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BLの丘
淋しい夜に泣く声 74
2009-11-01-Sun  CATEGORY: 淋しい夜
地中海に面したマルセイユに到着したのは夜だった。
神戸と同行している4名のスタッフと2名の新人芸能人とも幾度か顔を合わせたことのある英人は、夕食に誘われると戸惑うこともなく、誘われるままシーフードレストランに足を踏み入れた。
温暖な気候でパリとは全くイメージの異なる世界が広がっている。僅かな時間で移動しただけで異文化を思わせる光景にも頭がクラクラしそうだった。
スタッフも芸術志向の高い人間ばかりで、英人は彼らからも多くの刺激や情報をもらっていた。食事の間も翌日に英人が訪れようとしている観光名所などに良いアドバイスを与えてくれたりする。
マルセイユにはたった2日間しかいなかったから、時間は貴重だった。
ここでも神戸は英人の為にガイドを用意してくれていた。おおよその観光予定は神戸に伝えてあったが、出発したいと言った時間にホテルのロビーに迎えに来てくれるらしい。

新鮮なシーフード料理を堪能した後、このまま打ち合わせをするらしい彼らに気を使って先にホテルに戻ることにした。
レストランからホテルまでは僅かな距離だと思ったから(来る時もみんなで雑談しながら歩いてきたので)、来た道を戻ればいいのだと単純に思った。
だけど暗い夜道に一人で外に出た途端に、やたらと声をかけてくる男たちに恐怖を覚えて、英人は駆け足でレストランの中に戻ってしまった。
青い顔をして戻ってきた英人に、神戸が驚いたように顔を向けてきた。
目の前にいたすこし体格の良いカメラマンの男が「女の子に間違えられたのか」と全てを理解したように同情の溜め息を零した。

この辺りは夜は少し治安が悪いらしい。女の子にしてみればどの国に出掛けても夜の一人歩きは『少々』の危険は覚悟の上かもしれないが、英人には心構えなど何一つなかった。
神戸には「何でタクシーを使わなかったの?!」と咎められた。こんなところで惨事でもあればそれこそ榛名に言い訳も立たない。
何も答えられずに英人はただ、人前で泣かないようにするのが精一杯だった。
ここには榛名のように抱き締めてくれる人もいない…。自分の失敗は全て自分の責任だ…。
榛名と共に過ごすようになってから自分の心はとても弱くなった。産まれてかなりの月日が経ってから甘えられる空間を味わった為にそこから飛び立てない。

神戸に手配されたタクシーに乗せられて、英人は宿泊のホテルに辿り着いた。料金も神戸が先に支払っていたから、英人は相変わらず何もすることがなく、指定された部屋に入った。
心に決めたはずの勇気も何もなく、ただ情けなさに涙がぽろぽろと零れ落ちてくる。
どこまでもつきまとう過去。
榛名の前では気丈に振舞え、なにもかも振り払ったと思っていても、一人になりこうして誰かに声をかけられるたびに醜い過去がよみがえってくる。

母親に良く似た綺麗な顔立ちはいつも女の子に間違われた。成長期を迎えても、周りのクラスメイトのように筋肉が付くこともなく、英人の気持ちさえ男に向かっていった。
大学を卒業してまもなく、英人の成長を見守ったかのように母は他界した。長年の心労と身体を使った労働が堪えたのか、燃やされた骨も粉々だった。最後まで英人は母の温もりを感じることはなかった。
英人はずっと母の旧姓を名乗っていたから、父の家も知らなかった。
母の実家も、汚らわしい人と母を認めずに墓を一緒にはしてくれなかった。
財産分与を今後一切請求しないという条件で葬式を出してもらい無縁仏を用意された。金銭的な余裕がなかった英人は母の骨を埋めてやるためにその条件を飲むしかなかった。
母の実家は地元では有名な旧家だったから、みっともない娘を世に送り出したままで引き取りたくなかったのだ。
母は家族の反対を押し切って父と結婚したのだと、その時に知らされた。
全ての身を投げ打っても、結局捨てられたのだ…。

ホテルの部屋の中で、英人は堪えることのできない涙に打ちのめされていた。
榛名と離れたことが悲しい渦となって心の中に打ち寄せてくる。
ほんの数時間前に触れ合ったことが最後のような気がした。
母と重ねたわけではないが、同じような身分のようだと再認識させられていた。
自分は捨てられる…。

英人は携帯電話を開いてみた。今の時間ではフライト中の榛名に電話が繋がることはない。
榛名の声を聞いた。
いつの間にすり替えられていたのか、録音されていた声はこの一週間聞いていたものと違った。
『愛している。英人を愛している』
録音されていたものはこれまでよりもずっと短かったが声には重みがあった。

…愛してほしい…、二度と離さないと確かな証拠が欲しい…っ!!…逢いたいっ!!

心の底から濁流のように溢れる想いに英人は嗚咽を上げた。
それは長年の願いだった。
肌の温もり。自分を大切にしてくれると思える環境。
人間に保証された未来など誰にだってあるはずはないが、安心して休める空間を一度でも手に入れたかった。
金銭や物ではなく、単に抱きしめてもらいたいだけだった。
そう…。幼い子供が母の手は安全だと思えるような空間…。それを知りたい。

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コメント

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めいっぱい愛して抱きしめて
コメント甲斐 | URL | 2009-11-01-Sun 22:07 [編集]
親に無条件で愛されて甘えられるはずのときにそれができなかった子は、大きくなってからそれを別の形で求めたり愛を知らない冷たい人間になると聞いたことがあります。
英人くんの場合は前者で、得られないものを探し求めて空しい行為を続けていたのでしょうね。千城に出会えて本当によかったです。
けど、さすが千城さんです。ちゃんと英人君の欲しい言葉を録音しておいてくれるなんて。いい恋人です。
Re: めいっぱい愛して抱きしめて
コメントきえ | URL | 2009-11-01-Sun 23:27 [編集]
甲斐様

こんばんは。

> 親に無条件で愛されて甘えられるはずのときにそれができなかった子は、大きくなってからそれを別の形で求めたり愛を知らない冷たい人間になると聞いたことがあります。
> 英人くんの場合は前者で、得られないものを探し求めて空しい行為を続けていたのでしょうね。千城に出会えて本当によかったです。

英人は生活費のためとかいいながら、本当は人肌が恋しくて仕方なかったようです。
たぶんお金は二の次だったんじゃないでしょうか。
(今回の話を書きながら、「あら、じゃあ英人もそれなりに良家の子だったのね~」って思いました。行き当たりばったり書いてるからボロがたくさん…汗)

> けど、さすが千城さんです。ちゃんと英人君の欲しい言葉を録音しておいてくれるなんて。いい恋人です。

英人の行動を読むのなんて朝飯前?!
離れているはずの間、途中で一度会っちゃいましたからね…
英人が今まで以上に淋しがるのがたぶん分かったのでしょう。
さすがにこんな事件(?)は想像していませんけど。

コメントいつもありがとうございます!!
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