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BLの丘
淋しい夜に泣く声 75
2009-11-02-Mon  CATEGORY: 淋しい夜
英人は榛名の存在を忘れようとした。思い出すと淋しさが募るばかりだった。
それよりも目の前にある光景を堪能しなければならないのだと自分自身を奮い立たせた。
マルセイユでの観光はバタバタと過ぎた。ガイドは日本語も達者な白人男性だったが、特にアヤシイことになるはずもなく、無事に一日が過ぎる。
定番の観光地を訪れることはもちろん、彼は自家用車であるSUVに英人を乗せ、ガイドブックにも載っていないような素晴らしい景色を幾つも見せてくれた。早い時間にホテルに戻って一人夜更けの時間を持つのが嫌で、頼み込めば地元ならではの『食堂』で夕食を共にしてくれたし、それこそ夜遅くまで連れまわされ、ホテルに戻った時には激しく神戸に怒られたくらいだった。
次ぐ日は夕刻前までに戻ってくるように執拗に告げられた。ガイドにもキツく伝えられる。
それもそのはずで、夕方には御一行様はマルセイユを発ちニースへと向かう。日本版新幹線のようなもので移動するだけだったが、取り残すことになれば神戸はそれこそ生きた心地もしないだろう。

フランスでも有数のリゾート地であるニースに着いてからは、英人は何故か観光を諦めた。神戸が居る現場に同行してみたいと思ったからだ。
神戸たちは次ぐ日から3日間、この地にいる。4日目の朝には日本へと向けて飛び立ち、その翌日には榛名がまたやってくるから、その時に一緒に見て回れば良いと思ってしまった。
パリでどんな撮影をしていたのか見る暇もないくらい、英人は他のことに興奮し視線を向けていたが、初めて『何かを制作する』現場に興味を持った。

かつて広告を扱う企業にいたせいだろうか。自らの力で「作り上げる」という醍醐味を英人は知っていた。
完成した時の悦びはまた違った感動がある。
神戸やその他のスタッフも達成感の中で生きている。
ほんの一瞬のワンカットのために何時間も費やし、最高の演出を彼らは作り出そうとしている。
そうやって完成される世界に英人は惹かれた。
これまでに撮影された現場がどんなものであるのかは知らない。だが、作り上げるという世界の一コマに触れてみたかった。
神戸はもちろん、誰も英人が付いていくことに文句の一言もなく、むしろ歓迎してくれているような雰囲気さえあった。
英人はとにかく大人しく社会科見学をする子供のように、その現場を眺めた。

生き生きと働く人たちが眩しく見えた。目標があるということは素晴らしいことなのだと改めて思った。
眺めているうちに、ふと『働きたい』という思いが過っていった。自分の手で何かを作り上げる…。『絵』ではなくもっともっと大きく人目に触れる物…。
コマーシャルでもポスターでもなんでもいい。自分の力を発揮したいという願望が生まれた。

英人はこれまでの自分をふと振り返ってみた。
榛名と出会ってからも就職しようかと思ったことは何度かあった。榛名に抱っこされるだけではなく、自分の足で立ってみたいと思ったからだが、結局温もりを失うことが怖くてそこまで踏み出す勇気はなかった。
榛名から与えられるぬるま湯の中で、ぬくぬくと浸かり、言われた方向へと進み、このままで良いといつも流され続けてきた。
生活に対する危機感がないから、就職など出来るはずがなかった。
この不景気の中で、その環境に入れ込む意気込みなどなければどんな企業だって雇ってくれはしない。意気込みどころか働こうとする意思さえなかったのだと再確認させられた。
自分は何の努力もしようとしていない…。

3日間の撮影はあっという間に終わった。
最後の日の夜、神戸は英人をとても気遣っていた。
榛名が到着するのは明後日の午後で、それまでの丸一日を放置することになる。
もともと榛名も理解して組んだスケジュールなのだから、神戸が心配することなど何もないはずなのだが、翌朝早い時間の出発で英人と顔を合わせるのが最後となれば神戸の気持ちも分かる。
一人になりたがらない英人の気持ちを理解していたし、フランス語はおろか、英語だってままならない英人を思えば不安も尽きないだろう。
宿泊していたホテルは高級なリゾートホテルだったから、一日くらいここで過ごすと笑って見せたが、やはり何か危惧したのか、結局いつも通りガイドの手配をしてくれた。
ずっと撮影に付き合わせてしまったことも思ったのだろう。
英人は迷惑をかけるのも嫌で素直にそれを受けた。スタッフの皆ともその夜に別れの言葉を交わした。
「日本に戻ったらまた会おう」
カメラマンの男に、英人の感性に期待している、というような含みの言葉を投げかけられて、それをとても嬉しく感じた。

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コメント

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えらいぞ、ヒーくん
コメント甲斐 | URL | 2009-11-02-Mon 09:11 [編集]
なんだか英人の気持ちにムクムクと盛り上がってくる何かがあったようですね。甘えてばっかじゃあダメって思いながらも、居心地の良さと離れることへの不安で臆病になっていたけれど、自分から飛び立とうと思えるところまでこれたんですね。
これも愛のなせるワザですかね。
帰れる場所があれば出かけていける、それがいつも手を広げてまっていてくれるという安心と信頼が育ってくればもう大丈夫さ~。
神戸さんありがとう、とワタシからもお礼を・・・
(千城と同じくらい過保護なワタシは厳し過ぎ!なんて思いましが、いいやつだ神戸)
Re: えらいぞ、ヒーくん
コメントきえ | URL | 2009-11-02-Mon 13:49 [編集]
甲斐様

こんにちは。
とっても寒い我が家のほうです。11月。もう冬ですね~(しみじみ)

> 帰れる場所があれば出かけていける、それがいつも手を広げてまっていてくれるという安心と信頼が育ってくればもう大丈夫さ~。

きっと千城の声に勇気をもらえたんです。
そして神戸も英人のことを気にしていると身に染みてわかったから、余計に踏ん張ったのではないでしょうか。

> 神戸さんありがとう、とワタシからもお礼を・・・
> (千城と同じくらい過保護なワタシは厳し過ぎ!なんて思いましが、いいやつだ神戸)

結局みーんなで英人を甘やかしているんじゃんっ(;一_一)ケッ
千城は美味しい飴玉を直に口に入れて上げるタイプだけど、神戸はとりあえず見せて選択させるタイプですね。(辛い飴玉が用意されているかは知りませんが。)

コメントありがとうございました。
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