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BLの丘
珍客の訪れ 2
2013-07-03-Wed  CATEGORY: 珍客
迷惑をかけていることに変わりはないと那智は思う。
不注意で怪我をしたとは周りの人間に余計な心労を負わせる。
猫の手も借りたい一番の忙しい時に怪我をされて、文句を言いたくても体を張った作業の結果に本心は閉ざされるわけだ。
それが分かるから久志も元気な態度を見せるのだろう。
返って気遣われているとも気付かずに…。

チラッと隣の中條に視線を向けると、「高柳君なの?どうしちゃったの?」と相手にも聞こえる声で問われた。
仕事中の私用電話を容認している中條の精神もいかがなものか…。
黒川も那智の状況を探るのか、会話を一時中断させる。
那智は隠すことなく、中條と話をしだした。
「ヒサ、怪我したらしく、今から帰らせるからって会社の人からなんです」
「えぇっ?!怪我って大変じゃないっ。迎えに行くの?送っていってあげようか?」
「いゃぁ…、俺が迎えに行っても…」
『えっ?姫君、こっち来られるの?』
見えない間で三人の会話が進んでいく。
那智が仕事中だと理解しているから、『説得してくれ』というお願いの電話で終わらせる気だった黒川にとっては喜ばしい話に聞こえたはずだ。
『それだったら車も引き取ってもらえるか』
どこかホッとしたような吐息が黒川から漏れている。
口では置いて帰れと言っていながら、駐車場のスペースを開けさせたい本音を聞いた気分だった。
駐車場内でのトラブルもまた、事前に回避できるなら、一つの芽も摘み取っておきたい。
「俺、運転できないですよ」
名案だと言いたげな黒川に解決策にはならない、と、那智は訴えた。
中條はこの時点で、お荷物になっている車の存在を認識したらしい。
『姫君、免許ないの?』
「一応、ありますけど、ペーパーなんで…。あの車だって一度も運転したことないし…」
情けなさを露呈するようで、尻すぼみになる那智の発言に、中條も納得の表情を浮かべ、同時にそんな危険行為はさせられないと視線だけで釘を刺された。
今となっては事故る確率が高いのは那智の方だ。

「じゃあさ、さくらちゃん」
『あー、だったら運転代行の業者、呼んでやるよ。それで一緒に帰ればいいだろ』
中條の声と黒川の提案が同時にかぶさってくる。
中條が言いかけたことは、那智が黒川に耳を傾けた仕草で止まった。
だったら何も那智が出向かなくても済む話じゃないかとなりそうだが、久志を一人で帰すことに抵抗があるのだとうかがうことができた。
黒川にとって那智がいるということが一つの安心材料につながっただけだ。
「代行か…。まぁ、それならいいですけど…」
那智が返事をしようとすれば、すかさず中條がまた口調を荒げた。
「代行っ?!そんな信用ならないものを使わなくったっていいよ。車両の点検がてら、走行したい人間を連れていくから」
酷い物言いで自己解決してしまった中條はすぐに自分の携帯電話を取り出す。
黒川が、そちらの話はどうなっているんだ?と聞き耳を立てるように黙り、また那智も無言で中條の行動を目で追った。
速攻で繋がった先は、お抱えの自動車業者、つまり中條の恋人であり、現在久志の車の諸事情を一手に引き受けてくれている磯部雅彦(いそべ まさひこ)だった。
運良く(?)、久志の会社まで行く途中にある営業所にいたようで、何やら発言したらしい磯部に「大切なお客様の一大事」と中條が一喝し、一緒に向かうことを決めた。
那智と中條、磯部を乗せて引き取りに行き、磯部に運転させて那智と久志と車を送り届け、中條は磯部を連れて戻る…算段のようだ。
こうなれば上司の命令に逆らえる立場の那智ではない。
また、果たして二人が営業所に戻るかどうかは疑問だが、確実なのはそこに那智の存在は含まれていないことだった。
中條の思惑だけで許可された『早退』は、午後の仕事がいかに暇つぶしであるかを表していた。

