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BLの丘
淋しい夜の果て 9
2009-12-06-Sun  CATEGORY: 淋しい夜
食欲など全くなかった。
朝食は部屋のダイニングで取らされた。使用人の女性が運んでくれて数種類のおかずが用意された和食がテーブルの上に並んだ。
ただでさえ苦手な煮魚があった。千城にあれこれと教育され、ナイフやフォーク、箸の取扱い方などは多少なりとも身につけたつもりだったが、改めて一人でつつき、皿の上を眺めれば見苦しいほどの残骸しかない。
食べる気がしなかったから余計だ。

英人はある程度の料理をかき集めるとトイレに流してしまった。
綺麗に食べられなかったと思われるのも嫌だったし、せっかく用意してもらったことへの罪悪感もあった。
食に対してもったいないとか申し訳ないと思う気持ちがあるから、流してしまうことへの後悔はあったが、非難されることを思うと自分を守るようでこれだけは許してと願っていた。

朝食の食器を片付けてもらって何をしようかと考えている頃、懲りもせず立川がまたやってきた。
千城の父がいないことを承知しているのだろう。
「あれ、着替えちゃったんだ。浴衣、可愛かったのに」
洋服に着替えた英人を見るなり、残念そうな声を上げた。新しく用意されたワインレッドのシャツは一見派手で身に付けるのを躊躇ってしまったが、白い肌の英人にはとても映えるものだった。
「どうせなら脱がせてあげたかった」
立川を避けたいのに英人には逃げ場がない。この部屋は一種の檻のようだ。手首を捕まえられると「嫌だ」と拒絶するように振り払った。
ただ触れるだけなら嫌悪も示さないのだろうが、明らかに性的な意味を持った触れられ方は悪寒しか走らない。

立川は英人が逆らうのを笑って流すだけだった。
「とりあえずこの部屋では何もしない」と言ってはいるが、隙さえあれば英人を腕に抱きこもうとする。
千城の父にこの部屋に来てはいけないと言われているはずなのに、全く動じていないのは、英人と違って彼の威圧するような雰囲気に慣れてしまっているからなのだろう。そして立川は怒られないと自負している。
立川は自分のことを教えるかのように良く話した。大学院に通い、英人より一つ年下だった。千城の父と立川の母が兄妹で千城と従弟関係になるのだというのも教えてもらった。
英人が「千城」という言葉にビクッと反応を示すのを立川は見逃していなかった。
「英人、千城さんを知っているの?」
まるで自分の所有物だと言わんばかりに英人を呼び捨てにしている。すでに手に入れたものと英人にわからせたいようでもあった。

英人は千城が自分と契りを交わした間柄だと伝えたかったが、今朝がた千城の父に言われた「千城は英人を見捨てた」という言葉が蘇って口にできなかった。
立川が信じるとも思えないし、いずれ知った時に、英人のひとりよがりと言われてしまうのだろう。
黙ってしまった英人を問い詰めることもなく、「ま、一世さんと親子だからね」と分かったように自分の中で解釈していた。

立川は一向に帰ろうともせず、一方的に話し続け、昼食も共に過ごした。使用人も立川の存在を承知していて内線電話であれこれと要求する姿に逆らうこともない。
息苦しさを感じるのに逃げ場もなくできることといえばトイレに閉じこもるくらいで、英人は自分の惨めさを改めて感じていた。
千城に捨てられ、強引にでも立川の膝元につかされる未来がなんとなく見えてくる。
千城の父は立川が英人に手を出すことを許さなかったが、立川の強引さをみればやがて『玩具』として一時的に遊ぶことを認めそうでもある。

夕食時間が近づいてきた頃、外が騒がしくなった。
ただでさえ広い敷地内に人の声が響くことはまずない。
これには立川も驚いたようで、何事かと敷地が見渡せる縁側の窓を開けた。外は夕闇が広がっている。

「おやめくださいっ!旦那様にっ…!!」
廊下を伝っているのか、使用人と思われる女性の声が響き渡る。それと同時にどかどかと走るような足音が聞こえてきて、この部屋の戸口が一気に開かれた。
「英人!」
振り返ると息を切った千城がいた。

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コメント

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コメントたつみきえ | URL | 2009-12-06-Sun 15:03 [編集]
S様

こんにちは。

>千城やっぱり急いで帰ってきましたね。とりあえず良かった。英人ちゃんと千城さんに助けてもらうんだよ~(>_<)

帰ってきました~。
空港を一歩も出ずにとんぼ返りでございます。
飛行機の中で相当怒りのオーラを撒き散らしていたでしょうね。
また長いフライトだったもので…
きっと次からは何があっても同行させますよ、千城は。

コメントありがとうございました。
死ぬほど怯えて落ち込んでる英人を助けてください、千城サン。。。。。
コメント甲斐 | URL | 2009-12-06-Sun 19:26 [編集]
立川もワルイヒトじゃなさそうなんですけど、こんな状況で出会ってしまった英人にとっては嫌悪しかないんでしょうね。
さあ、やっと登場ですか千城さん!
遅いよ。
もー大事なときにいつもいないんだから~
Re: 死ぬほど怯えて落ち込んでる英人を助けてください、千城サン。。。。。
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-06-Sun 23:22 [編集]
甲斐様

こんばんは。

> 立川もワルイヒトじゃなさそうなんですけど、こんな状況で出会ってしまった英人にとっては嫌悪しかないんでしょうね。

あからさまな性的対象と見られていることがとにかく嫌なようです。
単純に好かれたくらいの雰囲気ならまだしも、立川の態度は露骨ですからね。

> さあ、やっと登場ですか千城さん!
> 遅いよ。
> もー大事なときにいつもいないんだから~

お待たせいたしました。
まったくですよねー。
肝心な時ほど姿の見当たらない千城に渇を入れてやってください。

いつもコメント、ありがとうございます。
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