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BLの丘
珍客の訪れ 8
2013-07-09-Tue  CATEGORY: 珍客
中條にマンションまで送ってもらい、部屋に入るなり、もわぁんとした空気に出迎えられた。
こんな真昼間に帰ってくることは滅多にあることではない。
留守にしていた部屋の中とは、こんなに不快なものかと眉根が寄ってしまう。
「あち~っ」
どちらからも同じセリフが漏れ、エアコンのリモコンを手にして電源を入れる。
久志はドカッとソファに座り、那智は暑苦しいスーツを脱ぐために寝室へと向かった。
思い出したように久志が那智を呼ぶ。
「那智~、那智、俺、シャワー浴びたい」
荷物の仕分けなんていう作業では、全身から汗が噴き上がってくる。
事務所に引き上げた時に、拭ったり着替えたりしたが、この季節、それだけではスッキリしない。
「勝手に浴びやがれっ」
廊下の向こうから怒鳴り声が響いてきて、那智が普段と変わりない態度でいてくれることに、久志は少々安心した。
那智が自分の感情を素直に言葉にしないのはいつものことだが、それとは違って久志を気遣い無言になられたりあからさまに様子を伺われるのは避けたかった。
自分の失態と分かるだけに余計な気を使わせたくない。
今更遅い話だが…。
会社に顔を出した時の那智の一瞬の表情は脳裏にこびりついている。
どれだけの不安を与えたのか、後悔することの一つだった。
好奇心で集まってくれた同僚たちのおかげで、那智の気が紛れたのは確かだ。久志の状態は悪くないと黙ったまま語ってくれた。
そういう意味では、見世物にしてしまったが少しばかりの感謝もしている。

「勝手に…って俺、ギブスまではめられちゃって動きづらいんだけど…」
別に強制はされなかったところ、率先して付けろと言い張ったのは那智だと甘えた文句が久志からこぼれる。
早く治してほしいのだろうに、無理をすれば完治も遅くなるのだと暗に含めればバタバタとリビングに戻ってきた。
その声はしっかり那智まで届いていたようだ。
それとも『シャワー』と言った時点で、久志の感情など察しがついているというところか。
「自業自得だろっ。ほらっ、着替えくらい持ってきてやったよっ」
Tシャツに短パンの軽装になった那智は、手にしていた久志の衣類を放り投げてきた。
無駄に動かないようにしてくれたらしい。
それだけでは物足りないと言いたげに久志の視線が向くと、堂々と無視された。
「ヒサが手間取っている間に、昼飯くらい作っておいてやるよっ」
逃げ口上なのだろうが、どちらも必要とされることを口に出されては強くも言えなくなる。
しかし勝手な言い分だが、納得がいかない。
「那智~ぃ」
「俺をどこまで動かす気だよっ」
「今日は最初だし、また風呂場でひっくり返ったりしたら大変なことになるし、昼飯は店屋物でも取ればいいじゃん。那智には今日、いっぱい心配かけたから、豪華なもの、奢ってやるよ」
那智に全てをやらせる気はないと妥協案を持ちかけたら、束の間考えたようだが、応じてくれた。
この素直さには逆に久志の方が驚かされていた。
「しょうがない。特上寿司と大吟醸のセットで勘弁してやる」
「へっ?」
「なんだよ。体洗ってほしいんだろ」
裏返った久志の確認に、平然と言い返してくれることには恐ろしさすら過った。
久志が呆然と見返す中、那智は足を覆うためのビニール袋を引っ張り出してきたり、栗本が持たせてくれた肩用の新しいシップを用意したりと妙に甲斐甲斐しいところが余計に謎と不安を生む。
特上寿司くらいまでは想像の範疇だったが『大吟醸』とは、もうこの時間から呑む気なのだろうか。
仕事上がり…と捉え、またもう家から出る必要もなくなれば、解放されたい気持ちも理解はできたが…。
「那智?」
再度問えば、怒ったように唇を尖らせた。
「もうっ。入るの?入らないのっ?!」
自分から甘えたのに、矛盾する往生際の悪さを露呈して、久志は慌てて「入るっ、行くっ、浴びるっ」と立ち上がる。
咄嗟のことに自力で立ってしまい、ズキッと足に痛みが広がったが、しっかり固定されているおかげで不安定さはなかった。
所詮、歩けるくらいの怪我なのだ。

