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BLの丘
春が来てくれるなら 20
2013-05-08-Wed  CATEGORY: 春が来てくれるなら
【勝沼視点に変わります】

居酒屋の個室で、眠ってしまった大月の寝顔を見つめた。
あどけない表情は、とても"社会人"とは思えない無邪気さがある。
守られてきたのだな・・・となんとなしに感じてしまった。
隣に寄って、髪を撫でたら、想像以上に柔らかかった。
誰にでもこういった無防備な姿を晒すのかと思うと、悔しさが胸に湧いてくる。

初めて目にしたのは入社式の時だった。
凛とした立ち姿は、『新人』の域を越えていた。
総務部でありながら、『統括部長』と紹介された韮崎のそばから離れない存在は嫌でも目につく。
一番は、顔形の造りだろう。
目にとめている人間は何人もいたが、それらを遮っていたのが韮崎の存在だった。
無言の『近づくな』オーラが、バンバン発されていたのだ。
その時は知らなかったが、後々、彼が『社長の息子』であることを聞いて納得もいった。
韮崎はボディーガード。
迂闊に傷など負わせたくないのだろうと・・・。

新人研修で再会した時も、大月は他の新人とは違う動きを取っていた。
"総務部"という役職柄、仕方がないのだろうが。
ただ、どことなく、居辛さを感じてしまったのは気のせいだったのか・・・。
その瞬間にも、大月が何もかもを韮崎に委ねていないのを悟ることができた。
ふたりの間には、他人には埋められない絆があり、だけど、誰にでも許している隙間が見えた。
お互いが、どちらも"許しあって"などいない。

夜の浴場で出会ったのは、本当の偶然だった。
語りかければ、嫌そうもなく声を返してくれる。
幾言かを交わすだけで、色艶を纏った姿を目の当たりにして、焦ったのは双葉のほうだ。
・・・『誘われている』・・・
その瞬間にも、大月が過ごしてきた背景が見えるようだった。
どれだけ虚しかったのだろう・・・。
嬉しさより、何故か悲しさが浮かんだ。
そんなことは見せもしなかったけれど。

楽しみ と捉えられるならいい。
気分転換なら・・・。
単純にそう思ってしまったのは、最初だけだろう。

近づくたびに無垢さが見え隠れした。
慣れた手管はありながら、やはりどこかが、無防備なのだ。
韮崎が気にとめるのも当然だろう、と気付いたのはいつごろだっただろうか。
同時に見えるのは、大月の兄、明野。
大月は当然、韮崎までにも視線を侍らせている。
口出しをしてこないところが、どこか、控え目ながら恐ろしさを感じた。
それは、明野と韮崎の"ふたり"を思うからこそなのだろう。
無駄な口出しは余計に場を悪くすると。

耳に届くのは悪いうわさばかりだ。
『実力つけた韮崎を、明野が持てあまして、大月の子守りにつけた』とか。
『韮崎のあとを追って、入社したがった大月』とか。
挙句の果てが、『韮崎と明野の仲を裂く大月』という存在。

どこの記事であれゴシップの大部分を『バカバカしい』と思っていた勝沼は、自社内に渦巻くことに不満さえあった。
もっと気持ち良い環境で仕事をしたい・・・と。
同時に、その中で翻弄されている大月はどんな気分なのだろうと他人事ながら気になる。

関わらないのが一番良いのは分かっているのに。放っておけないものが渦巻いていた。
興味・・・そんなものではないと、自分自身が強く思っている。
強がっていながら、それらは単なる虚像でしかないのだと思う。
・・・剥がしてみたい・・・・
自分のために・・・

強欲な思いではなく、彼の全てを受け入れたいだけだった。


眠りこけたあどけない表情には、自分を許せてくれているような安堵感さえあった。
彼の希望通り、このまま、連れ去って貫いてしまってもいいのだろう。
そんなことはきっと、犬に噛まれるというより、甘噛される程度のことなのだろうが、だけどそれこそが、他の人間と同じように扱われるようで、勝沼は先に進めなかった。
『抱いたら、ただ貪るだけの関係』・・・

勝沼は上司のつてを 使って、韮崎の電話番号を聞いた。
もちろん、訝しさは持たれたものの、『大月が・・・』と言葉を濁せばすんなりと応じてくれる。
大月の電話を漁ればすぐにでも出てくる番号なのだろうが、避けたのは、真実を知りたくなかったからと、大月の"プライベート"部分をみたくなかったからだ。
初めてかけた電話は幾度かのコール音を響かせたが、出てくれた。
『はい・・・』
「あの、勝沼と申しますけれど・・・」
聞きなれた声よりもずっと低く、それだけで怯んでしまう。
かろうじて声が出せたのがまぐれとも言えるくらいに。

