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BLの丘
月あかり 10
2013-09-29-Sun  CATEGORY: 木漏れ日
しばらくは鳥海の泣き声…というより、鼻をすする音が部屋に響いていた。
瀬見は腕の力を緩めることなく、ただひたすら鳥海を抱きしめて、頬をすり寄せてくる。
タイミングを待つのは瀬見の性格と言ってもいい。
瀬見の腕の中にいればいるほど、ここにいたいと強く思うようになる。
優しさに溺れた自分が、瀬見と離れて見知らぬ土地で物事を器用に回すことなんてできるはずがなかった。
そのことを誰よりも知っているから、余計に未来に対して不安が募っていることも。
過剰に反応し過ぎて、悪い方へと思考が働くのも、鳥海の短所かもしれない。

しばらくの間泣いていた鳥海も、瀬見がそばにいてくれる現実を感じて、ふとした拍子に涙が引っ込んだ。
抱きしめられているだけだった鳥海が、逆に瀬見の背中に手を回してぎゅっとすると、「鳥海?」と気遣わしげな声が降ってくる。
無理に顔を上げさせるようなことはなく、いつものように鳥海を撫でてくれる手の動きは止まらない。

一人で考えていても埒が明かない。
瀬見が言ったように、胸のもやもやを吐きださない限り、延々と続くものになりそうで、そんな状況を鳥海が引きずっていけるはずもなかった。
泣くだけ泣いたら、なんだかすっきりしてしまった。
…きっと、瀬見なら分かってくれる…。
なにも遠くに行かなくったって、いざとなったら八竜と一緒に家の後を継げばいいじゃないか。
そうすれば藤里もいるだろうし…。
開き直るのが早いのは、鳥海の長所といっていいのか…。

顔を上げるのもなんだか憚られたが、鳥海の心の変化が分かるのか、瀬見は「顔でも洗ってくる?」と間をとろうとしてくれた。
鳥海は、うん、と頷いて、瀬見の腕から体を起こした。
瀬見と視線が合ってしまって…、結局は見られてしまうのだけれど、すくっと立ち上がって洗面所へと向かう。
瀬見の顔は、悲しそうな、悔しそうな、…辛そうな、ホッとしたような、複雑な心境が如実に表れていた。
何をどう思っているのだろう…。
聞きだそうなんてことは、過去、知らずのうちにやっていたかもしれないが、今のようにはっきりと気持ちが知りたいと強く思うこともなかった。
何かを聞いたとして瀬見が嫌がって答えなかったこともなかったと振り返る。
だから今も誤魔化さずに答えてくれるだろうと、期待もする。
瀬見の言動を自分が気に留めなかっただけか、瀬見がうまくはぐらかしてしまっていたからなのか…。
冷たい水でパシャパシャと顔を洗い、鏡に映った、目がまだ赤い状態の自分を見て、タオルを持ったままでリビングに戻った。
瀬見はカフェオレを静かに口にしていた。
ボスンとさっきと同じ場所に腰を下ろして、鳥海も喉を潤す。
「はぁぁぁぁ」と一際大きいため息を吐くと、瀬見の手が伸びてきて濡れたらしい髪の毛を指先で梳いた。
「シャワー浴びる時間はなかったと思うけれど」
そんなに酷い濡れ方だろうか。勢いよく水をかけてしまったことは分かっているけど。
自分でも手をかざすと、瀬見の手と触れ合う。
鳥海の手が瀬見の手に包まれると、自然と視線がぶつかる。
何から話していいのか、絶えまなく考えているのは瀬見のほうだろう。
たぶん鳥海とは雲泥の差がつくくらい、脳の動きは高速回転しているに違いない。

