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BLの丘
緑の中の吐息 4
2013-06-05-Wed  CATEGORY: 吐息
売店の隣に、薄汚いトイレがあった。
まるで隠しているかのように、山の奥へと続く道が建物の後ろから伸びている。
『この先、トイレはありません』と書かれた看板は、もともとは白い板だったようだが、こちらも汚れて文字も消えかかっていた。
鬱蒼とした森の中につながる道は、当然舗装もされていなく、ところどころ木の根が張りだしていたり、岩が転がっていたりする。
人が歩いている道、と分かるだけ、『整備』されているクチに含まれるのだろうか。

「うーん、雰囲気だけは『ハイキング』っていうより『山登り』だね。まぁスニーカーでも歩けそうだけれど、安全性を考えたら登山靴のほうがしっくりくる」
瑛佑が自分たちの装備に視線を走らせた。
本格的に登山をする人と比べたら足りない部分は多々あるだろうが、しまわれていた物を引っ張り出してきた服装らはそれなりの雰囲気を作り上げてくれた。
当然ふたりとも登山靴を着用している。
スーツばかりを着こなす美琴が私服に着替えるだけで幼さが増すが、登山用の服装に着替えるとまた違った雰囲気が漂う。
滅多に着ることのないジャンパーなんてものを羽織っているせいか、無防備な『遠足に来た小学生』にしか見えなかった。
「そんなに激しいアップダウンはないと聞いていますよ」
「美琴さんの場合、どこから『激しい』になるんだか疑問だけれど」
一般人との体力の違いをからかわれて、ぷいっと前方を見つめた。
やりなれないことをすれば誰だって疲れるのだ、と内心で悪態をつく。
いつものごとく、瑛佑はそれ以上美琴をからかうことはしなかった。

道はゆるやかに上っていっているのが分かる。
二人、並んで歩いてしまえば、道を塞いでしまうような狭い『登山道』の入り口だった。
森の中に入ったから余計か、シンと静まり返った世界に迎えられた。
鳥のさえずりだけが聞こえ、他は進んでいく自分たちの足音と息遣いだけだ。
新緑の季節、晴れていれば葉の隙間から太陽が差し込んだり、爽やかな風が通り抜けたりするのだろうと、気持ち良さそうな景色が脳裏を駆け巡った。
「美琴さん、ぬかるんでいるところあるから気をつけてよ」
足元を気にしつつも見上げていた美琴に瑛佑が注意を促して、美琴もきょろきょろと視線を動かした。
「昨夜に結構な量の雨が降ったのですかね。葉っぱも随分と濡れていますし」
「今日やんでくれたのは、美琴さんの願掛けが通じたからじゃない?美琴さんに感謝しとこう」
「が、願掛けなんてしていませんよっ。そんなに執着するようなものでもないでしょうっ」
「あー、ハイハイ。そうですね~」
口ではなんといいながらも、お弁当まで作る気合の入れようがある中で、少しも願っていないなんてことがあるはずがないのは通じてくる。
そこも瑛佑は軽く流してしまったけれど。
照れては急ぎ足になりかける美琴の腕を引いた。
「誰もいないんだしさ。手ぇつないで歩こうよ」
「な…っ?! よ、余計に歩きづらくなるだけです…」
「急な崖があるような場所じゃないんでしょ?これくらいの道なら、バランスを必要とするようなこともないし。転びそうになった時も、すぐそばに掴まれるものがあるっていいもんだよ」
「ウドの大木…ですか…」
「美琴さんっ、それヒドイよっ、ヒドイっ。充分役にたってるはずなのに~っ」
辛辣な発言を含めて、意地になる瑛佑の笑顔を見て…。
天気はイマイチだけれど、気分が良いとはこのことを言うのだろう。
クスクスと美琴の表情も穏やかになっていく。
賑やかな会話を繰り広げながら、だけど美琴は掴まれた手をほぐすことなく歩を進めていた。
なるべく意識を向けないように。
時々立ち止まっては、風景や、朽ち果てた道路を撮影する。
丸太で作られた階段があったり、石畳が敷かれたりした場所があったり、中途半端に人の手が入った道はくねくねと山頂まで続いているのか。
立ち止まって一度は離れた手も、再び歩きだす時にはつながれた。
どちらから言い出すわけでもなく、自然と手が伸びてお互いをつかまえ合うのだ。
渓流を渡るつり橋を通り、川岸に降りられる道を探しては寄り道をして、沢の水の冷たさを体感したりと、二人はのんびりと山頂を目指していった。

途中で降りてくる人とすれ違って驚かされる。
老夫婦のようだが、登山の経験者だとはっきり分かる身なりと身のこなしをしていた。
「おはようございます」
相手から声をかけられては美琴と瑛佑の足も止まってしまった。
「え?もう上まで行ってきちゃったんですか?」
瑛佑が臆面もなく尋ねると、やはりこういったところで会話が生まれるのは自然の成り行きなのか、色々と教えてくれようとした。
「ここは朝もやが綺麗なところでね。この後、違う場所に移動するんだけれど、ちょっとした足慣らし程度に寄ってみたんだ」
「お花を見るにはちょっと早いかしらね。でも緑がとても綺麗よ」
「はぁ…」
男性に続いて女性も人懐こい笑みを浮かべる。
呆然としてしまったのは瑛佑だったが…。
きっとこの人たちにしてみたら、『日課の散歩コース』程度の感覚なのだろう。
一日に何か所、回る気だ?!と、体力年齢は絶対に劣っている美琴は黙ったままでいた。
お互い、「気をつけて」「良い一日を」と声をかけあって別れた。
「今の時代、高齢の人ほど元気だよね…」
「何が言いたいんですか?」
彼らの背中を見送りながら瑛佑がポツリとつぶやく。
改めて言われなくても、自覚くらいはある、と小さく不貞腐れた美琴を見ては、瑛佑が背中を抱きこんだ。
「俺たちも、いくつになっても、ああやって出かけられるようになろうね」
パートナーと同じ趣味を持つのは、楽しみも会話も増えていく。
出会ったふたりは本当に仲が良さそうだった。
いつまでもこの手は離さないから…。
耳元でささやかれて、顔を赤くした美琴は、繋いでいた手をほぐそうともがいて、逆にもっと強く握りこまれることになっていた。
そして今頃になって、自分たちが人前でも手を繋いでいたことに気付くのである。
ジタバタしても時すでに遅し…。
困惑と嬉しさと恥ずかしさ。
色々な感情が交錯するが、雄大な自然の前に、なんだかものすごく自分たちがちっぽけであるように思わされてもいた。

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コメント

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ミコっちゃんは、天邪鬼♪
コメントけいったん | URL | 2013-06-05-Wed 10:16 [編集]
niったん、美琴と理佑の魅力を教えて下さって ヾ(@^▽^@)ノ ァリガトゥー♪
意地を張っていても チラリと見える甘えん坊ミコっちゃんと それを優しく包み導く理佑の相性抜群の恋人さん達なんだね!パチッ☆-(^ー'=)bナルホドニャ♪

永遠のパートナーとなった理佑に いまだ敬語で喋るミコっちゃん

山登りって 苦もあれば楽もありの人生のようですね。
山頂まで辿り着き 大自然の中 癒されたら その敬語も使わなくなるのかなぁ~

敬語で話さないミコっちゃん、想像つかないけど きっと可愛いだろうな♪。。。(。´・_・`)。oO(ぇ・・・)
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