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BLの丘
淋しい夜に泣く声 82
2009-11-08-Sun  CATEGORY: 淋しい夜
話が長くなりそうな予感に、榛名が「どこか…」と促したが、泣き崩れる英人がそれを拒否した。
明るい場所に出て真正面から父の顔を見る勇気もなかった。
父もそれが分かったのか、手短に済ませると言った。
父は威圧的な態度をとる榛名を最初こそ訝しげに見ていたが、英人が心を許している存在なのだと認めることで、母にも黙っているように伝えられていたことを話し始めた。
彼も心の中に巣食っていた何かを吐き出したかったのだろう。英人の隣に榛名が居たことも一つの安心材料だったのかもしれない。

「家をあけたことで後ろめたさがあったのは確かに俺のほうだ。海外にばかり出ていたせいもあって、ある頃から朝子に帰ってくるなと言われた。仕事が軌道に乗れば乗るほど家に帰りづらくなっていたことを知って、好きにさせてくれているという自惚れもあってあまり気にしていなかったが、数度繰り返した時に本当に朝子は家に入れてくれなかった。
英人は物事の判断ができるようになっていたし、あんな半端な帰宅で惑わせたくなかったそうだ。朝子の望んだ理想と現実はかけ離れ過ぎていた。俺はどんなに短い時間でも英人の成長を見守っていたかったが朝子はそれを許さなかった。こんな父親を持つくらいなら二人で暮らすと、それまで受けた苦痛の代償だといって生涯英人には会わないという約束をさせられた。生活費も養育費もいらないと俺の意見は聞こうともしなかった」

英人はもう立っていられないほどガタガタと震えだした。
聞かされた…というよりは思い込んでいた事実が全く逆の方向に覆っていた。
…捨てたのではなく追い出されていたということ…?
理解したくないと頭が拒否反応を起こしそうだった。

父の語ることになにか辻褄があったと言いたげに榛名が口を挟んだ。
「その頃すでに英人の母の精神に異変が生じ始めていたということか…。自分の理想を追い求め過ぎたことで精神的なバランスを崩し始めたんだろう。だから貴方や英人に当たるようになった。家の外ではとても聡明な人だったと聞いている。そんな彼女の行動は聞く限り無謀でしかない。貴方に対するプライドもあったのだろうが、賢明な判断を下せなかった時点で崩壊の兆しがあったんだ。晩年は病院通いだったということにも納得がいく」
倒れないようにグイっと引き寄せる榛名の台詞には英人も驚かされた。
榛名はどこまで自分たちのことを調べたというのだろうか。それとも自分が何も知らないだけだったということなのか…。
幼いころから母の精神分析ができるはずもないが、母が病院に通い詰めていたなど全く知りもしなかった。
美大の中で好きな事をやらせてもらって、生活も別になってアルバイトにも明け暮れて、ただの売春婦だと見下げていたせいだろうか、母のことなど気にも留めていなかった。
たまに取る連絡の中でも普段と変わりはないようだったのに…。

これは父にも意外だったようで榛名の存在自体が不可思議なものに変わり始めた。
「君は一体…」
「俺のことは後で話す。英人に依頼したい仕事があった時に身元を調査させてもらった。俺も貴方の存在までは調べることができなかった…というよりしていない。当時は英人の才能にしか興味がなかったからな。だが日本にいないことくらいまでは遡ることができた。貴方が日本に居ようとしなかったことが破綻の原因だと勝手に解釈していたが、先程の態度は父親として焦がれていたようだったから何があったのだと聞きたかった。話してくれたことに感謝する」
淡々と話し続ける榛名は英人の身体を支えながら柔らかな髪を梳いた。黙っていて悪かったと言いたげな態度と真実を父から語らせることで英人の膿をかき出そうとしているかのようだった。