「瀬見さん…、あのね、オレね…」
沈黙がいたたまれなくて、先に口を開いたのは鳥海のほうだ。
今更起承転結、うまく説明ができないことくらい瀬見だって承知している。
補足はその都度していけばいい…。
鳥海が言いかけたことに、瀬見は真剣に向かいあってくれる。
「さっき、羽後さんから聞いたこと、自分に置き換えて色々考えた。仕事ってなったら、遠くに行かなきゃならないこともあるって、そういうのは分かっていたつもりだけれど、やっぱり実際働いている人が思うことってオレみたいに世間知らずが考えているような甘いものじゃないんだって教えられた気分。知らないうちに、オレは、ここで、この近所で暮らし続ける前提で物事を考えてた。瀬見さんがいて、藤里がいて…、環境が変わらないことばかり…」
羽後は漠然としていたものを現実味のある言葉で告げてきた。
双子を前にしたから、余計に"離される"と思考を占めたのかもしれない。
瀬見は黙ったまま、瞬きで頷き返す。
「誰も知った人がいないところで、一人で大丈夫なのかなって。遠くに行ったら瀬見さんとも別れなきゃならなくなっちゃって、そしたらオレ…」
「鳥海、ちょっとまって。どこをどうしたら『別れる』話になるの?」
話を途中で遮られることは珍しい。
瀬見はどこか怒りを含んだ口調で、その根拠は何だと詰め寄ってくる感じだった。
まず、最初の出発点が違っていると話を戻してくる。
だが、何が瀬見の背を押すのか、鳥海が脳内で整理をするのを瀬見は待たなかった。
黙って聞いててくれたのはここまでだ。
「瀬見さ…ん…?」
「仕事の状況で隔たりができるのは理解できる。だけど仕事の話と別れ話はまったく次元の違うものだろ?まだ何も決まっていない今から、そんなことを口にされたくないよ。少なくとも俺は別れる気はさらさらない。前にも言ったはずだよ。どんな時でも待ってるって。だからといって俺の存在で鳥海の将来の幅を狭めたくもない。そこは鳥海が決めるところだからできるだけ口を出さずにいようとは思っている」
「でもオレは羽後さんみたいに瀬見さんを連れていくことなんてできないよ?」
一瞬、瀬見が息を飲むのが伝わった。
ピクリと眉がひそめられる。
吐きだされる声には緊張までも孕んでいるようだった。
「もう行きたい先が決まったの?」
「違うけど…」
まだなんの未来予想図も描けていない。
鳥海が正直に言えば、すぐにも安堵した顔色に変化した。
「じゃあどうして『連れていく』ってなるの?そこまで考えてくれるのは嬉しいけれど、この近くで働く可能性がなくなったわけではないでしょ?」
鳥海は諭されて、あっ、と思った。
…そうだ…。なんで離れた土地で仕事をしなければならないという話になってしまったのだろう…。
近く、の距離だって、どの範囲を示すのか、人によって変わってくる。
鳥海が今更ながらに気付いたと知ると、呆れているのとは違った苦笑いを浮かべた。
どんな状態でも笑えるようになったら、心にも落ちつきが芽生えるのか。

「海外にでも行かれない限り、所によっては時間を作って会うことは可能だろう?そりゃ、確かに今のように気軽に会いに行くってことはできなくなるかもしれないけれど、長い時間があくわけじゃない。鳥海の生活環境が変わってくるのも仕方がない部分だけど、それ以上にやりがいがあったら、少しの苦労は返ってバネになるんじゃないかな」
「うん…。羽後さんに言われてあちこち行くことになるのかなって…」
「あの人はあくまでも"一例"を言っただけだよ。それに会社っていうのは一つや二つじゃない。まずは自分の希望に合うものを探すのが先。そこから少しずつ妥協できるところを削っていけばいい。その中にはもちろん、これだけは譲れないっていうものも出てくるでしょ」
一気に話が飛躍し過ぎていたのだと言い聞かせられる。
探したら、ここから通える範囲に希望する職種が一体、幾社あるかなんて頭から削げ落ちていた。
鳥海は何も世界が注目するような大きなことをやりたいわけではない。
親や兄の背中を見てきた。
ほんのちょっとのことで、人が喜んでくれたら嬉しい。その手助け程度でいいのだ。
たまたま普通の人が理解しにくい分野の知識を身に付けただけのこと。
それが生かせればいいだけのこと。