一緒にシャワー浴びて、二人してさっぱりして、美味しいご飯を食べた後は、腹ごなしに軽く運動して(栗本にも鍛えることを推奨されたし)、痛みを言い訳にダラダラとベッドの中で過ごすのも悪くない、たまには怪我もいいものだ、などと邪な考えを持っていた久志の思考は、数分後には打ち砕かれた。
慣れた様子で真っ裸になった久志の前で、那智は一枚も衣類を脱ごうとしない。唯一、まだ履きっぱなしだった靴下を脱いだことくらいだろうか。
「那智?」
またもや疑問を含めて名前を呼べば、さっさと中に入って椅子に座れとけしかけられた。
「何?なんで那智、脱がないの?」
「俺が脱ぐ必要がどこにあるんだっつーの。洗うの、ヒサだろうがっ」
機嫌が良さそうでいて悪い。
安堵したようでいながらイラついてもいる。
那智の分からない感情を前に、まくしたてられる剣幕も相俟って、久志はとりあえず大人しくした。
頭上から勢いよくシャワーが当てられ、「うわっ」という声と共に目を閉じてしまう。
「どうせ腕、上がんないんだろ。頭から順番に洗っていってやるから目ぇつぶっていろよ」
普段は見下ろすことばかりの那智も、こんなふうに背後に立たれたら、久志の頭皮も簡単にさらされる。
顔にかかろうがお構いなしにシャワーを当て続けられて少し強めの握力で頭髪をかきまわされ…。
久志は一度閉じた瞼をなかなか上げることができなかった。
ザァーッとお湯が流れる音が耳に響き渡る。
水流の音にまぎれて、那智が鼻をすすったような気がした。
もう充分に久志の全身は濡れただろうと思うのに、シャワーを一旦止める気配もなく、異様な空気が久志の肌を掠めた。
顔面に浴びるだろうことも覚悟して振り返ると、顔をゆがめた那智が、静かに涙を流していた。

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コメント

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なっちゃんてば
コメントちー | URL | 2013-07-09-Tue 00:27 [編集]
さすが、きえちんとこの三大ツンデレなっちゃん。
素直に心配した、安心した、バカッタレーって言えなかったのね。
シャワーしながら、泣くなんて。
可愛いじゃんかあ。
まあ、そう思うのは私だけじゃないよねえ。
ね、ヒサ(笑)

今後のピンクな展開に期待!
なるのか?ね、きえちん?


待合室にて。その4

『じゃーん、見てみてー』
『あっ!』『きゃっ』『ジーッ』
『なっちゃん、お風呂場で静かに泣く。の図』
『でも、これってさあ。犯罪?』
『盗撮?』
『やだなあ、この世界なんでもありだよぅー?』
『そうか!』『そうだよねぇ』

全責任は、丘の長であるきえちんにあります。
拍手コメ k様
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-09-Tue 05:14 [編集]
おはようございます。

> あ~あ、能天気ヒサのばか、那智ちゃんの気持ち分かってないね。しっかりとしかられなさい。そして反省ね(笑。

那智、元気なフリして結構溜めこんでいたみたいですね。
うまく誤魔化されていた久志でしたが、これ以上はダメでしょう。
改めて無事な肉体美を見ちゃったら、込み上がってくるものがありそうです。
その厚い胸板、無意味にあるわけじゃないよね?(と聞きたい)
めっちゃ反省していただきましょう(笑)
コメントありがとうございました。
ちーさま おはようです
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-09-Tue 05:27 [編集]
那智が素直?! 天変地異の前兆でしょうか(笑)
二三発殴ってやればいいものをそれもできなかったのね。
感情をどこにぶつけていいのか、見失って涙になっちゃったみたい。
いっぱい思うところはあったんだよねぇ。

ピンク…(・・;)
でもこのままえちに突入したら目標話数で終わらない気が…。
それでなくったって一日(どころか数時間)の出来事をこんな長編(?)で書いているというのに。
(え?困らない?)

丘は無法地帯ですからね~。
ちー隊員は換気扇の隙間から覗きこんでいるようだし。
まぁ、現役警官が堂々と盗聴機使っているような丘内だもんね。
犯罪とは無縁の平和なとこです。
でもきえちんは責任者じゃないから~ε=┏(; ̄▽ ̄)┛
(各個人のモラルに委ねてます)

コメントありがとうございました。
生写真、゚*。最 (*゚д゚*) 高。*゚
コメントけいったん | URL | 2013-07-09-Tue 15:36 [編集]
静かに泣いてる那智
胸キュンキューンくるわぁ~~(*・ω・*)ポッ

能天気なヒサには 那智の複雑な心を分かるかしら?

ちーさん、那智の泣き顔が バッチリ綺麗に撮れてるね!
あっ その前で座ってるヒサの イチモツまでも…(*ノωノ)キャ...(*ノω゚)ノ チラッ
師匠・・・
コメントちー | URL | 2013-07-09-Tue 18:37 [編集]
えーっと、師匠?
ヒサのヒサが写ってる方が良いの?
可愛いなっちゃんは、バッチリだけど。
私的に、ヒサのヒサはいらゃにゃいんだけど。
筋肉だけでは、ダメでしょうか?

『もしもし?私だけど~』
「はいはい?」
『あのねー、師匠がぁ、ヒサのヒサが写ってないとダメだって』
「ヒサのヒサ?」
『だからあ、ヒサのヒサだよぅぅぅ』
「ああ、膝ですね。また、マニアックな」
『違う!膝じゃないよっ。なんでわからないの?』

師匠みたいにズバリと言えないちーでした。
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