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BLの丘
緑の中の吐息(おまけ)
2013-06-26-Wed  CATEGORY: 吐息
月曜日の一日、休みをもらい、火曜日早々に出社しては、先日までの雑務処理を手にかける。
やはり出社していた数多くの社員に、突然の休暇を詫びた。
こちらに戻り次第、病院で診察してもらった結果が、軽い捻挫とのことで、生活に関しては特に注意をされることもなかった。
無理をしないようにと、松葉杖まで用意されたのは、仕事を休まない美琴の性格を知っているせいだろう。
社員には松葉杖を片手に現れた美琴に対して、言いかけたことも口を閉じられたのが分かる。
それが、休暇に関する文句ではなく、人間関係で痛い目を見た愚痴だったのもなんとなしに感じられたが、触れずにおいた。

社長である千城に直接見せる郵便物を選別し、自分でも内容のチェックなどをし終わるころ、千城が姿を現した。
最上階にある社長室の隣が秘書課になっているので、お互いの行動はそれとなく確認し合うことができた。
美琴を一瞥しては、少し驚いた表情を見せた。
「本当に怪我をしていたのか…」
「冗談だと思っていらっしゃったのですか?」
自分の考えに間違いなしと思っていたらしい千城に、呆れと落胆の声が混じってしまう。
千城には何故怪我をしたのかの詳細は伝えていない。
興味がないといえばそれまでだが、信頼関係で成り立つ間に、言い訳じみた言葉をどちらも必要としていなかった。
自己解決できる能力は互いに知る。結果が全てで過程はそれぞれに委ねられる。
ただ診断結果だけはきちんと伝えるべきと、口頭で説明すると、何やらフッと口角をあげられる。
「『捻挫』ねぇ。良かったじゃないか、骨折しなくて」
単に転んだだけでも重傷になる人もいる…と言いたげだった。
美琴が自ら山になど行くとは思っていない人物だけに、『転んだ』と聞いた先は、家の中か近所だと思われているようだ。
「予防対策にはまだ間に合うだろう」という意味深な言葉に、理解できる美琴が「骨粗鬆症の心配までしていただかなくて結構です」と切り返すと、聞き耳を立てていた秘書課の人間から納得と僅かな笑いが漏れる。
この意思の疎通の良さが、千城にとっても美琴にとってもテンポ良く、快感に近いものがあった。

これ以上この場に留まらない千城を知るから、美琴も必要書類をまとめて千城の後に続き、社長室に向かおうとした。
美琴と千城が確認事項を含めて、社長室で執務を行うのは誰もが承知している。
動きに不便が生じるとは、その場にいた全員が分かることである。
何より全員を驚かせたのは、千城の次の言動だった。
「持っていくものはそれだけか?」
美琴が手早く用意したものを千城の大きな手がつかみ上げると、美琴の持ち物はなくなってしまう。
人を使うことに慣れた人間が自分から行動を起こすとは誰も想像していなかった。
さっさと歩いていってしまう後ろ姿は、決して美琴を待っている態度ではなかったが、いつもの横柄さがないのも確かだ。
見慣れないものを見たと社員は一様に固まっていたが、美琴が動き出すと、目配せだけにとどめて、口を開くことはしない。
聞こえる無駄話はしない…。実に良く教育された秘書課の人間たちだった。
そこも、相手が美琴だから納得できるところであって、美琴と千城の阿吽の呼吸を披露するものでしかなかった。

秘書課の社員に各種の指示を伝えてから、美琴が遅れて社長室にたどりつくと、千城はワークデスクのチェアにどっしりと腰を下ろして、封筒を自ら開けていた。
「てっきり連休欲しさに、大げさに言っただけだと思っていたが…」
「社長と一緒にしないでください」
入るなり、耳に飛び込んできた内容にため息をつきたくなる。
瑛佑と一緒だったことを知る限り、あらぬ方向の妄想をされることは覚悟の上だったが、仕事をなめくさった発言は咎めたかった。
しかし千城は気にした様子もなく、淡々と会話を続けていくだけだ。
「完治するまで出社しなくていいぞ」
「大怪我をしたわけではありませんので」
「不自由に変わりはないだろう?宮原(瑛佑)は?介護休暇が必要なら俺から水谷さん(バーのオーナー)に話を通してやるが」
「水谷さんのほうが"介護"が必要なご年齢ではないですか」
年寄り扱いされる不満を顔を出さずにこちらも応じれば、多少機嫌が良くなった様子で笑みが浮かんだ。
満足したと言わんばかりの表情は順調に物事が進んでいる時特有の表現でもあり、気付くのは美琴くらいだろう。
社員が愚痴をこぼしたかった原因は、千城にあり…とは気付いていたが、余程、昨日の機嫌は悪かったのだと思わせてくれるものでもあった。
瑛佑とは違った意味で、千城との会話の数は少ない。
洞察力の違いは、美琴と同等の能力を求める千城に不満を持たせ、知らずに発される不機嫌オーラに、社員は神経を尖らせていたに違いない。
単なる美琴の自惚れでしかなかったが。

連休をとらせようとするのも、早々に完治させたい思惑が見えてくるようだった。
千城自身、発する感情を、美琴に指摘されることは避けたいと、予防線をはっていた。
美琴を視界から消したがっているのは、他の社員のためでもある。
体が自由にならない美琴の代わりに動く人間が出るのは当然のことで、そこには思い通りにならない苛立ちも混じってくるのが目に見える。
美琴がそばにいれば、嫌でも頼るであろうし、比べられた社員は改めて違いを目の当たりにされ、士気を消沈させることに繋がる。
比較対象は最初から置かないのが良い。

