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BLの丘
緑の中の吐息 16
2013-06-17-Mon  CATEGORY: 吐息
一時間以上は声も無く過ごしてしまったかもしれない。
少しずつ移り変わる景色に目を奪われて、人の声を立てることに気が咎めるのは、どうやら瑛佑も同じようだった。
黙ったまま時を過ごしても、居辛さを覚えることはない。
共感できるものがあること、それらの感動を分かち合える人がそばにいることの嬉しさが湧きあがってくる。
森からの囁きに耳を傾け、自然の美を堪能する。
もやる"朝の荘厳な景色"は瞬く間に消え去ってしまった。
どちらともなく顔を合わせては、今のこの空間に二人でいられることに感動と感謝をしていた。

すっかり重くなってしまった腰を上げたのは、どれくらいの時間が経ってからだっただろう。
どこか遠くのほうから、『ウィーン』という、機械が動き出す音が響いてきた。
空気が澄んでいるためこだまするのか、音量からしても、かなり離れているところであげられている音だと知ることができる。
その音は、美琴たちにしてみたら『目覚まし』のような感覚だった。
現実に引き戻される。
「もう、人が動き出す時間か…」
瑛佑が時刻を確認すると5時を過ぎたところだという。
随分と早いな…と思いながら、もう充分に明るい屋外では、涼しくもあり、作業もしやすいのかもしれないと思いなおした。
起きていたのだが、やはり体は眠っていたようだ。
改めて瑛佑の表情を見つめると、同じく瑛佑も覚醒した表情で「おはよう」と笑った。
触れあわせるだけのくちづけの朝の挨拶はいつものことだったが…。
「も、もうっ、こんなところでっ」
ジタバタしだした美琴の姿は普段では拝めないものとなっていたので、その反応は瑛佑にとって久し振りの"新鮮さ"を味わった気分にさせてくれる。
また、いつか来よう…。その思いは胸の中にしまっておいた。

荷物やゴミをまとめてリュックの中にしまいこみ、今度は美琴にも靴を履かせて、瑛佑は美琴を背負う。
「あの…杖代わりになっていただければ、歩けますよ」
美琴は瑛佑にばかり負担をかけるようで自分で歩くと提案してみたが、あえなく却下されて終わった。
「人に会いたくないんでしょ?さっさと降りちゃうに限るよ」
そういった瑛佑も、さすがにここで怪我をするわけにはいかないと、歩みは慎重になっていた。
それでも昨日のけもの道を歩くよりもずっと歩きやすいのは確かで、あっという間に公園に辿りついてしまった。
この結果を見せつけられては、いかに自分が無駄足をさせたのかと後悔の嵐だが、瑛佑は「貴重な体験ができた」と大満足の様子だった。
なので、美琴は何も言わず、その雰囲気を大事にして口を出すのをやめた。

気をつけて歩こう

公園まで降りていくと、この公園の関係者なのか、作業服を着た壮年の男性が3人、立ち話でもしている様相で煙草を吸っていた。
ねじり鉢巻きに地下足袋とは、林業を営む山男といった感じである。
こんな朝から…と思うのと同時に、向こうもこちらに気付いて、一斉に注目を浴びた。
遊歩道の入口が、売店とトイレの建物の裏側にあるのだから、気付かれないわけがない。
「兄ちゃんら、なんだい、こんな朝っぱらからどうしたんだ?」
「怪我でもしたんか?」
「危険なトコがあったんじゃ、向こうのおエライさんに顔向けできねぇぞ」
「放ったらかしにしても問題がなかったくらい誰も来(こ)んかと?」
「で、何時に来るったっけ?」
「分からんよ~。下見に来るらしいって、それもあてにならない情報筋らしいしぃ」
「『最低限の点検』て今頃言われてもなぁ」
「兄ちゃん、何時にここ、入ったんだ?」
次から次へとテンポよく進められていく訛りを含んだ会話は美琴たちに向けられるものと、自分たちの話が混じっている。
美琴は瑛佑の背中から下ろしてもらおうと身を捩るが、力強く抵抗されて叶わなかった。
彼らの話をしっかり耳に収めながら、『おエライさん』という言葉に眉をひそめた。
重要人とされるような人物が来るなどという話は、一つも聞いていなかった。
現在の管理はまだ行政側にあったとしても、『榛名』にも逐一情報は入ってきている。
物事が正確に報告されないようなら、白紙にも戻せる権力は、榛名側が握っているのを忘れているとは考えにくい。