黒川は『あとで形だけでも請求書をもらえれば、経費で落としてやるからポケットマネーにしろ』と、自分の懐が全く痛まない寛容なアドバイスで、磯部の苦労を労ってくれた。

中條の運転で磯部を助手席に、那智は後部座席で大人しくふたりの言い合いを聞きながら久志の会社に車を走らせる。
久志の怪我の様子を黒川に聞いたとおりに伝えれば、こちらも緊急性はないと判断しているのか、会話は穏やかだった。
磯部は、どうせ数日は車を動かせないだろうからと、このまま営業所に持って帰り、ついでに整備点検をしておいてあげる、と営業活動に出ていた。
定期点検とは違って突発的なそれが"有料"であることは、今の那智からはすっぽりと抜け落ちていたのだけれど…。
平気なふりをしていても、やはり顔を見るまでは安心など出来なかったのだ。

久志の職場は見かけたことがあっても実際に入ったことはない。
広い敷地と行き交う大型トラックの数の多さに圧倒される。
ちょっと間違えたら死角に入り、巻きこまれて踏みつぶされるのではないかと危機感すら覚えた。
建物に向かい進もうとして、突然けたたましい笛の音に出迎えられる。
何事だと停まってみれば、ユニフォームを着て拡声器を持った若い男が全力疾走でこちらに走ってくるところだった。
その距離、二百メートルはありそうだ。
拡声器から発される声も、ここでは小鳥のさえずり程度にしか聞こえない。
「そっちっ!!一般車両っ、進入禁止でーすっっっ!!」
駆け寄ってきた男は、ウィンドウを開けた中條に、こちら側の敷地(どこから区切られているのかサッパリ分からないが)は、関係者以外立入禁止の区域であることを教え、どういった用件かと尋ねた。
中條に振り返られて、覗きこんできた男の視線も自然と那智を捉える。
その途端に「えぇっ?!桜庭さんっ?!」と驚愕の声を上げられた。
那智は営業畑で育てられた記憶装置の脳をフル回転させて、その人物を探った。
久志の関係で出会ったことのある人なのだとは嫌でも分かるが…。
こちらの社員に名前を覚えられるほど精通していないはずだ。
一瞬の沈黙のうちに、彼は状況を理解してしまったのか、胸ポケットに収められていた無線機を取り出すと、ガーガー(誰かの会話らしいが)言っているその先に、宝物を見つけた少年のような声で呼びだしていた。
「高柳さ~ん、桜庭さんが迎えに来ましたよ~ぉっ」
突然ガーガー言っていたはずの無線機が無音になった。
車内で、外で、誰もが動きを止めて見守った直後、機械から『滝沢~ぁっ!!テメェッ、何、那智、構内に入れてんだよっっ!!』と罵声が響く。
それは紛れもなく久志の声だった。

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コメント

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コメントけいったん | URL | 2013-07-03-Wed 09:09 [編集]
最近 めっきり姿を見られなかった 中條が昨日、
そして 中條が登場となれば やっぱり 今日は 磯部の登場~♪

ナンヤカンヤと言い合いながらも 安定の熟年夫婦ですもんね、このお二人さんは…(⌒~⌒)ニンマリ

それにしても 那智は覚えてなくても 相手は知っている この状況は!?
美人さんは 一度見たら 忘れない 忘れられないって事かしら♪
それとも 毎日 会社で 久志が 携帯の写メを ニマニマ見ながら デレデレなノロケを言ってるせいかしら?
[(o^-^o) ニコ♪]~チュウ(ε゜〃)ナチ~♡
Re: タイトルなし
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-03-Wed 18:09 [編集]
けいったんさま こんにちは~。

> ナンヤカンヤと言い合いながらも 安定の熟年夫婦ですもんね、このお二人さんは…(⌒~⌒)ニンマリ

は~い、久々の登場です。
しっかり尻に敷かれているのは相変わらずのようですね。
那智のツンデレは上司ゆずり?!

> それにしても 那智は覚えてなくても 相手は知っている この状況は!?

久志が(社内では)有名人であれば、当然ばれていく那智の存在なんでしょうか。
強烈な印象でもあったんですかねぇ(←)
会社で何をしている人たちかしら。
コメントありがとうございました。
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