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BLの丘
緑の中の吐息 21
2013-06-22-Sat  CATEGORY: 吐息
身体の芯から温まった。
凍えていた体が嘘みたいだ。
肌にまとわりつくような泉質が、また保温力を高めているのか。
軽くくちづけする程度で交わりを終わりにしたのは、美琴がのぼせそうになっていたからかもしれないし、待たせている人がいると頭の隅にあったからかもしれない。
脱衣所には家庭にあるのと同じようなプラスチック製のかごがあり、そこに浴衣と買ってきてくれたらしい真新しい下着が入っていた。
人に用意してもらうのもいかがなものか…と美琴は気まずさを覚えたが、瑛佑は「緊急事態だから」と特に気にしていない。
何事にも開き直れる、受け入れられる性格は学ぶべきことだろうか。

またしても抱き上げられようとするのを腰を支えてもらうことで済ませる。
土足のままで入ってこられる入り口とは別に、すのこで繋げられた通路が出来上がっていた。ここを通って、部屋と浴室の行き来ができる。
となりにかまどがある年代物の造りにも視線が向いた。
「この休み…、すっげー、いろいろな体験できているような気がする…」
今回のハイキング、最初は美琴のことを『遠足に来た小学生』並みの表現をしていた瑛佑だったが、今ではすっかり瑛佑のほうが興味津々の目つきだ。
様々な物件を見てきた美琴とは、過ごしてきた経験値が違いすぎる。
『懐かしい』と思う人、『珍しい』と好奇心が湧く者、人それぞれだ。
ただ、かまどがある台所に関しては、現在使われている気配は見受けられない。
瑛佑が嬉々とした声をあげたところに、女将さんが顔を出してきた。

「ちょうど朝食の準備ができたところですよ。お口に合うか…。家庭料理みたいなものでお恥ずかしいのですが」
ニコニコと笑顔を絶やさず、先ほどチラリと見かけた、畳の座敷に案内してくれる。
ここまで連れてきてくれたおじさんたちの賑やかな声は響いてこない。鳴りを潜めているだけかと思いきや、「自分たちがいたら落ちつかないだろう」と帰っていったとのことだ。
もしかして『温泉』を取り上げてしまったのかと心配になったが、女将は「働いていないのだからいいんですよ」と清々した様子だった。
突然の訪問にも関わらず、風呂だけにとどまらず、食事まで用意してくれるだけで頭が下がるというもの。
「お構いなく…。あの、こちらで休ませていただきたいと、瑛佑が…」
美琴が更なる我が儘を口にするのが申し訳ないと思いながら言いだすと、女将はすでに聞いた話のように承知していた。
「えぇ。隣の部屋に寝床の用意もしておきましたから、お食事が終わったら横になられてください。こちらの建物は内から玄関のカギを閉めていただければ、誰も入ってきませんので。あ、雨戸も閉めたほうがいいかしらね」
『古民家の宿』として貸しているときには、客に安全面はまかせっきりだというから驚きだ。
本来は襖ごとに仕切られた部屋を、一部屋として使用するらしいが、今日は美琴たちだけなので、一軒丸ごとの『貸切』にしてくれたとのこと。
普段、玄関開けっぱなしの屋敷は、開いていれば人が集まるし、閉まっていれば状況を察して去っていくのだとか。

座卓の上に並べられた料理は素朴だが温かみが感じられた。
米から野菜にいたるまで、ほとんどの物が自宅の畑で作られているそうだ。
焼かれた川魚も地元のもので、地域ぐるみで物がやりとりされている人付き合いの良さが自然と感じられた。
食事に箸をつけるのを見届けてから、女将は「それではあとのことはよろしくお願いします」と一礼するだけで出ていった。
おひつに入ったご飯もお茶のおかわりも、勝手にやってくれ、とは、普段からのスタイルなのだろう。
かまどのある台所は、今となっては"名残り"でしかないが、流し台や冷蔵庫は備えられていて(カセットコンロもある)、自炊することは可能だった。

胡坐をかいて茶碗と箸を手に、瑛佑が感心した吐息を吐き出した。
「なーんか、今更、いいのかな…と不安になってきた…」
珍しく弱気になる発言に、どうしたのかと美琴のほうが首をかしげてしまう。
「何が、ですか?」
「俺、ちょっと寝かせてくれればいいくらいに考えていたんだけれど、ここまでされちゃったら、見事なまでの一泊コースだよね」
「一泊というより、滞在に近いですね。本当ならもうチェックアウトの時間になりますよ」
そんな時間になって押しかけてくる客もそういないだろうに、どんなことにも対応できるのは、やはり世間にもまれてきた経験があるからなのかもしれない。

今夜泊まることまで決まってしまっては、この町や近隣から離れることもない。
失くした携帯電話の手続きのこともあったが、代理店はどこにもあるので不便ではなかった。
ひと眠りして、昼間は雑用に身を投じるのもいいだろう。
知らない町を散策する、それだけも充分時間は潰せる。
なんにせよ、今の時間がまだ早いことに変わりはない。
朝が早起きだったせいもあるのだろうが、気分はすっかり半日も動き回っていたような感覚だった。

人間の生理か。
お腹が満たされれば眠気も襲ってくる。
温まった体が、性欲を満たすために動こうとしなかったことが、この場では一つの不思議でもあったのだけれど。
簡単に食器を片してくれた瑛佑が、「寝よう」と美琴の体を引き寄せた。
雨戸を閉めてくれたおかげで、朝の時間でも板張りの隙間から光が差し込む程度の暗さの中にある。
隣の部屋に敷かれた二組の布団に悪気がなかったのは分かるのだが、ぴったりと寄せられた配置には気恥ずかしさしか浮かんでこなかった。
しかも一組の布団しか使わずに済む密着ぶりで、瑛佑の腕に囲われたのだ。

ようやく安息の時間に辿りつけたといった、瑛佑からの気の抜け方が、全身から伝わってくる。
抱き枕のごとくすっぽりと包まれて、そばから離してくれない。
その拘束が今の美琴には酷く心地よかった。
「ゆっくりおやすみください…」
抵抗する素振り一つ見せない素直な美琴を目の当たりにされて、瑛佑は一瞬驚いたが、声を発することはなかった。
フッと口角をあげるだけで、瞼をおろす。

…異空間が美琴を本来の姿に戻してくれるのだろう…。
こんな空間をもっともっと作っていきたい、そう思ったのは自分だけではない、とお互いが思っていた。

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コメント

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やっと 雨、止んだぁ~♪
コメントけいったん | URL | 2013-06-22-Sat 16:19 [編集]
ハイキングと気軽に出掛けたものの 
美琴は足を挫くし 雨には遭うわで 散々な目に遭ったけれど、
人の優しさと温もりを知り 触れて 後になって 印象に残る思い出になるでしょうね。

「終わり良ければ 全て良し!」でしょ(o´・ω-)b ネッ♪


雨、降りましたねー、もう 勘弁してよ~(泣)って くらいに!
今日は 止んだけど 朝から曇天で 今頃 やっと晴れて来ました。
でも 洗濯物、濡れた靴、傘と それなりに乾いたので OK~と、しておきましょう(笑)

毎度の事ながら 勝手にコメ欄に書き込んで 強引に贈呈する詩を いつもいつも 快く受け取って下さって きえちん ありがとう!
さえさんも 気に入って下さって アリガトサンです♪
エヘヘ♪(((o(@^◇^@)o)))♪ニコニコ
 
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