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待っていたから 2
2013-10-22-Tue  CATEGORY: 待っていたから
 香春が教室に入るとクラスメイトの柳川門司(やながわ もじ)が寄ってくる。この男も嘉穂までとはいかなくても大きい部類に入る。
「おはよ。鞍手、数学のプリント問題、全部解けた?」
 一時限目にいきなりやってくる数学の時間。周りを見渡せば机を囲んでプリント用紙を取り出している人たちがいる。
 回答を写している者、確認し合っている者と様々だ。テストではないからあまり身構える必要はなくても、みんなの前で恥をかきたくない精神は予防策を講じる。大半の人間が間違えてくれたら、それだけで安堵してしまうものだ。
「一応…」
 そういう香春も実は嘉穂に教えてもらったところがある。正確には嘉穂の家族にだが。クラスが同じだったときは出される宿題も一緒だったから分かりやすかったのだが、クラスが離れてからは授業の進み具合が前後する部分が出てくる。授業が終わったところを復習として出されたプリント内容は首を傾げることも多くなった。
 だけどそこは嘉穂の予習も兼ねて、筑穂と、津屋崎家の居候飯塚福智(いいづか ふくち)が面倒みてくれたりする。福智は最近、筑穂の恋人として引っ越ししてきた人物で、筑穂の同僚として働き、香春のこともやっぱり弟と同じように見てくれていた。

 「なになに、見せろよ~」
 柳川は早速答えを求めてきた。無い物ねだりをする子供のように見えて、香春は内心でため息をついていた。こんなとき、どうしても嘉穂と比べてしまう自分がいる。
 しかし、香春は回答用紙を取り出すのを躊躇った。昨日の問題は応用編だったようで、教えてくれた福智も「ひねってあるなぁ」とため息をこぼしていた。それだけ難しいということなのだろう。今現在答え合わせをしているクラスメイトの姿も納得できるものがあった。
 香春は発した言葉通り、一応全部解いてある。正解かどうかは分からないが、細かく解説しながら進めてくれた答えが間違っているとは思えない。香春が一人で解けないことは周知の事実だろうし、もし間違えていた時、津屋崎家の恥を晒すような気がしてしまった。
 公然と『間違えていた』とは言われたくない。
「えー、でも、難しかったから…」
「また津屋崎んちの兄貴に教えてもらったんじゃないの?てっきり泣きついたんだと思っていたけど…」
 泣きついた…とは酷い言い方だと思う。確かに当たっているのだから返す言葉もない。香春が無言でいることで、状況は見破られたのか、柳川は「ねぇねぇ」としつこい。…本当にしつこい。嘉穂だったらここまで食い下がるようなことはせず、スマートに引くのに…。
 香春は今更でも、「一生懸命考えたもん」と付け加えてみたが、全く信じられていないのは一目瞭然だった。
 ほとんど奪われる形で、プリントは柳川だけでなく、クラス内を巡ってしまった。感嘆の声を上げる者、あからさまにため息をついて自身の誤答を確認する者、意味も分からなく丸写しするものと様々だ。
 この行為が先生の目に止まらなければいいのに…と願ったところで、結果はすぐに皆の知れることとなる。回答と解説の書かれたプリントを渡され、自己で採点し、解答用紙のほうは一度教師に回収された。
 即座に書き直す人もいるようだが、その辺は教師も大目に見ているようだし、だいいち動きでバレている。あとはもらった解説プリントで再復習しろということなのだろう。
 もちろん、正解者は香春だけではなく、きちんと自力で解いた人だっているのだから、何もおかしな話ではない。ただ、現実問題として、香春には『宿題はできてもテストはイマイチ』という評価がすっかり根付いている。
 この日も、本当の意味で全問正解した人はクラスの半分にも満たなかったようだ。正解者はどれも成績上位の人間で誰しも納得している。
 教師の視点から見たら、写したのは香春と捉えられていてもおかしくなかった。

 昔からどこか要領が悪い香春だった。
 嘉穂が筑穂と穂波の間をひょいひょいっとかわしてしまうところも、香春はいつもつまずいた。そのたびに嘉穂が手を差し伸べてくれて、同じ時間を過ごすことができた。お菓子の奪い合いから、先生の話を良く聞いていなくて揃って忘れ物をした時の言い訳にいたるまで…。
 別に教師に直接言われたわけではないし、級友も責めてはこないけれど、はびこっていく空気というのは感じてしまう。嘉穂が隣にいた時は感じることがなかったもので、それだけいつまでも頼りっぱなしと言っているようなものだ。
 香春と嘉穂の持つ雰囲気が徐々に変わり始めたことも、周りの人にこれまでと同じではない印象を与える。
 大人の階段を昇り始めた人と、変わり映えのしない香春。置いていかれる不安は常に襲ってきた。
 嘉穂のそばにいる存在と皆に知られて、また態度で教えるのはいいが、金魚のフンとは違うのだと言いたい。嘉穂は優しいから、断われないだけだ、とは思われたくない。そんなふうに捉えられたら嘉穂との間に隙間ができて、誰かが潜り込んできそうだから…。

