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BLの丘
珍客の訪れ 5
2013-07-06-Sat  CATEGORY: 珍客
話が決まれば行動も早い。
黒川の仕事の邪魔もしたくなかったし、久志の状態もはっきりしたものが早く知りたかったからなのだが。
中條は磯部のことを考え、磯部は突然の訪問になってしまった栗本を気遣った。
開き直ったのは久志だ。
どうせ医者にいくことになるのなら、どんな診断結果が出ようが、それまでは甘えていられる。
この会社の社員駐車場は敷地から離れたところにある。
「俺、怪我したし、あそこまで歩いて行けないし、ここまで持ってきてくれるとありがたいんですけどねぇ。磯部さん、俺の車、分かるでしょ。ハイ、鍵」
中條が乗りつけてきた車の隣でほざく"顧客"に、那智は目を見開き、磯部は"それくらいは"と引き受けてしまう。
我が儘ばかりを言う客に慣れた姿は、営業マンの鏡のようで、何故磯部が好成績を保っていられるのか教えられた気分だった。
離れている…とはいっても、道路を一本挟んだ隣で、ここの敷地内を端から端まで歩くよりずっと近く感じられた磯部だったのだが。
しかし、我が身に置き換えれば悪態の一つもついてやりたい。

見送りに出てくれた黒川に那智はもう一度頭を下げた。
「今日は連絡していただいてありがとうございました」
「あぁ。返って姫君に負担をかけたほうか…」
これまでの流れからして、社内の人間で処置を済ませてしまいたかった後悔も混じっている。
第三者の手を煩わせるとは、黒川にとっても不本意な結果なのだろう。
那智は社内事情のことは気にしていなかったが、ひっかかったのは相変わらずの『呼び名』だった。
気難しい表情を浮かべながら、強気に出るなら今だと黒川を見やる。
「もうっ、その『姫君』ってやめてくださいよ~。そんなふうに呼ばれたって全然嬉しくないしっ」
不貞腐れる那智とは反対に、黒川は苦笑いを交えた。
「なんだかなぁ。ついつい。高柳が『姫様扱い』しているせいだろうよ」
うまく誤魔化された気がしなくもない。
ふたりが漂わせる雰囲気が、自然とそんな印象を植え付けてしまったと語られる。
久志に守られているように見られるのは、男として気に入らなくもあったし悔しさも漂った。
黒川は「考えておく」といった態度で話をすり替えてしまう。
「"今"が終われば一息つけるし。また一杯ひっかける席ができるだろうから、顔を出せよ」
ゆっくりと話をしていられる時間もなかった…と気遣ってくれる。
久志の会社の連中が宴会好きで、なんらかの理由をつけては一席設けているのを那智も知っていた。
ただ、今までは『他社の席』と踏みこむことに躊躇いを持っていたし、久志が頑なに参加を拒否したことで実現していない。
しかし今回ばかりは、働く社員に負担をかけた後ろめたさがあったから、お酌のひとつもしてやったほうが、今後の久志のために良い気がした。嫌味も言われず、波風たてずに過ごせるだろう。
もちろん、久志の反感を買うのは覚悟の上だが、元々の原因が誰にあるのかを理解している那智に"弱み"はない。

磯部が戻ってくると、那智は中條の車に、久志は自分の車の助手席にそれぞれ収まって出発した。
せっかくの時間をふたりきりにさせてあげられなかったことは少々悔やまれるところだが、磯部も車のことを聞きたいだろうし、移動しながら質疑応答の時間が終わればこちらも付き合わされずに済む。
自分が運転しないからなのだろうが、那智にとって聞いていて楽しい話ではなかったのもある。

中條が先導し、辿りついた病院は、開業医だと分かる少し年季の入った建物だった。
「親父さんの跡を継いだんだよ」
簡単に説明してくれて、また医師が同級生なのだと教えられた。
仕事柄、顔が広いのは百も承知だが、信頼を寄せられるのとはまた違っている。
那智はいざというときに頼りになる上司の一面を見た気がしていた。