美琴の体調を気遣ってくれている…と捉えられれば素直に喜べるところだが、第三者から縋るような眼差しを向けられ、一様にホッとした表情を見せられた後では、千城をコントロールできる人間がいかに少ないかを教えられたようなものだ。
これ以上の連休は避けたい美琴の思いもある。
しかし、千城は美琴の意思を綺麗に無視してくれた。
上司命令という、ありがたくない権力を存分に発揮してくれたわけだ。

「医者に『無理をしないよう』言われているんだろう?どこからが"無理"になるのかは個人差があるが、野崎の場合、範囲が広すぎるからな。良く知った人物に監視しててもらうのがいい」
あくまでも瑛佑と共に置いておこうとするのは、瑛佑の心情も理解した上でのことである。
一番心配しているのが誰なのか、だがそのどちらも建前の見栄で本音を語りはしない。
千城が命令を下すことで、本人の意見ではないことを主張している。
もっともらしい理由づけは周りの人に反論を持たせないものであって、時に美琴も閉口せざるを得なくなる。
「御心遣いには感謝いたしますが、業務に支障が出ますので」
「居られたほうが効率が悪くなる。車を用意してやるから、それに乗って帰れ」
「本日は会長を交えての会議に出向かなければ…」
「所詮、身内の雑談会だ。キャンセルしたところで問題はない。せっかく運転手が車を磨いているんだから労をねぎらってやれ」
つまり、本人は出かける気がないと…。
千城にとっては好都合な理由にもされたのか。
運転手つきの社用車を美琴の私事に使うのはいかがなものかと気が引けるが、さっさと内線で連絡を取ってしまった千城に逆らう気も失せた。
何をどう言ったところで曲げられない性格は百も承知している。
追い打ちをかけたのは誤魔化しきれなかった千城の言葉だ。
「『森林公園』の案件は大分見直されたらしいからな。暇になっただろう」
美琴が抱える仕事は現在、決して忙しくないと強調する言葉の裏には、この週末の行動が見透かされているようだった。
調べたのが美琴である話もどこからか伝わっていてもおかしくない『社内情報』は、咎められもしない。
これ以上この場に留まる方が得策ではないと判断できてしまう。
ニヤリと笑われたことは、怪我をするような場所に自ら飛び込んだことを小馬鹿にされているようにも捉えられた。
詳細は語らなくとも、状況は想像できる頭の回転の良さは褒めてやるべきか…。

家に帰ると、珍しく瑛佑がキッチンに立っていた。
「何されているんですか?」
美琴が帰ったことにも驚かないとは、千城から連絡があったせいだろう。
振り返った瑛佑は安心した笑みを浮かべて「おかえり」と出迎えてくれた。
「うん、もらった野菜で何かを作ってあげようかなと思って。お昼御飯にちょうどいいでしょ」
「そんなこと…。言ってくださればやりますよ」
「まぁぁったくぅ、何のために自分が帰されたのか分かってんの?社長が休暇くれるのはいいけど、それって一日でも早く復帰させろって脅されているのと同じなんだから~」
影ながら必要とされていることをほのめかされるのは嫌なことではないが。
瑛佑がいだく心配事も、口には出されないが脳裏を掠めていった。
千城との仲は、仕事での信頼を越えることはない。

「あなただけですよ…」
小さくつぶやいた声は届いただろうか。
『必要』とする意味自体が違っている。
なくてはならない存在は常にそばにいてくれるだろう。
意味は充分通じたと、瑛佑はくちづけを一つおとして、美琴をリビングまで運びあげた。
美琴は今、潤うための雨からたっぷりと栄養をもらっている最中なのかもしれない。

―完―

【芽吹く心】
 
いつからか… 傍らの 笑顔の人
ずっと ずっと 見守って

いつまでも… 傍らに 温もりの人
そっと そっと 寄り添って


僕への想いと 君への想いと  触れ合いながら 共に 生きて行こう



けいったん様より素敵な詩を頂きました~。
美琴と瑛佑の想いが溢れているようです。
二人三脚という言葉がぴったりなCPのイメージが強いのは私だけですかね…。

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コメント

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「おまけ」の更新を ありがとう♪
コメントけいったん | URL | 2013-06-26-Wed 18:04 [編集]
『一を聞いて 十を知る』とは、千城の様な人を言うんだよね~
まぁ 千城の場合は 十じゃなくて 百?千?万?を知る人で 隠し事が出来なくて ちょっと怖いかな。。。(苦笑)

千城との会話や雰囲気が、瑛佑との差を歴然と知らされます!
瑛佑だけが知る 可愛い美琴ですね♪

今日の此方は、大雨の日でした。
どうせ濡れるからと 2軒のスーパーに行って来たけど 予想通り しっかりビチャビチャでした(笑)

きえちん、いつもいつも 拙い詩を 丁寧に扱って下さって ありがとう御座います。( *・ω・)*_ _))ペコリン




けいったんさま こんにちは
コメントきえ | URL | 2013-06-27-Thu 15:33 [編集]
こちらこそ、花を添えていただきました~~~
いつもありがとうございます。

久し振りに千城を出しましたが、相変わらずエラそうですね。
でも人を思いやる気持ちはあったのか…。
まぁ、到底瑛佑の猫っ可愛がりぶりには及びませんが。
美琴もそれぞれの反応を見ては、立ち位置のようなものを悟るのでしょう。

千城 > 美琴 > 瑛佑 …… 違うか…
千城 > 美琴 ≦ 瑛佑 …… それも違うか…

まぁ、仲良くやっているってことで。

こちら朝まで雨でしたが、すっかり晴れ渡って暑いです。
天気がころころ変わりますけれどお体にはお気をつけてくださいね。
またね~
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