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BLの丘
珍客の訪れ 7
2013-07-08-Mon  CATEGORY: 珍客
診察室に続く扉が奥から開かれると、待合室にいた全員が一斉にその方向を見やる。
咄嗟に立ちあがった那智を宥めるように栗本の手がかざされる。
硬い表情の那智に、事態を重くとらえない、穏やかな笑みを湛えた姿が届けられて、無言で安堵させられた。
「一緒に説明を聞いてもらった方がいいと思ってね。君に聞いてもらうことは彼も嫌ではないようだから」
そう言われて当然のごとく乗りこんでいく那智だった。
もちろん今の那智には、栗本が那智に対して不安な時間を一分と持たせたくなかったなどとは気付けない。
正しい見解を久志が独断で捻じ曲げる危惧も、少なからず栗本は持っていたが、その回避策だとは、尚更気が回るはずもなかった。

診察室に入ると、がっくりとうなだれる久志の姿が視界に入って、那智は一瞬、どう声をかけようかと戸惑ってしまった。
もうここ最近、自信にあふれた(半ば)傲慢な姿しか見ていなかっただけに、その光景が、いつしか目撃した"試合に負けた時"と重なっていた。
弱弱しい久志を見ることは滅多にないだけに、那智を動揺させるには充分だった。
「ヒサ…」
さっきまで、なんと罵ってやろうかと息まいていた心は瞬時にしぼんでいた。
ふざけていい時と真面目に向き合わなければならない時の違いくらい心得ている。
那智の視線はすぐに栗本を振り返る。
栗本は那智の心情を読みとるのか、やはり落ち着いた笑みを浮かべて、隣に座るよう促した。
「そんなに悲愴的にならなくても平気だよ。さっき高柳君にも言ったんだけれどね…」
宥めながら栗本は怪我の様子を那智に聞かせた。
その内容にはもちろん那智も目を見開いていたが、大げさに告げることで、その後の処置をあまりにも軽く感じさせてくれた。
逆に、一歩間違えば、寝たきりの重体になっていてもおかしくないと、そこまで紙一重だったことも言い忘れない。
一瞬のことで、判断が誤れば命を落としかねない現状は、過去の事例も見聞きした経験が語らせるのだろうか。
さらに、残された人の苦悩もどれだけ悲惨なものか漂う。

栗本は朗らかに、明るい口調を崩さなかった。
真面目な話なのに、冗談も交えてくれて、緊張する中でもホッと息抜きをさせてくれる。
「骨折しているって診断したら全治3カ月絶対安静、って言ってあげたいところだけれどね」
「えぇぇ?!3か月ぅぅ?!」
「ヒサッ!!」
いかにも不満だと言いたげな反論に、大人しく聞けと那智が止めに入る。
多少の脅しはこの際、突然の訪問に対しての謝礼でもいいのではないかという栗本の本心はチラリとも晒されることはなかった。
ポーカーフェイスは医師としての得意技かもしれない。
真に受けてくれることに笑みが浮かんでしまったのは、無垢でいる人を前にしたからだろう。
「『って言いたいところだけど』だよ。ここら辺は靭帯や腱もあるし激しくズレることはないから、別にギプスもしなくていいんだけど。そうだね、とりあえず1週間も様子見ようか」
「そんなに短くっ?!」
明らかな疑問を持ったのは那智のほうで、詰め寄るに近い質問が飛び出す。
適当な診断を下されているのではないかと疑われても仕方がないのは栗本の方が熟知しているのかもしれない。
「部位がね。もう少しズレていたら治りも悪いんだ。その点、運が良かったとしか言いようがない」
レントゲン写真を再度見せられて、傷があるところを示される。
どこがどうなったら悪くなるのか良いと判断できるのかの知識などもちろんない那智たちは、栗本の説明に耳を傾けるしかなかった。
「本当はギプスを付けているのが一番良いんだよ。ただ、高柳君が言うように、普通に歩く"フリ"ができる人もいるくらい、大げさにする必要もない。動きづらいのもあるだろうし、松葉杖だけでも生活は送れる。この季節問題も加わって、ギプスが嫌なら簡易的なのもあるからそちらでも」
「つけてくださいっ」
またもや栗本の解説は那智の一言で閉ざされた。
もうこの際、気候だ、見た目だ、久志のプライドなどどうでも良くなっている。
何より、一刻も早く完治してほしい願いが那智にはあった。
あくまでも『本人の意思で』と気遣った栗本の配慮も那智には全く通用していなかった。
ギプスを付けての生活には何かと不便が出てくる。その一端を担うことになるのだとさりげなく伝え、一緒に住む人は手を差し伸べてやれるのだろうか。
遠回しの心理テストのようなものだったのだが。
全く逆の意識がそこにあると悟れれば、栗本も双方の意見を聞く。
那智が望んでの不便さには、那智からの苦情もとげとげしくはないだろう。

肩にも意識させるための固定する包帯が巻かれて、足首には厳重な装備がなされて、その格好で待合室に戻れば、中條と磯部も目を剥いていた。
これまでの久志の元気さから、ここまでの重傷とは思えなかったようだ。
見た目だけは充分に人の気を向けることができる。
これを理由に、現場作業から解放される(←忙しいのでいつもかりだされていた)とほくそ笑んだのは久志くらいだ。
知ったように栗本も太鼓判を押してくれた。
「どうあれ、医学的用語では『骨折』だからね」
診断書にも当然記載される内容を強調される。
どこまでその診断を正しく受け止めてくれる人がいるだろうか。
久志だって、骨折 = 重傷患者 のイメージなのだ。