駐車場入口脇の看板にはしっかりと『診療時間』が掲げられていて、すでに過ぎたことを目の当たりにした。
その下にある『休診日』の案内に目をやり、今日何度目か分からないため息がこぼれた。
午後の時間帯が休みになる、まさに"その日"である。
中條は「あー、大丈夫、大丈夫」と一蹴してくれたが…。
医院の玄関ドアに鍵はかかっておらず、誰よりも率先して中條が乗りこんでいく。
遅れて那智と久志が入っていくと、待合室の椅子が並ぶところで、白衣を纏った男性が出迎えてくれた。
人好きのする、優しい眼差しで、「こちらへ」と一番手前の椅子に座るよう、案内される。
久志の動き方を、見逃さない鋭さがあった。
すぐに口が開けるのは那智のほうだ。
「突然すみません。中條さんのお言葉に甘えさせていただいて…」
言わんとすることをふわりと微笑まれることで制された。
大人しく腰掛ける久志を見ては、徐々に痛みが増していく状況も理解できているらしい。
「ぶつけたって?どういう態勢だったか説明できるかな」
座った久志の前で腰を折った医師は、それとなく全身に視線を這わせていた。
痛む箇所だけを診察するのとは違っているのは、傍に立つ人間でも感じることができる。

おおよその説明を久志がする中、横から中條が口を挟んでは咎められている。
送ってきたのだと分かっても、詳細まで知らない栗本という医師は、磯部のことも思ったのか、「もう帰っていい」と出口を顎でしゃくった。
「磯部さん、どうせ誠に都合良く使われているんでしょ。こちらはいいから、仕事に戻ってください」
「いえ…ですが…」
どちらに同意したらいいのか悩んでしまうところが、なんだか笑えたが、那智もこれ以上付きあわせることにはためらいがあった。
一番引っかかったのは車のことだ。
帰りはタクシーを使ったとして、自宅のマンションの駐車場に送り届けてくれと願うのは図々しいだろうか…。

「佳史、どれくらいかかるの?」
「そんなにかからないけど。まずはレントゲン、撮ってからだな」
同級生同士の会話に久志は「大げさなっ」と押しとどめる。
「『レントゲン』っ?!シップでも貼っておけばいいんじゃなくて?!」
久志の発言には呆れたため息も混じっていたが、貶すことはしなかった。
「患者さんの自己判断が一番信用ならないんだよ。ちゃんと治したかったら、まずこちらの言うことを聞いてもらえるかな」
有無を言わせない言葉の強さは、さすがに中條の友人と言うべきか、と那智は一瞬思ったが、栗本の言うことの方が正しいと、言うことを聞けと久志の肩を叩いた。
「ヒサッ!!」
「…っつぅ…っ!」
顔を歪めた姿が見られる。頑丈に鍛えられた体は、本来これくらいの衝撃ではビクともしない。
その反応には那智はもちろん、栗本も驚いていた。
"自己申告"がいかにあてにならないか、全員に知らしめた。

「誠、帰っていいよ」
静かに、静かに告げられることは、診察時間が短くないことを表していた。

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コメント

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わーい
コメントちー | URL | 2013-07-06-Sat 05:29 [編集]
佳史さん、来たっ!しかも、本職で(笑)
優秀な外科医の佳史さん。
ヒサの不調もすぐに見抜いたのね。
流石、佳史さん。

なっちゃんも、安心して大丈夫だと思うけど。
ヒサが無理してたの解っちゃったね。
日頃、丈夫な人に何かあると不安だけどさあ。
佳史さんは、本当に優秀な外科医ですっ←強調
全て任せてとりあえず待ってようね。

中條さんも相変わらず。磯部さん、甘やかしすぎ(笑)
でも、車の件はよろしくお願いします。

ちーさん、大好きな佳史さんだね_φ(゚ω^* )♪
コメントけいったん | URL | 2013-07-06-Sat 09:03 [編集]
口では 大した事は無い!と、言い切っている久志
でも そうじゃないみただね??

