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BLの丘
意外な展開 4
2013-07-27-Sat  CATEGORY: 珍客
せわしなく一日の業務がこなされていく。
英人は初めて目にする動画や風景像に圧倒され、やはり自分の目で見たかったか…と少しばかりの後悔が浮かんでいた。
美しい光景は何度見ても飽きない。
その場に自分がいれば、視野は無限大で、紙の上の一枚とは異なるものがあるのだとすでに知る。
その道のプロが撮るだけに、どっちを向いても、人を惹きつけるものなのだから、英人が興味をそそられてもおかしくはなかった。
やがて多くの人の目に焼きつき、商品と一体で強烈な印象を植え付けていくのだろう。
…人の心に残るもの…。
自分たちが作るものは当たり外れもあるかもしれないが、万人の中で評価される。
競争相手が幾つもあるからだけではなく、自己満足の深い世界は、どこにも手抜きは許されなかった。
まるで、自分自身を試されるような…。

それは個展にも似ている…と時々英人は思う。
誰の手も借りずに、自身を曝け出して本質を見抜かれる場…。
若くても失敗を恐れずに踏み出す状況を揃えてくれた千城や神戸には、頭が上がらない。
何より、この道で生きることの基礎を築いてくれた人の存在が、嫌でも脳裏を過った。
失敗したとしても、"また朝日は昇る"と諭し教えたのは、もしかしたら、『父』という存在なのだろうか…。

刺激となるものを承知しているから、神戸も一つでも多く見せようと、英人を連れ出そうとしてくれる。
もちろん千城も理解した上で、英人を籠の中の鳥にはしない。
今回に限り『英人を休ませる』という千城の我が儘が通ったのは、影に『個展』の存在があったからだった。
千城が企画の全てを委ねることで神戸の収益はほとんど、神戸のものとなる。
千城は英人の名前を世に売ることができ、神戸は榛名のバックアップを得て、神戸自身の知名度を上げることができた。
更に奇抜な展示、過去の『カメラマン』の名は、時間を置いたからこそ、貴重性が高まった。
業界内で彼の名が売れていたとは、その時代を生きた人間だけが知っていた。
注目度は嫌でも高まってくる。
元カメラマンである湯沢と交渉を重ねたのは千城だった。
英人の糧となると分かるからこそ、応じてくれた背景に、神戸が『休暇』を許可するのは仕方なかったのだ。
もちろん、英人に『父』の偉大さを見せることが第一の目的だった。
同時に何があっても千城は英人を支えると刷り込むこと。
父と比べられた時、英人は、挫折するのだろうか、それとも、闘争心を滾らせるのだろうか…。

帰り間際、呼びとめられた英人は、何を告げられるのだろうと、少々かまえた。
今日は一日オフィス内で過ごし、久し振りの仕事に、雑談を挟む暇もなく、英人も充実して時間を忘れていた。
誰の声も響かない打ち合わせ室に連れられ、神戸のパソコンの中から一枚の写真が、壁にあるスクリーンに映し出された。
ふたりきりの空間に、一瞬息を飲んだ。
完全に遮断した背景を、英人にも何もかもが『内密』に進められることを教えた。

映し出されたものは動かない、絵画と同じように時を止めた『写真』だ。
だけどその一枚には、何かを伝えてくる強烈なメッセージが閉じ込められている。
日常の一シーンを切り取っただけのもの。
毎日見ている、あたりまえのもの。
改めて見せられることで、通りすぎた視界の中の一部でしかなかった出来事が、『印象』として脳内に残る。
特別なものなど何一つない。
…そう、あたりまえのこと。

「これ…」
誰が撮ったとしても、同じように見られるかもしれないし、全くの別物だと気付く人もいるかもしれない。
呆然と釘づけになった英人が、魂を震わされるように呟いた声を神戸は聞きとめる。
"違いが分かる男がここにいた"と神戸は満足そうに笑った。
そしてたった何枚か手に入れた写真を、順に取り変えて映した。
数えなくても分かるくらい、少ないものだ。
「彼の視(め)は、何を捕えるんだろうね。『喜』と『哀』が同時に存在する。心に何かを宿すものは、その影を別のもので表現しようとするのかもしれない。一番最初に英人君を掘り当てた千城の原点だよ」
意味が分からずに視線を神戸に移動すれば、もう忘れたの?と半ば呆れられた。
千城が英人に声をかけたのは、イタズラ書き程度に描いた一枚の絵が発端だった。
『誰もが憧れる理想郷』と、そんな言葉を聞いた気がする。
「湯沢さんは何より"平和"や"幸せ"を望んでいたんだ。それは、毎日が変わらない世界だったのかもしれない…」
一変した生活は、英人だけでなく湯沢にも降り注いだからこそ、見極めることができたのだろうか。

