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BLの丘
淋しい夜に泣く声 84
2009-11-10-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
榛名は英人の崩れ落ちる身体をそっと、砂浜…というよりは砂利石の上に座らせた。一時でも離れるのを嫌がるのが分かっている榛名も一緒に腰を下ろすと、改めて英人を抱きなおす。そんな姿を見守っていた父もほんの数メートル離れたところで膝を地につけた。
英人は涙に濡れていた頬をそっと榛名の胸から離した。見上げた先は目の前の端正な榛名の顔で、英人が相変わらず訳も分からずに先程の榛名の台詞を反芻すれば、榛名の温かな瞳が暗がりの中でもはっきりと英人を捕らえていた。
「あぁ。俺は英人に助けられた。俺はひたすら上へと昇れと言い聞かされて育った。人間も道具の一つでしかなかったんだ。守るべきは組織や部下、地位、名声、家訓であって一人の人間ではない。人として生きる心など何一つ教えられていなかった。だがおまえと共に居ることで世界観が変わった。無垢で何事も知らずひたすら縋ってこようとする英人を見た時、初めて人として大事にしたいものを授かった気分だった。英人に出会わなければ俺は『人』として生きていない。親に作られたただの『人形』だったんだ」

英人は告げられたことにもちろん驚いていたが、目を見開いたままの父のほうが衝撃が大きかったのが窺える。榛名の言葉に耳を傾けていたがその驚愕ぶりを見れば、榛名と英人の関係を晒したのも同然だった。
更に榛名から発される内容を聞けば、同年代の普通の一般人と違う身分は誰でも理解できた。
威圧的な態度も傲慢に振舞う素振りもこの時点で半分は納得できるが、20年振りに再会した息子との関係がただならぬものと気付き絶句したという方が正しい。

染み込ませるように英人に囁いた後で、榛名は視線を父に戻した。
「理解していただきたいと言える内容ではないかもしれない。だが俺は英人を失うことだけは考えられない。たとえどんな反対を受けても必ず英人を幸せにし、守るということだけは神に誓う。自分が家系の名を汚してもその血を絶えさせても、英人だけは幸せにしたい。満足のいく環境を整えてやりたい。
…こんな立場の私をどうか許してほしい」

父に向って静かに頭を下げた榛名を見た時に、英人は更なる涙がボロボロとこぽれ落ちるのを止められなかった。
榛名の覚悟が中途半端なものではないと分かるだけに、英人は覚悟を強いられたような気がした。
だがそれは決して負担に思うようなものではなく、むしろ安心して寄り添える充足感だった。
もしかしたら離れてしまうのではないかと疑いを掛け続けた自分を恥じてしまった。
榛名はここまで真剣に英人のことを考えて今後の人生の一番重要な場所に導こうとしていた。榛名の人生の全てを英人に託すと言われてしまえば、不安を晒し甘えながら傍に居るのが申し訳ないと思った。

英人は人前でありながら榛名に抱きつかずにはいられなかった。温かくて逞しい腕が背中をさすり、大きな掌が髪を撫でてくれる。
榛名が英人の『父』であると認めたことにやるせなさは少し残ったものの、自分の中に渦巻いていたドロドロとした感情はどんどんと剥がれおちていった。
溜め息一つ吐き出されようとしない父に、この時ばかりは英人も顔を上げ父を振り返って正面から視線を合わせた。
「…ごめん…」
背徳感はあっても自分の気持ちに背くことはできない。
英人までもが『赦してほしい』と、今出会ったばかりの父に謝罪をすれば、父はもう何も言えずに目頭を押さえて俯き、初めて英人から視線を外した。

長い時間が流れたような気がする。もしかしたら一瞬だったのかもしれない。打ち寄せては返す波の音が痛く耳に纏わりついた。
「…、…んだな…」
父からポツリと呟かれた言葉は英人にも榛名にも届かなかった。
父はもう一度確認するように、「幸せなんだな?」と二人に問いかけた。
「俺は英人に何もしてやれなかった。英人が作り上げてきた人生なんだ。俺が口を出すことじゃない。おまえの好きにすればいい」
それから、「良かった…」と続けた。

全てを吐き出せたせいだろうか。英人の幸せを確認できたおかげだろうか。
父の顔には潔さのようなものが浮かんでいた。
異国の地で出会ってしまった親子は、引きずり続けた過去をようやく吐き出せた。

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コメント

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誰かの助けになれるっていいね
コメント甲斐 | URL | 2009-11-10-Tue 10:37 [編集]
英人が今までの人生で受けてきた喜びも悲しみも満たされない思いも、いつか出会うはずの千城と分かり合い支えあうための試練だったと思えたら救われる気がします。
甘えて与えられてばかりだと思っていたのに、自分も千城の役に立てる傍にいていいのだと思えるようになれるといいです。
Re: 誰かの助けになれるっていいね
コメントたつみきえ | URL | 2009-11-10-Tue 13:40 [編集]
甲斐様

こんにちは。

> 英人が今までの人生で受けてきた喜びも悲しみも満たされない思いも、いつか出会うはずの千城と分かり合い支えあうための試練だったと思えたら救われる気がします。

無理矢理でも千城にそう思いこまされそうな気がしてきました…。
千城もかなり強引なところがあるので、意識的に感情を操作されそうです…。

> 甘えて与えられてばかりだと思っていたのに、自分も千城の役に立てる傍にいていいのだと思えるようになれるといいです。

はい。最終的に望むのはそこんとこです。
お互い支え合って強くなっていけるのだと思っていただきたいです。

「ヒーくん。初めてのおつかいはお財布落としたり迷子になったりしたけど、(ちー)パパはやっぱりそばにいてくれたね~」っていう心境の私です。

コメントありがとうございました。
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