(お主も悪よのぉ…)と久志の内心でぼやかれていたかどうかは誰も知らない。
当分那智は久志のために尽力をつくしてくれる…。そう思っていた心も誰も知らない。

「車は…。一度整備点検しておきますね」
磯部の提案にも快く頷いた。
車が無ければ、外に出かけることもできない。(←いえ、できますので)
磯部は久志の車に乗り込んで営業所に向かう。
中條は那智と久志を送り届けて営業所に向かう。
メンテナンスとはいえ、一つの売り上げをとってきた磯部に誰も午後の"外出"に文句はないだろう。

帰り際、栗本は久志の"筋肉生活"を褒めてくれた。
「筋力を鍛えるとは怪我防止にもいいんだよ」
運動は欠かさずに行いたい。

那智は一人、全身ギプスというのはないのだろうか…とほんの一瞬だけ思った。
絶対に間違った筋肉の使い方だけを提案されそうな今後が予想される。
人間とは不思議なもので、不安や心配事がなくなると妙に自信をつけて、元気になる。
もちろんそれは悪いことではないし、明日に向けてのチャレンジ精神を呼びこんでくれるのだから、活力といえるだろう。
だが、この場合…。
久志がどんな行動に出るのか、手に取るように分かる那智だったのだ。
けしかけてくれた医師を咎めたかったのは那智かもしれなく、『ギブスっ』と言い張った那智の内心まで読みとって「ハイハイ」と頷かれ、大人の余裕さを見せつけられた。
久志の思惑も那智のあらがいも、この医師にはいけすの中の魚同然だった。

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佳史にとっては『まな板の上の鯉』のオンパレード?!
次最終話…とか思っているけれど、不安なので、10話くらい?!と予言してみる。
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コメント

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遊ばれてる
コメントちー | URL | 2013-07-08-Mon 07:01 [編集]
ヒサナチ。佳史さんに、オモチャにされてるのね(笑)
いや、お医者様だからちゃんとしてるけどねえ。
きっと、午後には約束があったのかもしれなくて、意地悪したくなったりして。

なっちゃん、しばらくはヒサのお守りだね。
立場、逆転だ(笑)
王子なっちゃんから下僕なっちゃんへ。
いつまで、我慢できるかなあ。

待合室にて。その3

『あ、磯部さん出てきたよ』
『あ、中條さんとなっちゃんと・・・』
『えぇー!ヒサ?なにあれ?重症じゃん』
『シーっ。声が大きいってば』

外に設置された待合室。明日も賑わい僧です?
あれ?(´・д・`)…Σ(゚Д゚ノ)ノ おおぉぉぉぉ~
コメントけいったん | URL | 2013-07-08-Mon 09:00 [編集]
ちーさん、niったん、見て見て~~! ヒサが、ヒサが、ギプスしてるよ~~!
ヒサの珍しい姿を バッチリ撮った、ちーさん?

医院に入って行く姿を見てれば 捻挫かな?と、大した事が無さそうだったのにね!d(≧ω≦;)ネッネッ
今の所 佳史先生の診断では 骨折で 一週間の安静とのこと。
一週間… ヒサが 大人しくしてられるのかなぁ~(ヾノ・∀・`)ムリムリ

所で この第二待合室って 日よけの屋根も無くて 今の季節は ちと厳しいかも。
炎天下の中 モロに紫外線を浴びてしまって お肌にシミがぁ!!
この歳になると 中々 お肌も再生してくれないんだよねー
~~☀~~((o(´;゚;Å;゚;`i|i)o)) 紫外線は 強敵だわ。。。

うぐぐ
コメントnichika | URL | 2013-07-08-Mon 19:46 [編集]
佳史先生~ナイスな診断! これでちょくらヒサも事務処理に専念できるね
でもでも「なち~~」って甘えること々  ちーさん そこのところも激写お願いします(笑)  けいったんさん 日よけがないと辛いよ 腐がさをさしてね
売ってんかな? 合い言葉「あずい」  冷えるマクラも効かないよ
お部屋にいても 水分補給は大事すよ!!!
勿論
コメントちー | URL | 2013-07-08-Mon 21:01 [編集]
師匠、にっかたん、バッチリだよー。

そうそう、大人カップルその1である、ツンデレマコちゃんと磯部さんの写真。
案外売れたから、パラソル買うわ。
おばちゃんに、紫外線はキビチ~からね。

ヒサの写真、そりゃ儲かるでしょ。
君嶋十和子さま、愛用の日焼け止めも常備できるね。
く腐腐腐腐腐腐( ̄ー ̄)

多分、ひなちゃんが健診に来るはずだしー。
パパか、お兄ちゃんが連れてくるでしょ?
野崎さんがこっそり、傷薬の軟膏貰いに来るし~。
(いやん、どこに塗るの~?)

待合室は、まだまだ解散できません、(笑)

さえちゃん、冷たいデザート待ってまぁす♪
にぎわっているなぁ 野外プレイ(←)
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-09-Tue 05:08 [編集]
みなさま おはようございます。
まとめレス お許しください。

ヒサ、結局重傷患者扱いになっちゃいましたね。
佳史センセも那智とヒサの馴れ合いを見て、協力してくれているようだし。
当分は怪我の心配もない事務所内勤務でしょうから那智も安心だろうし。
(他の労働者、全く無視しているけどね(´∀`;))

パラソルも立ててもらったし、常駐できるようになって良かったね。
色々な患者さんがやってくる医院ですから、張り込み部隊も気を抜けないかな。
水分呼吸こまめにして干ばつ地帯にならないようご注意ください。

きえ「収益はきちんと還元する、なんてエライ読者様たちかしら~。お掃除もしてくれるし。私は極楽快適冷房の下でゴロゴロしていられるわ~(*^-')b」

みなさま こめんとありがとございました。
またね~
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