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BLの丘
珍客の訪れ 番外編
2013-07-12-Fri  CATEGORY: 珍客
栗本佳史(くりもと よしふみ)は、診療の終えた患者を送り出して一息ついた。
本日、午後は休診日なので、雇っている人間は帰してしまっている。
時間外にやってきた患者のために開けたので、使用した器具の後片付けは全て自分の仕事になる。
だからといって、それらが手間だと思うことも、雑に扱うようなこともなかった。
こういっては失礼だが、自分の目で確かめることができる分、安心感も増した。
自宅の敷地内にある医院は、良く時間外診療を頼まれる。
診療科目以外の診察を求めて来院してくる患者も少なくなく、身近な”かかりつけ”として存在しているようだ。
父の代から受け継いだ患者も多いため、自然と人との繋がりも強くなった。

医院の戸締りをして外に出れば、焼けつくような暑さに襲われた。
空調が整えられている室内にいるだけに、外気との差を激しく感じる。
「暑いな…」
思わず零れるのは、言葉ばかりか汗も、だ。

自宅のキッチンに入り、遅い昼食の内容を冷蔵庫の中身と相談している時、自宅の電話が鳴った。
家の電話が鳴るのは珍しい。…というより、知っている人間がどれほどいるのかといった昨今だ。
佳史は何事かと眉をひそめた。
呼び出し音が途切れて『ピー』という後、留守番電話に切り替わる。
機械の向こうの相手は、ここに佳史がいると分かっているのか、尋ねる口調をした。
『三隅(みすみ)だが、留守かな。ちょうど近くにいたから…と思ってかけてみたんだが…』
落ち着いた話し方をする年上の男の声は聞き覚えがあった。
きちんと名乗っていることも判断を早くする。
『近くに来たから』という理由だけで立ち寄ることを目的に電話などしてくる相手ではない。
追い打ちをかけたのは、背後から聞こえた若い男の焦る声だった。
『親父っ、救急車のほうが早いよっ。ひな、こんなにぐったりしちゃって…っ』
慌てて受話器を取ると、明らかに安堵した父親の雰囲気が、受話器越しに伝わってきた。
「もしもし?どうしたんですか?」
『あ、あぁ、佳史くん、いてくれたか…。実は…』
話を聞いてみれば、最近引き取ったばかりの幼い子供と一緒に出掛けた先で、子供が元気をなくしてきたそうだ。
オフィス街の一角に作られた噴水広場で水遊びをしていたらしく、しかし移動しようと歩きだしてから様子が変わったらしい。
佳史の父と親しい間柄にあったから、咄嗟に”近くの病院”ということで脳裏に浮かんだのだろう。
そう遠くない距離だ。その場でうだうだと説明を受けるより、直接診たほうが早い、とタクシーで乗り付けるよう促し、走りながら話し続けてもらった。
すぐに救急隊員を呼ばなかったのは、色々な人に対しての配慮も含まれている人柄が滲み出ているのを感じた。
佳史自身、かつての職場が大きな病院だっただけに、関わる人間の多さは熟知しているほうだ。
病院を移動する事態になったとしても、佳史の人脈から、信頼できる他の医師と直接話をすることが可能でもある。
三隅と名乗った男からみたら、自分など未熟者でしかないはずなのに、大事な人のために真っ先に自分を頼ってくれたことは、自信に繋がっていくものになった。

タクシーから降りてくるのを、ドアを開けて出迎えた。
20歳くらいの『兄』に抱かれた子供は、腕の中で力なく目を閉じ、微動だにしなかった。
診察室のベッドに寝かせて検診するのを心配そうに覗きこまれる。
水遊びをしていたとは言っても炎天下にいたことに変わりはなく、熱中症にかかったのだと診断できた。
ずっとついている人がいて、早い段階で変化に気付いたことが幸いしていた。
「脱水症を起こしていますね。入院の必要はないですからこちらで少し休まれていってください」
佳史が腰を上げて振り返ると、三隅は安堵の表情を見せたが、兄の方はまだ納得がいっていない様子だ。処置を施す為に離れようとする白衣の腕を掴まれた。
「どうして、突然?本当に悪い所、ないの?」
「この時期、よくあることなんです。水分をこまめに摂っていただかないと。それにアスファルトの上は、想像以上に気温が高くなっていますしね。歩いているだけでも子供のほうが身長が低い分、その熱を浴びやすいんですよ。大人は『風通しがいい』と感じても、膝丈の位置に立てば、ただの熱風だったりしますから」
佳史の説明は三隅にも思い当たるところがあったのだろうか。
「仕事が片付くまでの少しの間…と外に出したのが悪かったのか。あのまま会社内に置いておけばよかったな」
苦々しい表情は後悔を滲ませている。
兄も理解したようで、ベッドに横たわる子供の頭の隣に座って、汗に濡れた髪を梳いた。
「ひな…、ごめんね。今度から抱っこしてあげるから。早く元気になろう」

