の肌を感じ、匂いを嗅ぎ、英人はこれが幻ではないのだと確かめるように千城に腕を伸ばした。
たった一日しか離れていないのに逞しい腕が懐かしい。涙がとめどなく溢れて嗚咽がこぼれた。
「…ち、しろ…」
ようやく口にできたのは愛しい人の名前だけだった。骨が折れてしまうのではないかというほどきつく抱きしめられている痛みがとても心地よい。
戻ってきてくれたのだ、英人を身捨てずにいてくれた…。そう思えた。

「英人と千城さんて知り合いだったの?一世さんじゃなくて千城さんのだったってこと?」
縁側にいた立川から冷やかな声が振り下りてきた。昨日千城の父から訂正された言葉も、立川の中では所詮信じられてなどいなかった。そして英人は彼が思っている身分から抜け出せていない。
立川の声を聞いてから千城は彼の存在を知ったようだった。立川が発言した言葉に明らかな不快感を表して鋭い口調になる。
「何故聖がここにいるんだ?!その口の聞き方は何だ!英人に対して失礼だろう!」
だが立川は千城の怒りに触れても動じる気配も見せなかった。相変わらず軽く肩をすくめたくらいで、口調には余裕すらあった。
「英人に会いに来ているに決まっているじゃん。それに、昨夜俺が来た時、英人ってばバスローブしか着ていなかったんだよ。一戦交えましたって言っているようなもんでしょ。そういう人間なんだって判断するよ」
英人の体が大きくビクリと震えた。言葉を告げるよりも分かり易い反応に千城の視線が戻ってくる。
千城の父にされたことと投げつけられた言葉が脳裏に蘇った。昔過ごした日々が嫌でもちらつき英人を苛んだ。
昨日の状況を何があっても千城は聞きだすし、自分が言わなくても千城の父が話すだろう。
千城以外の人間で感じてしまうような体なのだと改めて聞いたら千城は何と思うのか…。

「何をされた?」
英人をぎゅっと抱いていた腕の力が緩み顔を覗き込んでこようとする。涙に濡れた顔を英人は上げることができなかった。
誤魔化せないことは分かっている。だからと言って素直に語れることでもない。
こういう時の英人がなかなか口を割らないのは千城もよく知っている。たとえ数秒の間でさえこれ以上の沈黙に耐えられなかった千城は、優しく英人の髪を梳きながら宥めた。
「何があってもおまえを責めることはしない」
千城が父親の性格を充分なほど理解していて、ある程度の予想までしていたのだと何となく感じる。立川が言うように本当に交わったわけではないが、そんな言い訳をする気にもなれない。
いたわるような千城の声を、耳を押し当てた胸を通して聞いた後、束の間の沈黙を破って再び立川が口を開いた。

「へぇ、千城さんでもそういう顔ができるんだ。余程気に入っているんだね。ま、俺はキスしかさせてもらっていないから体の相性まで分からないけど」
「黙れっ!」
怒鳴られて言葉を遮られても全く懲りた様子がない。それよりも立川にまで不機嫌な色が混ざり始めた。立川がわざと性的な話題を口にしているようだった。一度は手に入れたと思った英人が千城に取り上げられ、もう触れさせてもくれない雰囲気に苛立ちが募っているらしい。
英人の行動を知らしめれば千城が呆れて捨てると思っているのだろうか。
千城にしてみればこの屋敷で二人の人間と関わり合いを持ったと改めて伝えられた内容だったし、英人は自分の身汚さを再確認させられているようだった。
「これ以上英人を侮辱するのは赦さない」
千城の恐ろしく低くい声が響くと同時に、部屋に近づいてくる足音が聞こえてきた。