 嘉穂の部活終了の時間を待って、香春と肩を並べて帰路につく。空は夜の帳を落とし始めた。暗くなり始めても、隣に嘉穂がいてくれると思うと不思議と安心感が漂う。
 この日の帰り、嘉穂も同じプリントの問題が出されたと話し出した。この話はすでに学年内では交わされている話題で、早速香春のクラスの生徒に駈けよった生徒もいる。嘉穂は香春と一緒にプリント用紙を眺めていたのだから当然知っていた。
「昨日福智さんの説明、聞いたけど、もう頭から消えてるよ~」
 嘉穂も難しさに嘆いている。でも嘉穂のことだから、なんだかんだ言いながら理解しているのだろうと微笑んだ。
「嘉穂くんなら大丈夫だよ。それにもう一回、教えてくれるって」
 面倒見が良いのは筑穂だけではなく、同居人も然り。これまでだって、見捨てることなく理解できるまで何度も丁寧に繰り返してくれた。だから香春も授業に置いていかれることなく付いていけている。
 そんな話をしながら歩き進めていると嘉穂の携帯電話が鳴った。最近では携帯する人も増えてきていたが、嘉穂は小学生の時から、…正確には親が亡くなってから持たされていたものだ。ついこの前、香春も親に買ってもらったものがある。同じ機種の先には、やはりお揃いの、指先よりも小さな球がついたストラップがぶる下がっている。クリスマスに嘉穂がプレゼントしてくれたものだ。

ストラップ

 メールが入ったらしく、携帯電話を眺めた嘉穂は「ふーん」とすぐに閉じた。
 香春が「どうしたの?」と首を傾げると、いつもと変わらない返事がきた。でもその表情はどこか憂いを含んでいるように見えた。少し強がっているような声も…。
「にぃちゃんたち、残業だって」
 嘉穂はたまに筑穂のことを『にぃちゃん』と呼ぶ。昔の呼び名だ。意識せずに出るのは、話相手が香春だからだとは承知していた。気を許している証拠で、そんなところでも香春は喜んでしまう。
 だからこの時、香春は嘉穂の僅かな表情の変化よりも、嘉穂が一番身近にいてくれていると思える態度が嬉しくて不思議がらなかった。

 筑穂と福智は同じ会社に勤めているので、揃って残業になることはしょっちゅうだった。嘉穂も大きくなったし、穂波もいるから、と香春の家で過ごす時間は減ってきているが、いつの頃からか穂波は香春の家に寄り付かなくなった。香春の家どころか自宅にもあまり居つかないようだ。
 香春は嘉穂が遊びに来てくれるのが嬉しかったから穂波のことはあまり気にかけず、そしていないからこそ、ずっと家にいるよう頼み込んでしまう。最近は香春の母親も、近所なのに「泊まっていけばいい」と嘉穂を促すようになっていて、特に週末の日は先に筑穂に連絡を取っているほどだった。暗くなってから歩かせるのは危険だ、とは、交通事故に敏感になっている筑穂の心情を気遣っているものでもある。夜道を歩くのは大人だって危ない。ましてや今は、穂波もいない…とは、とってつけたような理由だった。
 週末の今日、もしかしたら予想できていたことかもしれない。
「そうなの?じゃあ、今日はうちでごはんだね」
 香春も決まりきったことのように声をあげる。若干嬉しさが込められたのは否めない。働いてくれている筑穂たちには申し訳ないけれど、少しでも帰ってくる時間が遅かったらいいのに、とは単純な思考の行く末だ。
 筑穂から嘉穂に連絡が入る時は同時に香春の母親にも詫びの連絡が行っているので晩ご飯の用意はされているはず。これは昔から変わらない。年を重ねるごとに、生活環境は変わっていくのかもしれないが、いつまでも続いたらいいのにと願わずにいられない。
 まず津屋崎家から離れていった穂波を見ているから、少しの心配事として香春の中に巣食い始めていた。

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コメント

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嘉穂と 香春
コメントけいったん | URL | 2013-10-22-Tue 09:18 [編集]
いつも側に居るからこそ その成長の差で生じるモノが、 憧れでもあるし 悔しくあり

『君は 特別なんだよ♪』と 
嘉穂が示す 言葉や態度は 香春を嬉しくはさせてくれる分だけ 不安にさせている様ですね。

香春が香春なりに 足掻き 必死に頑張っている姿は、嘉穂に 十分 伝わっていると思うよ! 
それに 嘉穂だって そんな香春を見せられれば、「もっともっと 頑張ろう!」と思っているはず!
香春に 自分の存在を 確固たるものにしたいが為に…
((ノ*・・)-oo-(*`・∀・´)ノ いつも 一緒だよ♪

Re: 嘉穂と 香春
コメントたつみきえ | URL | 2013-10-22-Tue 14:55 [編集]
けいったんさま こんにちは~。

> いつも側に居るからこそ その成長の差で生じるモノが、 憧れでもあるし 悔しくあり

この成長の差がいろいろと思わせるところになりますね~。
近くに居すぎて気付かないんだか気付いてしまうのだか…。

> 『君は 特別なんだよ♪』と 
> 嘉穂が示す 言葉や態度は 香春を嬉しくはさせてくれる分だけ 不安にさせている様ですね。
>
> 香春が香春なりに 足掻き 必死に頑張っている姿は、嘉穂に 十分 伝わっていると思うよ! 
> それに 嘉穂だって そんな香春を見せられれば、「もっともっと 頑張ろう!」と思っているはず!
> 香春に 自分の存在を 確固たるものにしたいが為に…
> ((ノ*・・)-oo-(*`・∀・´)ノ いつも 一緒だよ♪

お互い刺激しあって、もっと近い存在に…。
言葉にしなくても伝わるのは、一緒にいる時間が長くて、良く知っているからこそでしょう。
でも伝わらないものもあるよね。
そこは声にしないと。
安心するところと不安になるところ、どちらも香春を襲っています。
嘉穂がどんどんと大人になっちゃう気がするのかなぁ。

コメントありがとうございました。
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