英人はいまだに現実を受け入れられないでいた。思い出したくない過去が断片的な映像となって脳裏を駆け巡っている。
何から考えていいのかも分からず、どんな感情が心の中に沸いているのかも判断できないくらいに混乱していた。
「もともとは俺の責任だ。あの時仕事を辞めてそばに居てやれば良かった。朝子が許すことに甘えて奔放に飛び回ったのが原因だったんだ…」
今の現実を知って落胆する父の姿は最初に見た時よりもずっと小さくなっている。
今頃になって初めて知った父親の愛。全てを闇に葬った母。
満たされるような感覚と裏切られたような狭間を英人は彷徨った。
「本当は英人に会いたかったのではないか?写真を撮った時もあまりにも懐かしそうだった」
まるで何かを導き出すような問いかけに父は「あぁ…」と短く頷いた。
「家族にはずっと会いたかった…。忘れたことなど一度もない。でも俺の居ないところで二人が幸せに暮らし、波風を立てないで済むのであればそれを選んだ。自分の身勝手さは身に染みていたし、二人の幸せを何より望んだからな」
幸せそうに笑っていた英人の顔が自分の思い描いていた世界と重なったそうだ…。
だけど現実は違ったんだな…と振り返る過去は重みがあり過ぎた。

ガクンッと英人の全身から力が抜け落ちた。力強い腕に支えられなかったらまっすぐに地面に崩れ落ちたはずだ。
聞きたくなかったのはこの言葉だ…。
…嘘だっ!!…
何かを拒否するように激しく渦巻く恐怖が全身を流れた。
英人は何かを信じ、やがてそれらに裏切られることを一番恐れている。
今ここで父の言葉を鵜呑みにして、後々『やっぱり』と言われるような場面が嫌でも想像されてしまう。一度捨てられたと思っていた相手だけに、不信感は拭えないのに、言葉の深さに嬉しく思う自分が許せなかった。

「英人、おまえは愛されていたんだ。信じていい。おまえの母もやり方こそ間違えたが最後まで気丈さを保つことで英人を支え続けていた。俺もこの人もおまえを裏切ることはない。愛情の意味を知るんだ。そして前に進むんだ。おまえは一人じゃない」
榛名の声が鼓膜から脳へと響き渡る。
どんな時でも自分を思ってくれる人間がいることを忘れるなと言いたそうに榛名は英人の瞳を見詰めた。
榛名の言葉ですらいまだに信じきれていない英人をどんな手を使っても根付かせようとする榛名の魂が英人の心を揺さぶっていた。

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コメント

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おまえは一人じゃないって言ってもらえてよかったです
コメント甲斐 | URL | 2009-11-09-Mon 08:44 [編集]
毎回素敵な台詞やいいなと思う場面があり読み返したくなるのですが、今回のお話が今までで一番大きな感動でした。
英人にとっては、父親にも母親にも捨てられ必要とされていなかったという思いから、同時に自分からも親を捨てていたのだと思う。
「英人、おまえは愛されていたんだ。・・・」の千城の言葉がとてもよかったです。これまでもこれからも誰にも愛されずに愛することの意味も知らずに殻に閉じこもって生きていくのではなく、本当の意味で千城とともに愛し愛されて生きていけるという気持ちになれるのではないかと思えました。
Re: おまえは一人じゃないって言ってもらえてよかったです
コメントたつみきえ | URL | 2009-11-09-Mon 15:53 [編集]
甲斐様

こんにちは。レス遅くなりましたm(__)m

> 毎回素敵な台詞やいいなと思う場面があり読み返したくなるのですが、今回のお話が今までで一番大きな感動でした。

ありがとうございます。
私としては毎度毎度、「こんなの出しちゃっていいの~っ??!!」とわめくぐらい納得していないんですけど、書けないからしょうがない…。

> 英人にとっては、父親にも母親にも捨てられ必要とされていなかったという思いから、同時に自分からも親を捨てていたのだと思う。

母親の心配を何一つしなかったのはそんなところもあると思います。
自分が手をかけてもらえなかったから、親を思う気持ちもどこか表面的なものしかなかったのではないでしょうか。

> 「英人、おまえは愛されていたんだ。・・・」の千城の言葉がとてもよかったです。これまでもこれからも誰にも愛されずに愛することの意味も知らずに殻に閉じこもって生きていくのではなく、本当の意味で千城とともに愛し愛されて生きていけるという気持ちになれるのではないかと思えました。

愛に縋りたいくせに逃げ腰になっていた部分もありましたからね…。
そして人を信じられる心を持てる子になってほしいです。
もし何かを失っても、自分に与えられた試練、くらいまで思えるような強い子を目指したい。(これは無理かな…)

コメントありがとうございました。
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