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BLの丘
淋しい夜に泣く声 69
2009-10-27-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
榛名は呆れたように笑った。
「おまえは俺の言う言葉の意味が分からないのか?」
今何と言ったのか繰り返してみろと言わんばかりに、英人の柔らかな髪を撫でて額に口付けてくる。
「物事を間違えて捉えるんじゃない。おまえを送り出すことは別れることではない。俺は待っているから戻って来いと言っただろう。肉体が離れるからといって心まで離れるわけではないんだ」
榛名は自分に言い聞かせているようでもあった。英人が少しでも世界を見てみたいと思ったことで榛名を不安にさせているようだった。
英人は「行きたくない」と嘘をついた。半分の嘘だったが、それも榛名にしてみれば気に入らなかったようだ。なによりも英人の本心など見抜かれている。
優しく背を撫でられ、幾度もふっくらとした白い頬を榛名の薄い唇が覆った。
「我慢はしなくていい。好きなように生きればいい。前にも言った。おまえの笑顔を見ていたいと。俺は絶対に英人を幸せにしてやりたい。どんな夢も叶えてやりたい。俺は持てるだけの力をおまえに与えてやることしかできない。あとの道を切り開くのは英人なんだ。俺はおまえを待っている。おまえを捨てるなどと言うことは絶対にない。気が済むまで生きたい道を生きろ」
榛名が自分の為に耐えてくれる心遣いを無駄にはできなかった。

榛名に背を押される形で、結局2週間どころか3週間の予定を組まれて英人は神戸と共に日本を発った。
あまりにも不安がる英人に、榛名はその間、二度も日本とフランスを往復するという強硬なスケジュールを組んだ。
神戸は榛名の行動に呆れ果てていたが、英人を外に出したことで敢えて何も言わないでいてくれた。彼は仕事の関係があったので、英人に付きっきりになっているわけにもいかず、現地ガイドを雇い英人につかせて英人の好きにさせた。(榛名が男のガイドはダメだと頑なに言い張ったから女性にしたらしいけれど…)
英人は初めて見る異国の地を存分に楽しんでいた。パリにある美術館には続けて3日間も籠った。
そこに飾られる作品に感銘を受け、一つの作品の前に一時間以上佇むこともあったくらいだ。
パリの街並みだけではなく、郊外へも連れて行ってもらった。ガイドの女性は日本語を理解していたフランス人だったから英人が会話に困ることはほとんどなかった。

英人がパリに辿り着き、一週間が過ぎようとする頃、休暇を取った榛名がこちら訪れる日が来た。
この一週間は無我夢中で時が流れた。見たいものや刺激を受けるものが多すぎて、脳味噌がパンクすると思ったくらいだった。
榛名が到着すると気付かされた前日、ようやく会える榛名に芸術品に出会えるような悦びがあった。時差があるにも関わらず、毎晩英人が寝る前に電話で話をしていたからあまり離れている感覚はなかったけれど、人肌はとても恋しい。
榛名が英人に与えたホテルの部屋は当然、一般人が泊まる様な狭苦しいツインルームではなく、ソファセットまで供えられた広々とした部屋だった。
昼間は外で感動を浴びてばかりだったしガイドも、時には神戸もいてくれたから気にならなかったが、一人で眠らなければいけないベッドの中は淋しさで溢れかえっていた。

英人は真夜中に目覚め、日本から持ち込んだ携帯電話を開くと、日本時間を確かめると共に榛名がわざと録音した榛名の声を聞いた。ここに来てから何度聞いたか分からない。
この声を聞くたびに体中の血液が心臓に逆流しそうだった。嬉しさや悦び、悲しさ、淋しさが一気に流れ込んでくる。
嫌われてはいないだろうか。呆れられていないだろうか。自分に会えて喜んでくれるのだろうか。
様々な思いが錯綜し、今日の英人は眠りの世界に引き込まれることはなかった。

空港に迎えに行くことを様々な理由をつけて断られていた英人は、次の日そわそわしながらホテルで待っていた。
榛名が到着するのは午後だったから、午前中は一人でぷらぷらと街を歩いてみたが、心ここに在らずの状態で何を見ても味気なく感じてしまう。結局ホテルに戻ってしまい、ロビーの脇にあるカフェで時間を潰すことにした。
ゆったりとしたソファの席に佇みながら、ホテルの入り口にタクシーが止まるたびに英人は入ってくる人間を確かめた。
予定時間を3時間過ぎても榛名は現れなかった。

移動時間の長さや無理な計画に諦めたのか…。もしかしたら英人を喜ばせるために嘘をついたのかもしれない…。直前で日程が変わって言い伝えることができないのかも…。野崎に引き止められたのか…。不安ばかりが募り、英人は榛名に会えない淋しさに涙がこぼれそうだった。
3杯目のカフェオレが空っぽになった。
お国柄か、居座る英人にウェイターは嫌な顔ひとつせず、ゆっくりしろと言いたげだった。
英人はフランス語を全く理解していなかったから、ジェスチャーでしか会話ができなかった。
ふいにそのウェイターが隣に座った。
広々としたソファに並ぶよう膝をつけて隣に腰を下ろしたウェイターは高く鼻筋の通った小奇麗な顔を英人の耳元に近付けた。
「Lovely face.」

片言の英語は英人でも理解できた。

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コメント

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狙われた"Lovely face"?
コメント甲斐 | URL | 2009-10-27-Tue 15:58 [編集]
帰るところはここ以外にないって太鼓判押してもらったからもう大丈夫!!
ってほど元気なお出かけじゃなさそうだけど、まあ、初めてのお使いに出る幼子のようでかわいらしくまたいじらしいです。
それでも、有意義に過ごしている様子にほっとしました。

しかし、しかしです。やばいっすよ、榛名さん。
かわいい英人君を一人でおいとくの危くない?
何してるんでしょうねぇ。
Re: 狙われた"Lovely face"?
コメントきえ | URL | 2009-10-27-Tue 19:51 [編集]
甲斐様

こんばんは。またのお越しありがとうございます。
なんだかちんたら進んでしまって少し後悔している文面なのですが…。

> 帰るところはここ以外にないって太鼓判押してもらったからもう大丈夫!!
> ってほど元気なお出かけじゃなさそうだけど、まあ、初めてのお使いに出る幼子のようでかわいらしくまたいじらしいです。
初めてのお使い!! (爆笑)
まさにそんな感じですね。
いきなり世間を知らない子供になっちゃったみたい。

> しかし、しかしです。やばいっすよ、榛名さん。
> かわいい英人君を一人でおいとくの危くない?
> 何してるんでしょうねぇ。
日本からフランスまでの間までに何か起きてしまったのでしょうか。
飛行機事故とかで死んでいないことを祈るけど…。(←大丈夫です。これはありませんので。ご安心を)
私も20カ国ほどの国に飛びましたが、とにかくフライトスケジュールの変更には悩まされました。
飛んでいる最中の機体故障が一番怖かった体験です。(えっ?不時着?!とか)

とりあえず英人にはもう少し自覚を持たせるというか、昔の無防備さを捨てさせないと…
こんなんじゃ千城だって外に出したがらなくなります。(説教は誰にさせよう。やっぱり神戸かな)

コメントありがとうございました。
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