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BLの丘
意外な展開 6
2013-07-29-Mon  CATEGORY: 珍客
週刊誌のゴシップ記事など慣れたもので、湯沢は名誉棄損で訴えを起こしていた。
日本にやってくる記者が、皆似たような取材に訪れているわけではないし、ましてや買春をほのめかした記事は湯沢の名前を汚していた。
場所がホテルだったことも追い打ちをかけたがまともな思考で判断すれば、誰と連れだって歩いていてもおかしくないところだ。
シルエットから伺える年齢差があったとして、すぐにそちらの話題に結び付けられる短絡的な思考を笑われるだけだろう。
「面倒なことは弁護士に任せておけばいい」という千城の意見に、湯沢は短い期間での神戸との打ち合わせを淡々とこなしていった。
湯沢の来日の目的が『写真展』を開催するためと、予定より早くに公表する羽目になったが、神戸にしてみたらそれも良い宣伝効果となってくれた。
湯沢が長いこと日本を離れ寄りつかなかったのに、神戸が口説き落としたと、一部関係者は神戸を称賛する。
余計に失敗は許されない、とプレッシャーも圧し掛かってきたかもしれないが。
ただ、この時点では湯沢の名前を出しただけで、英人との共同制作とは一言も漏らされなかった。

オフィスのパソコンでポスターの色塗りをしていた英人は視界の片隅に、椅子の背もたれに身を預けたまま、週刊誌を片手で持ち上げ、もう片手を顎に添えている神戸を映した。
だいぶ長いこと、その姿勢を取り続けているのは、故意的に視線を向けなくても見える視野で知れた。
どのページを開いているかはともかく、表紙を見れば、問題の件が載せられた時のものだと理解する。
業界柄、記事にされるようなゴシップから噂話にもならない毛の生えた程度の話題まで幅広く把握している神戸が、何に興味を惹かれ、また英人のことであるなら何をそんなに悩ましげに考え込む必要があるのだろうか、と他人事にできない思いから腰を浮かしかけると、ちょうど神戸と視線があった。
神戸は尚も何か考えているようだったが視線を逸らさないまま時間が流れる。
どちらも微動だにせず、無言の会話を続けては、神戸がひらりと雑誌を机に投げ置いた。
「英人君、時間とれる?ちょっと話したいことがあるんだ」
颯爽とした言葉は他の誰にでも響き、一部こちらに視線を投げて寄こすものもいたが、誰もが『仕事上の話』だと思っていた。

個室に入り、きっちりとドアに鍵までかけている姿を見ては、ただならぬ雰囲気を嫌でも感じとってしまう。
湯沢との個展の話が持ち上がって以来、オフィス内でも『そちらの件』については大っぴらに話をするところがあったが、英人を交えての話までは進展していないので、気軽に話題に出来なかったのだ。
少人数で話し合いを行う時に使われる個室は、6名分の椅子と長方形のデスクがあるだけで、余計な資材を持ち込めるスペースはない、『談話室』になっていた。
「まあ、飲んで」と差し出された紙コップのコーヒーを一啜りする。
正面に座った神戸はここでもまだ悩ましげに頭を巡らせている。
「神戸さん?」
「うーん。色々考えていたんだけれどさ。英人君、今度の展覧会で、湯沢さんとのこと、明かしちゃわない?」
「えっ?」
何を考えているのかと尋ねるようにかけた声に返ってきたのは、普段と変わらない口調での提案だった。
あまりにも淡々と語ってくれるだけに、英人は内容を脳内で反芻してしまった。
『明かす』…とは何を表すのだろう。
英人が理解できないのが分かるのだろう。神戸は会話を止めなかった。
「『湯沢雄吾』という人物が英人君の父親だってことだよ」
「え、でもそれは…」
「千城のことを気にしているの?アイツは何があったって、英人君の好きにすればいいって言うだけだよ」
それは確かに分かるのだが…。
どう口を挟んだらいいのかと悩んでいる間も惜しそうに、神戸は自分の意見を述べてくる。
「改めて英人君の顔写真を載せるかどうかはまだ検討中なんだけれど、すでに知っている人の口は閉ざせないよね。見る人が見れば湯沢さんと英人君が親子だと気付く人も多いと思うよ。また変な噂話をされるくらいなら、こっちからトドメを刺してやるのも手段の一つじゃないかな」
情報などどこからでも漏れていくことは、多くの人間が携わるだけに蓋はできない。
共に"有名人"という存在になっては、人の興味の対象にされ、今まで公表した全てが繋ぎ合わされる。
母親に良く似た英人は、湯沢とこれといって似ているところがあるとは思えなかったが、いざ並べられた時、神戸の言うとおり『親子?』と疑う人は少なくないだろう。
造形芸術に関わる人間なら尚更だ。
「で、でも…」
そんな簡単に決められることなのだろうか。