戸口は開け放たれたままで、外の廊下でオロオロとしていた使用人の女性が、近づいた人を目にしてホッとしているようだった。
姿を見せたのは昨夜千城の父と玄関口で話していた男だった。
ピンと背筋を張りその場に膝と手をつくと丁寧な物腰で頭を下げた。
「お出迎えも出来ずに申し訳ございませんでした。ご帰国が明日と伺っておりましたもので」
「前置きはいい。英人を連れて帰る」
「旦那様よりお客様にはこちらのお部屋でお待ちいただくよう申し付けられております。千城様には客間の御用意を」
「結構だ」
ピシャリと男の言葉を押し止めると千城は英人を立ちあがらせた。険しい表情を一転させて穏やかな口調で「帰ろう」と英人を促す。千城の腕の中でまだ涙を流し続けていた英人はコクンと小さく頷いた。
あの家に帰れる…。それだけで暗かった心に明りが灯ったようだった。

誰にも何も言わせない態度で千城に抱えるように連れられ、長い廊下を渡り玄関に辿り着いた時には本当にホッとしていた。千城さえいればどんな苦難でも乗り越えられるような気がしてきた。
待たせていた車に乗せられて門に向かった時、入ってくる一台の車のライトが見えた。
内側のゲートの明りの下に浮かび上がった車は、間違いなく英人がこの屋敷に連れて来られた時に乗っていたものだった。

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コメント

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かっこいいなぁ王子様
コメント甲斐 | URL | 2009-12-07-Mon 11:15 [編集]
王子様の登場ですね。
白馬に乗って捕らわれの姫を助けに来てくれたんですね。
危うく魔物に喰われそうになりました。
喰われてないけど微妙なことまでされてしまったのをなんと言っていいのか戸惑い怯える英人くんの心境を、王子様は理解してくれるのでしょうか。
早くこんな魑魅魍魎の棲家から退散したいところですよね。
深く傷ついた英人君を癒してください、王子様。
Re: かっこいいなぁ王子様
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-07-Mon 13:02 [編集]
甲斐様

こんにちは。

> 王子様の登場ですね。

登場しました~。
白馬は天を駆け地を駆けてきたのでしょう。

> 危うく魔物に喰われそうになりました。
> 喰われてないけど微妙なことまでされてしまったのをなんと言っていいのか戸惑い怯える英人くんの心境を、王子様は理解してくれるのでしょうか。

ちょっとはね…言葉攻めくらいは理解していると思います。
っていうか、聖君の発言がビミョー過ぎて(たぶん千城は父親の性格を理解しすぎているだけに聖の発言に疑問すら抱いています)納得していないはず。

> 早くこんな魑魅魍魎の棲家から退散したいところですよね。
> 深く傷ついた英人君を癒してください、王子様。

あぁ~、気付いたら妖怪(悪魔?)がそこにっ!!
再び出会ってしまったら立川の妄想以上の現実をどう伝えられてしまうのか…?!

コメントありがとうございます。
Re:
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-07-Mon 13:12 [編集]
MO様

こんにちは。

>待ちわびた千城の登場ですね♪きっと英人の不安な気持ちを救ってくれるでしょうが、千城パパも手強そうですから、相当な修羅場が想像できますよね。千城、頑張って~!更新を楽しみにしています。

千城、やっと出ました!!
確か成田⇔ニューヨークのとんぼ返り便、できるはず…って思いながら…。あとは私の妄想です。突っ込まないでねって心から願っています。
ようやく親子対決です!!
千城は愛情の深さを父に分からせたいらしいのですが…表現の度数ってどうやって父に分からせるんだろう…
(え?公開?!)

コメントありがとうございました。

管理人のみ閲覧できます
コメント | | 2009-12-07-Mon 13:33 [編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Re: わぁ~(〃▽〃)
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-07-Mon 17:42 [編集]
Mi様

こんにちは。

> 千城さんの「何があってもおまえを責めることはしない」のセリフに倒れてそうでした。かっこいい~優しい~(≧∀≦)

よ、良かったですか…こんなものが…(-_-;)
言わせる言葉がなくて…こんなのになった一言…

> パパ帰って来ちゃいました!これから親子で対決ですか?ドキドキします。聖さんは邪魔しないで下さいね。続き楽しみです。

さすがに榛名パパの命令(聖にとってどこまでが命令だ?)には従うと思います。
そしてお屋敷内でも逆らえない使用人(執事か何か???)がいると思います。
親子対決始まります~。
英人を含めたら「孫対決」かな?

コメントありがとうございました。
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