秘密裏に物事を進められる事態は、英人も過去に経験した。
千城が英人を半ば監禁状態で拘束したことがあった。
憶測はいらぬスキャンダルになり、披露の前に過去を暴かれる危険がある。
英人と湯沢のコラボ、となれば、充分なくらい話題を振りまき、火種となることを前もって知らされた。
センセーショナルな登場で世間を翻弄して、かつ、短時間で幕を閉じてしまう貴重性。
「英人君が嫌だと言うなら執り行わない」
千城と同じ言葉を吐く人は、自分の可能性を隠すこともなく"踏み台"とすると伝えた。
神戸はどこまでも、頂点を目指すクリエーターなのだと気付かされる。
だが、その世界で生きていくからこそ、最低限の手順は怠らないし、周りにも配慮を続ける。
ここにも"優しさ"が溢れていた。
いずれ、神戸はその全てをひっさげて、海外進出、とりあえずは湯沢の拠点であるニューヨークを目指すのだという。
今回の個展は、現地で優良なスポンサーを身につけるような、強かさが垣間見えた。
湯沢の背を押した神戸を、今度は可能な限りの宣伝文句で披露していく。
湯沢の仕事を思えば、どんな情報機関にでも一言を漏らすのは容易い。
目に止めてもらえるかどうかは、神戸の腕にかかっている、いわゆる"チャンス"。
希望に満ちた眼差しを止められるわけがない。

「明日、湯沢さんが到着するよ。本当は今日、空港で落ち合うはずだったんだけど、運航トラブルで遅れたみたい」
小悪魔的な笑みを神戸は浮かべる。
個展のたびに、湯沢は日本の地に足を運んでいた。
ほとんどは大々的なCMがあったが、今回はホテルとの交渉で突然開催されたものだ。
突発的なものですら、『息子の栄光』を瞼に刻みたい親心がこそばゆかった。
こんなことでもなければ、きっと湯沢は日本に一泊もすることなく、英人と顔を合わせることもなく、姿を消したことだろう。

『喜』と『哀』。

紙一重の上に成り立つもの。

「英人君が嫌がるなら、この話は進めない。湯沢さんには、見るだけで帰ってもらう」
最終日の訪問に、もう一度念を押すように告げられた言葉は、誰もが承知している事柄なのだと認めた。
損得よりも大事にしたかったのは互いを思いやる精神で、踏み出す一歩。
何よりまずは千城から話を通すことで、支え、揺るがない思いを刻みつけるために必要な休暇だった。

西海岸2

英人の作品と並べられる、湯沢が映しだした"日常"とはどんなものなのだろうか。
夫婦の会話や犬の散歩で訪れる一コマも、一枚の絵に閉ざした世界は美しかった。
何より興味を惹かれたのは英人かもしれない。
同じ血をひく人の捉え方を、たった一枚の絵柄から想像したいと強く願う。
こんな機会でもなければ、湯沢の作品自体を見ることができなかったのだと、埋もれていく人の運命を惜しんだ。
湯沢のことだ。
死に際には、一切の血縁を繋げるものを処分していることだろう。
全ては、今の英人の幸せを邪魔しないために…。

生きているからこそ、叶えられる『夢』の共演なのかもしれなかった。
『埋もれさせたくはない』
その思いは、息子の域を越え、芸術家としての威信なのだろうか…。

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コメント

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コメントけいったん | URL | 2013-07-27-Sat 10:31 [編集]
湯沢の写真に共鳴する英人を見れば、「血は 水より濃し」と。
でも
血より 濃いのは 『絆』では ないでしょうか...
英人にとっての 千城、
日生にとっての 和紀、
周防にとっての 奈義、
那智にとって 久志、
佐貫にとっての 成俊など きえちんの作品を読めば 感じられますね。
(あっ、例に掲げたCPさん達は、私の好きなCPなので 悪しからず~(o*。_。)oペコリ)

今は 彼らにとって 強く深く 絆を結んだ 一番 愛おしく大切な存在ですもの!

英人と 父・湯沢のコラボ、楽しみ~♪
って いうことは!
いつかは 腐レンジャーも ニューヨークに進出~~*:.。☆..。.(´∀`人)

けいったんさま こんにちは
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-27-Sat 13:29 [編集]
きっと英人とパパが出会ったのも、魂が呼びあったんですかねぇ(←)
今更のように言ってみる(`・ω・´)ノ
みんなそれぞれ 何よりもしっかりとした強い絆を持っていることでしょう。
絶対、一番の存在ですからね。

♪腐レンジャーは ど~こまでも~ぉ♪
そうか、ではまた出稼ぎに行かないとだね。
資金が足りなくなっちゃうもんね。
今度はスッチー(←CAだな…)になるのかしら。
\(\◇ ̄ )ヘン~(  ̄▽/)ゝシン!!! \(○ `O´ ○)/トゥーー!!
寝顔もバッチリ?!
がんばってね~ヽ(゚∀゚)ノ
コメントありがとうございました。
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