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BLの丘
淋しい夜に泣く声 80
2009-11-06-Fri  CATEGORY: 淋しい夜
ガクガクと身体が震えた。
気付いた榛名に抱きかかえられたが、震えは収まらなかった。
英人の視線と男の視線が絡み合う。反らすことができずにただ交わされる無言の会話。

カメラという機材を扱っているせいか英人とは違って逞しさがあった。年齢を重ねているはずなのにそれを感じさせないのは生活感がないからか…。
英人は母親に良く似ていたからこの男のどこを継いでいるのか分からないくらいだが、数ある顔のパーツの僅かな部分に血の繋がりがあることを感じさせた。

何故捨てたのか…。どうして自分たちがあんな不幸な生きざまを晒さなければならなかったのか…。
蘇る過去に英人の心は壊れそうなほど傷んだ。
今更振り返りたくもない過去が濁流のように流れ込んできた。
身を千切るように生活費を稼いだ母とそれに倣った自分。身体を売ることが生活していく上で必要だったあの頃。愛情の欠片ももらったことなどない。抱かれた男の人肌が生きてきた自分に唯一与えてくれた温もりだ。
それをこの男は知っているのだろうか。

「朝子にそっくりだ…」
こんなところで出会ってしまったことに驚きを隠せないでいるのは男も同じだろうが、母の名前を今更この男に呼んでもらいたくなかった。
英人を懐かしそうに見つめる瞳が、母と重ねているのが分かる。一度は愛情を置いた女性。
「すまなかった…」
悪いことをしたと思っているのだろうか。掠れるような謝罪の声が耳に届いてくる。
…すまない…?…そんな言葉一つでこれまでを清算しようというのか…?

悔しさや怒り、恨みなどの感情が入り混じり、英人の見開かれた目から大粒の涙がこぼれ落ちれば、いまだに事情の掴めない榛名が英人を抱えなおした。
「貴方は…?」
男を見据える榛名が尋ねるのを、英人は確認したくなくて首を振った。
改めて声に出して『父親』であるなど聞きたくもない。他人のままでいたかった。英人の記憶の中に『父親』はいない…

「かえる…」
英人が我が儘を言うように呟いても、榛名は目の前に佇んだ男を視界に入れていた。
男も緊張感を漂わせている。英人と同じように何を語ればいいのか戸惑い、だがこのまま離れるのはできないと、男の目は英人を追い続けた。
「大学は?…卒業したんだろう?就職は?…ちゃんと就けたのか?今でも芸術に関わっていられるのか?」
会話の糸口でも見つけようとどこか必死な態度だった。
まるで英人のこれまでを知っているような発言に英人の方が驚かされた。

決して反らすことのできない視線。自分を見つめ続ける瞳。
知らなかったのは自分だけで、たぶんこの男は英人の生活を知っていたのだと漠然と感じた。

「な…んで…?」
「貴方が学費を出していたのか」
英人が疑問の声を上げれば、追いかけるように榛名が確認した。もう目の前の男が父親であることに気付いているようだった。
益々訳が分からなくなる英人よりも榛名の方が事情を知っていることに、初めて英人の視線が榛名を見上げた。
「…ど、いう…」
「何故君がそれを…?」
親子二人が同時に榛名を見つめる。榛名は一度英人を宥めるように髪を梳いてから父親に視線を送った。

「英人の私生活については多少調べたことがあったから。彼の生活水準で進学は経済的に無理だったはずなのに奨学金も受けずに卒業したことが不思議だった」
英人でも聞かされていないことで、英人は咄嗟に父を見つめ返した。
気まずいような顔をしている。英人に告げる気はなかったのだと判断出来た。
しばらくの沈黙が流れた後、観念したように父が口を開いた。

「朝子から英人が美大に行きたがっていると聞いたんだ。俺のようになってほしくないから行かせたくないと言っていたが、俺の血を継いでくれたような嬉しさがあって俺は進学させたかった。朝子も本心では通わせたかったんだろう。仕送りも一切受け取らなかった朝子が、最後にせめて英人には…と頼ってきてくれたことにも応えてやりたかった」

英人の全く知らなかった世界がそこにあった。

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コメント

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一人なら難しくても二人なら頑張れるよ
コメント甲斐 | URL | 2009-11-06-Fri 10:06 [編集]
2話分の感動です。

これが無力な母子を捨ててまで写真に執着していた人なんですね。
世界中を駆け巡り家庭を顧みなかったという。
なぜ無責任に子供まで生ませてしまったのか、すまないと思うのなら初めからもっとぬくもりのある愛情を与えて欲しかったです。
カラダを売ることで生きてきた日々を親だけの責任とはいえないけれど、満たされない何かを求めて無為に過ごしてきたことを思うと、子供を捨てた親を容易に許すことはできないと思います。
そういったいろんな感情と向き合わなければならない人との遭遇は英人にとっては衝撃的なのではないでしょうか。でもこれを乗り越えないと、彼の過小評価しがちな性格や不安定な心の傷は永遠に癒えないとも思います。
頑張って英人。一人じゃないから。
Re: 一人なら難しくても二人なら頑張れるよ
コメントたつみきえ | URL | 2009-11-06-Fri 14:55 [編集]
甲斐様

こんにちは。

> これが無力な母子を捨ててまで写真に執着していた人なんですね。
> 世界中を駆け巡り家庭を顧みなかったという。

はい。パパ登場です。
最初、英人が一日過ごした中で登場させようかと思ったのですが、英人一人ではとても耐えられないと思ったので千城に急遽飛んでもらいました。

> なぜ無責任に子供まで生ませてしまったのか、すまないと思うのなら初めからもっとぬくもりのある愛情を与えて欲しかったです。

次話で少しパパとママの過去が明かされます。
今更遅いんですけどね。

> 頑張って英人。一人じゃないから。

過去を乗り越えるためのスタート地点です。
コメントありがとうございました。
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