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BLの丘
淋しい夜に泣く声 66
2009-10-24-Sat  CATEGORY: 淋しい夜
「体(てい)の良い監禁だね」
ギャラリーに辿り着くなり出展品を見回す時間も取らせずに、応接室に連れ込まれた英人は、コーヒーとケーキを用意され早速現在の状況を神戸に問われた。
ある程度は榛名から聞いていたらしく、改めて驚かれることもなかったが、英人が榛名の家に収まったことなど一通りの現状を説明し終えると、にこりともせず呆れたように溜め息を零した。

榛名の居住スペースに英人が入り込んでから1カ月近くが経とうとしている。
野崎の存在をチラリと含まされ、あまり外に出たがらない英人に、藤原早菜香がよく訪れてくれた。一緒に焼き菓子を作ったり絵を描いたりと、生活自体は充実していた。人は外に出なくても暮らしていけるのだと思ったくらいだ。ハウスキーパーも訪れてくれていたから英人は何もすることがなかった。日々をとんでもなく贅沢に過ごした。
榛名も仕事に支障のない程度まで、野崎との関係を修復していたらしいが、影を落としていることは確かなようだった。
改まって榛名のマンションに英人が住みついていることを伝えるようなことをしなくても、野崎にしてみれば全て見通しているはずで、いつ責められてもおかしくない状況にある。あえて言葉にしないのは、榛名の威嚇があるせいか、榛名家から与えられた使命を全うできない不甲斐なさを露呈したくないのか、とりあえず野崎は英人の存在を消し去っていた。

「監禁って…」
その言葉は英人に暗い影を落としていた。榛名は確かに英人を外に出そうとしなかった。英人が出たがらないように、遠まわしに野崎のことや出展のことなどを告げられた。これでいいと英人自身も思っていたが改めて言葉にされれば刺さるものがあった。
神戸は冷たくもある言葉で榛名の行動を否定し責めていた。
「千城は単に英人君を閉じ込めたいだけなんだよ。脅すネタは野崎さんでも何でもいいんじゃないかな。他のものに興味を持たれるのを酷く怯えている。…驚きだよ、あんな千城を見ることになるなんて」
冷や汗をかく英人にも神戸は容赦せず、告げるべきことを言葉にした。
神戸は英人の話を聞きながら目をパチクリさせた部分もあったが、最終的には榛名を咎め英人の身を案じた。
決して榛名を沽券にしているわけではない。お互いを平等と思うからこそ、榛名の英人を囲いこむような行動が許せなかったようだ。

「でも俺は…」
「うん、分かってる。英人君が嫌だって思っていたら、千城の隣にいないよね」
英人が榛名を責めるのはやめてほしいと俄かに言葉を濁らせれば、すでに知ったように神戸は頷いた。
神戸は英人が榛名に寄せる思いも、榛名がどういう気持ちでいるのかも知っていたようだ。
こんな業界では男同士と言う関係に、多少なりとも知識があるとはいっても身近に存在すれば意識は変わるのか、神戸の口ぶりは冷たく見えたが、それも違ったようだ。
「でもね、これは良いことではないんだよ。英人君には可能性があって外をたくさん見るべきなんだ。千城は自分の我が儘でそれを潰そうとしている。閉じ込めて傍に置くだけがお互いの為にはならない。千城はそれを分かっていない」
神戸は愛情をもって英人や榛名に接してくれていた。
厳しくもある言葉で榛名の行動を否定するが、英人に明りを灯していることも事実だった。

「これはね。僕が言うことではないかもしれないけれど、千城には一度分からせた方がいいと思う。あいつはこれまで生きてきた世界で全てが手に入れられると思っている。物や権力、名声、なにもかも自在に操ってきた。今こうして英人君を手に入れたことも同じだよ。自分の手から離れて行かないように周りを固めて英人君を追い詰め逃げ出せないようにしている。それに英人君も従っている。でもこれは正しくない。
千城にとって英人君を囲む理由は野崎さんだってどんな企業だってなんだっていいんだ。口実を作りたいだけなんだよ。一人の人間を抱え込むということは潰すのと一緒だよ。千城は今まさに、英人君を潰し掛けているんだ。守っているんじゃない。抑え込んで世界の幅を狭めているだけだ。世を見せずに今の世界を一番だと思いこませて将来の全てを奪っている。僕は英人君をそんな存在に落としたくない。僕からしてみれば千城の今の行為は許せないことだよ」

ズンと心の奥底に響いてくるものがあった。
榛名に守られているという行動が全て否定された。
榛名のこれまでの行為を貶したくはなかったが、神戸から改めて言われれば単純な脳みそは神戸の言葉に傾いた。
この一カ月近く、英人はほとんど外に出ることもなく、もらった画集や世界を回るDVDを眺めて過ごした。
実際に目にしてみたいと思うところはあったが、贅沢な時間の中で眺められるこの瞬間だけでも充分だと感じていた。
世に認めてもらえるほどの実力はまだないと思うから、細々とでもやっていける今が嬉しかった。
だけど神戸が望むのはそんな程度の世界ではなかったようだ。

神戸はさらにたたみ掛けた。
「世界を見てごらん。英人君の力ならこれからいくらだって伸びていける。千城の中で閉じ込められる存在ではないんだ。…あの家を出るべきだ」
黙って聞いていた最後の言葉は英人に重くのしかかった。意味が理解できないくらいの衝撃が襲った。
榛名から離れるということは愛を失うことであり、これまでに求めた『幸せ』を手放すことのような気がした。
やっと手に入れたのだ…。愛し愛される環境を…。

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コメント

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神戸さんは正しい!けど厳し過ぎる!と過保護なお姉さんは思う・・・
コメント甲斐 | URL | 2009-10-24-Sat 13:45 [編集]
神戸さんの言うことは正論だけど、今の英人にいうことじゃないと思う。
歩き始めた子供を練習しないとだめだと突き放し路上に放置するようなもので、いくら英人が子供じゃないといっても、漸く手に入れたものを間違っていると取り上げるのはかわいそうです。
CMプランナーとして『売りたい』ネタとして使いたいのが優先しているようで怖いです。「君のためを思って」っていう言葉が一番うそ臭いんですよね。
英人に埋もれた才能があって本当にこのままで惜しいのかどうか分りませんが、悩み多き英人君に新たな試練ですかね。
さあどうする英人クン。
Re: 神戸さんは正しい!けど厳し過ぎる!と過保護なお姉さんは思う・・・
コメントきえ | URL | 2009-10-24-Sat 14:45 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 神戸さんの言うことは正論だけど、今の英人にいうことじゃないと思う。
あー、やっぱり厳しかったですかねぇ…。

> 歩き始めた子供を練習しないとだめだと突き放し路上に放置するようなもので、いくら英人が子供じゃないといっても、漸く手に入れたものを間違っていると取り上げるのはかわいそうです。
なんと表現が豊かなのだろうと私が思いました。
私の書く文章力の低さに頭を抱えてしまいます。

> 英人に埋もれた才能があって本当にこのままで惜しいのかどうか分りませんが、悩み多き英人君に新たな試練ですかね。
英人には隠れた何かがあったみたいですね。
榛名が目をつけたことといい、神戸が気にかけたことも、英人にとって悪いことにはなりませんが、選択肢は限りなく少ないです。

> さあどうする英人クン。
どうするんですかねぇ…
(考える。ものっすごい考えている私です。今夜旦那が帰る前までに何か策を…)
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