診断の結果は分からないけど、
「動けない~動いたら 痛いよ~那智♡」って すっごく甘えたさんになりそうな予感が!

さて 佳史先生の診断は いかに!?

それと、医院の側で 不審な女性の姿が 先程から チラチラ見えるのですが。。。
まさか! ちーさんなのぉ~~~!!
(;゚д゚)エッ…|電柱|*・・*)ポッ、佳史さん♡...byebye☆
わーい、みなさま
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-06-Sat 10:44 [編集]
こんにちは~。
まとめレス、おるゆしくださーい。

出てくる出てくる…掘ったら次から次へと…という感じで、ちょっと薄かった存在の人が、ここぞとばかりに顔を出しましたね。
今更ですが、『珍客』は、普段その場にいない人 を表します。
どんなふうに出迎えられるのか、何を思うのかそんなところを読み破って(←表現できない…汗)いただけたら幸いです。

ヒサ 一人の件に 何人の登場かしらねぇぇ。

佳史センセ らしさも 出していきたいです。


タクシー運転手A「今日は忙しいなぁ。さっき、運送会社に掃除腐送り届けたのに」
タクシー運転手B「こっちも医院に向かってくれと依頼だよ」
タクシー運転手A「中で着替え始めるんだぜ。ナースになりたいとか」
タクシー運転手B「運転は慎重に、だけど急げって脅されたよ.・゜゜・(/□\*)・゜゜・カメラ壊れるからって」
タクシー運転手C「違う車(ヒサの)に乗って帰れって言われたけど、戻りのタクシー賃は、どこから…???」

みなさん、恐れずに"丘民"になって、あちこちからご報告してね♪
コメントありがとうございました。
フフ腐
コメントちー | URL | 2013-07-06-Sat 22:08 [編集]
師匠、バレました?
本当は、中に入ろうかと思ったけど佳史さんに怒られちゃうしぃー。
もうすぐ、佐貫さんが成くんと来るらしいからまってるの。


待合室にて。

ヒサぁ。大丈夫だよねえ?俺、ワガママ言わないから。
すぐに良くなるって言ってよ。
つかさ、栗本さんて信用できるの?
ヤブじゃないの?だって、中條さんの友達だよ←オイオイ。だから、信用しよう?

怖い、怖いよー。
そうだ、成くんがお世話になったって。
電話、しよう・・・
ひーとみーを、とーじて、きぃみぃを想うよー♪

『那知くん?どうし「栗本さんてヤブじゃないよねっ!」
『どうかした?栗本先生がヤブってどういう事?』
「ヒサが死んじゃうっ。ヒサがヒサがぁぁぁ」
『那知くん、今、どこ?』


なあんて、会話があったかは知りませんが。
成くんが来たら良いなあ。
望さんも~、佐貫さんもね。
師匠は、ナースですか?流石や、師匠(笑)
Re: フフ腐
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-07-Sun 06:53 [編集]
ちーさま おはようございます~。

> 師匠、バレました?
> 本当は、中に入ろうかと思ったけど佳史さんに怒られちゃうしぃー。
> もうすぐ、佐貫さんが成くんと来るらしいからまってるの。

やっぱりちー隊員だったのねぇ。
(いや、そんなに集まらないでしょ。え?なに?労災事故の現場検証?! (苦笑))

> 待合室にて。

中條さんのオトモダチは信用ならないのか(爆)
那智もこれで素直ないい子になってくれればいいですが…。
逆ギレするタイプ?!
怪我人だっていうのに、バンバン叩いていそうです。

那智「もうっ、俺、こんなに心配しているのに~~~ぃぃっ」
周り「まぁまぁ、那智君、落ち着いて」

> 師匠は、ナースですか?流石や、師匠(笑)

ここにも卒倒モノのレアショットがありますよ~~~♪
コメントありがとうございました。
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