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BLの丘
珍客の訪れ 4
2013-07-05-Fri  CATEGORY: 珍客
折りたたみの長テーブルに折りたたみの椅子が置かれたこの一角は、誰でも座れるスペースになっているようだ。
とはいえ、ここまで入ってこられる人間自体が限られるので、きっと先程集まっていた連中たちのためにあるのだろう。
那智たちのような、完全な部外者が入ってくることは極めて珍しい出来事だった。
那智の隣に久志が、向かいに中條と磯部が腰を下ろして、黒川は全員の顔が見渡せる端に椅子を引き寄せた。
「姫君、悪かったな、こんなことになって」
改めて謝罪されると恐縮してしまうが、それでも他の人間がいなくなった(一部残っているが)環境に、那智も緊張で張り詰めていた神経を緩めた。
久志が黒川に対して上下関係を気にした様子のない態度をとるのをすでに知るだけに、那智も安心してしまうのだ。
「別に俺が怪我したわけじゃないからいいですけど」
「那智~ぃっ」
あえて突っぱねた言い方をすれば、久志の悲哀がこもった声が発された。憐れむ眼差しが磯部から差し向けられたが見なかったことにする。
「ヒサが大人しくタクシーにでも乗って病院行ってくれれば、俺も中條さんも時間の無駄、することなかったんじゃんっ。黒川さんだって自分の仕事、できたでしょっ」
「あぁ、少なくとも姫君のお披露目会は避けられたかな」
半ば自分も楽しんだ感じがある。それとは別に久志に配慮した言葉遣いは、久志の機嫌の悪さを考慮してのことだった。
那智を呼んだことは他の社員に黙っていたとしても、結局は滝沢の一言でほぼ全社員にバレた。
こんなことでもなければ顔を拝む機会もない、と、一部の人間がぞろぞろと集まってきて、奇妙な出迎え方をしてしまったのだ。
ハイエナのように群がる連中を見ては、久志の機嫌など降下の一途をたどる。
そして那智に同意したのは、こちらも那智を晒しものにした詫びが含まれていた。
那智は、人に見られることには慣れていたが、あからさまに好奇の目を向けられるのはやはり気分の良いものではなかった。
そんな思いも混じって、那智がつい久志に冷たい言葉が投げかけられるのは、少なくも安心したからである。
確かに普段と違う動きは気になるものの、昔から激しいスポーツをこなしていた久志を見ているだけに、最初に抱いた焦燥は消えていた。

「まぁまぁ、さくらちゃん」
那智の性格を良く知る中條は苦笑いだ。痴話喧嘩ができるほどとは大した心配もいらないだろうと、こちらも胸を撫で下ろしていた。
久志に向ける心配事が増えれば、那智の気もそぞろになり業務に支障が出かねない。
久志の職場の雰囲気も感じられれば、メンタル面でもフォローを入れてくれる人がいる過ごしやすい環境だと思うことができた。
みんなが那智を気遣うタイミングで黒川は話を本題に戻していく。
「で、なぁ、姫君。たぶんコイツ、自分では全く説明しないだろうから俺がするけど。コンテナボックスの回送中に、他のコンテナボックスとの間に入っちゃって、…あぁ、後続のやつに押されちゃったわけよ。こう、密集しての作業だったからさ。その時、逃げりゃいーものを足底で押さえこんで距離を保とうとしたんだ」
片足立ちになってもう片方の足で後ろに向かいストップをかけた光景を教えてくれた。
自分で握っている物体を手放すわけにもいかず、咄嗟に足が出たことは機転がきいたとは言えても褒められたことではなかったらしい。
「俺が逃げたら前にいた奴にぶつかって、あっちが"せんべい"ですよ」
「まぁ、それいっちゃそうなんだけど」
どっちにしても誰かが怪我をするのだと平然と口にしてくれるあたり、感覚が狂っている。
荷物の入ったコンテナは高さ2メートルの壁と化して視界を狭めてしまう。
長身の久志でも状況を見渡すのは不可能に近かった。
"せんべい"にならずに済んだことを久志は自慢げに語ってくれるが、結果的にそれも『良し』とは言えないだろう。
黒川は一つのため息をつく。
「慣れてくるとマニュアルどおりに行動とらなくなるし、あの通りに実行している時間もスペースもないからな」
少なからず、危険行為を黙認していたことを認め、そんな頃が一番危ないと忠告もする。
繁忙期は普段とは違った空気になるのだと…。
作業内容は分からないが、『これくらいは…』と曖昧になる部分が発生するのはどこの企業も同じなのだろうか。
ただ、こちらは生死に直結してくる。
「とにかく病院行って診てもらってこい。止めた時、かなりの衝撃がかかっているはずなんだから」
「ちょっと負荷がかかった程度だって」
黒川が言うことをやはり大人しく聞く気がないのか、軽く考えている久志をたしなめて、その視線は那智に向けられてくる。
痛みがあることは本人も自覚しているのだから、あとは追随してくれる発言が欲しい黒川だった。

選ばれたのはもちろん那智だ。
「衝撃…ってどれくらいのものなんですか?」
参考までに聞こうと何気なく那智が質問したのだが、淡々と答えてくれた黒川には久志以外の全員が言葉を失った。
「うーん、重量は重いもので4、500キロ…。でも今時期、水ものが多いし満載だからなぁ。軽自動車一台分くらいになるのもあるか?」
逆に問われても答えようがない。
車を例えに出されたら即反応したのは磯部だった。
「え?停止していたものではないんでしょ?それを片足一本で止めようとしたんですか?」
「ヒサはバカなんだよ」
「なちぃ~ぃっ」
話を聞けば聞くほど情けなくなる。
どこの世の中に生身の人間が鉄の塊と張り合おうとするのか。
黒川は他の事例を話してくれたが、久志の立場を悪くしていくだけだった。
「今回のケースとはちょっと違うけど、コンテナボックスに挟まれたとかぶつけたとかってとき、大概の奴は骨折してたりするんだよなぁ。もう、その場から動けないってのがほとんどで」
それらからすれば、確かに久志は"ピンピン"している。
「だ~か~ら~ぁ」
「高柳君、病院行こうっ。今から連れて行ってあげるからっ」
何かを言いたげな久志の反論は中條に遮られる。それは那智の気持ちを代弁してくれたようなものだった。
素直に"心配している"などといった態度を見せない部下の強がりは、ここまでの会話を聞いていれば充分計れた。
「でも中條さん。もう病院も午前の診察時間終わるし、余計拘束させちゃうことになっちゃうよ」
久志はまだ何かと言い訳を付けてくるが、中條にとっての優先順位は、那智の不安を取り除くことだった。
更に一分一秒も(待ち時間などで)無駄にしないようにと頭を回転させるのは磯部のことを想うからだろう。
「大丈夫、24時間体制で受け付けてくれる優秀な外科医、知っているから」
言いながら早速携帯電話をいじる中條にボソッと磯部から確認する声が漏れた。
「もしかして…、栗本さん?」
「他に誰がいるっていうのっ」
聞くまでもないとピシャリ言い放つ態度に磯部は口を挟むことの虚しさを感じた。
思った通りに事が進むと確信する自信はどこから湧いてくるのだろう。
また、受け入れてくれる人は中條の性格も良く把握していて、それはそれで磯部に軽い嫉妬心を抱かせるのだが…。

「あ、佳史(よしふみ)いるぅ?」
出たのは受付の女の子か。
トントンと進んでいく事項に、久志は諦めの境地に達し、那智と黒川は安堵の息をついた。
『善は急げ』とは、中條の持論でもある。

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