…それよりも不必要な外出を控えてもらいたいものだ…という心の声は閉ざされた。
どんな理由があったかは知らないが、時間を持て余して遊びに出たのだろう。
佳史は点滴と保冷剤の準備に入った。
家庭でも様子を見てもらって、まだ心配であるようなら、小児科を紹介してあげようと思った。

点滴が終わるまでの間、兄はずっと付きっきりでそばにいてくれたので、佳史と三隅は別室で世間話に興じる。
この事態に恐縮する三隅に、今日二件目の時間外診療だった、と口を滑らせてしまったら、「せめてこの後の時間は自分のために使ってほしい」と、近場にある高級ホテルの宿泊サービスをプレゼントしてくれた。
家にいたら、つい電話にも出てしまう佳史の性格まで知っているからだろうが。
辞退したのだが、この場でコンシェルジュと話を進められては、彼の顔を立てないわけにもいかなく、ありがたく利用させてもらうことにする。

きっと今日の仕事上がりに、こちらに寄るであろう恋人に事情を話し、先に部屋に行って待っている旨を告げると、驚かれたが、「たまにはいいかもね」と喜ばれた。
さて、今度は自分が、どんなサプライズを用意してあげようか。
今日は振りまわされてばかりだったが、嫌な気分は一つもない。
見送った『家族』の笑顔を見て、”かかりつけの医師”でいられることを誇りに思いたいと、胸の内が温かくなっていた。

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【カテゴリ】をどこにしようか悩んで、繋げてしまいました。
……( ゚ ▽ ゚ ;)エッ!? ツヅキ……??? 無いよぉぉぉ。

毎日暑いです。皆さんもどうかお体にお気をつけくださいね。
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コメント

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きゃーきゃー
コメントちー | URL | 2013-07-12-Fri 22:27 [編集]
佳史さん、再び!
そして、ひなちゃん一家だあ。

でも、グッタリしてるひなちゃんは可哀想だなあ。
お帽子被ってなかったかな?
喉、乾いても喉乾いたよって言えなかった?
水遊びは楽しいもんね、ひなちゃん。
お兄ちゃんは、相変わらず・・・
佳史さんはね、外科の優秀なお医者様なのっ!
でも、他のもピカイチなんだよ?
疑わない!

そして、ヒナパパ。
佳史さんと望さんに素敵な夜をありがとうございます。

コメントたつみきえ | URL | 2013-07-13-Sat 09:16 [編集]
ちーさま おはようです。

次に病院来るのはこの一家でしょう。ということで書いてみた。
日生のことだから口に出せなかったんでしょうね。
和紀ひとりじゃ気の回らないこともあったでしょうし。
お兄ちゃん ひとつ覚えたね。
また先生にくってかかってるし(笑)

お疲れの先生、今度こそ ごゆっくり~。
コメントありがとございまいた。
リクエスト
コメントすぎもと | URL | 2013-07-13-Sat 12:57 [編集]
いつも楽しませて頂いてます。
熱中症のお話、ひなちゃん目線で読みたいですー。
できればですが。。。よろしくお願いします m(_’_)m

ひなちゃんっ!
コメントさえ | URL | 2013-07-13-Sat 15:05 [編集]
熱中症大丈夫?
お外に行くときはお帽子被ってね~。
お外は暑いからお姉ちゃんとかき氷たべようね~(*^^*)
と、いうわけでもぐもぐにアップです。
持ってて~♪
医院の前で張ってる皆さんにも差し入れ~♪
熱中症には 御用心♪
コメントけいったん | URL | 2013-07-13-Sat 16:52 [編集]
ヒナちゃん、水遊びが とっても楽しかったから 体の調子が悪くなっているのに 気付かなかったんだね。
見守る側も 楽しそうに遊んでたら 中々 気付かないし…
それに 見守る側も 暑いし!!(←経験ありです)

周防様の御声と御姿を 久し振りに拝見出来て 嬉しゅう御座いますわ♪ヾ(*❤∀❤*)ノポッ

P.S.ちーさんへ
ホテルで 恋人と まったり過ごす佳史先生のお邪魔虫しちゃうの?
。o0((((゚∀゚)ノオットゴメンヨ~♪ ← お邪魔虫

  
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