「そっか…。そうだよね。誰もかれもが転勤だ、引っ越しだって言っているわけじゃないんだ…」
「そうだね。世の中には『出張に行ってみたい』って言うくらい、閉塞感に囲まれて過ごしている人もいるしね」
「え?そんな人、いるの?」
自ら遠くに行きたいなんて言う人の神経が鳥海には理解できなかった。
見知らぬ土地に行き、知らない人に会うことになるのだろうに、希望するなんて…。
鳥海が驚けば、瀬見がクスクス笑う。
「普段とは違った雰囲気に触れてみたいんじゃないかな。俺もそこのところは良く分からないけど」
色々経験してきているから、色々な意見も耳にしている。
思うことは人それぞれで、自分がいいと満足していても、他人から見たら嫌がられるものがあって当然だった。
一人で頭を巡らせていたって、解決策にはいたらないのだと痛感させられた。
とりわけ、鳥海の中では瀬見の意見は大きい。
瀬見は手を伸ばしてきては「分かってくれたかな?」と言いたげに鳥海の頭を撫でる。
それからまた胸に抱き寄せては、「できれば近くにいてほしいけれどね…」とポツリ呟いた。
願望はあっても強制はさせたくない瀬見の気持ちがじんわりと染みてくる。
それは鳥海も変わらない部分だった。
特に触れてはこなかったけれど、短絡的に瀬見と別れなければいけないと思ったことを無言で咎められているようだ。
『別れる気はさらさらない』…。
その一言で、心が軽くなるのだから、自分もなんと現金なものか…。
鳥海もついでに言っておいた。
「瀬見さんも言って。オレ、さっき、瀬見さんが意見する気がないって言ったの、もうオレのことなんてどうでもよくなっちゃったんだと思った。だから就職するのと同時に別れるのかと…」
「俺の言い方が悪かったのか…。重荷になりたくなかっただけなんだけれどね。『いちいち口出すな』って言われたくなかったし」
瀬見がそんなふうに思っていたことのほうが驚きだ。
鳥海は意見して欲しかったのに…。
瀬見口角を上げ、無理な笑みを作ってはぎゅっと鳥海を抱きしめてくる。
「結構いっぱいいっぱいなんだよ。嫌われたくないんだ…」
切羽詰まった瀬見の声を聞くのも珍しい。
…本当に今日は意外な瀬見を見せられてばかりだ…。
「嫌わないのに…」
鳥海も瀬見の背に腕を回して、トントンと叩いては慰めてあげた気になった。

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週明け、更新が滞ると思います。短くても書けたらやってきますね。
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コメント

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(* T-)ヾ( ̄▽ ̄;) ヨシヨシ♪
コメントけいったん | URL | 2013-09-29-Sun 01:19 [編集]
はっきり見えない将来と 瀬見との関係への不安に 泣いている鳥海
瀬見が言う様に 一人で抱え込まないで欲しいな

瀬見は勿論 八竜にぃにだって 相談していいんだからね、鳥海♪

市「オレも 来年は 就活しなくちゃなぁー」
若「えっ…市!」
市「さっきの人達の話しを聞いて 思ったんだ。オレも そろそろ考えなくちゃって!」
若「市、オマエノ就職先は この店だろ!」
市「若美さん、それって…」
若「そう、市の将来は 俺と この店を切り盛りして 一生 離れず生きて行く事だよ♪」
市「…涙」若「市、返事は?」
市「はい♪」
と、店のカウンター内で 世紀のイチャコラな模様が繰り広げられてる中
座敷では、 周防さまに ベッタリ ひっついている酔っ払いが一人(←私です(笑))
周防さまの笑顔が 凍り付いてたのを その時の私は 知らない。  

ち「見ない~見ない~」
さ「聞こえない…聞こえない…」
ni「知らない人~知らない人~」
ち・さ・ni「「「もう 帰ろっかぁー」」」
腐レンジャー解散の危機か!(((壊゚ω゚)))ァヒャヒャヒャヒャヒャヒャ


やだ、もー
コメントちー | URL | 2013-09-29-Sun 05:43 [編集]
恥ずかしい、恥ずかしいよ、瀬見ちゃん。
マムちゃんを泣かせた瀬見ちゃんは?
あっちゃんに、睨まれてた瀬見ちゃんは?
どこ!どこなの?
カンバック、瀬見ちゃん!
そんなに鳥海くんが大事か?そうなのかあ。
まあ、二人が上手くいくなら良いけどさ。
鳥海くん、瀬見ちゃんを振ってみないかい?
おもし・・・自粛


師匠が周防さんとこに行っちゃったので、残った三人と若美妹でワイワイ酒盛り。
ち「妹ちゃん、結婚してたけど大丈夫なの?」
妹「うち、出張が多くて。だから、いないときはお兄ちゃんとこに来てるの」
さ「へえ?でさあ、市くんとお兄ちゃんて・・・」
妹「あ、多分~。多分だけど。デキテル」
全員「やっぱりー?」

