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BLの丘
緑の中の吐息 22
2013-06-23-Sun  CATEGORY: 吐息
静かな朝だった。
寝心地の良い布団と二人が漂わせるぬくもりに包まれて昼近くまで眠ってしまった。
誰も来ない…とは聞いたが、もし訪れられても物音に気付かないくらい爆睡していた。
疲れももちろんあったが、お互いがそばにいる安心感が、より深い睡眠に導いてくれたのだろう。
それぞれが身じろぎをする動きを感じて脳が覚醒する。

「おはようございます…という時間でもないですか…」
美琴が瑛佑の胸の中から顔をあげると、いつものごとくくちづけの嵐が降ってくる。
今日二度目の出来事なのが、なんとも不思議だ。
「ん…。部屋が暗いから時間の感覚がないや…」
美琴は体内時計を戻すためもあって、雨戸を開けに行こうとした。
体を動かしては、足に痛みを感じる。
顔をしかめた美琴を見ては、瑛佑が労わるようにまた抱きしめた。
「まぁまぁ、寝起きのまったりした時間、楽しもうよ。…そういえば洗濯機、終わったのかなぁ」
「終わっててもらえないと出かけられませんが」
しわくちゃになり、肌蹴た浴衣を整えようとして瑛佑の手に止められた。
「そしたら、時間つぶし、していなくちゃだね」
美琴を抱えていた手のひらが、目的を持って蠢き始めたのを感じないわけがない。
こんな真昼間から何を考えているのだと焦る美琴だったが、一度疼きを治めた体が再燃するのはすぐのことだった。
誰も来ない安心感と、いつもとは違う背景が、興奮する要素となってしまうのだからタチが悪い。
それでもかろうじて残った理性が行為を押しとどめる。

「えっ、瑛佑っ、とにかく、確認しないと…っ」
「何を?美琴さんの体?」
組み敷かれて身動きが取れなくなった肌の上を瑛佑の唇が軽く吸った。
たったこれだけでも反応してしまう浅ましさを、見せずに済んだことは、暗い中で良かったと喜ぶべきか…。
「んっ」
「出かけるっていったってこの体じゃあねぇ。中途半端に動けるより、椅子の中に沈んでいるくらいが社長も納得するでしょ」
「馬鹿言っていないでくださいっ」
怪我がそう簡単に治るものではないが、それに追い打ちをかけるように体を痛めつけて(可愛がって)くれなくていい。
身動きがとれない状況は、ヘタをしたら診断結果からかけ離れたものになりかねなく、千城の興味を一層買うことになる。
フフフと笑い声を立てる瑛佑は、やはりからかいを含んでいるのが一目瞭然だった。
美琴が瑛佑の背中をパンパンと叩くと観念したふうに身を起こした。
「ハイハイ。洗濯物、取り出してくるよ。でも着替えるのはまだ先ね。手加減はしてあげるから」

…最後の一言がまた恐ろしい…。

屋敷を丸ごと貸し切れるというのは、今回の自分たちにとって、非常に都合が良かったと、しみじみ思わされることになった。
色々な意味で疲れた体を癒してくれる温泉は人目を気にする必要がなかったし、隠してしまいたい"汚れもの"は洗濯機に押し込んで元通りにすることが出来た。
隣の母屋からこちらの古民家は丸見えなのだが、雨戸が閉まっている以上、人が近づいてくることもない。
『休憩中』の看板を掲げているようなもので、日常の物音すらもしかして、控え目にと、気遣われていたのだろうか。

瑛佑にとっては、これまた都合の良いもので、美琴の体が不自由だと公言してはまめまめしく介護をしていた。
失くしてしまった携帯電話の手続きが一番の最優先事項だったのだが、休日に緊急事態が発生したとして、どんな遠回りをしても連絡は取れる手段を知る人物がいると分かっているから、気持ちに多少の余裕が生まれる。
少なくとも瑛佑の携帯電話は無事な姿でここに存在している。
家以外の場所に出かけるのに、瑛佑が付いてこない状況など、それこそ滅多にあることではなかった。
ふたりで一つのものを共有する意識も、これまで持つことなどなかったのに…。