『勝沼・・・?・・・あぁ、大月と一緒ににいるやつか』
電話口でありながら、全ての行動を知ったセリフは気分が良くなかった。
まるで大月の全ての行動は把握してるというような、見えない視線まで感じさせる。

・・・こんなんじゃ、絶対に息つまるって・・・
そう思ったのは勝沼の独りよがりだったのだが。

ここでは黙って、大月の帰り路を聞いた。
送り届けるから、といった言葉を一蹴された。

『悪かった。迎えにはすぐいく。お前はもう帰っていい』
「え、でも・・・」
一方的に告げられることに瞠目した。
その後、何をするわけではないのに、送らせてもくれないのか。
それは、悔しさでもあったのだろう。
「わざわざ来てもらうよりっ、俺、送りますけどっ」
ほとんど意地の張り合い。
軽く受け止めたのは、やはり韮崎だ。
『わかった。住所を言う。メモれるだろう?・・・ついたらまた連絡しろ』
言いたいことをいえばプツリと通話は途絶えた。

なんとなく・・・なんとなく、大月が育った環境を垣間見た気がした。

叱ってほしかったわけではない。だけれど、どこかで罵られることも望んでいたのではないか。
それを口にするのが、家族ではなく、韮崎だったから、尚更反発心が起こるのだろう。
抱く、抱かれるといった行為。お互いに似通った時を過ごしているのだ。
その中で、愛情に飢えた存在だと分かってしまった。
もちろん双方に"愛情"などというものはなくて、あるのは肉体だけ。
同じように、勝沼にはそこにつけいる気は全くなかったが・・・。

「バカだな・・・」

彼の家庭環境を知れば知るほど、想いは馳せていく。
細々と胸の内をこぼしてくれたことも、きっと、誰かに吐きたい事実だったのだろう。
勝沼はひとつずつ発言されることが嬉しかった。

入社試験でも出会わなかった大月は、『いつでも辞めてもいい』と思う負の潜在意識のなかにいた。
どれだけの多くの人間が就職活動に走ったのか、まったく意に介していない態度で誰からも煙たがられていた。
嫌われなかったのは、さすがにサラブレッド。
今はここに甘んじているが、いつか辞めるのだろうとは、なんとなく感じとれるものがあった。
その選択肢は、自分のためだったのだろうか、家族のためだったのだろうか。

近づいては近づくほど、周りに気遣った神経を目の当たりにされた。
兄や韮崎にぶつけられる不満も、自身が憎まれ口をたたくことによって誤魔化してしまう。
どんなにキツい言葉をはいても心根は優しい人だった。
部署が離れているからそのフォローにはまわれない。
だけど、心配をよそに、韮崎が難なくことをうまく治めていた。
まるで、自分など存在価値もないと比べられるかのように・・・。
ありがたくもあり、また、悔しくもある。


「おかえり」
酔い潰れた大月をタクシーで運んでいけば、待ち構えていたと言わんばかりの韮崎に出会って瞠目した。
確かに、連絡はしたが・・・。
まさに、門前払いの状況だった。

「悪かった。大月は外でこんなに酔い潰れることはないんだが・・・・気を許せたのかな。ま、仲良くしてもらえることは良いにこしたことはないけれど」

平然と、それこそ、感情の一つも見られない口調で語りながら、タクシーの中からひょいっと横抱きにして連れ去ろうとしてしまう。
どこまで本心なのか、能面とした表情からは何もつかめない。
疑っても探っても、ほこりもちりも出ないだろうとは分かっていながら確かめられずにはいられなかった。
去ろうとする後ろ姿を呼びとめてしまう。
「あのっ、あのっ、大月とは・・・っ?!」
本人からは『関係がない』としか聞かされていない。信じたかった思いも強かった。
真剣に問い詰めたつもりなのに、振り返った表情に見えたものは薄笑みだった。

「おまえもバカな噂に振り回される一員か?」

たった一言を置いて、マンションのエントランスに消えて行った。
韮崎を含めた"家族"が、ひとつのマンションに住んでいると聞いたのは、後のことだった。
疑う余地もない、ただ、自宅に帰った、だけのこと・・・。


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