思わずみんなで大きな声をあげてしまい、またしても市ヶ谷くんがビクっとする。

市「お、お待たせしました」
さ「ありがとう。やっぱり今日は、美少年てかんじ?」
ち「少しナメたい」
に「私も~」
市「え?え?」
ち「さえさん、少しー」

若「なんだ、酒かあ。ビックリした」
聞き耳立てる若美にいちゃん(笑)

その頃の師匠。
「あの、こちらの素敵な方は?」
「ああ、ちょっとした知り合いでね。若いのに社長なんてやってるんだ」
「初めまして、頸城能生と申します」
「あら、私なんかに名刺を下さるの?」

師匠、確か能生の事も好きとか言ってたような。
ねえねえ、誰得?師匠でしょ?
まあまあ、あの嬉しそうな顔
見たことないよ、師匠。

ち「師匠、幸せな顔してるね」
さ「ね、瀬見ちゃんと鳥海くんがくっついたってガッカリしてたからねえ」
に「そうですよ。お化け屋敷で頑張りました!」
妹「あの二人ってそういう関係なんですか?」

妹ちゃん。それは、それで妄想が・・・
腐レンジャーの妄想話に花が咲いたのは言うまでもない。

師匠、心のつぶやき。

あー、あっちが楽しそう!でも、周防さま・・・
周防さま、腐った妄想、周防さま、妄想。

Re: (* T-)ヾ( ̄▽ ̄;) ヨシヨシ♪
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-29-Sun 14:57 [編集]
けいったんさま こんにちは~。

> はっきり見えない将来と 瀬見との関係への不安に 泣いている鳥海
> 瀬見が言う様に 一人で抱え込まないで欲しいな
>
> 瀬見は勿論 八竜にぃにだって 相談していいんだからね、鳥海♪

とりあえず一件落着。
瀬見サン、大人の余裕で鳥海を見守ってやってください。
八竜にぃは…、あてになるのかな…。なるんだろうけれど、鳥海はおとなしく聞かなそうで…。

> 若「市、オマエノ就職先は この店だろ!」

若美も伴侶をゲット(*^-')b
市、良かったね~。
美味しい料理と可愛い店員さんで、お店は繁盛すること間違いなし!

> 周防さまの笑顔が 凍り付いてたのを その時の私は 知らない。  

で、こちらは…。
散々飲んでからの登場だったからね~。
もっと早く出てきてくれればよかったのに、ちーさんが焦らしたから(←)

> ち「見ない~見ない~」
> さ「聞こえない…聞こえない…」
> ni「知らない人~知らない人~」
> ち・さ・ni「「「もう 帰ろっかぁー」」」
> 腐レンジャー解散の危機か!(((壊゚ω゚)))ァヒャヒャヒャヒャヒャヒャ

まだ解散しないでね~。
あと数話はあるはずなので。
寝ちゃってるかしら。
みんなで川の字?!
コメントありがとうございました~。
Re: やだ、もー
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-29-Sun 15:22 [編集]
ちーさま こんにちは~。

> 恥ずかしい、恥ずかしいよ、瀬見ちゃん。
>
> カンバック、瀬見ちゃん!

(爆)大変身 瀬見です。
過去の汚点として埋葬したらしいです。
あの頃のままだったら 八竜が出入禁止にしているはず…。
その前に鳥海自身が寄りつかなかったか?!
今となっては鳥海から振ることはないでしょうけどね。

> さ「ありがとう。やっぱり今日は、美少年てかんじ?」

美少年、日本酒だと分かった人、どれくらいいたのかしら。
いろいろあったような『美少年』でしたが。
市くん、ナメられなくて良かったね~。

妹も混じって、楽しい腐女史会、盛り上がりを見せていますね~。
師匠はお化け屋敷での鬱憤を周防ではらしているのか…。
周防にへばりついているけれど、こっちも無駄な努力して…アウゥ!Σ(゚o゚C=(__;ウゥー
い、いえ、膝枕でもしてもらって…。
でも能生も気にいっていたとは、すっかり抜け落ちていました。
あんなちゃらんぽらんな性格しているのに。
で、どのふたりがなんだって?!
(すごいよね~、読者様の妄想力って 笑)

コメントありがとうございました~。
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