どうしても戸惑いが生まれる英人に、理解しやすいように言葉を選んでくる。
「英人君のプロフィールは最低限のものしか公にしていないし、『榛名英人』が、アノ『榛名』と関連があると気付く人なんてほんの一握りだよ。"どこにでもある名前"のひとつなんだ。だけど印象というものは違う。親子であろうが兄弟であろうが、苗字が違う血縁者がいると知る者などごまんといる。同じ数だけ疑う人もいるということになるんだ」
「あ…」
「それに今回の件で一番怒っているのは千城なんだよ」
湯沢一人の名前が世の中で泳いでいる。訴訟の件にしても顔が出なかった英人は"蚊帳の外"にされていた。
湯沢は英人に危害が無くて良かったと喜んでいたし、千城も無関係を決め込んでいるのだと思っていた。
全ては『榛名』の名の大きさがあるからこそだと…。
「分からないかな?どんな形であれ、自分の相手を『娼婦』扱いされたんだ。本心を言えば、これをいいきっかけに大々的に公表したいと思っているのは千城のほうだからね」

双方の顔が割れなかったことを良かった…などと単純に考えていたのは英人くらいなものだ。
千城と出会う前の生活態度がどんなものだったのかを熟知している千城は、現在も同じような表現をものすごく嫌った。
ましてや、それが記事にされたとなれば尚更だ。
英人という中心に居る人物を公開することで、『榛名』と直接の関係までは述べないにしても、業界内で知れ渡っていく"真実"は、暗黙の了解で二人を保護するものに変わる。
決して手を出してはいけない領域内として、牽制が入ることになる。
今回の件にしたって、記事を安易に掲載してしまった出版社は、話を耳にした途端に顔を蒼くすることだろう。
無言で無関係を装っている千城が、水面下で着実に獲物を追い詰めている光景がたやすく浮かんだ。
今が枕を高くして眠れる時間だと放っておいているにすぎない。
そして神戸もその時を楽しみにして待っているのだ。
迂闊に手を出した時、どんな仕打ちが待っているのかと知らしめるためのステージ作りまでしているのと同じで。

英人を懐柔するなど朝飯前と思っている人間に囲まれて、英人がより良い解決策など思い浮かべられるはずがなかった。
『英人の好きにすればいい』と繰り返す千城は、その通り、英人の判断に委ねて後を引き継ぐ。
千城が不機嫌だと聞いては、英人は千城に機嫌を直してもらうためにも動くだろう。
個展を開催する前に話題に出されたことなど、まだまだ序章で、無事終わるまでに、どれほど世間を賑わせていくことになるのか…。
それら全てを楽しんでいる神戸を、黙ったままの英人は、千城と神戸がいかに気があっているのかを教えられたし、一番怖い人…と思っていた。
『引き廻しの刑』をいとも簡単に実行してしまう人たちなのだ…。

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コメント

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噂も 75日…(o'ω'o)?
コメントけいったん | URL | 2013-07-29-Mon 08:48 [編集]
「↑」と言いますが、
隠せば隠すほど それは 長きに渡って 深く 人の心に留められるもの

神戸が 提案した様に 公けにすれば 恐ろしい程の勢いで 拡散するでしょうが、長く 燻るものでは無くなると 思いますね。

変な噂で 大切な人が傷つかない様に 守ることも いいですが、
その悪しき根を断とうと 攻めることも 必要かも!

臭いものに 蓋をしても 悪臭は洩れる!
ならば 元から断たなきゃ ダメだよね~♪
『攻撃は 最大の防御!』ドルァァッ( ゚Д゚)┌┛Σ( ゚∀゚)・∵
秘密って…
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-29-Mon 11:52 [編集]
けいったん様 こんにちは~

隠されるものほど暴きたくなる、探りたくなるのが人間の本能みたいなものなんでしょうね。
あっさりと・⌒ヾ( ゚⊿゚)ホラヨ と見せられたら 「あ、そんなものなのね」とサラリこちらも流してしまえるんじゃないでしょうか。
その時は大騒ぎになったとしても、けいったんさまが仰る通り長くは燻りませんよね。

いや~千城ってば守るフリして結構攻め込んでますよ。
おばあさまとやりあった時もそうだけど…。
やっぱりブリザードの世界の人…。
攻撃~っ (*`◇)<雪雪雪雪ブオォォオ.・゜゜(*_*;)カチコチ
コメントありがとうございました。
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