男たちの会話に人懐っこく参戦していくのは瑛佑で、性格と人柄がものをいう。
客商売から、相手にする年齢層も幅広い。
「俺たち、昨日登ってたんですよ。この人、つまずいて転んじゃって。足の様子見ているうちに大雨に降られて、ちょうど山小屋があったし、雨宿りしていたら暗くなって、『もう、野宿だぁ』って。で、今降りてきたとこです」
「上(山頂)は早くに降りだしたんかぁ」
「あの道はただでさえ滑るもんな」
「暗くなっては動かん方がえぇよ。賢明な判断だったなぁ」
「しかし、アレは塞いどったはずなのに、誰かが入ったんか」
「あのボロ小屋を『壊された』って訴えるのも恥ずかしい話になるなぁ」
ここ最近近づいたこともないと暴露しているようなものだが、改めて口にされて、今頃になって瑛佑は顔を引きつらせていた。
壊したのは自分たちだ。
美琴の名前にあぐらをかいていたが、訴えられた時に立場がヤバくなるのは美琴で、そこまで考えが及んでいなかった。
美琴ならどうにかしてくれるだろうという甘えだけが漠然とはびこっていたのだ。
「み、美琴さん…」
瑛佑のいいたいことはやはり通じてしまう美琴は、振り返られた顔に無言で「下ろしてください」と訴え、「器物損壊の件は気にされなくて結構です」と瑛佑に告げて幕を引いてしまった。
そんなことよりも美琴には最優先させなければならない課題が会話の中に転がっていたのだから。

ようやく地に足をつけて、荷物を瑛佑に渡そうとするが、体重がかかれば保護されまくっていた足首は悲鳴をあげた。
よろけてすぐに瑛佑の腕がしっかりと支える。
「もうっ、だから言ってんのにっ。ベンチあるから、とりあえず、ここ座ってっ」
ドリンク会社の企業広告が入った赤いペンキのベンチはまだ濡れていたけれど、持っていたタオルを敷いて美琴を座らせる。
黙って事態を見守っていた男たちの視線は外されることはなかった。
「兄ちゃん、救急病院までは結構走らなだぞ」
美琴の動きに心配されたのか、曜日や時間帯を思えば、近くに治療を受けられる施設がないと、親切にも教えてくれる。
じっとしていれば痛みも忘れるくらいなのだから、大したことはないと自己判断していた美琴は丁寧に礼を述べるにとどまった。
「私は大丈夫です。それより、本日はどちら様か、お見えになられるのですか?」
意外にもはっきりとした口調で切り返されたことに驚いたのか、男たちは美琴に向き直ってきた。
「『お見え』…って、良く分からんけど。役員がピリピリしちゃあ、「いつ来られてもいいように見といてくれ」って言ってきてなぁ」
「事故が起きてからじゃ悪い噂が立つし、それを発端に資金繰りの話が頓挫しちまっても困るらしいぞ」
「報告書でも出したいんだろ。一つでも多く記述があれば、目に留めてもらえるし、後からの指摘分は、『いつのまに…』って言えるしな」
そんないい加減な『報告書』を提示されたら、自分の首を絞めるだけだと気付かないのだろうか…。
ブツブツ言いたい言葉もこの場では見送られた。
話の内容からして、『榛名』が関わっていることだけは理解できる。
しかし、今日は日曜日だ。
余程のことがない限り、こんな日に予定を組む社員はいないし、何より美琴が何も知らないことが一番気になる。
美琴の耳に入らないほど早急に組まれた行程など聞いたことがない。
唯一、自分の上司を除いて、美琴に後からチクチク言われても平気な人物など思い浮かばなかった。
更に『役員の神経をとがらせる』ような人…とは…。

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コメント

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あの方が 登場ですか!?( *´艸`)クスクス♪
コメントけいったん | URL | 2013-06-17-Mon 18:20 [編集]
誰が来るのか 美琴に分からないなら 瑛佑にも分かる訳ないよねー

私的には、と言うか 読者なら 思い浮かぶのは あの人しか居ないでしょ!
どんな登場の仕方をするのかなぁ~♪((O(〃⌒▼⌒〃)O))♪わくわく


パッパ ポイ、パッパ ポイと 必死でしていた断捨離も やっと終息間近を迎えました。
今日は 空になった衣装ケースに アチコチ散らばっていたモノを収納しながら 少し配置換えをしていたんだけど
締め切った クーラーも無い部屋なので 汗だくの作業で 熱中症寸前に!
で、(_ _)zzz 。o 昼寝をして 復活しました。(笑)
室内での 熱中症って 結構 多いそうなので 皆さんも お気をつけて下さいね(o´・ω-)b ネッ♪
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