出かけようと外に出ると、畑から帰って来たところなのか、軽トラックの荷台に野菜のカゴを積んだ主が駐車場に入ってきた。
美琴は"移動"と名のつくものには、必ず瑛佑の手助けがあったので、この時も背負われて車に向かおうとした時だった。
運転席側の窓を手動で全開にした男は、顔を突き出してきた。
「よぉ、体調はどうだ?さっき整体院の先生に会ってなぁ。夕飯の前にも来てくれるってよぉ。うちの犬が腹こわした時も診てくれた頼りになる人だからぁ。今っからデカイ病院行っても、時間もかかるだろぉ」
親切心から話を通してくれたのは分かるのだが、医療に関わる人間がオールマイティだと思えることに、ある種の感心すら覚えた。
せっかくの好意を踏みにじるようで申し訳ないと思いながら、「かかりつけの医師に指示を頂きましたので」とでまかせを言って丁重に断る。
また余計なことに瑛佑が、「俺も長いこと病院に出入りしていましたから」などと吹聴したもので、美琴の危機にわざわざ駆けつけた人がいた、と、美琴の立場はより格上げされてしまった。
誤解が解けるのはいつになることやら…。

携帯電話ショップで手続きを終え、町をぶらぶらと車で流して、また宿へと戻った。
帰ると女将が夕食の準備を整えてくれている最中だった。
邪魔にならない位置に寄っては、とりあえず明日休む旨を千城に伝えた。
怪我をしたため、大事をとって、一日休むと説明すると、すんなりと許可がおりてしまった。
自分もやかましい部下から解放されるとほくそ笑んでいる姿が目に浮かぶ。
背後で瑛佑が「社長、美琴さん、歩けないからよろしくね~」などと明るい声をあげてくれたことで、単に怪我をした、とは思っていないだろう。
瑛佑が言ったように、どこで何をして、と事細かく聞いてくる人ではないところだけは救われるが。
後々嫌味三昧な言動を繰り返されるとしても…。

料理の用意ができれば、女将は今朝と同じく部屋を出ていってしまった。
地酒と、近所の人に分けてもらったのだという鶏肉で作ってくれた串焼きを特別に出してもらった。
今頃になって気付いたことだったが、ここには『音』がするものが何も存在していなかった。
テレビすらないのだ。
時間を気にかけず、忘れさせてくれる空間は、日ごろ忙しく動き回る美琴にはまた新鮮である。
そのことには瑛佑も気付いたようで、いつも以上に会話が増えた気がした。
これほど長く、何にも邪魔されることなく、一緒にいる機会などなかったからだろうか。
視線や態度だけで伝わることも以心伝心の間柄として心地よかったが、本音を確かめられるのは尚、喜ばしい。

陽が落ちて、暗くなってしまえば、他にやることもないといった感じで、二人は布団の中に潜り込んでいた。
もちろん眠気など、まだまだやってはこない。
話し続けていた時間が嘘のように、体が密着してからは口が閉じられてしまった。
肌越しに聞こえてくる心音や呼気があるだけでホッとしている。

沈黙を破るように、改めて美琴は口を開こうとした。
暗闇の中では見えない瑛佑の顔なのに、吐息のひとつで間近にいることが伝わってくる。
そっと手を伸ばしてはその頬を撫でた。
視界が利かなくても、触れたいところは間違わない。
「瑛佑…。今回は本当にありがとうございました。あなたがいてくれて本当に良かった…」
「美琴さん?…俺も美琴さんがいてくれて良かったって思っているよ」
「あまり頼りにならない私ですが…」
「何言ってんの。美琴さんほど頼りになる人はいないじゃない。何事も美琴さん"さまさま"だよ」
「そんなことは…」
謙遜する美琴のそばで瑛佑が笑ったのが分かった。
「なんか調子狂ってくる。ホント、可愛すぎだよ」
クスクスと笑いながらからみついてくる腕に力がこめられてきた。
美琴の素直な態度は、お互いを許し合った証拠でもあるのかもしれない。
抵抗の一つもなく、自ら手を伸ばしてくちづけてしまう。

外はまた雨が降り出したようだが、その音はうっとおしいものではなく、ふたりを繋げてくれる思い出の音になることだろう。

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次回最終回になるかしら…。
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コメント

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のんびり~ まったり~
コメントけいったん | URL | 2013-06-23-Sun 15:14 [編集]
普段は多忙な美琴にとって 心も体もリラックス出来る時間となりましたね・
怪我も 大したことが無くて 良かったですし~(〃´o`)=3 フゥ

私も一人で 温泉で のんびり~まったり~したいな。

温泉と言えば、我が家の温泉=家風呂(笑)が 壊れました!
昨晩、急に 給湯器が ウンともスンとも動きません。
車検もある この時期に 痛い出費だわぁ~。゚(*ノДノ)゚。わ~ん
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